（2）業務概要
　同社では、主にＮＴＴ西日本グループ各社から様々な業務を受託している。
　＜受託業務の例＞
　　データ投入・集計・整備、請求書発行、プログラム開発、紙文書電子化、
　　ＤＭ発送・テレマーケティング、Ｗｅｂアクセシビリティ診断

そうした中で、九州支店は主に以下の業務を受託している。
＜九州支店の受託業務＞
　電気通信設備に関わる専用システム等へのデータ投入、集計、整備、
　紙書類のＰＤＦ化などの電子化作業

（3）障害者雇用の状況
　前述のように、同社全体では344名の障害がある社員が活躍している。九州支店では、46名の障害がある社員が活躍している。

　本稿では、同社の障害者雇用の取組について、九州支店を中心に紹介する。
　

　同社では、障害がある社員が各人の障害特性（得意分野、不得意分野）に合わせて多種多様な業務に取り組んでいる。
なお、同社では、障害がある社員のサポートを行う社員を配置しており、スタッフと呼称している。

（1）主な従事業務
ア　データ整備・集計
　・紙書類のＰＤＦ化: 紙の書類をスキャンしてデジタル化する作業。
　・請求書発行: 請求書の作成および発行業務。
イ　プログラム開発
　・ソフトウェア開発: 各種プログラムやシステム、ツール等の開発。
　・バリアフリーマップ作成: 障害者向けのバリアフリーマップの作成。
ウ　テレマーケティング
　・ＤＭ発送: ダイレクトメールの発送業務。
　・電話対応: 顧客対応やテレマーケティング業務。
エ　その他
　・設備管理: オフィスや設備の管理（専用システムへのデータ入力）業務。
　・支払処理: 経理関連の支払処理業務。

（2）配置運営
　受託した業務をモジュール化し、障害がある社員の特性、能力、適性に合わせて従事する作業を割り当てている。
　併せて、キャリアアップの仕組みも導入し、スタッフをサポートする業務や業務チームのリーダーに従事する障害がある社員もいる。
　将来的には障害がある社員の管理者登用など、障害者自らが会社を運営する企業を目指している。

（1）課題と対応例（注．ア～オは同社全体に関するもの、カは九州支店に関するもの）

ア　定期面談の実施

かつては障害特性などにより、自分が抱えている悩みや困っていることなどを自らスタッフに言い出せない社員の把握や対処が遅れがちになっていた。このような課題に対して、原則月1回スタッフが面談を行い、困っていること等についてのヒアリングを実施している。

イ　情報ツールの導入・活用

障害がある社員が増えるにつれ、一人ひとりの業務成果の把握やスタッフとのタイムリーかつ円滑なコミュニケーション、寄り添った対応を図ることが次第に困難になってきていた。このような課題に対して、「アスドライブ（自社開発の体調管理・業務日報ツール）」を導入・運用している。社員はその日の業務内容や体調、気分などをアスドライブに毎日記録し、スタッフが閲覧、必要に応じてサポート、フォローを行うことができるようになった。

ウ　相談窓口の設置と専門家の配置

直属の上司やスタッフへは言いづらい悩みや困りごとのある社員への相談窓口が整理されていなかったため、経営企画部内にアドバイザリー担当として精神保健福祉士や社会福祉士（4名）、ジョブコーチ（6名）を配置、専門家の立場から障害がある社員やスタッフからの相談を受け付け、個別面談の実施、働き続けるための勉強会の開催や職場環境の改善に役立てている。

エ　スキルアップに向けて

障害がある社員の成長・キャリアアップを促すため、自らスキルアップするための学習の機会や資格取得の推進や、研修会の開催などを実施している。

オ　機器・設備等の整備など
　音に敏感になる、周囲の会話が気になる、過集中になる社員といったそれぞれの課題に対し、イヤーマフの貸与、クールダウンコーナーや遮音スペースの設置、リモートワークの導入などを行っているほか、入退室セキュリティセンサーの設置位置を車いす利用者向けに低い位置とするなどの環境整備などを行っている。また、社員の名前が分かりやすいように、各自の机には名札の表示も行っている（以下の画像参照）。

