（1）事業所の概要

　北四国グラビア印刷（以下「当社」という。）は、昭和45（1970）年に、香川県・観音寺の地で創業した。創業以来、二度の本社・工場移転を経験しながら、食品メーカーを中心に「選ばれる」パッケージ作りを目指して、グラビア印刷におけるノウハウの蓄積と高度化を図ってきた。そして、現在では企画・デザイン・製版から印刷・ラミネート・加工、製袋納品に至るまで、独自の一貫製造システム、先端のＩＴシステムを構築するに至っている。

当社では、企業はお客さまからの多種多様なご要望や外部環境の変化に応じて、常に革新し続けなければ、その存在価値を失うと考えている。そのためには、最新の設備導入はもちろんのこと、各分野スタッフのスキルアップ、品質管理の徹底、環境問題を念頭においた素材や技術の追求など、なすべきことはいつの時代も山積みである。

当社は、それらの課題をひとつずつ、あるいは同時並行的に解決することを目指してきた。それは、工程のすべてが高い次元で機能してはじめて一貫体制のメリットが最大限に発揮されるためである。

「人生在勤」、そして、「何よりも、お客さまとの信頼関係を大切にしたい」との理念のもと、その追求過程に、「ここまででよし」という言葉は存在しない。それが当社の基本姿勢である。

社員数は127名であり、うち障害のある社員は4名である。それぞれの特性を理解し、マッチした業務を設定することで、それぞれがやりがいや達成感、自己成長を感じながら業務に従事しており、当社としても評価している。

（2）障害者雇用の経緯

　障害のある社員4名のうち、3名は特別支援学校（以下「支援学校」という。）からの新卒採用である。そのうちの一人であるＡさんが、当社が最初に採用した障害者である。

Ａさんは知的障害のある社員で、11年前の採用であるが、採用の際には支援学校在学中に2回の職場実習（以下「実習」という。）を実施した。実習の際には、学校、家族及び障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）の協力を得た。実習の結果、当社として「Ａさんと一緒に働く」ことが具体的にイメージできたため、採用を決定した。

その後、しばらく時間が空いたが、聴覚障害のあるＢさん、知的障害のあるＣさんと、継続的に採用してきた。

本稿では、当社の障害者雇用について、以上の3人への取組を中心に紹介する。

（1）知的障害のある社員（Ａさん、Ｃさん）

Ａさんは入荷された材料の開梱と製造現場までの運搬業務に従事している。入社当初は、開梱する作業で手一杯であったが、慣れていくにつれて運搬業務や倉庫の整理など、できることもどんどん増えていった。

　Ｃさんは、版の洗浄機のオペレーターとして1人で作業を行っている。版洗浄の仕事が少ない場合は、自ら周りの社員に声をかけて（申し出て）、版の運搬などの仕事も行っている。

（2）聴覚障害のある社員

　Ｂさんは、半日は購買チームで発注業務や伝票入力を行い、半日は品質保証チームで出荷検査や出荷検査表の作成業務を行っている。作業の切り出しから2チームにわたっての仕事となっている。また、入社2か月後から社員に聴覚障害がある人のことを理解して欲しいということから、自ら手話勉強会を提案し、1年4か月経過した現在も月に2回の勉強会を開催している。

（1）取組の内容

ア　実習を活用した採用

　県内の支援学校から在校生の実習を受け入れており、実習を契機として採用している。

イ　個別の取組内容など

（ア）実習時における取組から採用決定まで

　①Ａさんについては、2回の実習を行った。1回目は梱包工程での作業であったが、ここで3つの課題があることが分かった。

　　・作業に必要なカッターナイフの扱いができない（これまで使ったことが無かった）。

　　・採用後の通勤を考えた際に、自分で通勤する手段がない（危ないから、という理由で自転車の利用はできるだけ控えていた。
　　 なお、実習時は家族の送迎であった）。

　　・製品ごとに細かく決められている梱包仕様の理解・区別と、それに合わせた作業が困難であった。

それらの課題を、学校、家庭、支援センターとも共有し、協力して改善・準備を行い、2回目の実習に臨むことになった。

具体的な改善・準備は次のとおりである。

　　・学校でカッターナイフの使い方を教え、練習した。

　　・学校で自転車の乗り方や交通ルールを教え、練習した。

　　・当社側で改めて作業の切り出しを行い、作業がより単純な「開梱作業」で実習を行うことにした。

その結果、実習ではカッターナイフを使うことができ、自転車での通所もできた。作業もスムーズにこなせた。そして、2回目の実習を経て、Ａさんの採用が決定した。

カッターナイフと自転車の使用については、当初不安を持っていた家族の理解と協力が得られたことも大きかった。

　②Ｂさんについては、聴覚支援学校の先生から実習受け入れの依頼があった。社員は聴覚障害がある方と接する機会は今までほとんど
　　なかったが、実習に先立ち、まずは社員全員が「お疲れさまです」の手話を覚え、Ｂさんと廊下などですれ違う時に手話でコミュニ
　　ケーションを取ることとした。そうしたこともあって、実習後はスムーズに採用が決定した。

　③Ｃさんについても、近隣の支援学校から実習受け入れの依頼があった。依頼直後から社内で作業の切り出しを行い、版洗浄機の担当
　　してもらうことになった。実習中には前向きに取り組み、順調に仕事を覚えてくれたため、実習終了時には一人で作業できるまで成
　　長し、戦力となっていた。採用も問題なく決定した。実習終了後から就職までの約半年は、社員が早く入社して欲しいと入社を楽し
　　みに待つほどであった。

（イ）採用後の取組

　Ｃさんは、毎日日誌を記入して人財開発担当者に提出をしている。当日の仕上がり本数の報告を行うことで、当日の状況の確認を行っている。また、入社当時から香川障害者職業センターの支援を受け、定期的な面談や教育担当者の相談窓口として、いろいろなアドバイスを受けている。

また、Ａさん、Ｂさん、Ｃさんとも入社時から支援センターの支援を受けている。支援センターは本人と定期的な面談で、相談などを行っており、当社の担当者との情報共有なども行っている。何らかの課題がある時には、学校の先生や家族とも連絡を取り合いながら、具体的な支援や、当社への助言などを行っていただき、とても助かっている。

社内では、各部署で担当者を決め、定期的にフォローすることとしている。また、当社で取り組んでいる活動をそれぞれの障害の特性に合わせて同じように行っている。

（2）取組の効果

　家族、学校、様々な支援機関と連携し、協力・支援を得ることで当社も障害のある社員も一歩ずつ進むことができた。障害のある社員とともに働くことで、社員の中で「相手を想い、考えて行動をする」という場面が増え、今までよりも相手に配慮した対応ができるきっかけになり、社内のチームビルディングにつながっていると当社の代表は考えている。

レクリエーションでは、社員旅行で韓国に一緒に行くなど、社員間のコミュニケーションが増えることで関係性もより深まっている。また、ＱＣサークル活動の中での同期との映像作成では、それぞれに与えられた役割分担について責任を持ってやり遂げ、同期みんなでの達成感を味わうことができた。

今後も様々な仕事を切り出すことによって、障害があっても活躍できる場を作ることができると感じている。より多くの障害者と一緒に仕事をすることで、会社全体が支え合い、成長していける組織にしていきたいと考えている。