接客業務に取り組み障害を乗り越えて共に成長する
~コミュニティカフェの運営を通して~
- 事業所名
- 特定非営利活動法人さばえNPOサポート「ここるcafé&lunch」
- 所在地
- 福井県鯖江市
- 事業内容
- コミュニティカフェ営業事業
- 従業員数
- 7人
- うち障害者数
- 2人
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 接客、食器洗い、清掃 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)概要
・ 「地産地消」「食育」の実践の場
・ 障害者・高齢者・女性の雇用と社会参加の促進の場
・ 様々な市民団体の連携・交流の場
上記のテーマの具体化を検討する中で「コミュニティカフェ計画」の話が持ち上がり、行政とのパイロット事業として指定を受け、市の施設である嚮陽会館内で平成17年3月25日に喫茶店の営業を開始した。特定非営利活動法人さばえNPOサポートが自主事業として管理運営を担当し、市内外の市民活動団体・個人ボランティアの協力を得て現在に至っている。
(2)障害者雇用の経緯
養護学校の校外活動において連携・協力をしていた関係で、平成16年度の第2回アビリンピック福井大会の喫茶部門において、その技能が評価されて金賞に入賞した養護学校の生徒を平成17年4月に卒業と同時に職場適応訓練で雇用したのが障害者との出会いであった。
更に翌年の第4回アビリンピック福井大会の喫茶部門で金賞に入賞した養護学校の生徒を8日間の職場実習を経て19年4月に、また、同じ大会で銀賞となった同校2年生を20年4月にそれぞれトライアル雇用した。
雇用と同時に彼らの指導に関してはジョブコーチの支援を受けた。本人達はアビリンピックの喫茶部門で入賞した技術があるので接客の基本的な動作はできるが、いろんなお客様が来る現実の職場では戸惑う場面が多く、ジョブコーチの支援は大きな力となった。また、他の従業員に対しては知的障害者の特性を説明し、対応の上で留意すべきポイントを指導してもらった。従業員も最初はどう対応したら良いかと不安な気持ちがあったが、指導を素直に聞く彼らに親しみを感じるようになり、良好な人間関係ができた。
最初に雇用した人は2年余り勤務した後、家庭の事情でやむを得ず退職となったが、2人(男性と女性)は紆余曲折がありながらも現在元気に勤務している。
2. 取り組みの内容
当法人には障害者雇用に関して経験やノウハウがあったわけではなく、市民の交流の場として「コミュニティカフェ」を開設する計画と、校外活動で連携をしていた養護学校との関係でタイミング良く雇用ができたのである。ただ、障害者雇用に際しては、彼らと一緒に勉強して私達も成長していこう、という理念の下に取り組みを始めた。
彼らの指導には、職場の従業員、両親、ジョブコーチ、養護学校の先生が、仕事に取り組む姿勢、接客、食器洗い、清掃等の仕事全般について援助をしてくれた。親は子供が働けることに感謝しており、できるだけ支援をして少しでも長く勤務できるように協力をしてくれる。社会人として仕事をしていく上で必要不可欠な挨拶、言葉使い、身だしなみ等については、家庭での対応も大切なので、両親と話し合いの場を持ちながら指導をした。
お客様の来店時の挨拶(声掛けのタイミング等)、注文受け、注文伝票の記入、コーヒー・ランチ等の出し方、お客様が帰られる時の挨拶、後片付けの仕方については、毎日の仕事の中で何度も繰り返し教えた。昼食時には多くの方が食事に来られるために、お客様から注文を受ける時に間違いが起き易いので、注文品の記入が簡単にできるように注文伝票も改善した。それによって、注文品を間違ってお客様に出すというミスはなくすことができた。
男性の障害のある従業員(重度)は声が大きく元気がある。お客様の中には「元気になれる」と喜んでもらえている。声が大きいことは活気があって基本的に良い事であるが、厨房内での会話は小さな声で話すよう指導する必要もあった。彼は手先が器用でなく、洗い物が苦手であったので、レジ打ちを指導したところ、レジの仕事ばかりをするようになり他の事が疎かになってしまった。現在レジ打ち作業には従事させていない。手荒れがひどいので、通院治療と、手袋を毎日交換するように家族に協力してもらっている。音楽に興味があり、店のBGMのボリュームを勝手に大きくして好きな歌を聴くようになり、お客様のための音楽だということを、理解するのに多少の時間がかかった。注文伝票に記入する文字は、大きく力強いが読み辛いので、書き取りの練習を指導し、とても上手になった。
女性の障害のある従業員(軽度)は、接客面では、女性らしくやさしく応対ができるようになった。ドリンクは、全て出来るようになり、お菓子作りは、少し補助すれば一緒に作ることが出来る。レジは、複雑でなければ出来るようになった。お店の仕事で好きな仕事は自分から進んで出来るが、嫌いな食器洗いは言われないとしないので、仕事としてではなく、きれいな食器でお客様に召し上がってもらう事を理解できるように指導していきたい。
彼らが卒業した養護学校とのつながりができ、生徒の作品を展示・販売している。売る側も自分達の後輩の作品を購入して帰られるお客様にお礼を言っている姿は大変微笑ましい。
商品を納入に来る生徒の皆さんも、自分の作品が売れていることに、作る張り合いが出ているようである。

