福祉の現場で、各人の特性や希望に応じた担当業務
の設定と指導・育成により、障害者雇用を実現
- 事業所名
- 社会福祉法人祐正福祉会
(法人番号: 9470005004387) - 業種
- 医療・福祉業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 香川県さぬき市
- 事業内容
- 社会福祉施設の運営、介護事業
- 従業員数
- 243名(令和8年3月現在)
- うち障害者数
- 4名( 同 上 )
-
障害 人数 従事業務 知的障害 4名 福祉施設における、介護補助、洗濯、清掃、環境整備など - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯など
(1)事業所の概要
社会福祉法人祐正福祉会(以下「同会」という。)は、法人理念である「基本的な人権を尊重し 共に生きる社会づくり」を基に、現在、香川県さぬき市、高松市、三木町に6つの福祉施設を運営している。設立(法人認可)は平成5年9月で、翌年に最初の施設である身体障害者療護施設「真清水荘」が事業を開始、その後も順次、施設・事業を拡大してきた(詳しくは、次の「運営施設」及び「沿革」を参照)。
そして、同会では、常にご利用者様、ご家族様、職員の満足を目指しており、ご利用者様には「今を楽しく」、職員は「仕事を楽しく」をモットーに、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現を目指している。
<運営施設>
障害者支援施設真清水荘、介護老人保健施設ヌーベルさんがわ、デイサービスセンター ヌーベル木太、高齢者複合施設ヌーベル三木、デイサービスセンターヌーベルかんざき、グループホーム真清水
<沿革>
平成5年9月 法人認可
平成6年7月 身体障害者療護施設真清水荘 事業開始
平成12年1月 介護老人保健施設ヌーベルさんがわ 事業開始
平成21年3月 老人デイサービスセンターヌーベル木太 事業開始
平成26年3月 高齢者複合施設ヌーベル三木 事業開始
平成28年11月 デイサービスセンターヌーベルかんざき 事業開始
平成29年4月 障害者グループホーム真清水 事業開始
(2)障害者雇用の経緯など
同会における障害者雇用は、25年ほど前にハローワークからの紹介により知的障害のある方を採用したところからスタートしている。その方は現在も同会で働いており、「4.障害のある職員の方の声」で紹介する堺つやさんである。堺さんを含め、同会では4名の障害のある職員が働いている(同会の実雇用率は2.95%)。4名の勤続年数は、25年が1名、13年が1名、11年が1名、1年10カ月が1名と、長期に働いている職員が多い。また、採用後の退職者はおらず、定着率は100%となっている。
そうした取組が評価され、同会は令和7年度に障害者雇用優良事業所として高齢・障害・求職者雇用支援機構より理事長努力賞を受賞するとともに、障害者雇用に関する優良な中小事業主を認定する「もにす認定制度」の認定を受けている。
本稿では、同会の取組を紹介するが、紹介にあたっては、同会理事で今回訪問させていただいたヌーベルさんがわ兼任総括施設長の尾崎民子さん、真清水荘園長の水卜則之さん、ヌーベル三木施設長の久保祥代さん、ヌーベルさんがわ副施設長の神前政季さん、真清水荘副園長の蓮澤一真さんをはじめ、多数の皆様にご協力いただいた。
2. 障害者の従事業務と職場配置
障害のある職員4名は福祉施設に勤務し、介護補助職として、洗濯業務、環境整備など幅広い業務に従事している。具体的には、利用者の衣服や職員の作業着などの洗濯・たたみ作業、施設内の清掃及び環境整備(施設内の美化、植栽管理など)、利用者の移動補助・食事配膳などに従事している。
各人の勤務する施設や従事業務は、本人の希望や適性、通勤しやすさなどを考慮して決めている。次に主な従事業務を画像で紹介する。




3. 取組の内容
(1)募集・採用活動について
同会では、ハローワークと障害者就業・生活支援センター共生(以下「支援センター」という。)と連携しながら障害者雇用に取り組んでいる。障害のある職員の募集にあたってはハローワークへ求人を出すところから始め、求人内容は支援センターとも共有している。
