株式会社ウエスギ（以下「同社」という。）は、大正10(1921)年4月に創業し、リサイクル事業を主軸に、産業廃棄物の適正な処理を通じて、限りある地球資源の有効活用に貢献している。廃棄物の回収、分別から再資源化に至るまでのプロセスを一貫して行い、家電製品や自動車部品の分解、古紙や銅線の選別といった専門的な作業も含め、リサイクルに取り組んでいる。また、廃棄物の運搬作業も全従業員が一丸となって取り組んでおり、現在も業務の幅を広げ続けている。

障害者雇用は、21年前にハローワークを通じて、知的障害のあるＡさんを採用したことが始まりである。Ａさんの仕事ぶりは良好で、Ａさんの採用が従業員にとっても重要な気づきの機会となった。そして、「障害のある方も障害のない方と何ら変わりはない」という意識が社内に広がった。この経験をきっかけに、同社は障害者雇用を積極的に推進し、現在では多くの障害のある従業員が働く職場へと成長している。最初に雇用されたＡさんは、現在も金属や非金属、非鉄金属のリサイクル、設備類の解体といった高度な作業を担当し、熟練工として活躍している。

さらに、障害者雇用の取組が高く評価され、障害者優良雇用事業所として令和3(2021)年には四日市市長賞、令和4(2022)年には三重県知事賞を受賞し、令和5(2023)年には厚生労働省からも「もにす認定」を取得している。そして、令和6(2024)年には、再び三重県知事から感謝状を贈られている。

同社における障害者の実雇用率は、令和3(2021)年度に20.4％、翌令和4(2022)年度には29.2％に達し、令和5(2023)年度には29.3％、さらに令和6年度(2024年度)には32.4％にまで上昇している。これらの数値は、障害者の法定雇用率2.5％（令和6年4月時点）を大きく上回っており、法定雇用率の約13倍という高い水準を維持している。

また、同社の障害者雇用における定着率も非常に高く、過去3年間に採用した障害のある従業員の入社後6か月後の定着率は90％、１年後の定着率も60％を誇っている。さらに、障害のある従業員の平均勤続年数は4～5年と長期的な雇用を実現しており、安定した職場環境を提供していることがうかがえる。

　同社では、障害のある従業員も障害のない従業員と同様に、一日8時間勤務を前提に採用している。採用の際には、障害者トライアル雇用制度や三重県障害者委託訓練制度などを積極的に活用し、実際の職場で各個人の特性や性格、適性などをしっかりと見極めたうえで最適な配置を行っている。また、各人の特性に応じた業務を割り当てるだけではなく、状況に応じて適切なタイミングで異動などを行い、職務の幅を広げるための配慮も行い、長期的に安心して働くことができる環境を整えている。

　次に、障害別の従事業務や就労状況について紹介する。

（1）知的障害のある従業員（3名）

最初に採用されたＡさんは、すでに広範な業務に精通し、金属・非金属のリサイクルや設備類の解体など、多岐にわたる作業を担当しており、熟練工として信頼されている。そのほかの2名も同様に高い能力を発揮している。

7年目の従業員は、Ａさんと同じくリサイクル業務全般に従事し、4年目の従業員は被覆電線のリサイクルを担当している。いずれも、安心して任せられるレベルに達しており、それぞれが重要な役割を担っている。

(2)身体障害のある従業員（2名）

身体障害者として採用された2名の従業員も6年目に入り、それぞれが高い技能を発揮している。1名は被覆電線のリサイクル業務に従事し、もう1名は製紙原料やプラスチック、固形燃料の選別リサイクル業務を担当している。どちらも重機の操作に熟達しており、現場での貢献度は高い。また、1名は過去に国際アビリンピックに出場し、上位入賞を果たすなど、その技術力と積極的に業務に活かす姿勢が評価されている。

（3）精神障害のある従業員（発達障害のある従業員を含む）（7名）

精神障害のある従業員、もしくは発達障害のある従業員として雇用されている7名の従業員も、それぞれの適性に応じた役割を担っている。1名は、製紙原料やプラスチック、固形燃料の選別リサイクル業務を、4名は金属、非金属、非鉄金属のリサイクルおよび設備類の解体業務を担当している。さらに、1名は外部の受注先工場で軽作業を行い、もう1名は計量測定や各種データ入力、パソコンを用いた資料作成等の事務作業を担当している。このうち事務作業担当のＢさんは、以前はリサイクル業務を担当していたが、パソコンの知識や操作能力に優れていたため、本人の能力を活かすため現在の事務作業に配置転換した。その結果、現在は特別支援学校などへの企業紹介チラシを分かりやすく作成するなど、同社における障害者雇用のＰＲの一役を障害者自身が担っている。

Ｂさんが作成した企業紹介チラシから見える職場の姿として、次のような文章がある。これらの文章からは、職場が各個人にとって安心して働ける居場所であると同時に、障害のある従業員が誇り持って仕事に取り組んでいることが伝わってくる。
　以下に紹介するのは、実際の企業紹介チラシの一部である（※は筆者のコメント）。

　　　

