飲食店における障害者雇用の推進
~障害者雇用を全ての店舗で進めるための仕組みづくり~
- 事業所名
- 株式会社ブロンコビリー
(法人番号: 8180001013307) - 業種
- 飲食・宿泊業
- 所在地
- 愛知県名古屋市
- 事業内容
- レストラン事業、調味料・惣菜等の製造販売事業
- 従業員数
- 5,600名
- うち障害者数
- 72名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 5名 洗い場(10㎏以上の重量物の持ち運びを除く) 内部障害 2名 洗い場、調理補助、接客等 知的障害 29名 洗い場、調理補助、接客、事務 精神障害 36名 洗い場、調理補助、接客、事務、ICT専門職 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
ア.設立
株式会社ブロンコビリー(以下「同社」という。)は、昭和53(1978)年に創業者故・竹市靖公氏が、名古屋市北区にステーキハウス「ブロンコ」を創業したところから始まる。
昭和58(1983)年にはステーキレストラン経営を目的として、名古屋市北区に株式会社ブロンコとして設立し、平成7(1995)年に「株式会社ブロンコビリー」に商号変更している。平成9(1997)年に本社を名東区に移転した。平成21(2009)年には、自社工場(ファクトリー)を拡大移転し、トレーニングセンター、ケーキ工場を併設し、150店舗まで対応できる体制を構築した。
現在、全国にステーキハウス「ブロンコビリー」として、オープンキッチンによる、炭焼き・大かまどごはん・サラダバーを特徴とする139店舗を展開している。
また、令和4(2022)年には、食品製造販売事業を担う株式会社松屋栄食品本舗を子会社化し、令和6(2024)年には、とんかつ専門店として株式会社レ・ヴァンを子会社化している。
イ. 事業概要
食材の仕入れ、加工製造、配送、デザイン、店舗など、飲食サービス事業は多岐にわたる。
(2)障害者雇用の経緯
ア.障害者雇用の経緯
平成27(2015)年時において、同社の障害者雇用は進んでおらず、法定雇用率未達成企業としてハローワークから採用計画書の提出を求められている状況であった。この状況を打開するために、同社は店舗における障害者雇用を積極的に進めることとし、店舗で採用した障害者の人件費は全て総務課がとりまとめ、全店舗で負担するという方針を打ち出した。つまり障害者雇用を積極的に進め活躍が進んでいる店舗は、その人件費を障害者雇用をしていない店舗にも負担してもらえるため、人件費を抑えることができ、当該店舗の利益を上げることに成功した。その結果、全国の店舗で障害者雇用が進み、育成にも力を入れることで障害のある社員の戦力化も進んだ。そうした経緯から、同社は現在も積極的に障害者を採用し、育成に取り組んでいる。
イ.障害者雇用の現状
前述の成果として、現在139店舗あるうちの約半数の店舗で、障害のある社員が就労している。採用に関しては、ハローワークや求人情報サイトなどを活用しながら、本社と各店舗が連携して進めている。本社においてもICTを専門とする障害のある社員が就労している。
2. 障害者の従事業務と職場配置
障害状況も様々なため、個々の障害状況や適性などに合わせ、店舗における調理補助、接客、座席のセッティングや片付けなどに従事している。障害状況などによっては、洗い場だけを行う短時間就労をしている人もいる。また、肢体不自由のある社員のなかには、障害状況を考慮した配慮(取り扱う物品の重量は10kg以下とする)を講じた場合がある。
一店舗ごとの配置数は1名が主であるが、3名の障害のある社員が働いている店舗もある。
店舗以外にも、本社においては、得意な分野であるICTを専門とする社員を障害者雇用にて採用し、現在正社員として就労している。
3. 取組の内容と効果
本稿の作成にあたり、同社の本社総務課で障害者雇用を担当しているAさん、障害のある社員を雇用している店舗の店長Bさん、そして、知的障害のある社員のCさんからお話を伺った。三人のお話の中で出た同社の取組や障害者雇用がもたらす効果について、次に紹介する。
(1) 法定雇用率未達成企業から脱却
