障害の有無にかかわらず社員全員「熟練」を目指す
- 事業所名
- 株式会社二戸食品
(法人番号: 1420001010905) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 岩手県二戸市
- 事業内容
- 食品製造・加工
- 従業員数
- 52名
- うち障害者数
- 7名
-
障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 1名 食品製造・加工 内部障害 1名 食品製造・加工 知的障害 3名 食品製造・加工 精神障害 2名 食品製造・加工 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業概要
株式会社二戸食品(以下「同社」という。)は、東日本大震災後の平成23(2011)年11月に二戸市誘致企業として現在の地に設立し、現在まで操業している。主要事業は、国産の野菜や果物などの地場食材の一次加工である。
(2)会社方針・経営姿勢
地域に根差し、社員と共に優れた技術と創造力により、安心安全な食物を生産提供することで、活力とゆとりある人間社会の実現に貢献する。国産野菜を国内で消費することで、食料自給率の向上にも寄与しながら二戸の地から日本全国へ提供していく。
(3)障害者雇用の経緯等
ア 障害者雇用の経緯
障害者雇用の経緯について、同社の木村弘志社長(以下「社長」という。)は次のように語られた。
「当社の親会社は青森県平川市の株式会社木村食品工業で、木村食品では以前から積極的に障害者雇用を推進していました。木村食品は親族が経営に携わっていたため、私はもの心ついた頃から、障害のある社員と障害のない社員が共に働くことが当たり前の環境が身近でした。二戸の地でも同様の認識で障害者雇用を進めることが当然と考え、取り組んできました。」
同社も設立の翌年から障害者雇用を開始し、初めて雇用した方は特別支援学校(以下「支援学校」という。)を卒業した知的障害者の方であり、その後も地域の障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)やハローワーク、支援学校等との協力や連携により継続して雇用し、現在は7名の障害のある社員を雇用している。
一方で、人材が集まらない中では、法定雇用率を守ることも重要であるが、それ以上に、障害のある社員を企業として戦力となる必要な「人材」と認識し、障害者雇用を進めている。
イ 雇用までの流れ
支援学校や二戸地域職業訓練センターからの職場実習(以下「実習」という。)を毎年受け入れており、支援学校の生徒の場合は高等部2年生から開始する。実習は、夏・秋・厳冬期と各季節単位で行っている。これは、実際の雇用後を見据え、一連の業務作業の体験に加えて、夏の暑さ、冬の寒さなどの土地柄による自然環境の厳しさとともに、作業工程上避けられない熱風による乾燥や冷凍庫内での作業を体験し、心身面での負担感があることを実習生に実感してもらった上で、同社への応募を考えてもらうことを目的としている。業務や環境への適性以外にも、支援学校や支援機関等からの協力を得ながら、障害特性や得意なこと・不得手なこと、本人の性格などについても、実習を通して当社としても理解を深めている。
このような実習を通して本人が業務内容に前向きになれるのか確認した上で、面接を実施し採用を判断している。
採用に当たり、本人の業務適性や前向きな姿勢以上に「挨拶(ができること)」を重視している。
同社では、工場内の業務系統により3つのラインで構成され、さらに細分化された作業単位を障害の有無に関わらず構成された5名程度のグループで担当する。作業は、グループ全員で同じものを行うため、作業効率や安全管理の点からもコミュニケーションが最も重要であり、「挨拶」は、コミュニケーションが苦手な社員であっても自発的に発信できる重要なツールと位置付けているからである。挨拶をきっかけとし、グループ内における報連相、意思疎通、信頼関係の構築などにつながり、グループとしての相互理解や評価、協力の実現につながっていると考えている。
また、ハローワークを通した求職者や、社会福祉協議会、支援センターからの紹介者などについても基本的には実習を経験してもらうこととしている。実習の回数や時期、期間等については個別の事情に応じて柔軟に対応している。
2. 障害者の従事業務と職場配置
工場内の業務系統は、素材の皮むき・カット作業、冷凍作業及び熱風乾燥作業の3つのラインで構成されており、障害の有無に関わらず、工場内の社員はそれらの作業に従事している。
