一人ひとりに応じた職務・配置と、指導・
育成により、運送業での障害者雇用を実現
- 事業所名
- 株式会社山信運輸
(法人番号: 7100001018710) - 業種
- 運輸・物流業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 長野県諏訪市
- 事業内容
- 一般貨物取扱事業、農畜産物・青果物・加工食品及び冷凍食品の販売など
- 従業員数
- 120名(令和7年6月1日現在。アルバイト・パート含む)
- うち障害者数
- 8名( 同 上 )
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 トラックドライバー 知的障害 2名 庫内作業スタッフ(積み込み、仕分け、ピッキングなど) 精神障害 5名 同 上
※発達障害のある者を含む。 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観1. 事業所の概要 障害者雇用の経緯など
(1)事業所の概要
山信運輸株式会社(以下「同社」という。)は、長野県諏訪市に本社を構え、県内に3営業所(諏訪、松本、長野)を置く貨物運送事業所である。創業は昭和44(1969)年であり、以下の企業理念を掲げ、単に物を運ぶだけではなく、「サービスを運ぶ」をモットーに、顧客に信頼される物流サービスに取り組んでいる。
<企業理念>
高い志をもって社業にあたり
信頼をされ必要とされる企業を
目ざします
事業内容は、一般貨物運送事業、農畜産物・青果物・加工食品などの運送や販売である。扱う品目の中には冷蔵製品もあるため、チルド輸送も行っている。
また、企業の社会的責任を重視し、ダイバーシティ経営の推進にも取り組んでおり、本稿で紹介する障害者雇用もそのひとつである。多様な人材が活躍できるための様々な取組を進めており、例えば、年齢に関係なく働いてもらえる職場を目指していることから、定年(62歳)後も、本人に希望あれば正社員として働けるようにしており、65歳以上の社員も多い。継続雇用だけでなく、新たに募集する場合も同様で、65歳以上の応募者についても、仕事ができる方であれば年齢に関係なく採用している。
(2)障害者雇用の経緯など
同社の障害者雇用のきっかけは10年ほど前にさかのぼる。知り合いが障害のあるお子さんの仕事を探しており、同社で採用してほしいとの相談が従業員からあった。それまで同社では障害者の方を採用したことはなかったが、面接を行うこととした。
面接の結果、倉庫内作業は十分可能と判断したため、採用を決定した。採用後の勤務状況は良好で、社内の理解も進んだ。近年は精神障害者の採用を積極的に進めており、冒頭の一覧表にあるように、精神障害のある従業員が最多となっている(精神障害のある者には発達障害のある者が含まれている。)。同社の障害のある従業員8名には重度障害のある者も含まれており、実雇用率は9%を超えている。
障害者雇用にあたっては、一人ひとりに合わせた採用面接、障害特性や配慮事項などに関する情報確認、担当作業と配置先の検討を行い、採用後も各自に合わせた職務設定、指導・育成などに取り組んでいる。
同社は令和7年度の障害者雇用優良事業所の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞も受賞している。
2. 障害者の従事業務と職場配置
身体障害のある従業員は中型トラックのドライバーで配送業務を担当している。知的障害のある従業員2名は、倉庫内で牛乳などのパレットへの積付けを担当している。精神障害のある従業員5名(発達障害のある従業員も含む)は、冷蔵製品の仕分・ピッキング作業を行っている。
なお、同社では倉庫内での積み下ろし、仕分・ピッキングなどの業務を担当する者を「庫内作業スタッフ」と呼称しており、知的障害のある従業員と発達障害のある従業員は庫内作業スタッフである。庫内作業スタッフの就業場所は、同社の倉庫の場合と同社が配送・運搬業務を請け負っている顧客企業の倉庫などの場合があり、後に紹介するAさんは後者である。3. 取組内容について
(1)取組と効果
ア 募集・採用時の取組募集・採用活動はハローワークや障害者就業・支援センター(以下「支援センター」という。)と連携している。
同社は、ミスマッチのない雇用を目指しており、応募者や支援者には面接の前に職場見学の機会を設けている。実際の職場を見ることにより、同社で働くイメージを持った上で面接に臨んでもらうためである。
また、採用面接の際には、本人の了解を得た上で、支援センターの担当者に同席いただき、応募者の障害特性や必要な配慮を理解した上で担当業務を提案し、合意が得られれば採用している。
新卒者の場合には、ハローワークのトライアル雇用を活用する場合がある。トライアル雇用を経験することで、本人は職業生活への理解を深め、就労意欲の向上につながるとともに、同社側でも本人の障害特性や作業適性を理解し、担当業務の決定や必要な配慮の提供ができ、ミスマッチのない雇用が実現できると考えている。
