事業所名

株式会社鎌倉ハム富岡商会

所在地

神奈川県鎌倉市

事業内容

ハム、ソーセージなど食肉加工食品の製造販売

従業員数

169名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	4	加工食品の包装、ラベル貼り、清掃
精神障害

目次

1. 100年の伝統を持つ「鎌倉ハム」ブランド
2. 期間実習を経て正社員に
3. やりがいと自信を与える
4. 健常者と差別ない処遇で
5. 短期アルバイトの依頼も

ホームページアドレス

http://www.kamakuraham-tomioka.co.jp/

事業所外観

1. 100年の伝統を持つ「鎌倉ハム」ブランド

文明開化華やかなりし頃、英国人ウィリアム・カーチスの指導を受け、鎌倉の地で日本人による初めてのハム作りが始まった。やがて、鎌倉や横浜、箱根のホテルで提供されるようになったそれらのハムは宿泊客の評判となり、発祥地の名を冠し「鎌倉ハム」と呼ばれるように。今も日本を代表するハム・ソーセージの一流ブランドとして、贈答品などに愛用されている。

「鎌倉ハム」と名が付くものは多くあるが、なかでも株式会社鎌倉ハム富岡商会が誇るのは、100年以上守り続ける当時のままの伝統製法。創業は1900（明治33）年。職人がひとつひとつていねいに作り上げる“正統”鎌倉ハムの格調高い味わいは、他の追随を許さない。

2. 期間実習を経て正社員に

鎌倉ハム富岡商会（以下、富岡商会）の本社工場で働く社員は、約170人。そのうち4人が、知的障害者の社員である。

「5年ほど前から1人ずつ、不定期ですが雇用を続けています。横浜にある通所授産施設『ぽこ・あ・ぽこ』や日野中央高等特別支援学校、また職業訓練校などからの紹介で、実習に来た数人のなかから『これは』と思う人を採用しています」

そう語るのは、力石正治常務取締役生産部長。障害者の1人はご自身の息子さんということもあり、彼らの雇用機会の拡大と働きやすい環境づくりに熱心に取り組んでいる。

実習は、主に年末年始の進物シーズンを終えた2、3月の閑散期に、2週間の予定で行われる。

「最初はラベル貼りですね。商品の表にブランドシール、裏に内容物や賞味期限を記したシールを貼ります。単純な作業ですが、1回教えただけで仕事を覚えるかという点がポイント。それから間違いなく正確に貼れるか。この2点を見るようにしています。作業のスピードや効率は求めません」

2週間も仕事ぶりを見ていれば、「うちの会社に適した人材か」ある程度の見極めはできると力石常務は言う。

力石正治常務

「実習には、その会社に就職することを目的としたものと、仕事の体験をさせてみたいというものと2種ありますが、我が社は前者。健常者の採用でも同じですが、この人と一緒に働きたいと思えるような、一生懸命まじめに働く意志のある人を求めています」

時間と手間をかけて仕事を教え、2週間の実習を終えても採用に結びつかないことも多々ある。富岡商会で働く障害者は、4人のうち3人が正社員だ。正社員としての雇用を前提としているだけに、実習生を見る目は甘くない。

3. やりがいと自信を与える

現在、富岡商会で働く4人の知的障害者のうち、3人がハム・ソーセージの製造ラインに就いている。主に袋詰めなどのラッピングや梱包などの工程で、生肉には触れない仕事だが、混入物などの事故は絶対あってはならない。シンとした職場には、緊張感が満ちていた。

燻製し終えたハムのケーシング（包装）の両端をナイフで切り、次のラッピング工程に流す。右が知的障害者の社員

障害者の社員の様子を観察していると、彼らは「自分たちは他の人より仕事が遅い」ということを、強く自覚しているように見えると力石常務は言う。生産性では健常者ほど会社に貢献できないが、その分、他で一生懸命フォローしようという行動が、端々に見られるというのだ。