総務課が主となり、全店舗で障害者が働ける仕組み(障害者の人件費を全店舗で負担することや、障害状況等に応じた職務設定や短時間就労等)を構築した効果として、9年前は法定雇用未達成企業であったが、現在は法定雇用率を上回る雇用率を実現している。令和8(2026)年には、法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられるが、同社ではすでに達成できている。また、本取組みを通して各店舗が積極的に障害者を採用し、育成したことで、障害のある社員が「なくてはならない戦力」となっており、まだ、障害者を雇用していない店舗にもその効果が波及している。
(2) 障害のある社員の育成ノウハウを外国人社員の育成にも活用
現在、同社の各店舗では人手不足が加速しており、人材確保の面でも障害のある社員の活躍は欠かせない。また、飲食サービス業においては、外国人労働者が増加している。同社でも様々な国籍をもつ外国人社員が200名ほど就労している。その人達の教育訓練を行う際に、障害者雇用において作成した分かりやすいマニュアルは活用でき、たいへん役立っている。また、作業手順等も口頭で伝えるのではなく、実際にやって見せる方法が知的障害のある社員の育成には有効であったが、外国人社員の育成でも同様であった。
(3) 労働力不足を補う重要な戦力の確保
飲食サービス業においては、パートタイム社員に負うところが多いが、営業時間が夜間に及ぶことや土日、祝日に加え、ゴールデンウイーク、夏休み、年末年始など、人材確保が厳しい時期もある。そうした際に、主婦や学生の方などでは勤務時間などの制約があって対応しきれないことが多々ある。同社では、そのような状況下においても、障害のある社員は比較的時間の制約なく働くことが可能な方が多く、同社の安定的な労働力として活躍している。障害者雇用が労働力不足を補う重要な戦力となっている。
(4)障害のある社員を支えるチーム力の向上
障害者雇用が進むなかで、障害のある社員を見守りサポートする、お母さんのような社員も誕生し、職場全体で障害のある社員を支えようとする「チーム力」が向上している。特に精神障害のある社員に不安定な言動が見受けられたら、すぐにサポートに入るなど、不安定な状態が長引かないように対応し、安定就労できる体制が自然にでき、現場の社員間のコミュニケーションが増えている。そしてそのことは、障害のない社員にとっても働きやすい職場環境づくりにもなっている。
(5)安定就労をふまえ、一人暮らしを実現したCさん
Cさんは、特別支援学校卒業後、福祉作業所、就労移行支援事業所(以下「支援事業所」という。)を経て、同社に就職した。もともと立ち作業は気にならなかったこと、調理は好きで個人的にも飲食店に興味があったため、職場実習(以下「実習」という。)を経て就職に至った。支援事業所の支援者が、実習時から継続的に定着支援を行っている。現在は就労が落ち着いたため定着支援も少しずつ減っているが、何か困ったことがあったら支援者に相談できるような体制となっている。
現在のB店長はCさんにとって2人目の店長であるが、店長が変わっても安定した就労は継続できている。勤務は週5日、朝9時30分から17時、多忙な時期には残業をすることもあり、戦力となっている。業務はレジ作業も含め、全てこなせるようになったとCさんは話す。
B店長によると、Cさんは、入社当初は皿洗いから始め、その後の約3年間で、調理補助、座席のセッティングや片付けを行うまでに成長した。レジ作業も、以前は困難であったが、周りの社員のサポートを受けながら取り組む中で、徐々にできるようになってきたとのことである。
レジ作業は、現金や電子支払いなど様々な支払方法があることや、割引やポイント等の処理があるため、障害のない社員であっても簡単ではなく、担当できるのは限られた社員になる。そのレジ作業をCさんは徐々にできるようになっている。レジ以外の作業もミスなくできており、障害のない社員とほぼ同じ業務をこなせているとのことである。
Cさんは、仕事が安定したことや、家族から自立するために2年前から就労場所の近くに住居をかまえ、一人暮らしをしている。朝も自ら起き自炊している。休日はゲームをしたり、小中学校時代の友人と食事に行くなど充実した生活を送っている。
(6)先入観を持たず、本人の可能性を信じて、まずはやらせてみる
B店長は、以前の店舗でも障害のある社員と一緒に仕事をしたことがあったため、障害のある社員と働くことに対しては構えることなく自然に受け入れられたそうである。
