トヤマ障害者雇用第一号物語
- 事業所名
- 株式会社トヤマ
- 所在地
- 神奈川県座間市
- 事業内容
- 研究機関向け実験装置・機器類、超高真空装置・機器類の設計製作
- 従業員数
- 94名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 装置・機器類の設計 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次
- ホームページアドレス
- http://www.toyama-jp.com
1. 初めての障害者雇用
「企業の社会的責任として、障害者を雇用しなくてはならないというのは十分理解していても、実際となると、やはり躊躇してしまうのが、多くの経営者の本音だと思います。私もそうでしたし…」
そう語るのは、株式会社トヤマの遠藤敬介社長。創業者の父・遠藤元正氏、兄・三紀夫氏に続き、2006年に就任した3代目である。
転機が訪れたのは2008年秋のこと。兄・三紀夫氏の座間市長就任と前後して、市の福祉部の職員から障害者雇用の現状について報告を受けたのがきっかけとなった。
「兄からも『座間市の障害者雇用率を少しでも高められるよう、モデルケースとして取り組んでほしい』と言われ、これは本腰を入れなくちゃと思ったのが、正直なところです(笑)」
冗談交じりに笑う遠藤社長だが、創業以来「ものづくりを通して世界平和のための科学技術発展に貢献する」を社業理念に掲げているだけに、社会貢献に対するトヤマの意識は高い。

トヤマは日本をはじめ、北米、中国、ヨーロッパなどの研究機関に向け、実験装置や機器類を設計・製造している。特に近年では、最先端科学技術研究に不可欠な夢の光=放射光の利用設備(ビームライン)で世界第一の技術を誇り、担当者は各国を飛び回っているという。
職人的センスを持った初代が裸一貫で立ち上げ、技術力を武器に、2代目、3代目と、50年余をかけ成長し続けてきたトヤマ。「社員全員が技術者」と言ってもいいぐらいだ。
そんな専門家集団で、障害者の社員に何の仕事をさせればいいのか…。遠藤社長が当初二の足を踏んでいたのも、その点だった。
「大人数の社員を抱える大企業なら、事務職など比較的誰にでもできるような仕事があるかもしれませんが、我が社は100人にも満たない中小企業。余裕はないので、障害者といっても戦力になってもらわなければなりません」
そこで考えられたのが、車いすの利用者だった。CADを使って図面設計ができる人なら、任せる仕事はいろいろある。
初の障害者雇用に向けて、トヤマの取り組みが始まった。

2. 車いす利用者を迎えるため
2008年10月、座間市の保健福祉部を通し、神奈川障害者職業能力開発校(相模原市)のCAD製図コースを学んでいた3人が、トヤマの本社・工場を訪れた。
そのうちの1人、原田拓さんが入社を希望。遠藤社長による面接の後、翌春4月1日に入社することが決定した。
「そこまでは順調だったんですが、さぁ、それからが大変だったんですよ」と言うのは、総務部の斉藤弘明部長。車いすの原田さんを迎えるにあたり、さまざまな設備の改修が急ピッチで行われたのだ。

斉藤弘明部長
まずはクルマで通勤する原田さんのために、本社・工場前の駐車場を整備することに。本来ここは社有車専用のスペースだったのだが、ドライバー席側に余裕があり車いすでも乗り降りしやすい場所を、原田さん専用の駐車位置に定めた。さらに駐車場にはアスファルトを敷き直し、建屋までの道を平坦に。
また、社員用下駄箱前の段差にはスロープを設置し、その奥にあるエレベーターに無理なく進めるルートを確立した。
「下駄箱前の段差を解消したおかげで、車いすが使えるようになっただけでなく、台車の搬入もラクになりました。誰もが利用しやすい『バリアフリー』というのは、こういう工夫のひとつひとつの積み重ねと気づかされましたよ」と、斉藤部長もニッコリ。
エレベーターはもともとあったので新設の必要はなかったが、車いすの人が出入りするのに必要な時間を考慮し、ドアの開閉時間を従来の15秒から20秒に、長めに設定し直している。

