（1）事業所の概要

　株式会社カズマ（以下「同社」という。）は、昭和39（1964）年に設立され、カーテンを中心としたホームファッション商品の企画・製造・販売を行っている。近年では、海外からの研習生の受入れや、中国で工場を設立するなどグローバルな展開も行っている。また、業界では類を見ない原材料加工から販売までの全てで、同社の高いものづくり品質で統一した一貫生産販売体制を確立しているため、高品質な製品を顧客に提供することが可能である。

（2）障害者雇用の経緯

　同社の障害者雇用は、2000年代初頭に知的障害者を雇用したことが始まりである。当初からハローワークの紹介で雇用する方が多数だったが、現在では、ハローワークのほか、障害者就労継続支援事業所（Ａ型・Ｂ型）などの就労支援施設とも連携して、雇用している。さらに、全社員が障害者雇用についての理解を深めるために、地域の福祉施設などを訪問し、交流会に参加することや、著名な障害者や地域とのコラボ商品をリリースするなどのプロジェクト活動を行っている。

現在、同社で働く障害のある社員8名の従事業務と配置は次のとおりである。

なお、次項（「3．取組の内容と効果」）では、全般的な取組と、障害別に3名（Ａさん、Ｂさん、Ｃさん）の取組事例について紹介する。

（1）身体障害のある社員1名

　肢体不自由のある社員1名（Ａさん）を雇用している。Ａさんは令和3（2021）年9月に入社し、巾切裁断・中継縫製合わせの業務に配属され、カーテンの生地の裁断やミシンを使用した業務を担当している。

（2）知的障害のある社員1名

知的障害のある社員Ｂさんは、平成15（2003）年6月に入社し、カーテンのフック入れやアイロン掛けの補助作業などの業務を担当している。

（3）精神障害のある社員4名

精神障害のある社員Ｃさんは、平成26（2014）年7月に入社し、カーテンのフック入れなどの単純作業を担当していたが、近年は、製品を次の工程に進める際の仕分け作業を担当している。

(4)発達障害のある社員1名と高次脳機能障害ある社員1名

　両名ともフック入れ作業などを担当している。

（1）障害者への配慮や社員全体への研修等について
ア　障害者への配慮

（ア）採用前

同社に就職を希望している障害者に向けた工場見学や製造体験会を実施している。

それらに参加することは、障害者には同社の仕事や就労環境についてのイメージを持ってもらう機会となっており、同社の担当者にとっても、本人の適性や必要な配慮を理解する機会となっている。

（イ）採用後

障害のある社員1名につき、メンター（指導員）を1名専属で配置している。メンターは同じ職場の社員で、業務上の指導や困りごとへの対応などを担当している。メンターの関与により、障害のある社員の働きやすさにつながっている。

イ　社員全体への研修等
（ア）メンター育成のための研修を行っている。そのほかの社員についても、ＯＪＴにより障害の特性などについて理解するための研修
　　を行っている。
（イ）同社が業務委託をしている障害者就労継続支援Ｂ型事業所や就労移行支援事業所を社員が訪問し、実際に障害者の働く現場を見た
　　り、担当職員の話を聞く機会を設けている。参加した社員は新たな気付きを得ることができている。

（2）事例１：Ａさんについて

　Ａさんは、以前に就労していた会社で右ひじのけがをして休職したことがあった。一旦は職場復帰したがＡさんの事情もあり、ハローワークの紹介で令和3（2021）年9月に同社に入社することになった。入社から現在までカーテンの生地の裁断やミシンを使用した業務を担当している。従事業務は体全体を使う作業が多いが、Ａさんは障害により、ひじ周辺の感覚が鈍く、関節を屈曲・伸展しにくいため、一部の作業は外すなど、ひじに負荷のかからない作業に従事できるよう配慮されている。

同社の管理部長は、「仕事のスピードは、障害のない従業員に比べれば遅い部分があるかもしれないが、それを感じさせることなく業務を行えるため大変心強い。当社にとってなくてはならない『人財』となっている。」と話す。

　　　　　
　　　　　　　　　　　中継縫製合わせ作業をしているＡさん
　（継ぎ目で柄模様が合うようにカットしたものを縫いやすいように揃える前準備の作業）

（3）事例２：Ｂさんについて

Ｂさんはハローワークの紹介で平成15（2003）年6月に入社した。入社と同時に就労支援施設のジョブコーチ制度を3か月利用している。入社当時は、同社の障害者雇用が開始された直後であったため、ノウハウが不足していた時期であり、ジョブコーチの支援を利用した。

入社から現在まで担当しているカーテンのフック入れやアイロン掛けの補助作業などは、単独で少しずつ確実に行う作業であり、Ｂさんにマッチしていたため、20年以上、同じ業務に従事することができている。これは、同社が切り出した業務内容とＢさんの適性がマッチしていることを意味している。

Ｂさんは「長年勤めていると、気持ちが沈むことや、自信がなくなりかける時期もあった。しかし、周りの方に支えられてここまで続けることができた。とても楽しく、また、自分らしく働くことができる当社でこれからも頑張っていきたい。」と笑顔で話す。

