（1）障害者雇用を切り札に

ベストトレーディング株式会社（以下「当社」という。）は昭和34（1959）年に設立され、平成11（1999）年に空き飲料容器リサイクル業に転向した。大量消費・大量廃棄によるごみ問題が深刻化し、3R（リデュース＝ごみの減量、リユース＝再使用、リサイクル＝再資源化）の考え方が浸透し始めた頃である。

「リサイクル」は社会的な課題であると同時に、ビジネスチャンスでもあり、リサイクル事業に着目したのは当社だけではなかった。数多くの競合他社の中で、いかに独自のカラーを打ち出すかが課題であった。そのような状況の中で注目したのが、企業の社会的責任のひとつでもある「障害者雇用」だった。

そこで、当社はリサイクル事業の開始当初から「障害者が主役の工場」を掲げ、障害者が働きやすい職場環境の整備と、彼らの社会的地位向上を目指してきた。

（2）聴覚障害者からスタート

当社としては初めての障害者雇用であったことから、「どのような障害者を採用したらよいのか」とハローワークに相談したところ、聴覚障害者の採用についてアドバイスを受けた。
　そこで、ハローワークのアドバイスをもとに、4名の聴覚障害者を採用した。その後も、障害のある社員からの紹介などによる採用者もあり、現在、当社で働く障害のある社員は11名となり、障害状況なども多岐にわたっている。

当社には3か所の工場がある。学校給食の牛乳パックの受入れをしている「第1工場」、アルミやスチールの空き缶や、ペットボトル、ビンなどの空き飲料容器を選別し、プレスあるいは粉砕する「第2工場」、家庭から出る廃プラスチックを選別している「第3工場」であり、障害のある社員は、すべての工場で選別作業などに従事している。

（1）大量の飲料容器をラインで選別
　当社で取扱う空き飲料容器は、神奈川県内のベンダー企業営業所から回収してきたものである（回収も請け負っている）。一日に最大45トンのビンや缶、ペットボトルが第2工場に集められている。
　ラインで選別され、ひとかたまりにプレスされたスチール缶などはずっしりと重く、第2工場は比較的体力に自信がある社員の職場となっている。
　第2工場では空き飲料容器をラインに流しながら選別・プレス・粉砕しており、社員はラインを流れる容器を目視し、選別ミスがないか確認する。

 　　　　　　　　　作業ラインの様子

　 そのラインに、フォークリフトを使い、空き飲料容器を投入している。

　　　　　　フォークリフトによる投入作業

（2）注意力が必要な廃プラスチック選別

第3工場では、一般家庭から出る廃プラスチックの選別作業が主な仕事である。

厚木市内のごみ集積場から回収されたプラスチック製の容器や包装をラインに流し、サーマルリサイクルするには不適切なもの（中身が入った容器や紙類など）を選別し、取り除いている。空き飲料容器を扱う第2工場よりも内容が雑多で、選別には注意力が必要とされる。


　　

　　　　　　　　　　第3工場の作業ライン

　　　　　　　取り除かれた不適切物

（このようなものが入ったままでは資源として利用できない）

　　　　　選別後、ブロックにまとめられた廃プラ

　
　　 

サーマルリサイクルの処理施設に送られる廃プラ

　聴覚障害者からスタートした当社であるが、最初に直面したのは聴覚障害のある社員と聴覚障害のない社員とのコミュニケーションの難しさであった。
　その解決のために当社が取り組んだのが、文章作成能力向上の取組である。以下、その取組について紹介する。

　採用当初、聴覚障害のある社員と周りの社員とのコミュニケーションは主に筆談で行っていたが、聴覚障害のある社員が作成した文章（連絡文や報告書等）は、障害のない社員には分かりにくく、必要な情報の記録や伝達が十分になされないことがあった。
　例えば、次のようなことが生じていた。