社員用下駄箱前に設置されたスロープを上がり、右奥のエレベーターに進む(緑の扉)
原田さんの職場となる設計部は3階だが、5階の来客用トイレが改修され、車いすでも広々と利用しやすいよう、工夫が施された。

入口には軽い引き戸を採用。小用便器にも手すりを据えた

便座の前スペースは、
車いすでも方向転換しやすいよう十分な広さがとってある
なお、駐車場とトイレの改修の際には、高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者作業施設設置等助成金」を活用し、工事費の一部を補っている。
3. 入社前に問題点を浮き彫りに
勤め始めて半年。そろそろ仕事にも慣れてきた原田拓さんに話を聞いた。
「初めてトヤマを訪れたときですか? 第一印象は、研究機関向け実験装置という特化した技術に誇りを持っている会社だと感じました。それに、設計から製造までを一貫して行っているので、ここなら『ものづくりの流れ』も学べるし、やりがいがありそうだと思いましたね」
以前はテレビ制作の助監督をしていたという原田さん。交通事故をきっかけに車いすの生活となり、その後、コンピュータソフトの制作会社に勤めたが体調を崩し、数年間の療養を余儀なくされる。職業能力開発校で学び始めたのは、体調が良くなってきたことと、やはり「社会に出て働きたい」という意欲からだった。
コンピュータの基礎知識がある上、もともとものづくりに関心が高かった原田さんにとって、CADを扱った製図の仕事は適正なマッチングだったといえよう。

とはいえ、久しぶりに社会に復帰した原田さんが、初めて障害者雇用に取り組んだトヤマにスムーズに馴染むことができたのには、ふたつのポイントがある。
ひとつは前述したように、トヤマが最初から「CAD設計のできる車いす利用者」と明確に採用方針を打ち出し、それに合った人材を募集したこと。
そしてもうひとつは、入社前に原田さんと会社とで何度も打ち合わせを重ね、働きやすい環境づくりのための問題点を浮き彫りにしたことだ。
「トイレの改修ひとつにしても、車いす利用者にとって本当に使いやすいようにするには、当事者の目線で見ることが一番なんです。今回は、会社が『気づいたところがあったら何でも指摘してほしい』と言ってくれましたので、細かく提案させてもらいました。入社後に『使えない』『やりにくい』といった問題になるほうが、よっぽど大変ですからね」
出社ルートづくりの際も、原田さん専用の駐車位置から建屋3階の職場まで、車いすで無理なく移動できるルートが何通りも検討され、現在の形に仕上がったという。
仕事に就きたい障害者からすれば、採用してもらえるだけでありがたく、会社に要望を伝えるなど考えつかないかもしれない。しかし実際に会社勤めをするなかで、「使えない」「やりにくい」などの環境的なストレスを我慢し続けると、働くことが苦痛になり、仕事に集中できなくなる。やがては、体を壊してしまうことにもなりかねない。
「ちょっとした改善でも、障害者にとってすごくラクになることはたくさんあります。健常者は気づいていないだけなんです。ですから当事者である障害者が、我慢せずに声を出していくことが大切です。それが会社にとっても障害者にとっても、最終的には良い結果を生み出していくことになるんです」
「早く会社の戦力となれるよう、頑張らないとね」と、決意を語る原田さんだ。
4. スキルアップのステージも充実
最後に、「社員が財産」と語るトヤマの社員教育について追記する。
トヤマでは、実務に必要な資格を取得するため、内部・外部でさまざまな研修を行っている。原田さんも例外でなく、日本真空工業会が主催する3日間の真空技術基礎講習会「真空ウォーキングコース」に参加した。同講習会では初めての車いす参加者だったいう。
「『車いすだから無理』と決めつけたらもったいない。積極的に研修に参加してもらい、どんどんスキルアップしてほしいですね」と総務部の斉藤部長。原田さんには真空技術者の資格も早く取得してほしいと期待している。
年に一度の社員旅行もトヤマの実験装置を納入した研究機関を訪れるなど、研修としての側面を徹底している。
「もちろん社員旅行にも参加させてもらいました。勉強になりましたし、他の社員ともぐっと距離が縮まった感じで、楽しかったですよ」と原田さん。
トヤマの一員として、確実な一歩を踏み出し始めている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。