作業は機械処理ができない手作業が中心であり、特に野菜は同一品種でも形や大きさが異なることから、社員が手作業にて的確に皮むきなどの下処理をする必要がある。熱風乾燥装置は一日で最大3tの処理能力があり、それに応じた分量の野菜の処理が必要となるが、収穫時期によって取り扱う作物も変わる上、手順や作業量が常に変化することもあり、製造ラインには5名程度のグループで日々交代しながら対応している。
同社では作業別に現場担当は決めず、すべての業務系統に対応できるようローテーション化している。ローテション化により、季節ごとに変化する素材をすべての社員が滞りなく処理することが可能であるため、特定の部門への過度な負担が生じず、あらゆる業務での相談や協力体制が構築されており、社員間にも一体感が生まれる。
また、ローテーション化により社員一人ひとりが年数を追うごとに習熟している。採用当初は包丁も扱えず、一日かけても十分に野菜のカット処理ができなかった知的障害のある社員が、採用後10年以上が経過した現在では一日120kgの処理がこなせるようにもなった。
このように、同社では障害の有無に関わらず、すべての作業系統への習熟を社員の目標としており、各自の習熟度に応じて相互に協力と調整を図る体制を構築している。
製造ラインの現場3. 取組の内容と効果
(1)雇用後の取組
実習期間中は順調であっても、雇用後に伴って様々な課題が発生することがある。
障害特性や配慮事項に対する職場の理解は必須であり、経営者や現場管理者においては障害特性に応じた作業指示方法の打合せを行い、管理者を通じて現場の社員に伝達している。次に具体的な取組、工夫について紹介する。
ア チーム編成による協力体制の工夫
作業単位に応じて5名程度のグループで担当することで、分からないことや不安な部分があっても、習熟した社員がサポートに入り、障害のある社員も安心して作業に取り組めるようにしている。言葉や書面での説明では理解しづらい作業であっても、正確な処理方法を実演しながら視覚的に分かりやすく伝えることで、正確な処理方法の理解につながっている。また、作業を通したコミュニケーションが促され、その人の得意・不得意な部分や性格などを把握できるため、継続的に取り組む中で技術のみならず、人間関係での安心感を構築することにもつながっている。
このように、安心して作業に従事できるチーム編成による習熟と作業を通したコミュニケーションにより、生産能力の向上と相互理解の醸成を図っている。
イ 体調の変化に気付くための工夫
同社では新型コロナウィルス感染症が5類に移行した後でも、全社員から始業前に「体調チェック票」(以下「チェック票」という。)を提出させている。これは、本人は発症していなかったが、同居家族に感染者があり、本人から同僚に感染したと推測されるケースがあったためで、食品製造という業態を考慮し、チェック票による確認を5類移行後も行っている。チェック票による確認は、感染症への対応だけでなく、日常的に体調の変化や状態を確認することにも役立っている。例えば、体調が優れない社員には、寒暖差のある工場内での立ちっぱなしの重労働を行う前に、担当内容を調整し、無理をさせないようにしている。
また、健康や安全面についての社員教育や、管理者による管理態勢の構築にも力を入れている。同社が安全第一の業務運営を行っていることを社員に伝え、心身のコンディションが優れない場合は気兼ねなく休むように伝えている。加えて、現場管理者が部下との相談や雑談などを通して体調の変化などを把握し、必要な対応をとるように伝えている。
そのほかにも、社員の休憩室には、翌日の作業内容把握とともに従事するラインに応じた衣類の調整などを円滑に調整、伝達するために業務配置表や、業務上の指示・伝達事項を掲示している。これは、食品製造の業態であることから、作業現場には資料やメモなどの持ち込みが制限されるため、必要事項を漏れなく伝えるための工夫である。
これらの組織的な対応に加え、障害のある社員については、各人の障害特性や傾向を現場管理者等が把握し、必要な配慮を行っている。例えば、知的障害のあるAさんは、仕事に集中すると自身の体調変化に気づけないまま、真夏や熱乾燥作業に従事し、熱中症に陥ってしまうことがあったので、現場管理者や同僚が連携し、適度な休憩や水分補給などを適切に行えるよう注意喚起(声掛け)するなどの配慮をしている。
ウ 相談体制
障害の有無に関わらず、社員の相談対応には、現場を管理する社長や現場管理者が連携し対応している。さらに、障害のある社員については、障害者職業生活相談員資格を有した事務担当者も加わり、サポートをしている。
本人の習熟度や希望に応じ、前向きに能力開発したい分野があればそのラインへ優先的に配置し、自信を持って取り組める作業を増やしている。あらゆるラインでの作業の習熟が目標ではあるが、まずは希望する作業を通じて自信がつく中で、他の作業にも前向きに取り組めるように配慮している。