　　　　　　　　Ｂさんが作成した企業紹介チラシの一部

　　①「障がい者一人ひとりの特性に寄り添いながら、本人の希望も尊重しつつ、本人にも適した職種に就労していただけます。」

　　※各従業員の特性を大切にし、適切な業務を提供する姿勢が反映されている。

　　②「毎朝の健康管理、休憩時の声掛け、産業医への定期的な通院など、障がい者へのきめ細かな支援を行っています。」

　　※健康面でのサポートが充実しており、職場全体で障害者の健康を見守る取組が進んでいることがうかがえる。

　　③「長年に亘り、障がい者雇用の促進と雇用の安定に尽力しています。」

　　※障害者雇用においても安定した環境が提供され、長期的な雇用を目指す企業の姿勢がうかがえる。

(1)関係機関、特別支援学校等との連携
　同社は、障害者雇用においても他企業に先駆けた積極的な取組を行っている。ハローワークや障害者就業・生活支援センターとの連携を密にし、各種合同企業説明会への参加を通じて、広く障害者の雇用の門戸を開いている。また、障害者就業・生活支援センターとの協力体制を強化し、入社後も毎月1回、15～30分程度の定期面談を実施している。この面談では、勤務状況や心身の健康状況を確認し、必要な場合は社内の担当者と情報を共有し、迅速な課題解決と勤務継続につなげている。こうしたサポート体制が、障害のある従業員にとって安心して働くことができる環境を提供する基盤となっている。

また、地元の特別支援学校からの在校生を職場実習で受け入れ、障害者に実際の職場体験を提供し、仕事の内容だけでなく、人間関係や職場環境にも触れていただいている。これにより、他社では難しいと判断された方でも、同社では「働きたい」と感じる方が多く、その結果、安定した障害者雇用の継続が実現できている。

（2）障害者雇用の推進体制と雇用管理など
　同社では、障害者雇用の責任者である常務取締役が中心となり、障害者雇用推進者及び各部門の責任者と緊密に連携して、障害者の採用や障害のある従業員の雇用管理（指導・育成、継続雇用など）に取り組んでおり、障害のある従業員が働きやすい職場づくりを実現している。
　また、労働条件の設定や人事評価などについて、障害の有無に関係なく行っている。
　障害者も正社員として雇用し、障害のない従業員と同じ社内規定に基づく人事評価や昇給などを行っている。そうした同社の姿勢や取組は、障害のある従業員の帰属意識や仕事へのモチベーションにつながっている。そして、そうした障害のある従業員の姿勢、活躍が、全従業員の一体感、頑張りにもつながっている。

（3）安全・安心な職場、働きやすさを目指して
　同社では、業務における安全確保を重視し、細心の注意を払っている。例えば、障害のある従業員が一人で作業（行動）するのは避け、2名以上で作業することをルールとしている。これは労働災害の発生リスクを最小限にするためであり、障害のない従業員も含め、全従業員が理解し、意識している。業務上の指示や連絡なども、各部門の責任者が障害のある従業員に分かりやすい表現・方法で確実に伝えるようにしている。
　また、同社では高年齢者の雇用促進にも取り組んでおり、各人の体力や健康状況、家庭状況などに応じた作業環境や働き方にも配慮している。それはまた、障害のある従業員にとっても働きやすさにつながるとともに、全ての従業員の働きやすさにもつながるものである。
　そのほかにも、従業員の働きやすさへの配慮も行っている。
　特に、令和6（2024）年の夏は危険な暑さの日が多かったことから、暑い日には会社から全従業員に対し一日3回、休憩時間にかき氷を提供するなど、健康面への配慮を行った。
　また、暑さ対策とは別に、会社負担でうなぎ弁当を提供する、社内の食堂で月1回、全従業員分のカレーライスを昼に提供するなども行っている。
　そうした取組を通じて、同社には家族経営的な温かい職場環境が形成されている。そして、従業員一人ひとりに居場所があり、各人が誇りを持って働ける職場づくりを実現している。

本稿を取りまとめるにあたり、同社の代表取締役会長、代表取締役社長、常務取締役、そして障害者雇用担当の4名にお話を伺ったが、今後も障害者の雇用を積極的に進めていくという一致したビジョンがあり、そのために新しい仕事を開発することなどにより雇用機会の創出に取り組んでいることが印象的であった。
　彼らの強いリーダーシップのもと、入社した方が長く働き続けることが、同社の発展に直結するものと強く感じた。
　特に印象に残ったのは、障害のある従業員の家族、特に両親が抱く将来への不安に対して、同社がしっかり対応する姿勢である。
　そうした不安に対しては、ご両親が亡くなった後も、障害のある従業員が社会人、職業人として自立できるよう、温かく、時には厳しい指導を通じて、彼らをサポートし続けるつもりだと、家族、両親に伝えているとのことです。
　これは単に雇用するだけではなく、長期的な視点で従業員一人ひとりの人生を見据えたアプローチをとっていることを示している。
　さらに、近年近くのＡ型就労継続支援事業所が閉鎖する中、同社にはこれまでその事業所で働いていた障害者を受け入れられないかという依頼が寄せられているそうである。同社では、今後、その受け入れに関しても慎重に判断しつつ、可能な限り多くの障害者が新たな職場で活躍できるよう支援する方針であると話された。
　同社は、経営陣の強い意志と、現場で働く従業員たちの理解がしっかりと合致していることから、今後も障害のある従業員が安心して働くことができる職場環境の提供に努めていくことだろう。全従業員が、自らの価値を感じ取り、成長を実感できる場所として、さらに発展していくものと筆者は信じている。