同会では、障害のある応募者の方には施設の見学や職場実習(以下「実習」という。)を必須としている。それは、採用された場合に実際に働く場となる施設を見学し、仕事を体験することで職場環境や仕事の内容を理解した上で応募し、就職して欲しいと考えるからである。また、同会としても、実習を通じて各人の適性などを把握し、各人に応じた受け入れ準備(担当業務の選定や配慮事項の検討・準備・共有など)を進めるためである。
(2)採用後の指導・支援態勢、作業指示・育成などについて
ア 指導態勢の確保と作業指示などに関する工夫
同会には障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)の資格認定講習修了者が5名いる。相談員は、障害のある職員が勤務する施設ごとに担当が決められている。障害のある職員への業務上の指示・指導などは直属の上司が行うが、相談員は上司と連携し、本人に分かりやすい指示となるよう工夫したり、面談などのフォローを行うなど必要な対応を行っている。
例えば次のような工夫、配慮を行っている。
(ア)一週間表と日課表
曜日によって担当業務が異なるため、本人が見通しを持って業務に取り組めるよう、曜日ごとの業務内容や手順を一週間の予定表として整理し、提示している。また、必要に応じてタイムスケジュール等をより詳しく記載した「日課表」を作成・提示している。本人はこれらを活用することで、その日の予定や作業内容を確認しながら、落ち着いて確実に業務を遂行できている。
(イ)業務日誌
日々の作業状況等を記録し、本人、家族、上司及び相談員等の間で情報共有を図るため、「業務日誌」を導入している。業務日誌には、本人による作業内容や困りごと、上司からの助言等を記載している。業務日誌の活用により、本人とのコミュニケーションを図るとともに、日々の作業状況や困りごとなどを早期に把握し、課題が生じた場合にも速やかに対応できるようにしている。
また、家族とは月1回(月末)、業務日誌を通じて情報共有を行っている。職場での様子や家庭での様子について相互理解を深め、連携した支援につなげている。次の画像は実際の業務日誌の抜粋であり、吹き出しは記入者の説明である(「業務日誌」は本人の記入。)

(ウ)情報の経験の共有
障害のある職員の長期的な雇用には、一緒に働く上司や同僚の理解が重要と考えている。そのため、障害のある職員の同意を得た上で、本人の障害特性や配慮すべき点について、就業場所の上司や同僚に共有している。また、障害のある職員への支援を適切に行うため、相談員間では日頃から情報交換を行い、対応状況や支援に関する経験の共有を図っている。
(エ)多職種協働
同会では職種間の協働に力を入れており、ヌーベルさんがわでも、「多職種協働による福祉QC活動」が、平成18年に日本化学技術連盟によりQCサークルギネスに認定されている。当該活動では、管理栄養士、栄養士、介護員、厨房職員及び事務員が月2回の会合で、情報共有や課題の洗い出しと課題解決に向けた検討を行い、具体的な行動につなげている。その活動を通じ職種を越えて職員の一体感が高まり、職員間の連携などが円滑に図られるようになっている。障害者雇用に際してもが一体感や円滑な連携が基盤となって、雇用の目的や情報が円滑に共有され、連携した取組につながっている。
イ 関係機関との連携
ハローワークや支援センターなどの関係機関との連携にも力を入れている。特に支援センターとは日常的に連携しており、支援センターの担当者が定期的(3か月に1回程度)に職場を訪問し、障害のある職員との面談をしてくれている。当該職員は訪問を心待ちにしており、面談が就労の励み=「心の栄養」となっている。また、支援センターの担当者からは、職場との連携が必要なことがあれば、同会の担当者に連絡があり、連携して対応している。そのほかに、雇用形態や勤務時間・日数、賃金条件などは従業員によって異なるため、雇用契約に関する説明などを個別に行っているが、その際には、必要に応じて家族や支援機関の職員に同席してもらい、補足説明や関係者間での共通理解できる機会を設けることもある。
さらに、採用後に専門家による個別支援が必要なケースでは、ジョブコーチ支援を活用した。ジョブコーチによる個別の支援と連携は障害者の採用・定着に有効であったと認識している。
ウ その他