障害のある社員の育成にあたっては、障害があるから難しいのではないかというような先入観を持たずに、まずはやらせてみることが大切だと話す。本人の成長を信じ、可能性を伸ばすように意識しているとのことで、それは障害のある社員だけでなく外国人社員の場合でも同様であるとのことであった。
4. 今後の展望と課題
(1)社員のポテンシャルを上げる仕組みづくり
同社では、障害のある社員のポテンシャルを上げるための取組が重要と考えている。
Cさんは、現在のパート社員から、パートナー社員へのキャリアアップを目指している。パートナー社員とは、パート社員と比べ時給が高くなり、店舗異動のない雇用形態である。実際、障害のある社員の中には、キャリアアップを果たした社員もいる。
ただし、現在ある評価制度は障害のある社員に向けたものではなく、障害の種類や程度等によってはステップアップの限界があるように感じている。障害者雇用に即した評価制度の構築を果たし、社員のポテンシャルを上げることが課題である。
また店舗推薦として、パートを含めて10年勤務するとアメリカ研修に行けるという研修制度を設けており、年間100名ほどの社員がこの制度を利用している。ただ、その研修にはまだ障害のある社員は参加していない。障害のある社員もアメリカ研修参加も課題と捉えている。
(2)安定した就労を継続できる定着支援の体制づくり
精神障害のある社員は、少しの環境変化等によって体調を崩すことが多く、その際のサポート体制づくりが課題である。
現在、障害のある社員だけでなくパートを含む全ての社員が利用できるヘルプデスクを窓口として設置している。ヘルプデスクは本社の総務部門にあり、社員の働くうえでの健康面や各種の悩みの相談窓口である。その窓口は限られた数人の社員が担当しており、利用希望者は名前を伏せて利用することができ、必要な際には状況調査も内々で行う。現在までに障害のある社員の利用はないが、安定した就労に向けては困りごとの把握等が必要で、障害があっても利用しやすい仕組みづくりが課題である。
(3)職場以外での生活面でのサポート体制の強化
障害のある社員の生活面でのサポートについては、自宅で何かあった際などの対応は会社ではなかなか難しい。そのため今後、安定した就労を維持するためには、本人の家族や福祉機関などと連携することで、生活面のサポートを強化していくことが課題である。
5. まとめ
筆者は、障害者雇用が進んでいる事業所の多くは、障害のある人が身近にいる人やハローワーク、就労支援機関、特別支援学校等の支援者が中心となり障害者雇用を進めているという印象であった。
しかし、今回訪問した株式会社ブロンコビリーでは、本社の総務課が仕組みを作り、その仕組みを現場(店舗)が理解し、落とし込んでいった結果、障害者雇用が進んだという事例であった。そして、そのように現場が対応できたのは、仕組みがもたらす人件費の削減だけが誘因となったのではなく、人手不足やもともと外国人社員を受け入れていたことで多様性を受け入れやすい基盤があったからだと推測された。
取材を通じて強く感じたのは、障害の有無にかかわらず、働き手として何ができるかを考えることから始め、先入観なしにやれることからスタートするという同社の姿勢である。実際に、現場で働くB店長とCさんとのやりとりを見ていても、障害に応じた特別な対応をするということはなく、ごく普通の店長とパートの社員との関係性であった。必要以上に過度な対応をするというようなことなく、総務がすべきこと、現場で対応すべきことが自然に役割分担されている印象であった。
企業が障害者雇用に取り組む際には、「障害者雇用」と大上段に構えるのではなく、今の社会課題である働き手不足、多様な人材をどう生かすかという捉え方をし、推し進めることが重要だと感じた。また、同社のように障害者雇用を進めている事業所では、誰でも理解できるマニュアルを作成し、教え方の工夫も行われている。その結果、外国人や子育て・介護・高齢等の理由により、社会参加に障壁を感じている人たちにとっても働きやすい職場環境となっていることを再認識した。
執筆者:名古屋市身体障害者福祉連合会
事務局長 谷川 陽美
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