お互いを認め、褒め合う社風が働きがいに
- 事業所名
- ファイザー株式会社 横浜パッケージセンター
- 所在地
- 神奈川県横浜市
- 事業内容
- 営業用キット、ダイレクトメール、社内報、学会資料などの印刷、梱包、発送
- 従業員数
- 30名
- うち障害者数
- 27名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 所長 内部障害 知的障害 23 梱包、封入 精神障害 3 進行管理、発送 - 目次
- ホームページアドレス
- http://www.pfizer.co.jp
1. 横浜市「ハマライゼーション企業グランプリ」受賞
医療用医薬品や動物用医薬品、農薬などの製造、販売を全世界で展開しているファイザー社(本社:ニューヨーク)。
その日本法人であるファイザー株式会社(本社:東京)は、1953年に設立。従業員約5000人を抱える国内第2位の医薬品メーカーである。
JR横浜線鴨居駅から徒歩10分、ファイザー株式会社総務部に所属する横浜パッケージセンターは、1992年開所。国内に100ヵ所以上ある支店・営業所で働く社員たちに各種資料を送るため、主に仕分けや梱包、発送などの作業を行っている。
センターで働く障害者は、肢体障害をもつ平野章所長以下、知的障害者23人、精神障害者3人。知的障害者のうち20人は重度障害者であり、その積極的な雇用が評価され、横浜市の「平成19年度ハマライゼーション企業グランプリ」を受賞した。
「ファイザーでは、3年前より『働きやすい職場、働きがいのある職場』の実現をめざし、『GPTW(=Great Place to Work)』という全員参加の改善活動に取り組んでいます。当センターでも、みんなでミーティングを重ねてさまざまな改善を行っていますし、その成果もあって、雇用も定着しているようです。横浜市の表彰のほか、今年は社内でも社長賞をもらい、従業員のやる気も高まっているんですよ」
そう語る平野章所長は、センター開所の準備期間より尽力してきた立役者だ。
「開所当時は『障害者に任せて大丈夫なのか』という不安も多く寄せられ、理解を得るのに苦労しました。障害者雇用は企業の社会的責任であると頭では分かっていても、いざ仕事をさせるとなると、やはり二の足を踏んでしまうんですね。そこで私は『コスト』と『品質』という2点のメリットをアピールし、少しずつ仕事をもらうようにしていったのです」
それまで外部の会社に発注していた梱包・発送業務を内部で行うことにより外注費を削減し、また梱包・発送ミスの予防については徹底して「間違いを起こさない工夫」を重ねることで、品質の向上に努めてきた。
「今では外注するより、品質はもとよりスピードの面でも勝っていると信頼されるほどになりました」と、誇らしげな平野所長。
最近では、梱包だけでなく一部社内文書の印刷や、社員の給与明細の発送など、より重要な仕事も担当するようになっている。
2. 「作業の単純化」と「待つことの徹底」
横浜パッケージセンターで取り扱うのは、医薬品のパンフレットやポスター、学会資料、社内報から、営業マン用の教材キットやファイザーマークの入ったノート、ボールペン、マグネットなどの営業グッズまで多種多様。
依頼に応じて毎回、梱包される内容や組み合わせが細かく変わるが、梱包ミスなどを起こさない工夫のひとつとして、平野所長は「作業の単純化」と「待つことの徹底」がポイントと言う。
(1)重度知的障害者に向く単純作業
「梱包作業を担当するのは知的障害者ですが、そのほとんどは重度障害者。一度に複数の作業を覚えさせるのは無理です。一般の生産現場では一人で複数の作業を行う『多能工化』が語られますが、当センターではむしろ逆。工程をできるだけ分け、一人一人の仕事を簡単にするほうがミスを防ぐことができるし、効率もいいんです」
たとえば封筒に冊子とペンを封入する場合、以下のような手順になる。
Aさんが箱から冊子を1部取り出し、Bさんに渡す ↓ Bさんは箱からペンを1本取り出して冊子に添え、Cさんに渡す ↓ Cさんは箱から封筒を1枚取り出して冊子とペンを入れ、Dさんに渡す ↓ Dさんはセロテープで封筒を綴じ、コンベアに流す ↓ Eさんはコンベアで流れてきた封筒を取り、ひとつひとつ秤にかける (セット内容が間違っている場合は、ブザーが鳴る) ↓ Fさんは5個ずつセットにして秤にかける(ダブルチェック) (セット内容が間違っている場合は、ブザーが鳴る) ↓ Gさんが発送用の箱に詰める |
まさに一人一作業。まどろっこしいようにも感じるが、横浜パッケージセンターの場合、いったん仕事を覚えると、飽きることなく単純作業に集中して取り組むので、徐々にスピードが上がってくるという。
(2)指示があるまで待つ
ラインは1個ずつの流れ作業なので、前の人の作業が止まると、その後がすべて止まってしまうという指摘もある。しかしセンターでは、作業スピードの違いやトラブルなどで流れがストップしてしまった場合、スタッフが気づいて指示を出すまで、作業者はじっと待つようにと指導している。
