（1）事業所の概要

株式会社関西メディコ（以下「関西メディコ」という。）は、「地域をささえる。」「こころをつなぐ。」をモットーに、地域医療の拠点となるべく、奈良県全域と京都府南部に68店舗を数える保険調剤専門チェーン「サン薬局」を経営している。その言葉通り、自社配達センター・配達便により、奈良県内の処方箋応需率20％を誇る。また、有料老人ホーム「ひまわり生駒苑」も運営している。

（2）障害者雇用の経緯

　関西メディコは、人（社員）と向き合うことにより発展してきた歴史がある。それは、創業時、順調に調剤薬局業務を拡大し、新しい出店をしていくためには、社員一人ひとりに長く働いてもらわなければ、実現できないと実感した。そのためには一人ひとりと向き合う時間を持ち、長く働いてもらう環境を作らなければならないと確信した。職員の声に耳を傾けた結果が、有給休暇取得率100％、育児休暇取得率・復帰率100％などにつながり、結果として業界では異例の5％という離職率の低さを実現した。このように長く働くための課題をクリアしてきたのである。

そのような中で、ハローワークが主催する「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」（特別な資格制度ではなく、一緒に仕事ができる応援者となれるよう知識と情報を提供してくれる講座）に経営者が参加したことをきっかけに、障害者雇用への理解が進んだのである。

薬局の運営上、薬剤師や登録販売者などの資格者の確保が不可欠である。とりわけ、薬剤師の確保は重要事項となる。薬剤師の確保には、薬学関連大学とのつながりが不可欠である。そして、つながりのある大学の就職担当者からの相談のあったことが障害者雇用のきっかけとなった。

具体的には、就職担当者から関西メディコに、「身体に障害のあるAさんが薬剤師として医療の現場で働きたいとの強い希望を持っているので、関西メディコで就業ができないか。」との打診があった。

薬局薬剤師の調剤業務は本来、立ち作業が連続することが多く、また、患者をお待たせしないで調剤・投薬を行う必要から、時間に追われての作業が多い。

Aさんの障害は脊椎に関係する障害で、外見からは明確でない脊髄の形成異常から下肢障害（歩行障害）や排尿障害（尿意を我慢できない）などの脊髄機能の障害を生じるものであった。歩行障害や排尿障害などは、時間に追われる外来業務には非常に困難な課題で、患者への応対の際に不安を与えることも懸念された。実際に学校側の説明でもすでに複数の薬局から断られたとあった。

しかしながら、関西メディコは創業当初より地域医療に求められる薬局づくりに取り組んでおり、他社が外来患者の応需の薬局しか持たない中、当時まだ珍しかった在宅医療に特化した薬局を一つ展開していた。そこでの「在宅患者への調剤業務」なら座って行うことも可能であり、また、老人ホームなどの老人施設の薬品管理業務であれば、外来の時間に追われることは少なく、トイレに行くタイミングを逃すことがない。

また、Aさんは、障害の特性上、電車に乗ると非常に負担がかかるため、ふだんから車を運転していて、「運転が好きでとても楽しいのでよく遠出もする」と面談で話してくれたことから、在宅医療の現場なら活躍できる仕事があると関西メディコでは判断し、Aさんの採用を決定した。

このようにして、Aさんの「在宅専門薬局」での就業が始まった。「在宅専門薬局」とはいえ、外来患者も少数ながら利用されるが、取材でお話を伺ったAさんの同僚によると、そうした患者との対応も問題がなかったとのことであった。

一方で、Ａさんの採用に際し、同じ職場で一緒に働く社員からは、共同で行う作業に対する不安の声があり、実際に配属当初は多少ギクシャクする場面もあったが、それは一緒に働く時間が解決していったそうである。長く一緒に働くことでお互いの理解が深まり、不安などを感ずる社員はいなくなった。以降、就業から10数年になるがAさんは今も現場での就業を続けている。

Aさんは、障害の特性上、感染症等にかかると治りにくく、一時期、休むことがあって、本人が引け目を感じたり、仕事上の役割が補助的になった時期もあった。しかし、ある社員がAさんに次のアドバイスをした。

「この仕事が気に入っているのだったら、長く在籍する一社員として頼られる存在にならないといけない。どういう部分なら自分が人に頼られる存在になれるのか考えた方が良い」

アドバイスに対し、周囲からは「厳しいのでは？」との声もあったが、Aさんはアドバイスに耳を傾けて努力した結果、現在では新入社員に仕事を指導することも増えている。また、母校である高校に招かれ、先輩として在校生に仕事や進学について話したりする機会もあったそうで、あの時勇気を出して受け入れて本当に良かったと感じている。

