ここは“奇跡の工場”だ!
—「定着が困難な重度障害者であること」が雇用の条件—
- 事業所名
- エフピコ愛パック株式会社茨城工場
- 所在地
- 茨城県坂東市
- 事業内容
- 食料品店等で使用する合成樹脂製簡易食品容器(樹脂製折箱)の組立加工
- 従業員数
- 19名
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 14 合成樹脂製簡易食品容器の製造・組み立て 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)概要
平成19年9月、ウッド容器(当社における合成樹脂製折箱容器の通称)製造・組み立てを行う茨城工場が操業を開始。茨城県内では初めての民間会社による就労継続支援A型事業所の誕生である。平成21年8月現在、障害者14名、健常者スタッフ5名。
次いで平成20年8月、透明食品容器の選別を行う当社リサイクル部門の茨城選別センターが就労継続支援A型事業所として操業を開始。平成21年8月現在、障害者6名、健常者スタッフ4名。
(2)障害者雇用の経緯
親会社である株式会社エフピコは、障害者の雇用を促進するため、特例子会社3社、就労継続支援A型事業所1社(当社)を設立し、全国に展開している。また、当社には、1道、6県に8拠点13事業所(平成21年8月現在)があり、当茨城工場は、その5番目に誕生した。このように親会社は障害者雇用に対して理解があり、障害者雇用の環境は、十分整っている。ちなみに、当社、広島工場は全国初の就労継続支援A型事業所である。
今回ご紹介する当工場は、就労継続支援A型事業所であり、一般企業等での就労が困難な人に、働く場を提供するとともに、知識および能力の向上のために必要な訓練を行うところである。したがって社員選考の条件は、「他の会社で定着が困難な重度障害者優先」となっている。障害者雇用に厳しい不況の世の中にあって信じられない会社である。
その他の条件としては、自力通勤(家族の送迎を受けられる人や会社の通勤バスを利用可能な人を含む)が可能な人。また、一人で着替え、トイレ、食事のできる人。言葉(単語だけでもよい)でのコミュニケーションが可能な人。そして、家族、支援機関の支えが見込まれ、働く意欲のある人である。
これまで「働きたい」という希望をもちながら働く場所に恵まれない重度障害者や、定着がままならなかった重度障害者が、自宅やグループホームから通っている。

2. 取り組みの内容
(1)雇用に必要な資質
①雇用のポイントは、障害の種類、程度よりも「働きたい」という「意欲」を大切にしている。また、早めの適材適所の発掘が大切で、条件と配慮次第では健常者以上の貢献が可能である。知的障害者の多くは、ぴったり仕事がはまると、「もうこれだけできればいいか」と勝手に手抜きをするようなことはしない。「ここまでできたのだから、もっともっと」と、時間を忘れて作業する。
②製造・組み立ての多くは、機械が行っているが、機械でできない複雑な形(八角形の折箱容器の製造等)は、手作業により組み立てている。(写真下)また、自動組み立てしたものでも、接着面がしっかりしているかどうかを見逃がしてはならないので、神経を使う仕事である。

八角形の折箱容器は、手作業で組み立てる
③成長は大いに期待しているが、重度の知的障害をもつみなさんであり、じっくり長い目で見ることが必要。とくに留意していることは、感情に任せて“怒る”のではなく、相手の気持ちを推しはかりながらの“諭(さと)す”指導が重要である。これを強く意識して反復指導している。
④この「反復指導」とは、何回という回数ではない。当工場では、「できるまで繰り返す」ことを反復指導という。山本五十六の「やってみせ、いってきかせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」を10回、20回、30回と根気よく繰り返す。
(2)スタッフ(健常者)の役割
①草間実工場長を含め5名のスタッフのうち、障害者雇用にかかわった経験のある人は、サービス管理責任者の山本純子さん、ただ一人。ここでは、障害者が主役で、補助作業ではなく本体作業の製造・組み立て、結束、包装、箱詰めを担当している。スタッフは、障害者の“補助”をしながら材料の補給、検品を行っている。