　　　カーテンのフックを種類ごとにケースに入れていくＢさん

　次に、Ｂさんが担当するフック入れ作業とアイロン補助作業での具体的配慮を紹介する。

ア　フック入れ作業

11種類のフックの入れ間違い防止策として、①～⑪の番号で区別できるように指図書のヒルカン欄（下の指図書の赤枠箇所)とケースに番号を表記している。（作業後に確認項目を忘れないように、手元に表示している。）

番号ではなくフック名のみを記載していた時は、Ｂさんはフックの名前や形状を覚えるのに時間がかかったことや、フックの入れ間違いが何度も発生したため、指図書に各フックに対応する番号を記載することにした。その結果、フックの入れ間違いが減り生産性の向上につながった。また、障害のない従業員からも指図書の改良について定評があった。

イ　アイロン補助作業 

アイロンを掛けやすいように生地を引っ張りながら台に置き、掛け終わったものを折りたたむ作業を行う。メンターと2人で作業することによって常に指示出しや作業チェックをすることができる。

　　　

　　　　　　　　　　指図書の例（赤枠が番号記入欄）

　　　　　
　　　　　　　　　番号が記載されているフックケース

（4）事例３：Ｃさんについて

　Ｃさんは福井障害者職業センター（以下「職業センター」という。）の紹介で平成26（2014）年7月に入社し、職業センターのジョブコーチ支援を1年ほど利用している。入社当時は単純作業を中心に業務を担当していたが、近年は本人からの希望もあり、より責任のある業務へと担当を変更し、裁断された生地を各作業場へ送り出すために項目ごとに生地を仕分ける業務を担当している。ここには、工場で裁断された生地がすべて集まるため、トラッキングポイントになっている。また、Ｃさんが担当する以前は、当該業務を知識・経験のある従業員が担当していたため作業要領書（マニュアル）がなかった。そのため、Ｃさんが担当するにあたって同社では、作業工程の「見える化」と作業要領書の作成を行い、社内で共有した。作業要領書に基づき、裁断者が生地をある程度仕分けし種類ごとに番号の付いたかごに入れることで、Ｃさんがスムーズに作業を行えている。

なお、仕分作業は、立ち仕事のため疲労がたまりやすいことや、生地を間違って分類すると、各作業場に送った後の製品加工に影響がでるため、体力や高い集中力を必要とする業務である。一般的に精神障害の特徴として、体力や持続力が乏しいことや、注意力や集中力が持続せず、ミスが出やすいことなどがあげられるが、Ｃさんは仕分け業務を1年弱ほど担当しているが、安定して仕事を続けられている。これは、Ｃさんが病気とうまく向き合っていることや、同社の支援体制が整っていることによるものと考えられる。

Ｃさんは、「自分がつらい時期に、たくさんのサポートを会社にしてもらった。だからこそ、自分にできることで会社に恩返しができたらと思う。」と話す。その背景には、Ｃさんが心身ともにとてもつらい時期があり、早退や欠勤を繰り返す日々が多かったものの、そのような状況でも同社は親身になって寄り添い、精力的にサポートを続けていたことによるものと考えられる。

　　　　　　
　　　　　スキャナーで裁断物の情報を読み取り、仕分け作業をしているＣさん
　　

　働き方改革の流れや、数年前に猛威を振るった新型コロナ感染症への対応を契機に、同社でも事務職を中心にテレワークの導入を検討している。また、就労支援事業所に委託している業務についても、社員のライフスタイルに合わせて在宅で担えるようにすることなども考えている。また、製造ラインなどでも、機械の自動化やＩｏＴの導入を進め、作業の効率化や安全性向上を一層進めていきたいと考えている。
　そして、それらの取組により、障害の有無にかかわらず、社員全ての働きやすさと、同社の事業の発展につなげていくことを同社は目指している。

　取材に対応いただいた同社の管理部長は、次のように話された。

「事業の特性上、全ての工程を機械のみで進めることはできないので、今後も人の手に頼らざるを得ない。しかし、労働人口が減少していく中で、今まで以上に人材を採用することは難しいと考える。だからこそ、このような環境の中で着目すべきターゲットは障害者や高齢者であり、彼らは今後の会社の成長に大きく貢献できる可能性がある。」

それは、いわゆる、ダイバーシティ経営を目指すということであると筆者は考える。

さらに、管理部長は、障害者雇用について次のように話された。

「現在の当社では障害のある社員を手助けできる（精神的なケアなど）社員がメンターのほかには少ないため、今後は各部署に在籍しているリーダー格の社員を育成し、日々の業務で障害のある社員に生じる不安やストレスの対応を任せていきたい。また、全社員に障害のある社員に対する理解を深めてもらうため、外部の講師を招いて勉強会を実施し、組織全体で障害者雇用に関する当社の方針への理解を深め、同じ問題意識と方向性を持って取り組んでいきたい。」

今回の取材を終えて、社長をはじめ、管理部長、各部署のリーダーの皆様から、共生社会に向けての考え方や、採用や職場定着に向けての真剣な思いを感じ取ることができた。

同社では、障害者雇用に対する社長の方針の下で、会社全体での取組を進めており、障害者雇用に対する社員の意識の変化を促し、障害者雇用を支える人材の育成に力を入れている。そうした同社には、今後、更なる障害者雇用の促進と定着が期待できるものと筆者は感じた。