病院、介護老人保健施設それぞれの立場から、
よりよい障害者雇用を目指して
- 事業所名
- 医療法人 誠晴會
(法人番号: 6300005003409) - 業種
- 医療・福祉業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 佐賀県鹿島市
- 事業内容
- 医療業・福祉事業
- 従業員数
- 201名
- うち障害者数
- 7名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 介護業務 内部障害 2名 送迎業務及び環境整備等 知的障害 2名 介護業務、調理補助 精神障害 2名 介護業務、看護業務 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所(ふきあげ納富病院)外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
医療法人誠晴會(以下「同法人」という。)は、法人としては平成9(1997)年の設立であるが、その中核となる「ふきあげ納富病院」は、明治初期に佐賀県の能古見地区に開業したのち、長年にわたり地域医療を担ってきた歴史を持つ。同病院は、現在、佐賀県鹿島市内に移り、泌尿器科を基軸とし、この10年では地域の医療ニーズに応えて、腎不全の患者さんの治療、ならびに佐賀南西部有明湾岸部では唯一の泌尿器科医療を中心として展開している。
また、同法人は福祉事業にも取り組んでいる。平成10年7月には佐賀県藤津郡太良町に「介護老人保健施設ふるさとの森」(以下「ふるさとの森」という。)を開設し、リハビリテーションを中心とした在宅復帰支援施設として「温かみのある誠実なケアサービスの提供」を経営理念に掲げ、運営している。(経営理念の詳細はふるさとの森のホームぺージを参照。)
(2)障害者雇用の経緯
同法人の障害者雇用は、障害者雇用促進法の趣旨に沿い、法人としての責務を果たし、障害者の雇用機会を作るという方針で開始され、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)と連携しながら進められてきた。ふきあげ納富病院とふるさとの森は、法人内で協力して障害者雇用を進めており、共通する取組も多いが、立地が少し離れているため、募集・採用は施設ごとに行っており、取組の経緯も異なる。次に、それぞれの経緯を紹介する。
ア ふきあげ納富病院
ふきあげ納富病院は、障害者の就業が一般的に困難であると考えられている業種(医療業)である。しかし、障害者雇用を開始した当時の人事担当者(現在の事務長)は、かねてより、障害者の方が持つ「仕事への真摯さ」が、医療機関という厳しく張り詰めがちな職場環境においても、周囲に気付きを与え、時に模範となり、より協力し合う雰囲気へ導くなどの良い影響をもたらしてくれるのではないかという思いを強く持っていた。人事担当者は、法人本部の人事部門とともに努力を重ね、採用可能な部署が少なく、人数が少数であっても、採用した障害者には、よりよい環境でしっかりと働いていただき、そのことが、いつか周囲への良い影響にもつながればとの思いで、障害者雇用を進めてきた。
イ ふるさとの森
ふるさとの森では、業種及び地域的に人手不足の背景があり、地域においてケアサービスを確実に提供するために、外国人を含め、常に雇用の多様性を考慮した施設運営を行う必要がある。そのため、障害の有無に関わらずできる業務は施設に多く存在し、その一部を障害者の方に担っていただき、ともに地域で温かみのある誠実なケアサービスの提供を目指す一員となってほしいと考え、施設長及び人事部長を中心に、障害者の雇用と育成に取り組んできた。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1)肢体不自由のある職員 1名
・介護老人保健施設での介護業務
(2)内部障害のある職員 2名
・病院等利用者の送迎業務及び環境整備等
(3)知的障害のある職員 2名
・病院での調理補助業務、介護老人保健施設での介護業務
(4)精神障害のある職員 2名
・病院での看護業務、介護老人保健施設での介護業務
3. 取組の内容と効果
障害者雇用を進めるにあたり、同法人ではハローワーク、特別支援学校、支援センター(併せて、以下「支援機関」という。)と連携しながら進めている。また、面接機会を設けるなど、法人内の仕組みづくりなどにも取り組んでいる。
(1)募集・採用
支援機関と連携しながら募集・採用活動を進めている。また、特別支援学校からは、在校生の職場体験や職場見学を受け入れており、それを契機に採用したケースもある。
(2)採用後の取組
ア 面談の設定と活用
支援センターと連携した定期的な面談を実施している。2~3か月に1回程度のペースで支援センターの就労支援ワーカーに訪問してもらい、障害のある職員と面談していただく(同法人の担当者も基本的に同席する)。面談では、本人が今、何に悩んでいるのかなどを確認し、対応(本人への助言、職場内の調整など)している。また、何らかの課題があった場合には、一般的な障害特性の知識だけでなく、一人ひとりの個性と現状の詳細な把握に基づく対応により解決に努め、よりよい雇用の実現(働きやすさや職業能力の発揮など)につながるよう取り組んでいる。
イ 法人内での周知
全職員に対し、年に2回以上の面談を行う際、特に障害のある職員が所属する部署の職員へは、障害者雇用に対する各現場での状況や意見を詳しく聞くとともに、今後、必要な協力を改めて依頼している。面談で確認できた課題は、必要に応じ、リーダー層で情報共有を行い、対策を検討している。
ウ 担当業務の変更、作業態勢など
・障害のある職員から、職域を拡大したいという希望がある場合は尊重し、各所属部署において検討の上、無理のない範囲で実施する。