・退社時間の促し、見守り
公共交通機関で通勤している者には、乗り遅れを防ぐため、終業時間になったら周囲の職員が声掛けを行っている。また、乗り遅れないように着替えの促しや、勤務先施設の正門から出るまでの見守りを行っている。
・職員研修でのフォロー
全職員対象の研修会には障害のある職員も参加させている。その際には、必ず同僚がサポートにつき、分かりやすい説明を加えるなどの配慮を行っている。
(3)雇用・定着状況など
以上の取組から、同社で働く障害のある従業員数は着実に増えており、定着状況も良好である。取り組み始めて約25年が経過し、勤続年数が5年以上になる者も3名になるなど、定着状況も良好である。
4. 障害のある職員の声
今回、お二人の方に取材し、就職の経緯や担当業務などについて伺った。
(1)堺つやさん
祐正福祉会に就職して約25年になります。ずっとヌーベルさんがわで働いています。今の仕事は、利用者の衣服などの洗濯が主ですが、それ以外にも、食べ終わった利用者の食器を下げる(下膳)など担当しています。仕事をするうえで常に意識しているのは、時間との戦いだということです。これから利用者のお風呂の時間だからこちらの洗濯をやろうとか、逆に後回しにしようとか色々考えながらやっています。そうした「段取り」が得意ではないので、気をつけながら作業しています。
これから働こうとしている方には、「石の上にも3年」という言葉がありますが、就職したら、まず3年は頑張ってみてはどうかということです。私も色々うまくいかないことがあり、心が折れそうになったことがあっても、歯を食いしばって一歩ずつ頑張りました。そんな時は、家に帰ってから、困ったこと、嫌なことを紙に書いて、どうすればいいかを考えます。でも、なかには答えのないものもあります。そうしたものは、書いた紙をクシャクシャにまるめて捨てます。そうすることで気分が晴れて、次の日に頑張れるということがあります。
定年までは10年ぐらいですが、定年まで頑張るつもりです。そして、できれば定年後も今の仕事で働きたいと考えています。
<上司のコメント>
堺さんには長年働いてもらっており、仕事については安心して任せられます。利用者や職員からの信頼も厚いです。そうしたことから、最近は後輩の教育指導係もお願いしています。堺さんは、必要に応じてメモなどを書いて渡すなど、適切に指導・育成しており、後輩もここ1、2か月でだいぶ成長し、やってもらえる作業が増えました。
当会では定年後もご本人が望めばその後もできるだけ働いてもらうようにしています。現在も70歳で働いている職員がおり、堺さんにも引き続き働いてもらえればと考えています。

堺さん
(2)中村俊介さん
祐正福祉会に就職したのが平成25年の6月で、それからずっと働いていますので、11年ほどになります。福祉会の前にも働いていましたが、掃除や物をきれいにすることが好きだったので、福祉会の仕事に応募しました。いまの主な仕事は、廊下などの施設内や利用者さんの居室の清掃です。それ以外にも、利用者さんをお送りする仕事もあります。なにか困ったことがあっても、上司に相談すると、色々な助言をもらうことができています。これからもここで働いていきたいと考えています。
これから就職しようという方には、最初はうまくいかないことがあっても続けることが大事だということです。私は就職したての頃は仕事の進め方が分からず、分かったつもりで作業して上司に注意されたこともあります。その際には、「メモ帳を持った方がいいよ」と言われ、それからはメモ帳を使っています。メモ帳には指示されたこと、質問したことを書いておき、分からなくなったら見るようにしています。そうすることで分からないことが減ってきました。
あいさつも大切です。最初は言葉が出ずに、あいさつができないこともありました。でも、自分からあいさつするようにして、少しずつできるようになりました。
あいさつをする、メモを取る。このふたつはとても大事だと思います。
<上司のコメント>
中村さんは時間管理がしっかりしていて、この時間までにここを終わらせるということが確実にできています。また、笑顔がとても素敵で、利用者や職員はそれだけで安心することができています。

5. 担当者の声
