定年まで働き続けられるように
—見える化で継続的な改善活動を行い、
人と会社の成長につなげる—
- 事業所名
- 東洋パックス株式会社
(法人番号: 5250001009589) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 山口県下松市
- 事業内容
- 鉄鋼業:冷間圧延鋼板及び各種表面処理鋼板の包装作業請負、包装資材(金属、材木紙ほか)の製造及び販売
- 従業員数
- 194名
- うち障害者数
- 9名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 事務(安全防災関係) 知的障害 3名 トイレ・事務所清掃、緑化作業、包装作業、製品選別作業 精神障害 1名 補修作業 発達障害 4名 木材加工作業、検定作業、製品選別作業 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯、障害者雇用の実績(制度認定・表彰)
1 (1)事業所の概要
東洋パックス株式会社(以下「同社」という。)は、東洋鋼鈑株式会社(以下「東洋鋼鈑」という。)のグループ会社であり、平成14(2002)年、東洋鋼鈑グループ5社の検定・梱包関連部門が統合して設立された。本社工場には、東洋鋼鈑で製造される鋼板の包装作業を行う包装作業部門と、包装用資材の製造販売部門がある。社名のPAX(パックス)はPackage(包装する)、Assort(仕分ける)、X(限りない成長)を意味する。企業理念として「人間性尊重」「正義」「情報」「報告」「学習」の5つを掲げ、時間単位での有給休暇導入や育児休暇100%取得の実現など、創業以来一貫して、一歩先をゆく働き方を実践してきた。そうした取組が評価され、若者の採用・育成に積極的に取り組む「ユースエール認定」(厚生労働省)を受けた企業でもある。「見える化で継続的な改善活動を行い、人と会社の成長につなげる」を合言葉に、従業員が生きがいをもって元気に働ける環境づくりを同社は目指している。
本稿では、そうした同社の障害者雇用の取組について紹介する。(2)障害者雇用の経緯
同社の障害者雇用について、総務人事課の武末尚子氏(以下「担当者」という。)に話を伺った。担当者は、東洋鋼鈑から同社に出向、障害者雇用に携わるようになった方で、現在も中心的な役割を担っている方である。出向当時を振り返り、次のように話す。
「当時(平成26年)雇用していたのは身体障害のある方のみで、障害者とは車いすに乗っている人、といった認識でした。そのため、精神障害や発達障害とはどのようなものなのか、私自身知識を蓄えながら雇用拡大に向け、模索する日々が続きました」
そうした模索を続けながら、担当者は以下の取組を進めていった。ア.職場実習の受け入れ
障害者合同就職面接会に参加したことがきっかけとなり、職場実習(以下「実習」という。)を受け入れるようになるが、当初はなかなか雇用に結びつかなかった。担当者は、結びつかなかった要因を探った。例えば、工場内には複数の作業現場が点在し、様々な機械音が入り混じるため、実習生によっては音に慣れるまで作業に集中するのが難しいといったことがあった。
担当者は、こうした現場の課題を見つけては障害特性に配慮した環境の整備や職務の開拓を進めた。
イ.外部機関や企業との連携
山口障害者職業センター(以下「職業センター」という。)や障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)と連携を強化、雇用推進に向けて利用できる制度や支援策について情報収集した。そして、必要な場合には支援制度を活用した。
また、定期的に近隣企業の人事担当・障害者雇用担当者が集う部会(以下「企業部会」という。)にも積極的に参加し、先行企業の取組を学び、関係を構築した。
外部機関や企業とのネットワークは同社が障害者雇用を推進する上での原動力となり、これまで雇用する機会のなかった知的障害、精神障害、発達障害者を受け入れる体制づくりに役立てられていくこととなった。
ウ.見えてきた新たな課題
そうした取組を進めることで、知的障害のある従業員などの雇用につながり、同社の障害者雇用は進んでいったが、一方で、新たな課題も見えてきた。