接客

食器洗い

お菓子作り

養護学校の作品展示
3. 取り組みの効果
2人を雇用してから2年半と1年半が経過した。雇用当初は障害のある従業員をお客様扱いするところもあったが、家庭と職場との連携、ジョブコーチ支援を進めていくうちに自然体で接することができるようになり、時には厳しく指導して仕事の手順を理解し、また、うまくできた時には褒め、優しくコミュニケーションをとるように配慮した。障害のある従業員とともに働くことで、他の従業員が彼らとどう向き合ったら本人が新しい職場でチャレンジし成長していけるかを考えて試行錯誤していく中で、従業員自身が勉強し成長していった。
しかしながら、慣れてくると彼らも職場で大きな声で私語することが多くなり、従業員もお客様が多く忙しい時には指導する立場を忘れて彼らに接してしまう事もあった。そしてお互いのコミュニケーションがうまくいかなくなった時には、ジョブコーチをお願いして指導をしてもらうケースもあった。
そんな手探りの雇用状況ではあるが、2人が休まずに働いてくれている事が私達には大きな励みであり、両親を初めとする連携の大切さを痛感している。彼らが「ここる」を自分の職場として自覚し、収入を得る楽しみを実感して少しずつ成長していく姿を見守っていきたい。
4. 今後の展望と課題
養護学校を卒業後、縁あって「ここる」に勤務することになった2人にも早や2年半と1年半が経過した。もし彼らとの縁がなかったら、とっくに「ここる」は店じまいしていたのではないだろうか。現時点でも「ここる」は彼らあっての「ここる」であり、彼らに愛されてこそ「ここる」なのである。この点において、「ここる」は当初の目的をかたくなに守ってきたと自負しているのであるが、NPO法人の経営基盤は一般に軟弱であり、さばえNPOサポートも例外ではない。冬期、「ここる」の売り上げは最盛期の半分になる。資金繰りに四苦八苦は年度末恒例の当店の風物詩となっているが、いつまでも支援者の皆さんに甘え続けてばかりはいられない。厨房およびフロアーの備品等の更新も視野に入れながら、「ここる」らしい中期的な経営目標を年度内には作成したいと考えている。
経営能力のアップを図るために、この9月よりフルタイムのマネージャーを新規雇用することになった。特に「チームここる」 としてのスタッフ間の結束力強化は、「ここる」らしさを発信しながら事業継続を推進していくための生命線といっても過言ではない。チャレンジドスタッフが最大限に能力を発揮できる職場とは、どのような環境を有する職場であり、「ここる」のどこをどう変えていかなければならないのか。5周年の総決算として、これも年度内にとりまとめたいと考えている。
今後、第二、第三の「ここる」の地域展開を将来の事業目標として掲げていくのであれば、単なる継続ではなく日々の進化をこの店に課していかなければならないだろう。今、その重要な分岐点に「ここる」は立っているのであり、このような意思の共有化も、NPO法人を母体とする「ここる」の重要課題と言えよう。
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