草間工場長

山本サービス管理責任者
②毎日、作業終了後行われるスタッフミーティングでは、スタッフから「こんなことがあった、こういう問題が発生して困った」等、問題点を率直に話してもらっている。これに対してサービス管理責任者である山本さんが中心となって障害別の特性を説明し、対応の仕方などを、とにかくよく話し合う。
③たとえば、ストレスが溜まってくると、突然興奮して「ウォ~!」と大声を出す人がいる。仕事が変わった等が理由であるが、障害者雇用を経験したことがないスタッフは、最初は驚き右往左往した。しかし、別室で「ウォ~!」を繰り返すと、次第におさまってくる。
初めは、日に何回も、1回当たり30分~1時間も大声を出していたが、半年経って、これが数ヶ月に1度となり、時間も徐々に減って5分でおさまるようになった。ストレスを発散できれば静かになっていく。
④また、人手が足りないときに別の障害者が手伝うことがあるが、楽になったというよりは、自分の機械に手を出された、仕事をとられたと勘違いする人がいる。これについては、仕事はお互いに助け合ってこそ、よりよい仕事ができることを理解してもらえるよう繰り返し話す。ここでも反復指導である。
⑤そのほか、突然ジャンプを始めたり、スタッフの体を引っ張る障害者もいる。知的障害者もいろいろで、これも徐々に直していけばよいことと、大らかにとらえている。
⑥ゆとりを持ってあせらない指導
スタッフは、40代後半から50代が中心であるが、若い人もいる。年配者は、自分の子供を見ている感じで、ゆとりを持って接することができる。一方、若い人は、年齢が近いだけに気持ちがよくわかり話が通じる。年齢に関係なくいえることは、“ゆとりを持った理解者”であるということ。
経験の少ない多くのスタッフは、最初はどうなることかといろいろ心配もしたが、あせらず、ゆとりを持って繰り返し教えていくと、スピードはないものの確実に覚えていくことを実感するという。また、一生懸命なので、教えがいもある。
⑦通勤は選別センターで働く障害者と一緒に行っており、送迎バス13名、グループホーム徒歩2名、親の自家用車1名、遠い施設のグループホームからの送迎2名、路線バス1名、自転車1名となっている。
路線バスの1名は、若い女性であるが、その停留所が工場から離れたところにあった。遅くなると心配があり、地元のバス会社にお願いしたところ、たった1名のために停留所を工場の前に設置してくれた。地域全体で障害者雇用に協力してくれているのである。
(3)家族、支援者へのお願い
①家族、支援者には、企業で働く厳しさを理解してもらうよう話している。就労継続支援A型事業所であるから多少高くても、あるいは多少品質が悪くても、優先的に製品を買ってもらえるわけではない。当然他社との競争に勝たなければならないのである。
数量、ラベルに間違いはないか? 髪の毛1本でも紛れ込んだら食品が入るものだけに一気に会社の信用は失墜する。家族、支援者、本人も、時には厳しいと思うことがあるかもしれない。しかし、障害部分については、いくらでも応援、カバーするが、それ以外は健常者と同じ対応をすることを理解してもらいたい由。
②家族、支援者との連携、協力は欠かせない。連絡ノートでこまめに連絡をとっている。また、会社の行事である新年会、1年に1回の食事会や社員旅行には、スタッフばかりでなく、家族、支援者全員に参加を依頼し、支援への理解と協力をいただくよう努めている。
3. 取り組みの効果
(1)数々の工夫
①文字が苦手な人のために、ふりがな付きの掲示をしている。(写真1)
②時計がわかりづらい人のために、練習用時計(写真2)を掲示している。また、アナログ時計とデジタル時計を合わせて設置している。
③数量を数えるのが苦手な人は、視覚・聴覚で数量を判断できる。(写真3)検品台に製品を並べて、結束する数量のところにラインテープ(矢印①)を引く。また、センサーを取り付け、その数量になると音が鳴り、ランプが光る(矢印②)。

ふりがな付きの掲示(写真1)

練習用時計(写真2)

視覚・聴覚で数量を判断する(写真3)
④安全性に対する配慮としては、動く機械の危険箇所にセンサーがあり、そのエリアに少しでも体が入ると、すぐに機械が停止するようになっている。事業所開設以来、労働災害はゼロである。
⑤衛生面は、製品事故につながるものだけに現場は当然として、全社内で神経を使っていることがよくわかる。たとえば、トイレのスリッパを置く場所(写真4)や便器(写真5)に足型を描いて、常に整然としていて清潔さも保っている。さらに現場へ入るときには、その都度エアーホース(写真6)で全身のほこりを吹き飛ばしている。
⑥日ごろの心配事は、定期的に実施される面談のほか、要望があれば随時面談して解決をはかっている。いつでも希望すれば面談できるということが、障害者に安心感を与えている。
⑦毎日の終礼で1名ずつ全員が反省を述べ、自ら発言する力をつけている。仕事面で力のついてきている人は、声も大きくなっており、表情も豊かになってきている。「今日はこれだけできた」と、自ら手をあげて成果を発表する人も出てきている。
⑧障害の軽い人が重い人を手助けする協力、助け合いの心が芽生えてきている。かつては前述したように手伝ってもらっても仕事をとられたと思った人もだいぶ変わってきている。