作業遂行上の課題が多い従業員・休みがちな従業員の処遇を巡って、現場から様々な相談が総務人事部門に寄せられるようになった。これを受け、同部門で本人との面談を重ねていくなかで、これらの課題が何らかの「障害」に関係するのではないかと思われた。
従業員自身が障害と気づかない、あるいは障害があることを打ち明けずに入社し、仕事面、対人面、メンタル面で職場に適応できないでいる従業員などへの対応が、新たな課題として浮かび上がってきた。
そこで同社はこうした新たな課題についても取り組むこととし、担当者は企業在籍型ジョブコーチの資格の取得により、障害特性や配慮事項、支援制度等についての知識を得た上で、従業員本人から障害者手帳の取得や合理的配慮の提供についての希望があった場合には、障害者手帳の取得などに向けた支援を本格的に開始した。
このように同社の障害者雇用の受け入れ体制の整備は、①障害を前提とした新規採用と支援、②在職者で支援が必要な従業員の定着支援の2本立てで進むことになった。(3)障害者雇用の実績(表彰・制度認定)
・令和元(2019)年 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞受賞
・令和 3(2021)年 「もにす認定制度」(注)による認定
注:障害者雇用促進法第77条第1項により、障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組の実施状況などが優良な中小
事業主を厚生労働大臣が認定する制度。・令和 6(2024)年 「障害者雇用相談援助事業者」(注)に認定(県内で初)
注:令和6年4月からスタートした国(厚生労働省)の制度で、一定の要件を満たす事業者として労働局により認定を受けた
事業者(認定事業者)が、支援対象事業主に対し、障害者の採用や雇用管理に関する相談援助を行う制度。もにす認定通知書障害者雇用相談援助事業者認定通知書2. 取組の内容と効果
(1)基本的な考え方
同社では、業務を進める際の基本的な考え方として「見える化で継続的な改善活動を行う」を大切にしている。企業在籍型ジョブコーチの配置や、本人からの希望があった場合の障害者手帳取得に向けたサポートや合理的配慮に関わる支援は、まさしく「見える化」による支援活動である。そこには「定年まで働き続けられるように支援することで、従業員にはここで仕事をして良かったと思ってほしい。」という同社の考え方と、担当者の願いが反映されている。
(2)取組の内容
同社では、障害特性などに応じた個別の配慮を行っている。具体的には、各人の状況に応じた職務の切り出し(再設計)、人的サポート、状況把握、実習の活用などを行っており、次項ではそれらの事例を紹介する。なお、先に紹介した障害者手帳取得に向けたサポートは同社の特徴的な取組であることから、その概要についても紹介する(下の図を参照)。
同社の障害のある従業員9名のうち、入社後に障害者手帳(以下「手帳」という。)を取得した方は6名で、内訳は身体障害者手帳1名、療育手帳2名、精神障害者保健福祉手帳3名である。手帳取得後全員が3年以上就労を継続している。
担当者は、手帳が「ハンデがあっても社会に出て収入を得る道標(みちしるべ)」だと認識しており、本人の手帳取得や合理的配慮の提供を受けることについての希望に応じ、手帳取得により利用できるサービスや合理的配慮の利点を丁寧に説明し、必要な支援を行っている。そうした支援により、障害のない社員との差別のない処遇で働く環境の整備などにつながるものと考えている。同時に本人が、障害があると言えない、言いたくないという気持ちがあることも尊重している。手帳の申請などに際しては、支援センターや医療機関、福祉機関等と連携し、慎重に対応するよう心がけている。
(3)取組事例ア.事例1 障害者手帳の取得と合理的配慮の提供に向けた意向確認と、人的サポートと職務の切り出しを行う
Aさんの作業風景その1 Aさんの作業風景その2
Aさんは仕事を覚えるのに時間がかかるタイプで、分からないことをその場で解決する環境が必要であった。現場を熟知した指導員が常にそばにいてくれたおかげで、作業内容を理解し次に進むことができた。Aさんが就労を継続できた要因の一つとして、困ったことがあった場合には、周囲に進んで相談を持ち掛け、助言を受け入れ実行する「素直さ」が挙げられる。
イ.事例2 SOSを見逃さずに状況を把握し対応。医療機関の受診につなげ、職場復帰を目指す。
