(1)事業所の概要
　松山サポートセンター（以後「同センター」という。）は、神奈川県に本社のあるパーソルコミュニケーションサービス株式会社（注：令和7年2月3日、富士通コミュニケーションサービス株式会社から社名変更。以後「同社」という。）の国内11拠点のひとつであり、コールセンター業務と、ITサポート等のアウトソーシングサービス事業を主に行っている。現在、障害のある社員11名を含めた331名の社員が、松山市中心部のオフィスで勤務している。
　　


　　　　　　　　　　　組織図

　同社は以前から職場環境の改善に積極的に取り組んできた。優良子育てサポート企業の上位認証である「プラチナくるみん」をはじめ数々の認証資格を取得しているほか、職場の作業環境やメンタルヘルスケアに対する積極的な取組が評価され、令和6(2024)年安全衛生に関する愛媛労働局長表彰奨励賞を受賞した。近年注目されている社会的課題SDGsやLGBTQへの対応にも積極的で、こうした先進的な企業風土が同センターの障害者雇用の土壌となっている。
　平成24(2012)年にも、身体障害のある社員に対する同センターの取組を当リファレンスサービスのモデル事例として紹介しているが、今回はその後の障害者雇用の取組について、精神障害や知的障害のある社員への取組を中心に、取材をもとに紹介する。

(2)障害者雇用の経緯

　同センターには、センター支援サービス部（以下「センター支援」という。）という主に人事部門と総務部門を担当する部署がある。センター支援サービス部松山センター長の田中さんのほか4名が在籍し、同センターにおける障害者雇用の中心的役割を果たしている。
　ここに所属する菅原さんは、令和元（2019）年、突然当時の上司から「障害者の雇用を増やそうと思うので、こちらに連絡をしてください」と、えひめ障がい者就業・生活支援センター（以下「就業・生活支援センター」という。）の電話番号を渡されたという。このひと言がきっかけとなって、同センターの障害者雇用は新たな局面を迎えることになった。のちに菅原さんは障害者職業生活相談員とジョブコーチの資格を取得し、センター支援でもリーダー的立場となっていく。
　菅原さんは連絡をとり、まず就業・生活支援センターの職員に職場を見学してもらうことにした。その後紹介された精神障害（発達障害）のあるAさんの受入れについては、当初戸惑いがあったという。精神障害者の受入経験が同センターにはなかったことから、後ろ向きの意見が多かった。「頼める仕事がない」、「どう接したらいいか分からない」など、現場からは不安の声が上がった。
　そこで、受入態勢を整えるために、就業・生活支援センターの職員を講師に障害に関する講習会を開いたり、精神障害者の雇用経験がある他の拠点にヒアリングしたりして、まずは「（障害者雇用について）知る」ことから始めた。
　また、「見学→選考→入社→現場配属」としていたこれまでの障害者採用の流れを、「見学→職場実習→選考→入社→センター支援配属→現場配属」に変更した。
　入社前に職場実習（以下「実習」という。）を取り入れることで、就業時間に関することや、通勤のこと、どういった業務が可能かなどについて、実際の業務に携わりながら応募者本人と同センター双方で確認できるようにした。

実習の際にAさんは、自分ができることや苦手とすることを事前に紙に書いて提供してくれていたので、現場で配慮するポイントがつかみやすかった。実際にAさんと一緒に働いてみると、当初は不安が先行していた現場でも、その人柄や仕事ぶりから肯定的な意見が多く聞かれるようになった。Aさんも体験した上で就労を希望したことから、選考を行い、採用を決定した。
　その後正式に勤務を開始したAさんは、短時間勤務からのスタートだったが、順調に勤務時間を延ばしていった。当初は具合が悪くなるから苦手としていたイベント関係の業務にも、徐々に携われるようになってきた。

入社後、ほとんどの障害のある社員はいったんセンター支援に所属する。入社してから正式に配属されるまでの3か月から約半年の期間、ここで仕事の基本やパソコンスキルを身に付けるようにしている。
　センター支援では、まずはじめに、郵便チェック、清掃、館内チェックといった軽作業からスタートする。勤務時間は、時給制で一日2時間から4時間の勤務でスタートし、毎日通勤がきちんとできるか、また疲労度はどうかなどを確認しながら、徐々に勤務時間を延長する。
　入力や掲示物作成といったパソコン作業、軽作業、事務作業、PDF化やコピー等の繰り返し作業等を一通り全て行って、どういった業務がその人に向いているか見極め、少しずつ業務をステップアップしながら、正式な配属部署を考える。配属先でパソコンなどのスキル不足等が分かった場合は、センター支援に戻ってトレーニングをしてから、再度送り出すこともある。
　センター支援では各部門からの要望に応じて業務を受けたり、人を派遣したりしているが、多忙時に業務補助に出向いたことがきっかけとなって、出向いた部署への配属が決まることもある。障害のある社員がトライアルとして様々な部門を経験するのも、配属を考える上で非常に役に立っている。各部門が障害のある社員の受け入れ経験を重ねたことで、センター支援を経由せず、ハローワークの紹介から直接各部門へ配属となるケースも増えている。
　センター支援が元々行っている業務以外にも、障害のある社員一人ひとりに応じた職務の切り出しを行うことで、障害特性に合った業務を任せることができるようになった。
　知的障害がある社員は、几帳面さや繰り返しの作業が得意なことから、パソコンのアップデートやウィルスチェック、日々の郵便物の受け取り、スタンプ押しや糊付け、消毒作業などをこなし、特技を生かした社内の壁面や休憩場所の装飾が社員から好評を得ている。以下の画像は装飾の例である。

