（1）事業所の概要

  株式会社緒方商店（以下「同社」という。）は、昭和28（1953）年に創業した食肉及び食肉製品の会社である。「安全で安心な食づくり」をモットーとし、熊本県内に6つの工場を展開。精肉商品のアウトパックや肉惣菜食品の開発・加工を行っている。

また、障害者雇用のみならず、外国人の雇用も積極的に取り組む等、多様な人材を受け入れて発展している企業でもある。

　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　事業所内観（作業現場）

（2）障害者雇用の経緯

　同じ町にある障害福祉サービス事業所（以下「サービス事業所」という。）から障害者雇用の相談を受けたことが障害者雇用の始まりである。サービス事業所を利用している1名の知的障害者を、職場見学、職場実習（以下「実習」という。）を経て、トライアル雇用で採用したのがスタートである。その後、サービス事業所の職員のサポートもあり、2人目の障害者を雇用した。さらに、障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）からの雇用相談や、他のサービス事業所の利用者の実習を契機に障害者の雇用を進め、現在では、熊本県内の3つの工場で7名の障害者を雇用している。全員パート勤務とし、4時間の短時間から8時間のフルタイムまで、その方の能力や希望に応じた働き方で雇用している。

　6拠点ある工場のうち3拠点で障害のある従業員を雇用している。本社工場で4名（知的障害のある従業員3名、精神障害のある従業員1名）、城北支店工場で2名、天草支店工場で1名の知的障害のある従業員を雇用している。全員、精肉加工の工場で肉の計量やパッケージングをしたり、肉の筋取りやミンチを作ったりしている。
　また、直接雇用だけでなく、約10年以上前から、サービス事業所の利用者を施設外就労として全工場で受け入れており、本社においては3事業所から受け入れている。

（1）強制はせず「褒めて」意欲を育てる

　障害のある従業員に「こうしなさい」と強制することはなく、自然とやりたくなる気持ちを育むような声かけをしている。髪を切ることに対して抵抗のあるこだわりの強い従業員に対しては、商品に髪の毛の混入があってはいけないため、髪の毛をできるだけ清潔にしていくことの大切さを会社のルールとして伝えつつ、がんばって散髪してきた時には、「よく切ってきたね」と言って褒めている。そうした本人の努力を認めることが、本人の理解に繋がり自らやろうという意欲を起こさせている。

（2）特性に合わせて活躍できる「オンリーワン」の役割づくり

　人と接するのが苦手という障害のある従業員をトライアル雇用した際に、工場内の精肉加工のライン作業では人と接することが多いため、一人でもできる仕事を考え、工場の外でカゴを洗う仕事を任せることで安定して働くようになった。今では、自分だけに任された仕事にやりがいを感じ楽しそうに笑顔で働いている。

　また、感情の表現が苦手な障害のある従業員は、その人が集中できる環境の仕事場に配属したところ、「自分にしかできない仕事だ」という役割を見つけることができたことで気持ちが安定し、他の従業員とも良好な関係になった。

（3）支援機関との協力体制の構築

　障害のある従業員の特性を活かした役割づくりをするためには、まず、その人のことを知ることが大切だと考え、本人と話してみたり、外部の支援機関の方に障害特性を聞いたりして、その人を理解するようにしている。特に、良いところ（得意なことや長所）についての情報を得ながら、その従業員としっかり付き合うことで、障害のある従業員の強みを活かした仕事づくりができるようになった。

　さらには、サービス事業所や支援センターなどを利用している人については、本人のことをよく知っている方から指導上のポイントや、メンタル不調時の対応方法などを確認し、一人ひとりへのより良い関わり方につなげている。また、そうした情報や経験は、他の従業員への支援においても活用することができている。

（4）会社全体での風通しの良い雰囲気づくり
　同社では、障害があるということで雇用を拒否することはなく、まずは、いったん受け入れるという姿勢を大切にしている。その想いが全従業員に浸透し、障害について相談してもらえると、配慮できることは何かを考え、その人にとっての居心地の良い職場を作っていこうという雰囲気が会社全体にある。独り言をブツブツ言いながら作業をしていても、時々奇声を上げてもそれがその人だと受け止めて、当たり前のこととして受け止め、共に働いている。そうした風通しの良い職場が障害のある従業員の働く意欲を高め、みんなのために準備をしたいので早く出勤しようとする障害のある従業員や、週5日では足らずにもっと頑張りたいと希望する障害のある従業員などの「働き甲斐」を育てている。

　障害者雇用を始め、紆余曲折ありながらも、支援機関との協力体制を構築し、障害のある従業員が活躍する職場ができている現在、大きな課題はない。しかし、作業に関する手順や状況などの情報が一部の担当者しか把握できていないなど、業務内容が属人化しているために新しい人材の確保が難しいことがある。今後、積極的に障害者雇用を進めていくためにも会社全体で業務内容を標準化していく必要性を感じている。

　今回お話を伺った従業員の方は、「障害者雇用は決して特別なことではなく、むしろ、彼ら・彼女らと一緒に働くことは会社を豊かにしてくれるものだ」と穏やかに微笑まれた。

7名の障害のある従業員は感情の起伏やこだわりが強いなどの特性があるが、決して人の悪口を言わず、人の邪魔をするようなことはしない。そういう彼ら・彼女らが持っている素晴らしい強みが、他の従業員に良い影響を与え、会社全体を和やかな雰囲気にしてくれているという。

また、障害者だけでなく外国人や高年齢者等、様々なバックグラウンドを抱えた人を受け入れることで、会社の発展に必要な多角的な視点での気づきや学びを得ることができていると話された。そうした自分との違いを排除せず、その違いをありのままに受け入れることを大切にされている企業だからこそ、障害のある従業員が、気軽に事務所に入ってきて照れながらも冗談を言える居心地の良い職場を作ることができていると筆者は感じた。