<担当者のコメント>「(自宅を)見ていきますか」という言葉が「助けてほしい」のサインに感じられ、すぐに訪問日程を決めた。仕事の合間に手伝うといった姿勢ではなくBさんの生活支援を最優先として迅速に対応している。今後再び同じような状況にならないとは言いきれないが、Bさんはいざとなれば自分一人でもやれるという自信を得たのではないだろうか。
ウ.事例3 職場実習を活用し、効率よく作業を進める工夫につなげる
Cさんの作業風景 色分けされた雑巾
<担当者のコメント>
特別支援学校高等部では一年次より職業教育が始まり、働くことの意味や、障害特性について学ぶ。複数回の実習により職種とのマッチングが可能となる。的確な援助がなされれば入社時には即戦力となる。Cさんに自分の可能性を広げる活動的な一面があるのは、子供の頃から「できることを増やす」という両親の教育方針が影響している。エ.事例4 企業間のネットワークを活用し、転職支援を行う
Dさんは障害があることを開示しないで入社。4か月後職場に適応できず退職を申し出た。担当者は本人の了解を得て、企業部会で交流のある他社の人事担当者に相談した。後日、支援センターを介して当該他社での実習が決まった。本人の希望や事情をご両親からも聴きとったうえで担当者は転職という選択肢を提案している。自分の障害としっかり向き合い、チャンスがあれば所属を変えてキャリアをつないでいく方法もある。日頃から企業部会というネットワークと連携、互いの雇用状況を共有していればこそ成し得た支援である。
(4)取組の効果
ア.「見える化」がもたらす企業評価と相互理解の浸透
もにす認定企業に認定された時、関連企業の経営陣から「パックスさんは凄いね」と称賛と励ましがあった。さらに、担当者が県内の経営者を対象とする研修会で事例発表をした際も問い合わせが相次ぎ、その反響の大きさに驚いたという。
そうした取組の成果は雇用実績として数字にも表れており、令和 6 (2024) 年の障害者実雇用率は5.79%と法定雇用率2.5%を大きく上回り、過去最高となっている。また、障害のない従業員が障害のある従業員に対する見方も変わってきたという。担当者の活動は現場の従業員に対し、ともに働く仲間が何らかの配慮や支援を必要としていることを促し、具体的な配慮や支援を考える動機づけになっている。相互理解もまた「見える化」の効果と言えよう。
イ.担当者を支える企業文化
担当者は手厚い支援を実践しながらも、常に企業側の視点を意識して個々の雇用の在り方を模索している。24時間体制でやり取りできるSNS(LINE)の活用や、自宅を訪問して行う生活支援、企業部会の人脈を介しての転職支援に至るまで、その活動範囲は多岐にわたり、仕事量の多さが容易に想像できる。反面、ささいな変化を見逃さず、具体策を考え即動くという担当者の対応は、障害のある従業員の自立を促し自主性を育むという好循環をもたらしている。結果的に職場定着というアウトカムは担当者のモチベーションにもつながっていく。しかし、担当者自身が支援に行き詰まることもある。その時支えとなるのは「話を聴いてくれる上司」の存在である。「情報を全員で共有し、助け合い、励まし合う、注意し合う」という同社の企業文化が、支援体制をより上質なものへ導いているのである。
3. 今後の課題と展望
同社は今後下記の3点を実践し、社会に貢献したいと考えている。
①社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し活躍できる職場づくり
②障害者雇用相談援助事業者として、他社の雇用管理の取組を支援
③障害者雇用の理解・促進に向けた啓発活動を推進4. 終わりに~筆者から~
本気で向き合ってくれる支援者がいれば、人はどんなに困難な時でもこの社会で仕事を見つけ生きていける、そう心から思えた出会いだった。障害者雇用という個別性の高い支援が求められる状況で担当者は、次々と支援の引き出しを更新している。こちらの稚拙な問いかけにもユーモアをまじえ丁寧に答えていただいた。様々な角度から状況を把握し限界ではなく可能性を見立てる発想力に敬意を表する。
執筆者:周南さわやか家族会 精神保健福祉士 板村 七重
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