株式会社サカイ引越センター（以下「同社」という。）は、引越トータルサービスを提供している。ISO 9001やISO 14001などの国際規格も取得しており、サービスの品質と環境への配慮にも力を入れている点が特徴である。同社は「まごころこめておつきあい」をモットーに昭和46（1971）年に創業し、引越一筋に53年を迎え、輸送ノウハウだけでは語れない事業へと発展している引越ビジネスをリードしてきている。

障害者雇用については、同社のモットーである「まごころこめておつきあい」をもとに、田島治子前社長の音頭とりで「地域社会に貢献する企業」を目指し、平成9(1997)年9月以降、積極的に取り組んでいる。

なお、同社の取組は、平成16（2004）年にも、障害者雇用事例リファレンスサービスに掲載されたが、この20年で下表のとおり大きく前進している。

　　
　　　　　　　平成16年と令和6年の障害者雇用状況と取組の対比表

　本稿では、同社の障害者雇用の取組について、同社人事部の担当者の方への取材をもとに紹介する。
　取材当日は、急用で欠席された人事部の大庭康広部長から提供された資料をもとに、人事部吉住元係長、同部緑恵子事務副主任からお話を伺った。以下の画像は取材当日の様子である。

　前掲の対比表にあるとおり、支社での引越スタッフ業務は、障害のある従業員が従来から取り組んでいる業務である。引越スタッフ業務では、ドライバーとメイン助手、そしてアシスタントの3名で動くが、同社のサービス品質を保つ中心部分を担っている。そして、お客様から「ありがとう」との言葉を直接いただける仕事でもある。

　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　引越スタッフの作業の様子

　しかし、障害のある社員の中には引越スタッフ業務への対応が難しい人もいた。そこで、新たな職域として開拓したのが、支社での作業スタッフ業務と、本社での事務補助業務である。事務補助業務には事務所内での書類整理などがあるが、今回は、作業スタッフ業務について詳しくお話をお聞きした。
　作業スタッフの仕事には、支社内の清掃業務や段ボールの整理などの軽作業がある。ダンボールの整理とは、お客様が利用されたダンボールを回収後、ガムテープを剥がすなどを行い、リユースできるようにした上で、整理・保管していく仕事である。引越スタッフをバックアップする作業だが、作業スタッフがいない支社では、ダンボールが乱雑に置かれていることもあるそうで、そうした支社からは、作業スタッフの存在をうらやましく思われることもあり、ぜひ自分の支社にも配属してほしいとの要望が上がるほどである。一見、「すきま」作業のように見えるが、その「すきま」作業のおかげで、引越スタッフの仕事も円滑に回っているとのことである。

　　　　　　
　　　　　　作業スタッフの様子～ダンボールの整理などの軽作業～　

　　　　　　
　　　　整然と置かれたダンボールは、他支社から羨望のまなざしで見られている

　また、社員の名刺印刷を担う部署も、数名の障害のある社員により、切り盛りされている。引越当日は、近隣の方も含め挨拶を行うため、全国で毎月1,000件、20,000枚以上の名刺の発注があり、同社にとって欠かせない重要な部署になっている。
　次に、作業スタッフ業務についての取組や効果について紹介する。

（1）「カレンダー」の作成

まず、作業スタッフが作業しやすいように、毎日、何をしたら良いのかを分かりやすくスケジュール化したカレンダー（予定表）が作成されている。

　下の画像はその一例であり、①～⑮はそれぞれ以下の業務を意味している。

①ダンボールテープ剥がし5枚まとめ、②トイレ・流し清掃、③リサイクル庫の伝票と現物確認、④（ドアノブ周り、机・書棚）手の触れる場所の清掃、⑤草むしり、⑥トラック・営業車洗車、⑦窓ガラス拭き、⑧自動販売機周り掃除（缶・ビン・ペットボトル）、⑨倉庫の整理整頓、⑩資材の数量・制服数量確認、⑪建物周辺の掃き掃除、⑫掲示物の剥がれ直し・ラミネート、⑬下駄箱の清掃、⑭ぞうきん洗濯と準備、⑭現場物販の在庫確認とラッピング

　　
　　毎日何をしたら良いのかを分かりやすくスケジュール化したカレンダーの例

　引越スタッフの場合、必ずチームを組んで作業にあたるため、リーダーが指示を伝えて業務を進めて行くことができるが、作業スタッフの場合は何をすべきか上長に確認しながら業務をしなければならない。そこで上長もスタッフも分かりやすいカレンダーを作り、ひと目で分かる環境を作ったという。各項目が完了するごとに上長へ報告することを約束（ルール化）して取り組んでいるが、そのことで作業効率はもちろん、上長とのコミュニケーションも活性化し、作業スタッフのモチベーションとコミュニケーション力が向上し、成長につながるという効果が生まれている。

（2）特別支援学校との連携

　特別支援学校（以下「支援学校」という。）との連携にも取り組んでいる。在校生の職場実習（以下「実習」という。）の受入れなどは、他社でも行われている取組だが、同社の場合、更に深いつながりがある。支援学校の教材としての作業の提供である。