　　　　　　　
　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

カ　障害特性等に応じた業務シフトの設定や障害特性などに関する情報共有など
　また、九州支店では独自の取組として障害特性や希望等に応じた配慮を講じている。勤務時間については、過集中などを避けるために、具体的な勤務時間の設定などを行い、社内で共有している。また、各人の障害特性や配慮すべき点などについてまとめた「個人別トリセツ」も社内で共有している（下の画像を参照）。

　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　九州支店における業務シフト

　　　　　　　　　　　　　　　　　　


　　　　　

　　

　　　　　　　　　　　　　　「個人別トリセツ」の説明

　　　　　　　※「個人別トリセツ」は一緒に働く仲間に自分自身を知ってもらうこと、

　　　　　　　　配慮してもらいたい事項などを自由に記述し職場内に限って公開している。

（2）効果

　ここで働く障害がある社員は業務等を通して、以下のような活躍、貢献をしている。　

ア　業務効率化

　障害がある社員が担当する業務についても正確性や効率性は求められる。そのため社員自ら「業務の効率化」「正確性の向上」「新たな付加価値の創造」といった観点から「ＫＡＩＺＥＮ」に関する提案や、必要なツールの検討・開発を行い、業務の効率化に寄与している。

イ　多様性の推進

　障害がある社員の活躍により、職場の多様性が高まり、全社員が協力し合う文化が醸成されている。

ウ　新しい視点の提供

　障害がある社員の視点からのフィードバックが、業務改善や新しいアイデアの創出につながっていて、多くの改善策が実現している。

（3）特筆すべき効果

ア　高い定着率

　入社して1年以上働き続けている社員の割合は95％を超える高い定着率となっている。

イ　顧客企業からの高い評価

　ＮＴＴ西日本のグループ各社より、同社に委託した業務について丁寧な仕事ぶりによるクオリティの高さと納期厳守の徹底に併せ、ツール作成など付加価値を付けた成果物も提供提示により、高い評価・信頼を得ており、更なる受託業務の拡大につながっている。

　九州支店では専用のシステムを使用して業務を実施するためセキュリティの関係上、現在、在宅勤務は実施していないが、他の拠点（システム開発担当等）では導入しているところがある。それらの拠点では、リモートワークでの業務が可能な業務に従事する社員については、会社のパソコンを貸与の上、通信ネットワークを活用した在宅勤務（リモートワーク）を推進している。

　取材の最後に、経営企画部アドバイザリー担当で、ジョブコーチの資格も有する林さんは次のように話された。

当社は、「私たちは、私たちの成長する姿で、世の中の仲間に ”夢と輝き”を届けます。」 をパーパスとして掲げている。

そして、このパーパスのもと、ひとり、ひとりの社員が「光輝く（Lucent）」ことができるよう努力し続けていくこととしている。

現在340名を超える障害がある社員は、それぞれの特性を活かして、ＮＴＴ西日本グループ内外の企業から300を超える重要な仕事を受注し、様々なアプリケーションも活用した「ＫＡＩＺＥＮ」も加えながら、“より確実に、より効率的に”業務に取り組んでいくこととしている。

令和6（2024）年より民間企業の法定雇用率が2.5％となり、更に令和8（2026）年には2.7％に引き上げられる予定のなか、障害者雇用を取り巻く環境を見ても、いわゆる工場などのハードウェア分野の仕事がどんどんロボットに奪われてきている。ソフトウェア分野においても、ＡＩの急速な発展によるＲＰＡ（ロボティックプロセスオートメーション）という業務自動化ツールなどの導入により業務の効率化が図られ、障害者が活躍できる場が少なくなるのではないかと危惧している。
　そんな中、ニューロダイバーシティという考え方が広まりつつある。それは、発達障害のある方の特性を個性のひとつとして理解し、それを強みとして活かし、企業の発展に寄与してもらうというものである。
　ＲＰＡ化が進むにつれ、ＲＰＡが要求通りの成果物を創出しているのかどうかをチェックするような正確性と集中力、根気がいる作業などは、最終的に人の目に頼るしかない。
　単純だが重要なこれらの仕事は障害者の特性を活かし、活躍できる場としてこれからも増えてくると思う。
　私たちは、これからも障害がある方が活躍できる場を創出し、私たちのパーパスに共感し、ともに働き、ともに活躍する仲間を増やしながら、社会に貢献し続ける。