「適材適所」により、安心して長く働ける環境をつくる
- 事業所名
- 岩手モリヤ株式会社
- 所在地
- 岩手県久慈市
- 事業内容
- 高級婦人既製服縫製
- 従業員数
- 117名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 縫製 肢体不自由 1 縫製 内部障害 知的障害 3 間接部門補助(1人)、裁断部門補助(1人)、裏地のアイロン掛け(1人) 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要等
(1)経営方針
人材育成により、付加価値の高いモノづくりを目指す
(2)組織構成
代表取締役社長 森奥 信孝
(3)障害者雇用の理念
「適材適所」により安心して長く働ける環境をつくる
(4)その他
昭和49年に誘致企業として東京より進出。当時の社名は「モリヤ洋装久慈工場」だった。それが昭和63年に「岩手モリヤ株式会社」として現地法人化。平成3年には隣りの九戸郡に「岩手モリヤ大野工場」を開設した。現在高級ブランドのジャケットを中心に、コートやスーツ、スカートなどを作っている。
「技術力養成のための人材育成」を経営方針に掲げる同社は、平成17年から中国からの研修生・実習生の受け入れをやめ、地元採用にこだわり、一から育成している。その育成の一例が、国家検定「婦人子供既製服縫製」の受験のサポートである。受験は斡旋するが強制ではない。しかし、受験希望者には、実技試験の練習用の生地の支給、実技試験練習場として会社の開放、学科試験用のテキストの配布と勉強会の実施、模擬試験の実施など全面的にサポートしている。受験料は個人負担だが、合格すると毎月技能手当を付けるとか。今年定年退職した障害のある社員の女性もこれに挑戦して合格、技能士の資格を取得した。こうした事業所の取り組みが評価され、今年経済産業省による「雇用創出企業1400社」に選ばれた。
現在の本社および本社工場は平成8年に新築移転されたもので、社員の約9割を占める女性を意識したハード面の整備が特徴だ。例えば、更衣室には洗面台を設置し、壁紙を淡いピンク色にしたり観葉植物を置いたりと、快適な空間づくりを徹底。テーブルとイスが並ぶ食堂には、寝ころんで休める座敷も設置し、間をパーテーションで仕切って「目隠し」している。また工場内の床には厚さ1cmの天然木を貼り、歩き心地を良くしている。これらの快適な環境によって、社員全体に「気持ちの余裕」が生まれているように感じた。
現在同社の社員は117人で、そのうち障害者は5人。これは全社員の5%という法定雇用率を上回る数字だ。しかもその離職率は0%で、そうした功績が認められ、平成19年度「障害者雇用優良事業所」として厚生労働大臣賞を受賞した。

2. 障害者雇用の経緯、背景等
(1)経緯
昭和51年に下肢障害の女性を雇用したのが、同社の障害者雇用の最初だ。この女性は一般求人の募集に応募してきたが、下肢が不自由だけなので縫製の仕事には支障がなく、実際縫製の経験も若干あってやる気もあったので採用したという。
その女性は技能士資格も取得するほど優秀で、結婚後も産休制度や育児休暇制度を利用してトータルで17年間勤務。定年を迎える時に会社側から雇用延長を依頼したほどだったが、「これからは、これまで支えてくれた家族のために生活したい」と退職に至った。
その間同社では、平成2年3月に下肢障害の女性、平成3年に知的障害の男性と女性、平成7年に聴覚障害の女性、平成16年に知的障害の女性の5人を採用している。
下肢障害の女性は地元の文化服装学院を卒業し、一般求人の募集に応募してきた。縫製の仕事に支障がないうえ専門技術も学んでいることからすぐに採用が決まり、現在も戦力として活躍している。
平成3年に採用した2人は施設から紹介された。過去に採用した2人と異なり、専門的な技術を有していなかったが、地元への社会貢献の意味で採用を決めたという。
聴覚障害者は、仕事をするのに支障はなかったので採用。彼女も優秀で、チームの中では一、二を争うほど仕事が速いという。
一番若い知的障害者も施設からの紹介。意思疎通がスムースであることから採用。他の社員と同じ仕事に従事している。
(2)背景
森奥信孝社長は、聴覚障害者に縫製の仕事を教えてもらった経験があった。森奥さんが社会人になって初めて仕事を教えてもらった人で、言葉のかわりに手取り足取りの指導で、その動作や表情、感情表現などから仕事だけでなく人間として大切なことを教えてくれたという。またその先輩の奥さんも聴覚障害者で同じ会社に勤務していたが、縫製グループの班長を務めるほど仕事ができた人だった。そうした経験から、最初の雇用に抵抗はなかったという。
また森奥社長は「地元への社会貢献」という視点も雇用の際に留意している。
(3)その他
障害者自身や障害者同士のトラブルが原因で、次の採用を控えるようになったという企業の話を時々聞く。しかし同社の場合はそういう事例が全くないという。同社ではチームで仕事を進めているので、社員間のトラブルは社員のモチベーションに影響を及ぼす。その点でトラブルがないことは、順調な障害者雇用の間接的な要因になっているように思える。
3. 取り組みの内容
(1)具体的な内容
・ 平成2年に入社した女性は、下肢が短く、そのためミシンに足が届かないことから、足の下に置く補助台を社員が手作りし、ミシンによる縫製作業ができるようにした。

