ケンコーマヨネーズ株式会社（以下「同社」という。）は昭和33年に設立された（本店は兵庫県神戸市）。主な事業内容としては、サラダ・総菜類の製造・販売、マヨネーズ類・ドレッシング類・ソース類の製造・販売、たまご加工品の製造・販売等である。工場は現在全国に7か所（厚木工場、山梨工場、御殿場工場、静岡富士山工場、西日本工場、神戸工場、西神戸工場）あり、うち、静岡富士山工場（以下「同工場」という。）は、同社の基幹工場のひとつである。

同工場は平成26（2014）年に富士市大渕の富士山フロント工業団地に新設され、平成31（2019）年には第2工場も稼働している。主力製品はたまご焼き（厚焼き卵・だし巻き卵・錦糸卵等）で、生産の60％を占めている。そのほかの製品としては、スクランブルエッグ、各種ソース類、液卵（卵殻を割り内容物のみを集めたもので、全卵のもの・卵白のもの・卵黄のものがあり、マヨネーズ、サラダドレッシング、製菓等の2次加工用の原料）等である。本稿では、同工場における障害者雇用の取組について紹介する。

　障害者雇用については、同工場ができたときに、近隣にある特別支援学校（以下「支援学校」という。）の卒業生を雇用したことが始まりである。その後も継続して支援学校高等部生徒の職場実習（以下「実習」という。）を受け入れ、積極的に障害者雇用を進めており、現在10名の障害のある従業員を雇用している。

　同工場は、令和3（2021）年度の静岡県障害者雇用促進大会において、積極的に障害者の採用と定着に取り組んでいることが評価されて、障害者雇用優良事業所として静岡県知事褒賞を受賞している。

　同工場の工場長によれば、従業員には「障害のある従業員に危険な作業はさせないように」と指示をしているだけで、障害のある従業員に対する接し方等については特に何も言っていないとのことだが、同工場への取材を通じて筆者は、同社の企業理念である「人を大切に」という考え方が工場全体に浸透していることが、継続的に障害者雇用が行われていることのベ－スになっていると感じた。

　障害のある従業員10名のうち9名が知的障害者、1名が聴覚障害者である。聴覚障害者とのコミュニケーションの方法は筆談が主である。

　障害のある従業員の従事している業務は、個々人の能力や障害特性により異なっている。たまご製品に関わる業務（原卵の投入、たまご焼き製造等）を担当している従業員、清掃業務（原卵容器の洗浄、生産ラインの清掃、厚生棟の清掃等）を担当している従業員、備品（布巾・ピンセット・ヘラ・容器）準備業務を担当している従業員等がいる。
　先に紹介した支援学校の高等部は3年制であるが、2年生のときに、実習を希望する生徒を同工場で受け入れている。実習の前には、実習を希望する生徒とその保護者、担当教師の3者と同工場の担当者とが事前に面談して打合せを行い、希望する仕事の調査、障害の状況、障害特性の確認等を実施して、どの仕事なら対応できるのかを検討し、受け入れ部署や仕事を決めていく。実習期間は5日間程度で、仕事が合えばその仕事を続けるが、仕事が合わない場合や難しい場合には別の仕事を設定する。

　実習を体験した生徒が、学校卒業後に同工場への就職を希望した場合には、ハローワークや支援学校等と調整しながら採用に向けた面談や手続きを進めている。面談では、入社後の賃金や福利厚生等の各種条件を分かりやすく説明し、本人・保護者の了解を得て採用している。入社後は3か月を試用期間（全従業員同一）としている。

　同工場における知的障害のある従業員の多くは、実習を経て採用した支援学校の卒業生である。

なお、採用の際には「静岡県ジョブコーチ」（以下「県ジョブ」という。）の支援を利用しており、前述の面談には県ジョブも同席している。

（注）「静岡県ジョブコーチ」とは静岡県独自の制度である。静岡県では、国のジョブコ－チ（職場適応援助者）と県ジョブと２つ
　　　　のジョブコーチ支援制度間で連携を取りながら、ジョブコーチによる支援を行っている。詳しくは県のホームページを参照。