3支社ではローテーションを組んで、回収後のダンボールを支援学校に運び、支援学校では授業（職業教育）の一環としてガムテープ剥がしを行っている。毎週50～200枚程のダンボールを運び、作業完了後のものは、次の支社が運び入れ時に持って帰る。作業の精度も重視しており、ガムテープの剥がし残しがある場合は指摘（フィードバック）を行ってほしいと支援学校からは要請されており、フィードバックしている。フィードバックも含め、まさに生きた教材を使った授業が行われている。ダンボールの状態によっては、リユースに適さず処分に回すものもあるが、それらを判断する力をつけることも授業の目的になっている。企業での実習を実際に体験できる生徒は人数も限られるが、校内での取組であれば、多くの生徒が体験できるメリットもある。

（3）社内での情報共有など

こうした取組は、毎月のエリア責任者会議の際に好事例として紹介され、各支社での障害者雇用への理解や取組の進展につながっている。障害者雇用についての理解度は、支社長・支社により異なる点はあるが、この会議を通じて、同社の方針や経験・ノウハウなどが社内に浸透することを目指している。また、社内での理解が進んだ結果、それまで障害者雇用としてはカウントされていなかった社員で障害者手帳を所持した人からの相談が上がってくるようになった。このことは単に雇用率にカウントするという意味ではなく、その障害のある社員への配慮について考える契機にもなっているとのことである。

（4）雇用の進展とともに

　同社の取組が対外的に知られたことがあってか、障害のある応募者が年々増加しており、令和5（2023）年4～10月と令和6（2024）年4～10月を比較すると、102名から161名にアップしている。同社では、応募者には全国各地の支社長が必ず選考面接を行い、書類選考で不合格とすることはない。これらの影響もあり、障害者の実雇用率自体も、令和3（2021）年以降、2.26%→2.31%→2.57%→2.62％と伸びている。

そして、この20年で障害者雇用の輪は社内に大きく拡がり、現在は北海道から沖縄まで全国で雇用されている。

取材当日も、東海と北海道、九州A・Cブロックの担当者が同席され、それぞれの取組が紹介された。東海ブロックでは、最初の１か月はいきなり現場に出さず、常にサポート体制が確保できている社内での仕事に従事してもらっている工夫が話された。北海道ブロックでも、実習を通じて雇用を実現している様子が話された。そして、九州ブロックからは、現場の班長が率先して、障害のある社員に関わりを持ったことで、当該社員の意欲が喚起され、その様子を見た周囲の意識も変わっていった好事例が話された。

　なお、採用後の取組においても、注目すべき取組があった。それは、入社時研修で必要な場合は個別対応をしていることである。

他の社員と共に集合研修受講が可能な障害のある社員は、当然に受講している。しかし、集合研修用のテキストや方法では十分な効果を得ることが困難な人については、個別に分かりやすい資料を作成する、実際に作業の見本を示すなどの研修を行い、効果をあげている。こうした取組は、一人ひとりの障害特性などに応じた個別の合理的配慮の提供に該当するものであり、具体的かつ丁寧な対応のひとつとして評価される取組と筆者は考える。

　同社は法定雇用率の除外率対象業種だが、令和7（2025）年度に20%から10%に引き下げられ、また法定雇用率自体も令和8（2026）年度には2.7%になる。これは全ての企業にとって、雇用率達成という面では厳しい状況だが、同社は、これからも障害者雇用を積極的に進めることとしており、職場環境や受入態勢、業務の切り出しなどを更に強化していきたいと展望されている。今後取り組みたい業務の切り出しとしてはデータ入力の仕事を挙げられたが、このことにより、更に多様な障害者雇用が実現すると期待される。

　なお、雇用率上昇等もあり、今後、他社との間で、障害のある人材の「取り合い（獲得競争）」という現象も起きるだろうが、「当社では、業務の切り出しをしてきたからこそ、障害者雇用が拡がっている」ということを、他社へのメッセージとして伝えてほしいと語られていた。

　最後に、大庭人事部長から筆者への伝言として、サカイ引越センターの経営理念とエピソードが紹介された。

「～サカイ理念～社会的責任を果たし、社員の幸せを求める」が同社の経営理念である。

ある社員の方は、定年間近まで働いてきて、家族を支えてくることができたとしみじみと語っていたとのことである。

同社で働くことは、会社で働いている本人だけでなく、その家族の幸せにもつながっているのだと、改めて気づかせてもらったエピソードであり、経営理念の重要さを再認識した。

　　　　
　　　　　　　大庭氏

　筆者は、同社の経営理念は、まさに今、障害者雇用のあり方が問われていることにも通じると考える。近年、全国の障害者の雇用者数及び実雇用率は伸び続けているものの、「今後の障害者雇用施策の充実強化について（労働政策審議会障害者雇用分科会意見書）」（令和4（2022）年）では、法定雇用率の達成が目的となり、質の確保が不十分となっている側面等が指摘されている。法定雇用率の達成自体は重要であり、上記の理念でいえば「社会的責任を果たし」がそれに当たる。一方、障害のある人が生きがいをもち、また尊厳が尊重される形で働けるためには、雇用の質が同時に問われる。理念のいう「社員の幸せを求める」はまさに、このことに合致している。

　「社員の幸せ」といった時、そこには「障害のある社員の幸せ」が当然のこととして位置づけられていることだろう。サカイ引越センター経営理念は、この重要なテーマを改めて教えてくれたような気がする。