地域の一員である福祉施設における取り組み
～地元に戻ってきた知的障害者の雇用創出から職場定着まで～
1. 事業所の概要
青森県南部町の自然豊かな環境の下二つの住宅団地の中間に、昭和58年定員50名で開設した特別養護老人ホームである。施設開設と同時に入所利用者や施設職員を含め、福祉施設はその地域社会の一員であるということを地域に発信し続けてきた。また、入居者の自主性や生きがいある生活の援助を重視しており、地域福祉に関する環境づくりに努める施設として地域に浸潤している。また、社団法人青森県高齢・障害者雇用支援協会主催の障害者職域拡大情報交換会議等へも積極的に参加し、地域の障害者雇用の推進に取り組んでいる。
2. 障害者雇用の経緯
当事業所は昭和58年の開設以来、障害種別を問わず多くの障害者の雇用と実習を受け入れてきた。障害者雇用の始まりは、親御さんからの依頼による20代の精神障害の方の雇用を受け入れてからであった。その後も知的障害の方を数名雇用してきた。その過程では、障害者と同じ制服を着ることに一部の職員の間には躊躇いがあったようだ。尾嵜施設長は「障害のある人と私達の何が違うのか？同じ“人”ではないか」と職員に説明しながら、職場内において障害者雇用への理解を少しずつ促していったという。その中で、職場全体が障害者と共に働くことを『あたりまえ』とし、共に地域生活を送っていくことを『あたりまえ』とする土壌が根付いた。
このような中で、特別支援学校を卒業すると同時に地元に戻ってくる知的障害者の雇用を創出し、その定着に向けて職場内で様々な取り組みが行われた。今回は、この知的障害者の雇用への取り組みについて紹介する。
3. 障害者雇用の現況
現在の障害者雇用の状況については、職員67名のうち障害のある職員は3名。身体障害者2名、知的障害者1名を雇用している。身体障害者のうち1名は調理師、1名は事務員。知的障害者は、ゴミ集め、洗面所やトイレ掃除、居室や廊下掃除、下膳と食堂掃除などの清掃業務に従事している。
清掃業務中のMさん
4. 取り組みの内容
清掃業務は一見簡単で誰でも出来る職務内容に見えるが、実際は非常に難しい業務である。細かい所まで気付く力や「どの位できれいと感じるか」といった感覚の問題、職務内容が多岐に渡る点など作業指導に困難を極めることが多い。しかし、障害特性に配慮した指導方法を実施することで、清掃業務はあらゆる事業所での障害者雇用の職域を広げることができる。
この事業所では次の取り組みにより、清掃業務において知的障害者も円滑に作業を遂行し一戦力となって働いている。
（1）「お仕事ノート」の作成
「お仕事ノート」とは、一般的には作業指示書やマニュアル書のことである。職員全体が同じ言葉で同じ説明や指導ができることが必要との配慮により、1つ1つの作業についての「お仕事ノート」を作成している。「お仕事ノート」を見れば、どの職員も同じ説明や指示をすることができ、本人も「お仕事ノート」を見ながら自身で作業を遂行できるようになっている。そのため、毎回の作業指示と作業報告が減り効率良く作業が遂行されている。また、職員自身も作業指示の際に説明に困ることがなくなった。
「お仕事ノート」（本人用）の内容
（2）作業スケジュールの作成
職員全体が本人の作業進行状況を正確に把握し、作業に関する適切な指導や助言ができるように作業スケジュールを作成した。作業スケジュールには作業時間や作業場所の他、作業に必要な物品や詳細な作業内容まで記入されてある。このことにより「お仕事ノート」同様に職員全体が同じ言葉で同じ説明や指導ができるようになった。
そのため、本人も作業上困った時に近くにいる職員に相談すると、その職員からの適切な指示や助言を受けることができるため、指示理解についての困難や作業を遂行する上での戸惑い等は見られない。
作業スケジュール表（職員用）
（3）相談者の一本化
通常の清掃作業であればどの職員に聞いても「お仕事ノート」や作業スケジュール表により対応が可能である。しかし、それ以外のあらゆる相談は基本的に主任が対応している。作業指導から生活の相談に至るまできめ細かな支えや助言が必要であるとの配慮から相談者は一本化されている。相談窓口が固定されることで、困った時に本人がSOSのサインを発信しやすく、問題が小さなうちにその芽を摘むことができている。また、相談者である主任自身も責任を持って本人の様子に目を配っており、作業能力の向上に合わせて速やかに職域を広げるといった対応もなされている。
5. 取り組みの効果
健常者にはない真面目さが際立ち、手抜きをしない仕事ぶりが職場で評価を受けている。上記の取り組みにより、少しずつ一人で行動できるようになり作業遂行の効率が良くなっている。また、制服を同じにするといった配慮も本人のモチベーションの向上に役立ったようである。
知的障害者を受け入れるにあたり、職員全体で効果的な作業指導方法等を話し合い、作業指示書などを作成する過程で、障害者と共に働くことが『あたりまえ』であるという職場の風土がより一層醸成されたように感じた。本人も「この職場で働くことが楽しい、声が小さいからもう少し大きな声で話せるように頑張りたい」と静かながらもしっかりとした口調で話していた。
6. 今後の展望
事業所としては本人の成長に合わせながら、少しずつ職業的自立や生活上の自立の芽を育んでいければよいと考えている。今後、障害者雇用を積極的に進めていく上でも、職場内にジョブコーチ的働きができる職員を育てていきたいとの抱負も聞かれた。最後に「地域に生まれ育った障害者を受け入れていきたい」と尾嵜施設長は笑顔で語っている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。