（1）障害のある従業員採用における事前準備としての職場実習の実施
　前述のとおり、同工場では、支援学校の卒業生の採用が多いが、学校在学中の実習で実際の仕事に携わることが可能であるため、障害のある従業員の就職後の理想と現実のギャップは比較的少ない。事業所側でも採用時に障害のある従業員の障害状況や障害特性、性格、能力等についてある程度把握できているため、採用後においてもお互いに良い関係が築けており、適材適所に配属できている。さらに、障害のある従業員の継続した勤務や定着にもつながっている。

（2）配属先での業務指導
　障害のある従業員の配属部署では、作業の指示や育成を担当する従業員（以下「作業専任者」という。）を選任している。障害のある従業員は、作業専任者とマンツーマンで作業を行い、教育・指導を受けることで、業務能力の向上等につながっている。

（3）工場長の毎日の巡回
　工場長は自ら、毎日現場を巡回している。特に、障害のある従業員には声掛けをしてコミュニケーションを取ることを心掛けている。障害の内容によっては、ひとつのことはできても、ふたつの作業を同時にできない従業員もいるため、仕事をこなす量が増えてきたり、仕事の範囲等が広がるなどの成長が見受けられた場合には褒めることを励行している。褒められることは、障害のある従業員のやりがいや達成感にもつながっている。

（4）健康管理について
　健康面のチェックとして、始業時の検温と体調のチェックを毎日実施している（実施結果は記入表に記載）。また、不調時には休養や休暇を与えるなど、必要な措置を講じている。これは全従業員に実施しており、食品を扱う業種という点からも必要不可欠である。

（5）ジョブコーチや障害者就業・生活支援センターの活用
　障害のある従業員同士でのささいな口論やもめ事が発生することもあるが、その場合には、ジョブコーチや障害者就業・生活支援センターの担当者とも共有し一緒に対応している。早め早めの対応を実施し、早期に解決できる体制づくりをしている。
　ジョブコーチは、支援学校生徒の実習時、障害のある従業員の採用時や担当業務の変更時に支援を行うほか、定期的に職場を訪問し、障害のある従業員等の相談相手になっている。

（6）「ワンポイントレッスン」の実施
　工場では安全確保・品質確保を重視しており、安全面や品質面での様々な事象（トラブルや解決事例）について、各現場の責任者の指示により、当事者が書面にまとめて、関係する部署に回覧している。
　書面は、ミスやトラブルが発生した事例（例えば、「賞味期限切れが発生したケースの原因と対策」など）を記載したもので、関係する部署ではそれをもとに内容の確認と再発防止に努めている。同工場ではこの取組を「ワンポイントレッスン」と呼んでおり、障害のある従業員を含む従業員全員が取り組んでいる。なお、聴覚障害のある従業員については筆談で補足する、知的障害のある従業員については具体的に分かりやすい表現にして伝えるなどの配慮を行っている。

（7）工場見学の実施
　支援学校、近隣学校のＰＴＡ、デイサービスなどの介護事業所等から工場見学の要請があり、業務に支障がない限り、工場見学用の通路を活用して実施している。工場見学は、地域社会への貢献や、地域に密着した存在としての同社のＰＲになるとともに、支援学校からの就職希望者につながるなど、新たな障害者雇用にも寄与している。今後も要請があれば実施していく予定である。

工場長によると、同工場では今後も支援学校からの障害者雇用を考えているが、受入環境面での課題があると考えているとのことである。

例えば、同時に複数のことを実施するのが困難な障害特性を適切にフォローできる指導・見守りの人員体制の強化や、ＡＩ（人工知能）を活用した設備・システムの導入の必要性などである。そして、更なる障害者雇用を進めるための具体的方策について、工場全体での検討・模索を現在進めているとのことである。