［例1］物品配達時の報告  

●一般的な文章：「Aの荷物をBさんに届けました」

●聴覚障害のある社員の文章：「A  B  届けた」

［例2］体調不良で休む際の連絡    

●一般的な文章：「風邪をひいたので休みます」

●聴覚障害のある社員の文章：「風邪  休みます」

　もちろん、聴覚障害のある社員すべてがそうではないし、状況（前後関係等）が分かっていれば、そうした表現でも伝わる場合もある。しかし、作業記録や報告書のように関係者が後で読むような場合には伝わりにくかったり、誤解されることもある。
　文章作成以外でも、作業指示書や社内連絡文を読む場合に、聴覚障害のある社員の中には正確に理解できていないものがあった。そして、実際の作業場面でのミスやトラブルにつながることもあった。

　そうした状況・課題への対応として、文章作成能力向上の取組を行うこととした。

＜取組の内容と成果＞

聴覚障害のある社員（参加者）の文章作成能力向上のため、国語の教科書を教材とした作文指導や、参加者に辞書を支給し、知らない漢字があった場合にはまず辞書を引く（調べる）などの指導を行った。

講師は文章作成業務に詳しい社員で、開催は週に数回、業務時間中での勉強会として実施した。

継続的に勉強会を続けるうちに、最初は面倒臭がっていた参加者も次第に興味を持ち始め、めきめきと文章能力が向上していった。そして、報告書の作成や作業指示の理解等での向上が見られた。

参加者からは、「がんばったおかげで、今ではきちんとした報告書が書けるようになりました。また作業指示の確認がしっかりできるようになったので、間違いも少なく、何より安全です。」との発言もあった。

講師を務めた社員は、かかりきりで指導した苦労が実を結び、ホッと一安心。当社としても、この取組は一定の成果につながったと考えている。

当然、障害の程度や元々の文章の読解・作成力には個人差があり、取組（勉強会）の成果も同様である。しかし、「耳が不自由なだけで、他は障害のない人と同じ」と思われがちな聴覚障害者の特性について、当社の経験や取組が他社の参考となり、聴覚障害者の雇用の拡大につながれば幸いである。

（1）本当の「自立」＝障害のある社員が参画する運営・経営をめざす

当社では、障害の有無に関係なく、社員の教育と訓練、能力や実績に応じた登用を行ってきた。そして、現在、ベテランの聴覚障害のある社員が、工場長として第2工場の運営と人員管理を任されているほか、彼を含めて2名の聴覚障害のある社員が、役員として経営会議などに参加している。

職業人としての「自立」は、単に働くことだけではなく、働くことを通じて成長すること、職場でふさわしいポジションを得ることでもあると当社は考えている。そして、それらを実現するためのサポートに取り組むことも企業の責務と考えている。

当社ではこれからも教育と訓練を重ねながら、障害のある社員の登用を積極的に行う予定である。

（2）助成金を有効利用して働きやすい環境を整備

下の画像は第3工場である。第3工場の廃プラスチックの選別ラインは高齢・障害・求職者雇用支援機構の助成金（障害者作業施設設置等助成金）を利用して新設したもので、障害のある社員が働きやすくなっている。今後も障害のある社員の職場環境の向上と、更なる障害者の雇用機会と事業を拡大するために、積極的に助成金などを利用していく予定である。

　　　　　　　第3工場の外観

（3）ベストトレーディングから羽ばたく人材を

当社の障害者雇用への取組が注目を集め、近年では、ろう学校の生徒の職場実習（以下「実習」という。）などを受け入れている。当社では即戦力に期待し、経験者を中心に採用していることから、実習は直接採用に結びつくものではないが、実際の職場での経験は、生徒が将来の職業を考える際の手掛かりになっていると考える。

これまでの取組が評価され、「働かせてほしい」と多くの障害のある方が来社するが、設備的な制約もあり、車いすの方などは、当社での採用は直ちには難しい状況である。かし、彼らの意欲を削いでしまうのはもったいないので、ほかに募集している会社があれば情報提供するなどの就労支援を始めている。

　また、当社では障害者福祉事業も行っており、平成23（2011）年より就労継続支援B型事業所も併設している。

　B型事業所利用者も含め、当社に関わった障害者が社会で活躍する支援を今後も行っていくつもりである。