イ 採用後の作業指示、教育・指導、定着支援などの取組
(ア)各人に応じた作業の指示や担当業務の設定など
一人ひとりに応じた作業指示や担当業務の設定などを行っている。
例えば、知的障害のある従業員については、指示などの担当者を一人に決め、分かりやすく指示している。仕事の内容も、工程数の少ないものからスタートし、確実にできてから次の作業に進む(新たな工程を増やす)ようにしている。
また、勤務時間などへの配慮(調整)も行っている。精神障害のある従業員1名は短時間勤務(週20~30時間)である。
(イ)コミュニケーション面での配慮
精神障害や発達障害のある従業員の中には、コミュニケーションが苦手な者が少なくない。そのため、何か困っていることなどがあっても、自分から相談することができずに気分が落ち込んだり、作業ミスにつながったりする場合がある。
そうしたことを防ぐため、コミュニケーションが苦手な従業員については、人事担当者や職場の責任者が毎日声掛けするなどの配慮を講じている。また、定期的な面談の機会も設けている。
(ウ)急な変更などへの対応
運送業務の特徴として、道路事情などで配送車両の到着時間が変わり、作業内容やスケジュールなどが急に変更となるようなことがあるが、発達障害のある従業員の中には、急な変更の対応が苦手な者がいる。このため、職場の責任者は本人に変更の事情や作業手順の変更内容を具体的に分かりやすく説明するようにしており、状況や作業内容についての理解と不安などの予防につながっている。
(エ)支援体制の整備
社内の支援体制として、人事の担当者と現場の責任者が連携して障害のある従業員への支援を行っている。人事の担当者は障害者職業生活相談員の資格を有しており、現場責任者と連携しながら、障害のある従業員の状況把握や声かけなどを行い、早め早めの対応を心掛けている。
また、社外の支援機関と連携した支援体制も構築しており、社内での対応が難しい課題については支援センターと連携し、三者面談(本人・支援センター・同社)の場を設け、解決するようにしている。生活面での課題については支援センターが中心に対応するなど、役割分担を明確にした上で連携して取り組んでいる。
(オ)社内の情報共有
同社の作業はチームで行うことが多いため、同じチームの従業員が障害特性や配慮すべき事項について理解していることが重要である。そのため、障害のある従業員に関する情報は、本人への意向確認を踏まえ、必要な従業員に伝えている。同僚・関係者が正確に認識していることで、必要な配慮が提供され、障害のある従業員も一緒に働く人が理解していることで安心して働けると同社は認識している。
(カ)職域拡大、資格取得支援など
同社は障害のある従業員の職域拡大やスキルアップなどにも取り組んでいる。
ある作業で一定の習熟が見られたら新たな作業にチャレンジさせるようにしているが、その際には、本人のペースに合わせ、段階的に行うなどの配慮を行っている。
仕事に関連する資格取得についても、会社として支援している。業務に関連する資格に関する情報を提供したり、取得を目指す従業員には資格を持つ者がアドバイスなどを行っており、精神障害のある従業員がフォークリフトの運転資格を取得し、業務に活かすこととなった例もある。
また、職域拡大や資格取得・活用の際には処遇アップなどを行っている。
同社ではチームのまとめ役として「班長」を置いているが、障害のある従業員で初めて班長になることが決まった際には、本人のモチベーションが高まっただけでなく、他の障害のある従業員の意欲や積極性の向上にもつながっていた。
(2)雇用・定着状況など
以上の様々な取組から、同社で働く障害のある従業員数は着実に増えている。同社が障害者雇用に取り組み始めて約10年が経過し、勤続年数が5年以上になる者も2名になるなど、定着状況も良好である。
4. 就労事例から
(1)障害のある従業員Aさんについて
Aさんは知的障害のある方で、現在、同社が配送業務を請負っている八ヶ岳乳業株式会社茅野工場の庫内作業に従事している。作業は、乳製品の入ったケースの積み下ろしなどで、体を使うものである。同社には5年ほど前に就職したそうで、庫内作業のような仕事は初めてだったので最初は大変だったが、今はだいぶ慣れましたと話してくれた。
取材時のAさんはてきぱきとした作業ぶりで、決して軽くはないであろうケースを次々に処理していった。
当日のAさんの作業場面を以下に紹介する。
乳製品のケースをパレットに積み込む作業

積み込み作業(続き)

積み込みが終わった後の固定作業

作業場に掲示されている注意事項など
注)掲示されている資料は障害特性に配慮したものではないが、
初めての担当者であっても分かりやすい表現になっている。
(2)Aさんへのインタビューから
「現在の私の仕事は、乳製品の仕分、検品、在庫管理などです。
体を動かす仕事が好きなのと、正社員での就職を希望し、今の仕事に応募しました。
山信運輸以前にも採石関係の会社と、医療機器の洗浄の会社で働いた経験があります。