・業務実施時には、必ず担当者を決め、一人で作業することがないよう配慮している。なお、障害者をはじめ、外国人等、多様な人材が勤務する介護老人保健施設での介護業務では、このこと(一人で作業しない)が特に徹底されており、まず指導する職員が一対一で繰り返し業務指導を行うとともに、業務実施時には、一緒に業務を行う職員が本人の苦手な部分を支援し、業務習熟後もフォローアップを行う体制としている。また、当日の急な業務体制の変更等に伴う、本人のルーティーンの変更は、混乱の原因となるため、変更の際は細心の注意を払い、明確な内容で声掛けを行う。これらの取組には、人事部長自らも積極的に関わることとしている。
(3)取組の効果
支援センターをはじめとする様々な支援機関と連携し、支援を得ることに加え、障害者雇用に関わる職員の継続的な取組により、障害のある職員とともに、着実に進むことができている。
その結果として、障害のある職員から職域拡大の希望が出され、周囲の職員の協力を得ながら、新たな業務に取り組み、本人の担当業務とすること(職域拡大)が実現した。また、職域拡大を達成することにより、本人の自信へとつながるとともに、ほかの職員の業務負担を軽減することもできた。
(4)個別の事例
Aさんは知的障害のある職員で、ふきあげ納富病院の調理補助に従事している。
Aさんは特別支援学校からの採用であり、在学中に特別支援学校や支援センターと連携して職場見学や体験を複数回実施し、本人の意向や適性と、現場での業務が十分にマッチングできるように取り組んだ。その結果、当初はパート勤務での採用を想定していたが、同法人では正職員として十分活躍できるし、活躍してほしいと考え、本人や支援機関と相談し、正職員として採用した。
採用後の一時期、勤務時間を一部遵守できないことが連続し、病院内の職員からの説明ではうまく内容が伝わらず、就労継続が難しい状況となったことがあった。その際には、事務長から支援センターへ相談し、本人と日頃から関わりがある就労支援ワーカーが内容を分かりやすく伝えていただいた。その結果、正確に内容が伝わり、その後、勤務時間は遵守されるようになった。
日常業務においては、所属部署の責任者が、現場で課題が生じたときに対応する役割を担うこととし、注意深く見守っている。また、支援センターの定期面談前には、責任者が所属部署内における意見や情報を集約し、必要な情報は支援センターと共有するなどの準備を行い、本人の雇用がより良いものになるようにしている。実際の現場業務は先輩職員が教え、業務中も本人を一人にすることはないように配慮している。
なお、障害のある職員に対しては、事務長自らが、毎日、当該職員へ声掛けや挨拶を行い、近況を聞くなどに努めており、Aさんについても声掛けなどを行っている。
取材時に、Aさん担当の責任者とAさん本人から話を聞くことができた。
責任者の方は、Aさんの働きぶりについて、期待も含め次のように話す。
「昨年度は、下準備のみを担当していたが、本人の意欲もあり、現在は先輩社員の指導のもとで調理の一部を担当できるようになってきている。比較的少人数の部署で、Aさん以外の方の年齢層は、40代から70代までと比較的高く、本人にとってコミュニケーションが難しい部分もあるとは思うが、業務も会話も努力を重ねて頑張っており、部署内で和気藹々(あいあい)と会話している姿を見ることも多い。落ち着いて真剣に業務へ取り組めており、周囲の人の多くから、しっかりしていると言われる働きぶりで、職場の雰囲気がより良いものとなっている。今後さらに努力を続けて、多くの業務を任せることができるような存在になってほしい。」
また、Aさんは、担当業務の中では、数字を集計する業務がやや苦手であるが、前述の職場の取組(面談や責任者制度など)と本人の努力により、信頼関係が醸成されており、先輩職員からの支援を都度、円滑に受けることができているとのことであった。
Aさんご自身も、職場についてお話をうかがったところ、とても働きやすいですと話され、取材後には、すぐに持ち場に戻り、真剣に業務に取り組んでいた。
業務へ真摯に取り組むAさん4. 今後の展望と課題
ふきあげ納富病院においては、事務長を中心に目指してきた、「障害者の方が持つ仕事への真摯さによる職場への好影響」が実現しつつあり、特に近年は、前述のAさんによって実現してきたと感じているとのことである。医療業は、障害者の就業が一般的に困難であると考えられている業種であるが、ふきあげ納富病院では今後も、現在雇用している障害のある職員一人ひとりを大切にした取組を続けるとともに、各人が少しでも長く働き、それが実績となり、更なる後進(障害者)の採用や活躍につながってほしいと考えている。ふるさとの森では、業種及び地域的な人手不足が依然継続する中、今後ますます、雇用の多様性が重要になると考えている。現在も、障害者の方のほか、外国人の方や、75歳以上の高齢者の方も働いており、必要不可欠な存在となっている。ふるさとの森の施設長は、同施設で働く障害のある職員は、人事部長の努力もあってか、本人を支援する周囲の方が過小評価しているのではないかと思うほど、仕事ができると感じており、障害者の方の職業能力に期待しているとのことである。一方で、障害者雇用の機会を積極的に増やしたいと考えているものの、施設が佐賀県の南端近くに立地することもあり、多くの障害者の方にふるさとの森を知っていただく機会が少ないと感じており、今後、職場見学や体験などを契機に、更なるマッチング等の機会が増えることを願っているとのことである。
執筆者:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
佐賀支部 高齢・障害者業務課
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