「『流れを止めてはいけない』『止まったら報告しなくちゃいけない』といったプレッシャーを与えると、作業者に混乱や不安が生じてしまうのです。ですからただ『待つこと』、これだけを覚えさせています」と平野所長。
また、余計な自己判断は、かえってその後の面倒な処理を生み出すことにもなりかねない。「待つことの徹底」は一見、非効率的のように見えるが、その実、知的障害者に適した効果的な指導であるようだ。
集中して梱包作業に取り組む知的障害者
メモ用紙、ボールペン、クリアホルダーなど、
客先への配布や営業マンの教育などに使用する梱包セットの例
(3)ストレスのもと「ほうれんそう」の廃止
また、「働きやすい職場、働きがいのある職場」づくりの一環として、3年前、センターでは「ほうれんそう(=報告・連絡・相談)」を廃止した。
「『待つことの徹底』でも分かるように、『何かあったら報告しなければいけない』、『いちいち連絡し』、『何でも相談しなければいけない』というプレッシャーが、いかに大きなストレスになっているかということです」
平野所長は「健常者でも同じでしょ?」と一言ニヤリ。
もちろん、その分、どの仕事が今、どこで行われているかなどが一目で分かるような改善が施され、スタッフも作業場を監督できるよう人員配置には気を配っている。
効果は思った以上に大きかった。無駄な「ほうれんそう」のストレスは軽減され、作業効率はぐっと向上したという。
3. 精神障害者には管理業務などの役割を
横浜パッケージセンターでは、現在、3人の精神障害者が働いている。彼らの仕事は知的障害者と違い、梱包の作業手順書の作成や、決められた発送数にあわせて冊子やボールペンを用意したり、また宛名ラベルを作成するなど、主に管理業務である。
「開所以来、長らく知的障害者ばかりの職場だったのですが、3年前から精神障害者の人にも仕事をお願いするようになりました。我々スタッフの手伝いから始まり、今ではコンピュータを使った印刷や発送も任せており、戦力になっています」
3人とも働き始めた頃に比べ、精神的に安定し、症状も軽くなってきたようだと平野所長は観察している。
「当初は、夜中に私の携帯に何度も電話をかけてきたり、また職場で誰かが悪口を言っているようだと疑心暗鬼になるなど、不安要素も多かったのですが、焦らずじっくり構えて対処してきたのがよかったんだと思います。NPO法人『横浜メンタルサービスネットワーク』と連携し、サポーターの方にも協力してもらいました」
「やりがいのある仕事」や「自分の居場所」があることが、いかに精神障害者にいい影響を与えるか…。周囲の理解と環境づくりが何よりも大切だ。
4. 「いいところ」を褒める
「働きやすい職場、働きがいのある職場」づくりのためには何をしたらいいのか…、全員参加のミーティングを重ねてきた結果、横浜パッケージセンターでは「褒められタイム」という、ちょっと変わった習慣が誕生した。
「みんなで話し合いをするなかで、知的障害者の人たちから『もっと声をかけてほしい』『もっと褒めてほしい』といった声が出てきたんです。あぁ、いかに日頃の我々の言動に敏感に反応し、否定的な言葉や批判的な態度に傷ついていたかが、身にしみて分かりました。それが、彼らのやる気を失わせていたんですよね」
以来、所内で「批判・否定」は一切禁止。できるだけ人の「いいところ」を褒め、その能力を伸ばしていこうという風潮に変わった。ミスをしても怒ったり叱ったりするのではなく、自然と「ドンマイ!」という言葉がかけられる。
毎日、全員参加で行われる終業時のミーティングでは「褒められタイム」を実施。「その日の人」を決め、がんばった点やよくできたことを褒めるのだ。「重い箱を持ってくれた」「いつもより努力していた」など言葉は素朴だが、お互いを認め合い、励まし合う雰囲気づくりに役立っている。
センターの壁には、次のようなモットーが大きく掲げられている。
【生き生きとした職場】 1. ポジティブな姿勢で 2. 遊び心を取り入れ 3. 人を喜ばせ 4. 気配りのある職場(必要としあう関係)に |
「大切なのは、『人に喜ばれ』『人から必要とされている』ことを実感できるということ。それが、やる気や働きがいにつながるんです」
「褒められタイム」の取り組みは、ファイザーの社内報にも紹介され、前述のように社長賞を受賞。社内でも注目を集めている。
「ファイザーのノーマライゼーション実現のため、このセンターが情報発信基地としての役割を担うべく取り組んでいきたいし、期待もされています」と平野所長。横浜パッケージセンターのような集約型の雇用形態を超え、本社・営業所でも当たり前のように障害者が働く環境を整えていきたい、と今後を語った。
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