トイレのスリッパ(写真4)

便器も衛生的(写真5)

エアーホースで全身をきれいに(写真6)
(2)障害者自身の感想
①初めて友達ができた。しんどいけれどお給料をもらって、友達と買い物をすることが楽しい。
②仕事をがんばってお金をためて旅行に行きたいし、アパートで一人住まいもしてみたい。
③スーパーで自分たちの作った容器がならんでいるとうれしくなる。
(3)家族の感想
①今までは、聞かないと話さなかったが、仕事を始めてからは、自分から工場の出来事や仲間のことを話すようになり、家での会話が増えた。
②学校時代には、障害があるためできないことばかりを聞かされてきたので、今働いていることがウソのようである。
③重度の障害があり、就職は到底無理と思っていた。就職できて、毎日がんばっている姿を見ると、家族としても精いっぱい支えていきたいと思う。
④もっとのんびりと仕事をしていると思っていたが、きびきびと働く姿を工場見学で見て、すっかり見直した! やればできるのだ!
4. 今後の展望と課題
(1)社会との接触度合が不足
①一般的に知的障害者は、社会との接触度合が低いといわれている。休みの日も家にいるか、以前いた施設に遊びに行くことが多い。給料もすべて親や施設に預けて自分で使うということを知らない。お金の使い方ができないと、働く喜びも湧いてこないだろう。
②そこで山本さんは、土曜、日曜の休日には、障害者と一緒に映画を観たり、買い物に行ったりして、お金を使う楽しさを教えた。これまでは自販機で飲み物を買うこともできなかったが、コンビニ・スーパー・100円ショップも卒業して、自分で買い物ができるようになった。デパートでも山本さんはみなさんについて行ったが、今は最初に解散し、買い物が終わったら集合するといった具合に一人で買い物が楽しめるようになっている。会社の同僚や家族と一緒に社会参加ができるようになり、働く喜びを実感できるようになった。
③山本さんは願う。「誰もが働いてお金を手にして、誰もがこのお金を自分で使う。この当たり前の小さな幸せを一人でも多くの障害者のみなさんに手にしてもらいたい」。
(2)将来設計
①65歳定年の時代である。現在の最高齢は41歳と、まだ定年の話は早いかもしれないが、「転ばぬ先の杖」があるに越したことはない。健常者でも一番心配なのは、65歳までの雇用の確保であるが、当工場は、スタート時から60歳定年、65歳まで全員継続雇用と恵まれている。
②障害者は正社員であり、通勤手当、年休、社会保険、中退共、互助会も健常者社員と同じである。賃金は月給で最低賃金を常に上回るように設定されおり、現在の月給は115,500円(20.41日勤務/月、8時間勤務/日、707円/時間)である。
③また、障害を理由に解雇することは絶対しないので、安心してがんばってもらいたいとのことである。
(3)会社のめざすもの
当社の親会社である株式会社エフピコを核とするエフピコグループは、スローガン
「人と人、人と自然、企業と社会をつなぐ企業であるために」を経営の基本方針と位置づけ、社会の様々なニーズに真摯に取り組んでいる。
その一環として障害者の就労支援にも積極的に参画し、「共に協力し合い、共に幸せになれる豊かな社会を目指して」不断の努力を重ねている。エフピコ愛パック茨城工場の歴史はたった2年であり、始まったばかりであるが、親会社の障害者雇用の歴史は20年を超え、今、エフピコグループの障害者の雇用数は241名(平成21年3月末現在)を数え、今後も増加する見込みであり、その理想が体現されている。
当社の代表取締役社長の藤井良朗氏(写真左)は「親会社である株式会社エフピコの小松安弘会長が掲げているグループ共通の社訓、“責任・自信・和・忍(がまん)・健康”を一層確かなものにするため、全社一丸となってさらに邁進していきたい」とのことである。

5. おわりに
社長も工場長も山本さんも、「当たり前のことを当たり前にやっているだけ」とのことであるが、取材中に何回も鳥肌が立つほどの感動を覚えた。
社長、工場長の理解があり、そこに若いが経験豊富で、かつ物事に動じないサービス管理責任者の山本さんと職業指導員、生活支援員のすべてのスタッフが共通の目標に向かってひとつにまとまって懸命に努力している。このスタッフに対して、障害者が全幅の信頼を寄せるようになり、初めて理想を絵に描いたような「奇跡の工場」が誕生したと確信した。
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