(2)障害特性に配慮した雇用管理
前述のとおり、食品を取り扱う関係上、作業場所へのメモなどの持込みが制限されるため、社員の休憩室に指示が掲示しているところであるが、ライン上では、障害の有無に関わらず同じ作業内容となるため、進捗状況などの周囲が確認しやすい職場環境となっており、作業を通じた相互理解が促されている。
また、各人の障害特性や病状などに応じた個別の配慮を行っている。次に、具体的な配慮について紹介する。
なお、同社では、障害の有無による雇用形態、賃金の差異は設けておらず、作業の習熟状況や勤務状況に応じた報酬体系となっている。勤務条件についても、障害の有無に関係なく、本人が希望する場合には、フルタイム勤務から短時間勤務、短時間勤務からフルタイム勤務への労働契約の変更を行っている。こうした対応により、全ての社員が働き続けるための柔軟な勤務形態を実現している。
ア 内部障害のあるAさん
Aさんは勤続13年目を迎える方で、週3回の人工透析が必要である。そのため、透析のスケジュールに合わせ、週3日は勤務時間を30分早く終える設定とし、そのほかにも定期的な診察時にも対応できるよう勤務日調整などの配慮を行っている。
イ 聴覚障害のあるCさん
Cさんは補聴器を使用している方である。通常の指示・伝達は、前述の休憩室の掲示に加え、個別の伝達や日常的なコミュニケーションでは、聞こえやすい耳元で伝えることとしている。
ウ 精神障害のあるDさんとEさん
前述のチェック票により体調を把握するとともに、言葉の言い回しによって受け止め方が異なる場合があったことから、作業手順の説明や伝達事項については、集団的な指示や掲示による指示に加え、個別の指示・説明を行うようにしている。その際には、本人が理解・納得しているかを確認しながら進めている。必要な場合には社長自身が現場で直接打ち合わせや伝達を行うように配慮している。
また、障害特性の理解や適切な配慮のために、支援センターやハローワークなどとの情報交換、連携を欠かさないようにしている。特にプライベートな部分で課題が発生した場合には、同社での対応では限界があるため、支援センターへ協力を依頼し、日常生活や社会生活における必要な支援が得られるよう、一体的なフォロー体制の構築を行っている。
例えば、前述のチェック票では問題がなかったものの、急に休みがちになったことがあった。会社から支援センターへ連絡し、職場に来てもらい、状況確認などを行った上で対応を検討した。支援センターでは自宅訪問などを継続して行い、その他の関係機関とも連携しながら、本人、支援センターと同社の担当者は、本人の気持ちや不安を確認しながら、急がず時間をかけて通常勤務に取り組める状態を目指して取り組んだ。
(3)効果
障害の有無に関わらず業務の習熟度に応じた運営体制を取っていることや、同一のラインで同一の業務に従事する中で日常的なコミュニケーションが醸成されていることで、障害者雇用を当初は前向きに捉えていなかった社員も、障害のある社員の仕事ぶりに接する中で変わっていった。現在は同僚として「相手を思いやる気持ち」が育まれている。障害を知らないときは理解も乏しく不安や距離感を持っていたが、コミュニケーションを通して相手をより知ることで、一緒に働く同僚として前向きに捉え、職場環境の改善とともに生産性や品質向上にもつながっている。
4. 今後の展望
社長によると、目下の課題として、精神障害のある社員は2年から3年で退職してしまう状況が続いており、そういった方も長く勤められるような環境や体制を現状よりも手厚く整えていきたいとのことである。
また、地域の状況として、二戸地区では令和8(2026)年に小中高等部一貫の県立支援学校が新設される予定であり、地域の方が身近なところで学習する場や進路を考える機会が得られ、地元企業への就職にもつながっていくことが期待されており、その期待に応えることも大切と考えている。
また、社長は、企業関係者と支援学校との就職、実習の機会などについて連携する「支援学校と企業との連携協議会」の二戸地区での代表を務めていた経験を有しており、地域との協力の中で、二戸地区の企業での障害者雇用の理解や機会の拡充を促すことも進めていきたいとのことである。
そういった状況を踏まえつつ今後の取組としても、その人が生涯にわたって会社で働いてもらう心づもりで採用し、地域の支援機関との協力も続けながら、地域に根差し、貢献する経営を目指すとのことである。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
岩手支部 高齢・障害者業務課
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。