社員が手作りした補助台

補助台に足をのせ、ミシンを踏んで作業している

縫製作業を担当する下肢障害のある社員のそばに掲げられた一日のノルマを示す札
・ 同社には正式入社前の研修制度はない。そこで平成3年に入社した知的障害者2人には、まずできそうと思われる作業を体験させ可能性を探るところから始めた。どんな仕事でも慣れるまで時間がかかるので、それまでは現場のリーダーが根気よく教え、成果をチェックした。同社の場合、作業チームごとに具体的な数値目標、たとえば今月は5000着作る、といった目標を持たせているが、知的障害者には「いくつできたか」という数値目標ではなく、「言われたとおり正確にできたか」を目標にさせたという。また、しばらく従事させてどうしてもできない場合は、別の仕事に変えることもあった。
・ 平成16年に入社した知的障害の女性については、知的障害者をすでに2人採用していることもあって最初は採用に悩んだが、ある程度の理解力があるように思えたので、入社前に2回に分けて現場実習をした。その結果、できる仕事が見つかったので正式に雇用を決めた。
・ 他の地方都市同様、公共の交通機関が不便なので、社員の多くは自家用車で通勤している。平成3年入社の2人については、会社と最寄り駅の間を社員が交替で送迎している。もう一人の知的障害のある社員はバスで通勤している。ちなみに下肢が不自由な女性は、改造(手元にアクセル、ブレーキを付けている)した自家用車を運転して片道21kmを通勤している。
・ 給料の振込や管理については、社員の状況に応じて、給与明細を家族に送付したり、時々施設の相談員と連絡を取ったり、銀行員が来所し現金化するなど工夫している。
・ 聴覚障害のある社員とは、社長以下社員すべてが、身振り手振りでコミュニケーションをとっている。手話ができる社員はいないが、問題ないという。

縫製作業を担当する聴覚障害のある社員
・ 平成3年入社の知的障害者の2人は、他の社員との付き合いに消極的で、女性の場合はむしろ人に話しかけられるのを避けているような感じだった。そのため本人の気持ちの安定を考えて、必要な時以外はあえて話しかけないようにしている。
・ 「知的障害者には最初から『できる』と思って接してはいけない。むしろ、『彼らができるためには自分たちはどうすれば良いか』と考えることが大切」と森奥社長。他の社員もこういう考え方で接しているため、社員間のトラブルもないという。
・ 納期がある仕事なので残業はあるが、知的障害者の3人は送迎やバスで通勤のため時間の融通が効かないことから、定時で帰宅させているが、不平不満が出ることはない。
4. 取り組みの効果
(1)取り組みを実施したことによる効果
・ 下肢に障害のある女性は、補助台によってミシンを使った縫製作業ができるようになった。
・ 平成3年入社の知的障害のある社員2人は、いくつかの仕事を試した結果、男性の社員は、ネームを切ったり下げ札を作ったりミシンを移動したり下糸をほどいたり、といった補助的な作業に従事、女性の社員は、裁断された生地に接着芯を貼って機械に流し込む作業を担当している。どちらも補助的な作業とはいえ、誰かがやらなければいけない必要な「仕事」なので周囲も認めている。一方、平成16年入社の知的障害のある女性は、袖作りや裏地のアイロンがけを担当。3人とも仕事を正確に覚えたうえで担当させたので、チームの一員として仕事をこなしている。また、もともと勤務態度がまじめで、欠勤も少ないので、他のメンバーに迷惑をかけることもない。同社の仕事はチーム単位で行い、それぞれのチームが完璧な仕事をしたことによって完全な製品が完成する。そのため誰かが不正確な仕事をすると連帯責任となるため、仕事場の雰囲気が悪くなったり、他の社員のモチベーションが下がったりといった悪影響が出る。その点で、彼らが正確にできる仕事を見つけ出し、従事させることが重要であった。

縫製作業場の全景 縦に作業チームが分かれている
・ 仕事をこなしている彼らは、みな一様に「仕事が楽しい」と話す。実際彼らの離職率は0%で、それは「技術力養成のための人材育成」を目標に掲げる同社にとっても、「人材流失」にならないことから最終的にプラスになっている。

芯の貼り付け作業を担当する知的障害のある社員

下糸をほどく作業をする知的障害のある社員

アイロン掛けの作業を担当する知的障害のある社員
(2)障害者雇用の波及効果やメリット
・ 「これまで多くの社員が障害者に接する機会はなかったようなので、仕事上で接することになり、障害者に対して違和感はなくなったのではないか」と森奥社長。
・ 障害のある社員全員が、自分の仕事に対して「甘え」を見せることはないという。それは間接的に他の社員に刺激になっているのではないかと森奥社長は分析している。
・ 身体障害者の2人のように、最適な仕事を与えると持っている能力を発揮してくれる。それは「人材育成」を重んじる同社にとってメリットだろう。
(3)障害のある社員自身のコメント
・ 下肢に障害のある女性は、「仕事も楽しいが、周りの社員の人たちもあたたかく接してくれているので、会社の居心地がよい。ずっと勤め続けたい」と話していた。この「居心地の良さ」は、森奥社長が何度も強調していた「現場で受け入れるための仕事分担と雰囲気づくり」の賜だろう。
5. 今後の課題・展望等
不況により会社の業績が足踏み状態だが、これまでの「技術力養成のための人材育成」の投資が徐々に成果をあげ、技術力の高さが評価されて、「モリヤさんしかできない」と指名される仕事が増えているとか。目指すは「日本を代表するジャケットの工場」。そのためには付加価値の高いモノ作りが必要で、そのためにも一層人材育成に力を入れたいと森奥社長は力説する。
障害者の雇用に関しては今のところ予定はないそうだが、新しく雇用するよりも、現在勤務する障害のある社員が定年まで働き続けることに、障害者雇用に関する同社の意義があると思う。
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