（1）事業所の概要

　株式会社デンソーソリューション（以下「同社」という。）は、昭和50(1975)年に日本電装株式会社(現：株式会社デンソー)100％出資のグループ会社として設立され、令和元(2019)年に商号変更を行い現在の商号となる。同社はデンソーの国内販売会社であり、デンソー・デンソーグループ製品をはじめとした、自動車関連製品の販売・マーケティングや、自動車・商用車の技術サービスを実施している。

会社全体としては、令和6(2024)年7月時点では全国8支社45拠点を有しており、車両部品の取付・修理をはじめとしたサービス事業を中心に7つの事業を展開している。そのうち九州支社(以下「同支社」という。)では、福岡県および熊本県に計4拠点構えている。

（2）障害者雇用の経緯

　会社全体として障害者雇用に取り組んでいる。基本的な考え方としては、障害者の法定雇用率の達成の視点だけでなく、障害特性の違いを多様性と捉え、お互いを尊重し合うニューロダイバーシティの実現を目標として、障害者雇用に取り組んでいる。

同支社においても、障害者雇用に取り組んでいたが、平成28(2016)年、同29(2017)年の法定雇用率が未達であった。平成30(2018)年の障害者雇用促進法改正を見据えて、早急な取組が必要と考え、これまでの障害者雇用の実態を整理したうえで、採用ルートや職場理解、職場への定着について見直しを行った。その結果、同支社では平成30(2018)年度より法定雇用率を遵守しており、現在は4名の障害のある社員を雇用している。

　本稿ではそうした同支社の取組について紹介する。

　現在雇用している4名のうち2名が知的障害であり、2名は内部障害である。また内部障害の2名に関しては入社後に障害を抱えるようになった社員である。

（1）知的障害のある社員（ＡさんとＢさん）

　Ａさんは製品品質部門にて部品の品質チェック業務に従事している。Ｂさんは製品管理部門にて部品の開梱・梱包やピッキングの業務に従事している。

（2）内部障害のある社員（ＣさんとＤさん）

　Ｃさんは課長として、主に部下のマネジメントや関係各所との調整を担っている。Ｄさんはサービス拠点における受発注などのフロント業務に従事している。

（1）取組の内容

ア 募集・採用

ハローワークや福岡市立障がい者就労支援センター（以下「センター」という。）、特別支援学校などの関係機関と連携しながら募集・採用活動を進めている。

　採用に関して平成29(2017)年以前は、内部障害者の採用を進めていたが、応募者が少なく、採用が難しかった。

また、肢体などに障害のあるケースは、職場環境の整備が難しく断念することになった。そこで、会社として雇用に取り組みやすい知的障害者と発達障害者に対象を絞り採用活動を実施した。

　採用活動を始める前に、センターへの相談やセンター開催の障がい者雇用セミナーに参加し、障害に関する基礎知識や雇用方法を学び、他社の雇用の好事例を収集し、導入するなどして雇用方法についての知識を得た。

　その上で、センターの登録者や特別支援学校の生徒を対象とした新卒採用を進め、職場実習（以下「実習」という。）やトライアル雇用を通してマッチングを重視した採用活動を行っている。

　また、職場の障害者に対する理解がなければ雇用は難しいと考え、実際の内定者をイメージした職場向けの勉強会を実施した。勉強会により、特性を理解することが受入側の不安の払拭につながった。

イ 指導・支援体制と定期面談の導入

　職場定着を促すためには、障害のある社員に応じた指導・支援体制の導入と、本人の困りごとなどを早期に把握し、解決するための本人との定期面談が必要と考え、導入した。また、本人との面談だけでなく、日常的に直接指導を行う社員（指導係）から話を聞くことが重要と捉え、指導係とその上長が定期的に面談も実施している。

　障害のある社員に対する指導・支援体制は、指導係1名、定期面談を実施する他部署社員である事務局所属社員1名、指導係の上長と、社外の支援者であるセンターのジョブコーチ1名などで構成されている。この体制により、指導・支援（以下「支援」という。）を現場での一対一対応で留まらない包括的で連携した支援を行うことが可能となった。また、障害特性や支援方法についても、ジョブコーチからの助言を受けたり、センターの職員を講師とした職場内研修を行うことで、社内全体のレベルアップにつなげている。

　定期面談についても、本人との面談や、指導係との面談により、就労状況や困りごと、課題などについて早期に把握することで、必要な情報共有と対応がとれるようになっている。