　センター長の田中さんは、障害のあるなしで特に社員を区別はしないという。できないと決めつけるのではなく、できるためにはどうしたらいいかを考えて、職場改善に反映させていると話す。そのために様々な取組を進めているが、主たるものを以下に紹介する。

（1）定期面談の実施

　外部機関を交えて1時間の定期面談を実施している。前半の30分は外部機関と障害のある社員（対象者）、後半の30分は外部機関と対象者の担当者や上司、菅原さんとで行っている。実施は、入社後半年程度は月１回、その後は少しずつ期間を空けるようにして「ナチュラルサポート」へ切り替えていくようにしている。

（2）業務の「見える化」と指示の工夫、「振り返り」の実施（各種ツールの活用）

　まず、視認しやすい（目で見て分かりやすい）業務マニュアルを作成し、それを使って業務を分かりやすく解説した（画像「見える化した業務マニュアル」参照）。その他にも、分かりやすいスケジュール表（「時間管理」と「作業確認」）を作成し、障害のある社員と周囲の社員がともに仕事の管理をしやすいように工夫している。

また、業務に慣れるまでは、指示者（上司等）は複数の仕事を同時に依頼しないように配慮しているため、障害のある社員は安心して目の前の仕事に集中できる。なお、混乱することを避けるため、指示は特定の一人が行うこととしている。

　

　　　　　　　見える化した業務マニュアル
 
　毎日の「振り返り」も重視しており、その手段としてチェック表（日報）を活用している（下の日報を参照）。振り返りは、障害のある社員と担当者で行う。チェック表にはチェックマークを選択にすることで記入の手間がかからないようにしつつも、記入された報告や感想などには担当者がコメントを必ず入れるようにしている。

　　　                       日報（赤字は担当者からのコメント） 

（3）自己表現の場を持つ
　センター支援では、朝礼中に決められた「お題」で一人ずつ話をする機会を設けている。障害の特性で、自分が思っていることをうまく言えない人もいるが、あえて人前で話すトレーニングをすることで、コミュニケーション力を高める効果がある。

（4）バリアフリーの強化
　車いすの社員のために、正面入口の段差解消、自動ドアへの変更、スロープの角度改変工事を行った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　正面玄関の自動ドア化（令和4年実施）

　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　正面玄関の段差解消（令和6年実施）

　高いパソコンスキルや職業能力を持っているものの、障害特性によって周囲の音や様子に敏感で、事務所での就業に困難性がある場合などは、同社が整備しているテレワーク環境を活用して在宅勤務をすることができる。静かな環境で仕事をすることで、本来持っている力を発揮することができ、事務業務やユーザーサポート業務など高い専門性が必要な部署においても貴重な戦力となっている。

(1)課題

　同センターでは、令和元(2019)年から新たな段階での障害者雇用に取り組んだ。当初は受入れに戸惑いを見せていた現場でも、採用事例が増えることで経験を重ね、各部署が積極的に受入れの手を挙げてくれるようになった。同じ障害であっても障害特性や配慮すべき点は一人ひとり異なるので、知識で得たものと実践するのとでは違うことも多かったが、うまくいかなかったことがあっても次はうまくいくようにと、前向きに策を考える話し合いの中で、社員同士のきずなが深まった。

障害者雇用が進む中で、障害のある社員の中にも20代の若者が増えてきた。現在のセンター支援のメンバーがいつまでも在籍している訳ではないので、先が長い彼らの職業生活を考えると、5年後10年後も今の環境を継続していけるようにしたいと考えている。

(2)今後の展望

同センターの取組は、ハローワークや就業・生活支援センター、就労移行支援施設など関連機関から高く評価されており、信頼も厚い。令和6(2024)年には、障害者雇用優良事業所等表彰の当機構理事長努力賞を受賞している。

また、菅原さんは、令和3（2021）年愛媛県と当機構共催の「高齢・障がい者雇用フェスタinえひめ」、令和5（2023）年「障がい者雇用見学会・勉強会・交流会」、令和5（2023）年「障がい者雇用理解促進セミナー」など、公的機関に依頼され、障害者雇用に関係するイベントで講演を行っている。新たにキャリアコンサルタントの資格も取得し、さらなるサポート力向上を目指している。

同社内では、行動原則のひとつである「リスペクト（respect）」という言葉をよく使う。周囲の人や自分を尊重し、チームワークを大切にするという考え方が社員に浸透していたことで、障害のある社員をスムーズに受け入れることにつながった。そしてそれは、個人の能力や個性に合った働き方を実現するためのサポート力にもつながっている。同社の求めるダイバーシティ（多様性）の推進が、実を結んだものと考える。

取材の最後に、菅原さんは次のように話された。

「令和元年に始まった新たな取組から5年がたち、大変なことがある一方で、障害者雇用に携わったからこそ得られた気づきもたくさんありました。無理をせず、頑張りすぎず、互いをリスペクトする気持ちを忘れずに、今後もサポートを続けていきたいと考えています。」