取材の中では、同会における障害者雇用の取組や経験などを通じて感じていることや、障害者雇用に取り組む他社・他法人への助言、関係機関の支援者に理解いただきたい点について、先に紹介したヌーベルさんがわ兼任総括施設長の尾崎民子さんをはじめとする施設長等の皆様に伺った。その内容を一部紹介する。
当会が障害者雇用に取り組んで25年ほどになります。その経験から感じていること、大切にしていることは、時間をかけて指導する、育てることが大切だということです。
堺さんも最初は洗濯業務に詳しい職員が付いて、分け方・洗い方などを具体的に指導しながら覚えていってもらいました。いまではさんがわの洗濯業務を任せるほどになりましたが、それは堺さんの努力とともに、時間をかけてきた結果だと考えています。
堺さん以外の方も時間をかけて育ててきました。単に仕事の仕方を覚えるといったことではなく、周りの人とのコミュニケーションや社会生活での様々なこともできることが着実に増え、社会性も育ってきています。
ところで、祐正福祉会は福祉の職場ですので、基本的に職員はみんな優しい人です。また、利用者(高齢者、障害者)の立場になって考えるということも日々の基本になっています。仕事柄、病気や障害などについての知識も有しています。そうしたことが障害者雇用の基盤となっている面があるかも知れません。福祉の職場という意味では、一般の企業とは異なるかも知れませんが、人を採用し、各人に応じた配慮をしながら育てるということではどのような業種・組織でも同じだと思います。
時間をかけて育てるということ以外にも、一人ひとりの希望や特性(作業適性や性格)、通勤方法などの事情を理解し、関係者で共有すること、本人や家族とコミュニケーションをとること、支援機関との連携をとることなども大切です。過去には、一般求人の職員募集で、やや耳が聞こえにくい方を採用したことがありましたが、コミュニケーション面での行き違いがあり、離職された事例がありました。当会としても、あらためてコミュニケーションの重要性を痛感し、留意することとしています。
関係機関の支援者の方にお願いしたいのは、就職を目指す方にはある程度の社会的スキルなどを身につけておいてもらえればということです。例えば、あいさつができるとか、分からない時には周りの人に聞ける(質問できる)といったようなことです。また、場面の区別というようなことも大切です。今はAという仕事をする場面なので、それに集中して取り組むというようなことです。さらに、就職後のつながりも大切です。就職後に卒業校の先生が職場を訪ねてくれるようなことがあると、本人にとっては大きな励みになります。
6. 最後に~取材を終えて~
訪問時に取材者(機構職員)を迎えてくれたのは、広報部長のベルさんである(下の画像参照)。ベルさんは、施設利用者、職員のみならず、来訪者にも社交性を発揮し、アイドル的存在とのことである。障害のある職員の中にはベルさんに会うことを励みにしている人もいるそうである。ベルさんが醸し出す温かな雰囲気は、同会の理念や運営方針、役職員の意識・姿勢などの一端を表しているものと取材者は感じた。今回紹介したヌーベルさんがわにおける障害者雇用の取組と成果(採用した4名全員が定着している)も、そうしたことがベースになっていると思われた。
しかし、同会の担当者が話されたように、時間をかけて育てること、その際には各人の希望や特性を理解し、関係者で共有し、必要な配慮をすることなどは、どのような業種や職場であっても共通することと思われる。そして、取材者が感銘を受けたのは、福祉QC活動の良い影響である。QC活動による多職種連携が障害者雇用の目的やその実現に向けた連携につながっているということである。QC活動というと、「カイゼン」による作業効率や精度の向上といった取組というのが取材者の理解であったが、それは浅薄なレベルの理解であり、職員の意識や考え方、組織の文化の変化・進化につながる、より深く根源的なものであることを理解することができた。そして、同会の取組は、福祉関係の事業所だけでなく、様々な業種や現場の参考になるものと感じている。

執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用開発推進部 雇用開発課
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