このような支援体制や定期面談は、障害のある社員の就労継続において革新的なアプローチだといえるのではないだろうか。

（2）取組の効果～当事者と指導係の声から～

　取材のなかでは、障害のある社員（当事者）と指導係に直接お話を伺った。次にその声を紹介する。

ア　当事者の声

知的障害のあるＡさんとＢさんはどちらも入社して5年目であるが、それぞれの適性に応じた配置を行っている。以下は同支社で働いていて感じていることを尋ねた。

（ア）Ａさん

　　以前は製品管理部門にて自動車部品の開梱・梱包作業を行っていたが、より高度な作業を希望した結果、製品品質部門へ配属された。作業に慣れてきたことから、できることが増えてきた。職場環境には満足している。一方で、正社員として働きたいという気持ちもある。

（イ）Ｂさん

　　以前には失敗もしていたが、同じミスをしないように心がけることによって成長してきたと感じている。職場の環境として、余計な私語がないため、自分に合った職場だと感じている。現在の待遇に満足しており、仕事の戦力になっていると感じている。困った時は上司に相談ができる環境のため、安心して働くことができている。

イ 指導係の声

　指導係はそれぞれ配属された係の係長が担っている。Ａさん、Ｂさんの指導係の方に、職場での支援や状況について尋ねた。

（ア）Ａさんの指導係

　　配属の際にあらかじめセンターと情報共有を行っていたため、本人の特性理解はある程度できている状態だった。そのため、本人が分かりやすいように順序立てて作業手順を示すなどのタスク管理を行うことや、意見や質問がしやすいような人間関係を心がけることができていた。イレギュラーなことへの対応があった際は、なぜ起きたのかというところから詳細に順序立てて説明を行った方が伝わりやすいなど、関わる中で本人の理解が進みやすいパターンが分かってきた。勤務状況は安定しており、プライベートでも趣味を通じて仲の良い社員と食事に行くなど職場での関係も良好である。

（イ）Ｂさんの指導係

　　本人の得意不得意がはっきりしているため、それに応じた指示を出すように工夫をしている。入社時はイレギュラーなことへの対応が難しく、混乱することがあったが、徐々に慣れてくるなど成長が見られている。以前は時間管理の難しさがあったが、いくつか具体的な管理方法を定めたことで、時間についての意識も芽生えてきた。基本的には定例業務をこなすことが主な役割となっているため、大きく困ることもなく業務に従事している。現在の環境が本人にも合っているようで、勤務状況もしっかりと安定している。

　前述の項目「2」と「3」にも関連するが、同支社では次のような配慮を実施している。

（1）Ａさんの場合

　必ずタスクの調整を行い、分からないことを何度でも聞ける体制を構築している。イレギュラーなこと（急な予定の変更など）が起きた際は混乱することが多いため、その際の説明は、本人が分かりやすいよう順序立てて行っている。また、複数人からの指示よりも指示役を集約したほうが理解しやすいため、指示は可能な限り指導係に限定したうえで行っている。

（2）Ｂさんの場合

　Ａさん同様に急な予定の変更が苦手であるため、予定の変更がある際は順序だてて説明を行い、変更の理由についても伝える。職場内での社員配置についても、適宜、センターなどの支援機関の助言を受けつつ変更を行っている。

（3）Ｃさんの場合

　在宅勤務を適用しているが、本人の体調に配慮しながら、出社と在宅勤務を調整し、円滑かつ無理のない業務に対応している。また、出張業務があるが、遠方への出張は除外している。これにより、健康を維持しつつ業務を円滑に進めることを目指している。

（4）Ｄさんの場合

　重量物を扱う業務や夜間対応業務に従事させない、残業時間の調整を行うなどして、身体への負担軽減を図っている。

　同支社では、ＡさんとＢさんが特別支援学校を卒業して以来、適宜支援機関との連携を図りながら職場への定着支援を行っている。また、内部障害のＣさん、Ｄさんに対しても、本人の業務上の負担が少なくなるよう配慮を行っている。このように、同支社が特に注力しているのは、障害のある社員が長く働ける環境づくりであり、タスク面やコミュニケーション面での配慮・支援である。さらに、職場全体が障害雇用を理解し、ともに働けるための啓発やコミュニケーション面などでの支援も行ってきた。

今後も定着支援を中核としつつ、一人でも多くの障害者に適切な雇用機会を創出していきたいと同支社では考えている。

　一方で現在の課題としては、社員登用制度はあるものの、障害のある社員の目標設定と管理や業務の切り出しに難しさがあるため、知的障害のあるパート社員のステップアップが進んでいないことがあると認識している。今後、この点についての検討を進めていくこととしている。