本事例の事業所（以下「事業所」という。）が対象者を雇用したきっかけは、障害者の採用についてハローワークに相談し、地域障害者職業センター（以下「職業センター」という。）を紹介されたことによる。職業センターを利用していた3名の障害者（対象者を含む）が、事業所の見学や職業体験を行い、対象者は、その後にトライアル雇用を経て、常用雇用に至った。その際には職業センターの支援（面接同席等）を受けた。

採用に際しては、対象者の希望や勤務状況を踏まえて、段階的に雇用契約・勤務形態の内容を、ステップアップしていけるよう配慮した。トライアル雇用時は1日5時間程度の勤務であったが、問題なく勤務していたので、採用当初は、パート・アルバイト社員として1日6時間から8時間勤務とした。その後も問題なく勤務し、本人の希望があったため正社員に登用した。

事業所では、製造部長を中心に、主に4名の社員（以下「指導担当者」という。）が作業の指導等を行っている。

コミュニケーションを取ることが苦手であるため、自分から相談することがなく、困りごと等の把握に指導担当者が苦慮することがあった。例えば、作業指示後に「大丈夫？」と聞くと「大丈夫」と返答するが、必ずしも指示内容を理解していないことなどがあるため、言葉のかけ方を工夫し、指示を細分化して一つひとつ具体的に伝えたり、実際にやって見せるなどの配慮を行っている。

現在、対象者は製造工程の一番始めの作業である「芯組」を担当しており、担当して3か月から4か月でその作業に慣れてきたので、次の作業にステップアップするよう指導したが、新たな作業の習得を拒む発言があった。以前の職場等での失敗体験からか、新しいことに取り組むことがプレッシャーになっているようなので、次の作業へのステップアップはいったん取りやめた。現在は対象者の様子を見ながら無理強いしないよう配慮しつつ、ステップアップを進めることとしている。

現場では、作業手順を図面で掲示し、見て分かりやすいように配慮している。

トライアル雇用とパート・アルバイトの時には、問題なく勤務できていたが、正社員に登用した後から徐々に休みがちになってきた。体調不良で急に休むことが増え、家族が連絡をしてくることがあったため、指導担当者から対象者に対し、休む際には会社へ自分で連絡すること、具合が悪ければ医療機関を受診し体調回復に努めることなどを指導した。しかし、その後も休日後に続けて休むことが増え、対応に苦慮したことから、事業所は職業センターに再度協力を求め、職業センターの職員も交えて、対象者との定期的な面談と支援を進めている。

対象者の障害については、作業工程で関わる社員のみに情報共有を行っている。