「もちろん、生産性の面でも毎日少しずつ目標を上げていこうという意識はあります。しかし、それ以上に感心するのは、仕事に対する姿勢です。めったなことでは会社を休まないし、遅刻もしません。強制したわけでもないのに、昼休み終了5分前には、もう職場に戻って午後の仕事に備えていますよ」

そんな彼らに自信を持たせてやりたいと、力石常務は「重要な仕事」を任せることにした。通称「ローラーがけの長」である。

「我々食品会社にとって一番の敵は『異物混入』です。社員は1時間に1回、必ず作業着に粘着ローラーをかけ、髪の毛や細かいホコリなどを取り払うんですが、そのチェック役を彼らに任せました」

すると、これが大当たり！  「重要な役目を任されている」というやりがいは彼らを奮起させ、また「細かいことにこだわる」という知的障害者の特性もあいまって、異物混入事故の撲滅にも大きな効果を発揮しているという。

「ローラーがけをしたみんなの作業着を注意深く確認して、『まだここに髪の毛が着いていますよ。もっとしっかりかけてください』なんて言いながら、一生懸命に取り組んでいますよ」と、力石常務もニッコリ。

同様の「重要な仕事」には「秤のチェック係」などもある。いずれも、毎日同じ時間に同じことを同じルールで行うことを得意とする、彼らの特性を活かした仕事だ。

やりがいと自信を持たせ、同時に会社としても品質の一層の向上を狙える。このような二重の効果が得られる仕事の発掘は、ぜひ見習いたい。

加工済みの角切り肉をひとつずつ袋詰めする作業

出荷前の商品

4. 健常者と差別ない処遇で

さて、富岡商会における障害者雇用のもっとも特徴的な点は、ほとんどが正社員として働いているという点であろう。

「基本給はもちろんのこと、残業手当やボーナス、住宅手当まで、健常者と一切変わらない賃金体系にしています」と言うのは、人事総務室の渋木清二室長。生産性は健常者と同等ではないので昇給のスピードはやや劣るが、それでも就業年数に応じた賃金アップが行われている。

「仕事ができる人もいれば、あまりできない人もいる。それは個人の個性としてとらえています。ですから我が社には『障害者だから』という処遇上の差別はないのです」

結婚して妻子をもった障害者社員はまだいないが、当然、家族手当の準備もある。

人事総務室の渋木清二室長

4月の新人歓迎会、9月の社員旅行、2月の新年会と、伝統ある会社だけに社員参加のイベントも盛りだくさんだ。イベントには、障害者の社員も区別なく参加する。特に1泊2日の社員旅行は、彼らも楽しみにしているという。

和気あいあいとした、まるでファミリーのような社風。

5. 短期アルバイトの依頼も

「授産施設や特別支援学校で話を聞くと、やはり『働きたくても仕事がない』という声を多く耳にします。リーマン・ショック以降はなおさらで、それまでパートやアルバイトで働いていた人たちもどんどん切られているというのが、厳しい現実のようです。とはいえ、我が社ですぐ人を増やすというのも難しいですし…」

知的障害者の雇用拡大に力を注いできた力石常務も、少し表情を曇らせた。

正社員としての受け入れを前提としてきた富岡商会だが、近年は繁忙期におけるアルバイト雇用にも取り組んでいる。

「毎年12月は、年末年始の進物の準備で平常の3倍の生産量になります。ギフトボックスの組み立てを手伝ってくれる人を紹介してくれないか、と授産施設『ぽこ・あ・ぽこ』にお願いしたのです」

先方からは「喜んで」との二つ返事。たとえアルバイトだとしても、働いたことのない知的障害者に「仕事」を体験させる絶好の機会なのだ。

現段階では繁忙期のみのアルバイトだが、力石常務は、一人一人の仕事ぶりを見ながら、「これは」と思う人がいれば、いずれ正社員として迎える機会もあるかもしれないと考えている。