（1）従事業務
 関西メディコにおいて障害のある社員が従事する業務は、薬剤師の業務のほかには、おおむね二つの業務に分かれる。
 一つ目は調剤薬局事業における商品管理業務であり、出荷伝票によるピッキング作業である。現在、身体障害のある社員2名、知的障害のある社員3名、精神障害のある社員2名の計7名がこの業務に従事している。

二つ目は老人ホーム運営事業における清掃業務であり、施設内の入居者の居室や共有施設の様々な清掃作業である。こちらには、身体障害のある社員1名、知的障害のある社員3名、精神障害のある社員1名の計5名が従事している。

（2）採用と職場配置

採用や職場配置については、固定的な基準やルールがあるわけではないが、おおむね次のようなプロセスを経ることが多い。

ア．就職希望者があった場合には、本人の同意を得た上で、ハローワークや就労支援機関等から、配慮事項等に関する情報提供を受ける。

イ．就業前の職場実習（以下「実習」という。）や職場見学を特に重視している。実習では、各人の特性に合わせて日数を決めている。実習を通じて、職務・職場と当人とのマッチングを図っている。

ウ．採用にあたっては、事前に把握した配慮事項等の情報と、実習時の状況、実習時に一緒に働いた社員の意見、本人の就労希望時間をもとに、任せられる仕事の切り分けを検討し、何を担当してもらうのかについて、事前に職場内で検討会を開いて採用を判断している。

　前述の1.（2）でも記したように、関西メディコは、障害者への取組という限定した考えではなく、同社で働くすべての人（社員）に、働きやすく、長く働いてもらえる環境づくりが会社の発展につながると考えている。基本的には、この考えがすべてに通じているといっても過言ではない。

次に、そうした考えをベースに進められている関西メディコの取組の一部を紹介する。

（1）先に経営者が参加した「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」が障害者に向き合う時に非常に役立つと感じたことから、同講座の講師による社内勉強会を実施した。この勉強会は希望者が参加するもので、薬局業務の商品課の責任者や次席責任者を含め約50名の薬剤師が参加した。
　この勉強会の実施後は、社員の障害者に関する理解が深まり、各職場での障害のある社員への対応がスムーズになされるようになった。

（2）何らかの課題があれば、その都度、「その人に向き合う！」という姿勢をベースに、課題解決のための時間を作ること。これは障害のある社員を含む全社員に共通する取り組み姿勢である。この姿勢が好循環の流れを生んでいる。
　一例をあげると、「その人に向き合う！」姿勢は、障害のある社員にとっては職場での様々な場面で必要な配慮が得られることにつながってくる。
　入社時には、体調などのコンディションの不安定さから週20時間程度の勤務でスタートした人があったが、一緒に働く人たちが折に触れ「今の仕事は負担ではないか？」などの声を掛けている。この声掛けをきっかけにして、本人の要望を新しく知ることもできた。その結果、当初の予定とは違った配慮につながった場合もある。
　そのほかにも、障害のある社員から「もう少し働く時間を増やしてみたい」「こんな仕事もしてみたい」という意欲的な意見が出てくることもある。それらに一つひとつ「向き合い」、会社として応える努力をすることで、信頼関係が生まれ、就労意欲が高まるという好循環を関西メディコは何度も経験している。
　「向き合う」といっても、人事担当者や上長との面談などという堅苦しい場ではなく、ふだんの職場内でのコミュニケーションの中で「その人に向き合う！」姿勢を見せることがとても重要であると同社は実感している。

　　取材の最後に、関西メディコの障害者雇用の担当者は次のように話された。

　「これまで法令順守の立場から障害のある社員の採用については、障害者の法定雇用率の達成を目標に取り組んできた場面もありました。ですが令和6（2024）年度に法定雇用率は2.5%となり、今後もアップしていくことが予測されます。当社の現在の事業においては、障害者の配属部署が商品管理と清掃業務に限定されることもあり、今後は受け入れることができる人数には限界が出てきてしまいます。ですから、法定雇用率の達成だけを目標にするのではなく、これまでも取り組んできた各々の職場が求める適性ある人材に向き合い、「できるだけ永く働いてもらうように努める」という方針を貫いていけば、課題ごとに新しい知恵が生まれ、その解決の手立てが整備されていくことになるのではないでしょうか。この取組をこれからも続けていくことが、今後求められる障害者雇用率などにも有効な結果をだしてくれることでしょう。」