（1）事業所の概要

富士精螺株式会社（以下「同社」という。）は、昭和44（1969）年に設立し、高張力ボルトの設計・製造をしており、強度・サイズ・形状等、ユーザーの様々なニーズに対応している。

自動車・弱電気関連の締結部品（ボルト・リベット・小ネジ）、鍛造パーツ及びスポーツ靴用金具等を、伊勢崎市内の3工場にて製造している。社内にて熱処理炉2基による熱処理工程の処理が可能であり、完成品までの一貫生産を実現している。

（2）障害者雇用の状況等

同社は、単に法定雇用率達成を目指すためではなく、あくまで、“障害者本人のため”と考え、障害者雇用を進めてきており、現在6名の障害のある社員が活躍している。

同社の業務は製造から検品、出荷と多岐にわたることから、業務切り出しの工夫次第で、基本的にはどのような障害特性を持った者でも雇用は可能と考えている。

毎年、近隣の特別支援学校（以下「支援学校」という。）の生徒や障害者就業・生活支援センター（以下「センター」という。）の利用者を職場実習（以下「実習」という。）として多数受け入れている。実習に際しては、支援学校の担当教諭やセンターの支援員と、実習生の特性や得意分野について相談を行い、それぞれの長所を活かせる実習カリキュラムを作成し、卒業後の雇用につながる実習を実施している。実習を通して模索した長所を活かせる業務を踏まえ、製造から出荷までのラインの中で、担当業務（作業）を切り出して、各人の障害特性や適性に合わせた採用・配置を行っている。

また、障害に配慮した職場環境の改善や柔軟な就労形態の創出により、長期的な視点で各人の成長をサポートする体制を整備している。

製造から出荷までのラインの中で、担当できる業務（作業）の切出しを行い、各人の障害特性や得意分野に合わせた採用・配置を行っている。

業務の切出しに際しては、支援学校の教諭やセンターの支援員と綿密な相談をしつつ、実習の中で、「この作業のこの部分が切り出せるが、この作業は得意かな？」といった視点で、実習生本人とも相談を重ね、各人それぞれに合った業務を見極め、担当する業務を割り当てている。

　現在担当している主な業務は以下のとおりである。

　・製品梱包

　・製品検査（ボルトのねじ山検査）

　・製品の組込み

　・出荷のための段ボール組立作業

　・出荷後に戻ってくる通い箱（プラスチックの箱）の清掃（出荷時のラベル剥し等）

（1）障害特性に合わせた業務の切出し

近隣の支援学校やセンターから、毎年多くの実習生を受け入れており、担当教諭や支援員と相談しながら、一人ひとりの障害の特性や適性を見極めた上で、担当できる業務を切出し、実習を行い、採用につなげている。

実習生と長く携わり、本人のことを良く知る担当教諭や支援員の知見・アドバイスは、採用前はもちろん、採用後においても貴重な情報となっている。

支援学校の実習は、2年生における2週間の実習から始まり、3年生では3週間の実習を行っている。最初は、一日6時間の実習からスタートするが、最終的には、雇用後と同じ一日8時間の実習を行っている。実習を経験することで、本人は安心して就職することができ、同社も雇用後の受け入れ準備を整えることができている。

（2）支援機関との連携

これまでの実習生の受入れ・採用実績から、近隣の支援学校やセンターとは良好な関係が構築できており、本人には確認しづらいことや、家族に聞いてもよく分からないなどの課題が生じた際は、支援機関に仲介に入ってもらうことで、スムーズな解決を図ることができている。連携を図りながら協力体制を強化していくことで、何かあったら互いに相談できる関係を構築することができている。

（3）指導等に当たり留意している点

①障害特性に応じて、「連続した作業」ではなく、「一つひとつで完結する作業」を切り出して、担当してもらうこととしている。また、これに限らず、一人ひとりの障害特性に合わせた担当業務を切り出し割り当てている。

②一日当たりの作業量の目安は設けているが、業務上のノルマ等は課しておらず、自分のペースで業務を進めることができるようにしている。

③業務を指導する際には、一度に多くの情報を伝達するのではなく、「一つのことを覚えたら次の一つを教える」といった具合に、個々人に合った無理のない指導を実施している。

（4）ステップアップ制度の構築 

雇用契約は、有期契約からスタートするが、職場定着の状況や技能の習得度合いに応じて、勤務時間の延長や正社員への登用制度を用意している（支援学校からの実習実施者は無期契約からスタート）。

　検査業務を担当している知的障害のある社員（Ａさん）は、連休明けは出勤が困難になる傾向があり、入社当初は出勤できていたものの、休みがちになることが増えていった。休みがちになった際には、本人との面談の中で、「まずは週の半分来てみよう」と、週3日の出勤体制を試してみたが、出勤状況の改善には至らなかった。

その後、Ａさんのご家族とも相談しながら、現在では、在宅勤務で検査業務を担当してもらっている。各種の製品の検査を「１時間分」の業務内容と換算することで、作業ごとに一日8時間の在宅就労を可能とし、Ａさんには業務分の検査対象製品を自宅に持ち帰ってもらい、在宅での業務が行えるようにした。

なお、Ａさん以外にも、人工透析のため週3日通院が必要な社員には、通院時間に合わせた勤務シフトとすることで継続雇用している事例がある。

　前述のとおり、同社には多岐に亘る業務が存在しており、業務切出しの工夫により、基本的にはどのような障害特性を持った者であっても雇用は可能と同社では考えている。
　中には仕事を休みがちになる社員もいるが、その時に、本人との相談等をせずに、すぐに見切りをつけて解雇するという決断をすることは、「その方の成長を妨げてしまう。」という考えから、長期的な視点で成長を見守っている。
　これからも近隣の支援学校やセンターなどと連携しつつ、雇用率達成のためではなく、障害者本人のための障害者雇用を進めていきたいと同社では考えている。