私には障害があり、障害者手帳を持っています。この会社に入る時には障害について伝えて、快く迎え入れてもらいました。
勤務は朝5時から午後3時までが基本のため、朝は早いのですが、午後は早く終わるのでスポーツなどを行うことができます。
これからもこの会社で働いていこうと思っています。」
5. 担当者の声
(同社執行役員兼企画管理部部長の伊藤さんへのインタビューから)
「当社は10年前に初めて障害のある方を採用しました。最初ということもあり、どんな仕事ができるか分からなかったのですが、まずは会うこととしました。知的障害のある方だったのですが、面接などでのコミュニケーションはスムーズで、仕事の内容なども理解し、「私にもできそうです。」とのことでしたので、採用となりました。
担当は庫内での商品仕分け作業などでしたが、問題なくこなしてくれています。当初は懸念する人もいましたが、本人の働きぶりに社内の評価は高く、その後の障害者雇用に社内全体が協力的となり、継続的な採用につながっています。
当社の仕事は大別すると、ドライバー業務と庫内業務になります。ドライバーは固有の要件(運転免許、体力など)が必要なため、障害者には困難な面がありますが、庫内業務であれば障害があっても可能な作業があると考え、採用してきました。
当社が障害者雇用を進める際に重視しているのは次の3点です。
一つ目は、一人ひとりの障害特性や配慮事項を社内の関係者が理解することです。適切な採用・配置、指導・育成などのため、当社では障害特性等はできるだけオープンにすることを求めており、応募者にはその旨を説明し、了解を得ています。
二つ目は、応募者には実際の作業・職場について理解いただくことです。例えば、冷凍庫での積み込み作業は、作業自体も大変ですが、冷凍庫と常温部分との行き来も大変です。ですから、面接の際には実際の職場を見てもらい、冷凍庫にも入ってもらうようにしています。初めて就職するような方には、職場実習やトライアル雇用により、職場を体験いただくよう心掛けています。そうした際には、ハローワークや支援センター、特別支援学校などの関係機関との連携も重要です。
ところで、障害特性などについての理解やハローワークなどとの連携が大切と言いましたが、人を採用し、育てることに、障害の有無は関係ないと考えます。それぞれの違いを理解し、違いに応じた仕事を担当させ、育てることは共通です。実際に、当社でも障害特性に応じた特別の作業マニュアルのようなものは作っていません。もともと新入社員でも理解しやすい手順書の作成や注意事項の掲示などを心掛けていますが、それらをベースに現場で様々な工夫をすることで対応できています。
三つ目には、担当者がひとりで頑張らないようにすることです。企画管理部では私と若手の二人のチームで、配置先の担当者と連携しながら取組を進めています。二人とも障害者職業生活相談員資格認定講習を受講しており、障害者のための合同面接会への参加や応募者との面接などに手分けして対応しています。それは、障害者雇用の担当者を育てることを意識してのことです。また、経営陣がバックアップしていただけることも、担当者としては心強く感じています。」
伊藤さん6. 最後に~他社へのエール~
取材の最後に、障害者雇用を進める他社にお伝えしたいこと(エール)を伊藤さんに伺った。
「『障害』がある人と身構えるのではなく、応募者の一人として会い、できそうな仕事は何かを考え、職場実習からでも受け入れてみることが大事だと思います。その際には、支援機関の利用も考えてみてください。
障害者を雇用することは、企業にとって当たり前のことになりつつあります。支援機関の方から、請負先の社内(倉庫)に障害のある従業員を配置することに支障はなかったのかと聞かれたことがありますが、Aさんについて、八ヶ岳乳業さんに『障害のある方の配置です。』と伝えたところ、『分かりました。』とすぐにご了解いただきました。まずは、会うところから始めてみてください。
一人ひとりを理解する際には関係機関からの情報が参考になっています。また、職場実習の実施や生活面での課題解決などでも助かっています。様々な企業があると思いますが、関係機関とは企業の状況に応じた関りを持つことを期待します。」
執筆担当者から
取材を終えて、「障害者」と身構えることなく、まずは受け入れることからスタートした同社が、一人ひとりの障害特性を理解・共有するとともに、障害のある方にも職場への理解を求め、丁寧に対応してきたことが、実雇用率9%につながっていると感じた。また、障害者雇用にはチームで取り組むこと、担当者を育てる取組にも感銘を受けた。
企業理念を体現する同社は、これからも着実に障害者雇用に取り組まれることを執筆担当者は確信した。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用開発推進部 雇用開発課
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