各事業にて障害の特性に合わせて、Branchでは主に身体障害者手帳や精神保健福祉手帳所持者を、Farmでは主に療育手帳所持者を配置している。

　Branchの主要な業務は親会社のグループ企業等のバックオフィス業務であり、日々勤怠管理や健診結果の取りまとめ、採用業務やＨＰのブログ作成等に従事している。基本的に全員正社員での雇用で、9:00から17:00の勤務であるが、各人の状況に応じてフレックス勤務や在宅勤務も取り入れている。

　一方、Branchでのオフィスワークに就くのが難しい障害特性の方も幅広く雇用していくために、令和3年に開設されたFarmでは、葉物野菜や原木しいたけを中心にした種植えや収穫等の屋外作業のほか、苔テラリウム製作や郵送対応等の屋内作業というように季節や天候に応じて従事している。こちらの業務は作業負荷が軽く、農作業の経験がない人の希望が多いので採用前には職場見学を行い、仕事の内容を事前に理解できる機会を設けている。徐々に仕事に慣れていきたいという本人の意向により、現在Farmに在籍の社員は全員契約社員での雇用で、勤務時間は、各人の状況に応じてフルタイム勤務や短時時間勤務等、個々に設定している。

（1）取組の内容

ア．募集・採用

ハローワークに、障害者向けの求人を常時出すとともに、障害者向けの合同面接会や企業面接会に参加し、継続的な採用活動を行っている。現在在職する社員は、1名が特別支援学校の新卒採用で、ほかはハローワークからの紹介による中途入社である。　　

イ．障害のある社員の教育体制

社内の教育専門機関「M's　Ups」（注）で「ダイバーシティー＆インクルージョン」にもとづいた教育を計画的、かつ個別に実施している。具体的には、入社時には全員を対象に基礎教育を行い、自分がどのような業務を担当するのか、仕事を通じて“挑戦や失敗”“共助”などを経験し、成長することの価値・重要性を理解できるようにしている。基礎教育以降も、個々に合わせてキャリアアップ教育や各種研修を行っている。

Branch、Farmいずれの社員も個々の特性や必要性に合ったものを取捨選択して実施している。特にFarmでは知的障害のある社員が多いことから、障害特性を考慮して、OJTに重きを置いた研修内容にアレンジして実施している。

　（注）「M's　Ups」は「Minerva’s Upskilling」を省略した名称。理念や活動内容は以下のブランディングサイトを参照。

　　　https://osbs.urtricksters.com/minerva.html

ウ．支援員による対応

看護師、保健師、公認心理士等の資格保有者を障害のある社員の支援員（以下「支援員」という。）として配置して、毎日の声かけや社員全員が入力している日報や、定期的な面談を通して一人ひとりの状況を確認し、必要な支援を行っている。

また、Branch在籍の支援員間での情報共有はもちろん、ほかの拠点の支援員とも連携し、課題発生後の対応だけでなく、発生の予防を目的とした支援を実施しているほか、社内システムにデータを集積し、AIによる分析やノウハウの共有等も行っている。

＜定期的な面談等と支援＞

①インテーク面談（公認心理士による）

②マンスリー面談（支援員による定期的な体調やメンタルの確認）

③リクエスト面談（本人希望時に、相談内容に応じた支援員（資格保有者）による）

④各種カンファレンス（ケースごとに、支援員による支援チームにて検討）

　＜AI及び社内システムによるデータの活用＞
　　　　　①コンディションチェック（気分等に関するセルフチェックを社内システム（K6診断※）にて実施し、結果を回収、分析）
　　　　　　※K6診断とは、心理的ストレス反応を自己記入式に診断するもの。
　　　　　② ヘルスチェック（基本的な体調確認を社内システムにて実施し、回収、分析）
　　　　　③ AIによるアラート（各種データをAIにて分析、アラートの発信など）

　　
　　　　　　　　　　　　　　　　日報の記入例


（2）個々の特性に対応した取組の事例
　Farmに所属する自閉症スペクトラムと学習障害があるＡさんは、農作業ができない時期は、グループ会社の郵送業務等を担当している。Ａさんの課題は、①書類のチェック作業において「見落としすること」を気にするため、精神的に負担がかかること、②動かないとさぼっていると思われるという不安が強く、指示を最後まで聞く前に作業に入り、ミスにつながる場合があることであった。
　そこで、負担の少ない作業に変更する、苦手な作業を短時間にする、指示を最後まで聞いて理解することの重要性を説明するといった対応をとった。その結果、負担が軽減し、指示も最後まで聞いてから作業に移れるようになった。その他にも、支援員間で作業指示を統一する、検品基準をマニュアル化するなどの配慮で負担軽減やミス防止を図った。また、前職で叱責された経験による不安が強く、萎縮しやすいことが分かったが、Farmでは支援員も社員も常に互いを尊重したコミュニケーションや作業指示を心掛けていることから、不安による委縮も徐々に軽減された。

（3）取組の効果
　社内教育では、オンラインにより全国各地の社員や支援員との交流にもつながっており、支援員の心理的安全性確保の一助も担っている。また、AIシステムによる不調者の早期発見を行い、全国の支援員の知見をもとに予防や対策を行うことで、80%以上の定着率を達成できている。

Branch、Farmともに、社員の体調やメンタルの状態を支援員が把握し、必要な場合には支援員が調整して、在宅勤務期間の延長や在宅勤務回数の変更等も行っている。また、勤怠システムにて在宅申請を行うことで、在宅手当の支給も日単位で管理し給与に支給している。
　在宅勤務時には会社で支給しているパソコンとスマホにてやり取りを行い、困りごとや相談に対して、タイムリーに対応できる体制を作っている。

　同社は、現在のBranchでの社員が増加したことにより、令和7年1月に米子市にもBranchを設置した。県内2か所のBranchにて30名の障害者雇用を目指している。

　また、Farmでは、圃場（ほじょう）内に作業用のユニットハウスの建設を検討しており、建設後は15名の障害者雇用を計画している。

　今回の取材でお話を伺った同社のマネージャーは、今後の障害者雇用について次のように話された。

　当社は特例子会社であるが、将来的には「障害者」という区分はなくなっていてほしいと考える。いろいろな個性や働き方の社員が許容されている当社で、障害者もその一員として自然に働いていけること、そして、ここで働く中で、一般企業でも働ける気持ちと能力を身につけていってほしいと考える。そのために、安全で安心してみんな一緒に分け隔てなく働き続けられる職場を作っていきたい。　

　一方、障害者を雇用する上で必要不可欠な支援員の採用が進まないという課題がある。他都府県の拠点において、支援員の採用が遅れたため拠点の開設がずれ込むことや、支援員の不足により障害のある社員の不安が増大した事例の報告が上がっている。

会社として障害のある社員への支援のあり方を検討し、今まで生産現場で働く機会の少なかった福祉関係の有資格者や経験者を積極的に採用し、当社で活躍してもらうことで、障害者の活躍につなげたい。そうした事例の積み重ねが、福祉の分野で働く方々に障害者の就労支援の重要性や、地域社会や企業の障害者の可能性への理解にもつながる。
　そして、福祉分野の有資格者や経験者が一般の企業や団体で活躍し、評価されることにより、障害者だけでなく、高齢者等の様々な人が社会の中で活躍していくことにもつながる。当社の取組が、そうした土台となるよう、新たな取組を積極的に進めていきたい。