障害者雇用の理念をしっかりと持ち、親の気持ちで接することを基本とする労務管理
- 事業所名
- 株式会社オーフジ
- 所在地
- 山梨県中巨摩郡昭和町
- 事業内容
- 観光土産菓子、米飯、惣菜製造
- 従業員数
- 55名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 9 製造、洗浄、箱折り、箱詰め 精神障害 - 目次


1. 事業所概要
(1)事業内容
昭和35年5月6日 | 深沢邦夫個人創業(観光土産品卸問屋) |
昭和49年3月 | 社屋新築(甲府市) |
昭和52年12月14日 | (株)大富士総業設立(観光土産菓子製造開始) |
昭和60年12月19日 | 本社移転・新社屋建設(中巨摩郡昭和町) |
昭和62年10月 | 炊飯事業部ライスセンター大富士開設及び工場新築 (炊飯事業部、食品加工重、低温室増築) |
平成2年5月 | 第二工場新築(洗浄機室、包装室、倉庫、箱折作業所増築) |
平成2年 | 障害者雇用事業所開設 |
平成4年 | 湯村ショッピングセンター内に「弁当処 ふく助」開設 |
平成5年 | 山交百貨店地下「弁当処 ふく助2号店」開設 |
平成9年 | 代表取締役に深沢邦彦就任、社名 株式会社 オーフジに変更 |
平成11年 | 第三工場新築(炊飯工場新築)【大型炊飯プラント導入】 |
平成16年1月 | 惣菜工場開設 |
平成16年2月 | 富士ビユーホテル売店開設 |
当会社は昭和35年5月に設立され、食品製造メーカーとして消費者が必要とするものを提供し、お客様を中心に会社運営を営んでいる。四つの事業部からなり、米飯事業部では白飯、酢飯、巻き寿司類、おにぎり各種、寿司セット各種、いなり寿司、赤飯を製造している。惣菜事業部では各種煮物(煮サバ、卯の花、桜もつ他)を製造し、菓子製造事業部では、液状泡餡(清里牛乳もち、リンゴ餅)、風林まんじゅう、ぶどうせんべい、信玄ほうとう、月のしずくを製造している。また、テナント事業部では、ホテル売店を受託している。

(2)組織構成
製造、営業、総務から成っている。
(3)障害者雇用の理念
創業者並びに現社長の思いとして、両親が健在である時はよいが、高齢になったり亡くなったりなどして、ケアする者がいなくなった時に、障害者が困ることのないように、しっかりと生活していくことを助けるような施設を創りたいという願いを持っている。
過去にも、長年勤務した障害者が、ケアをしてくれる家族がいなくなったために退職した事例があり、そのような切ないケースが起きないようにと、障害者とその親が一緒に働けるような施設づくりも視野に入れ、障害者雇用に取り組んでいる。また、障害者雇用を通じて地域貢献に尽力するとの志を持っている。
特に、先代社長である深沢邦夫氏が障害者雇用に対する思いを平成10年に自筆で書いた言葉があるので、原文のまま紹介する。
「だれよりも
速(はや)く
走(はし)れ
なくとも
いいし
たくさん
覚(おぼ)え
なくと
もいい
うれしい
気持(きもち)で
いたい
自分(じぶん)の
もっている
力をだれ
かのために
使(つか)えたら
いつもうれしい」
これは障害者雇用事業所内に掲げられており、常に目にすることができるものである。この言葉からは、障害者雇用にとっての根本的な要素としての深い愛情が感じられ、胸に迫るものがある。
また、この事業所を「障害者雇用の広場 オーフジの里 恵 めぐみ」と名付け、その看板も一緒に掲げられている。
これらはまさに、ノーマライゼーションの実現の取り組みであり、その理想そのものであると言える。
2. 取り組みの経緯、背景、きっかけ
取り組みの背景として、先代社長が障害者雇用に対して意欲的だったことが一番に挙げられるが、山梨県立わかば養護学校に対して、内職的な仕事をお願いしていたことが端緒となっている。
そのようなつながりもあり、地域貢献という観点からも養護施設に対して毎年遊具を寄贈しており、その額は年間50万円から100万円に達するものであった。
そして、お願いしていた仕事が衛生管理上発注できなくなり、平成元年から平成2年にかけて学校に発注していた仕事のための施設を当会社で整備した時に、それならばと学校の生徒さんの雇用を申し出て、15人を雇用したのが始まりである。
それ以降、山梨県立かえで支援学校より、毎年現場実習(※注)を受け入れており、社員として採用することが少なくない。

※注 現場実習
かえで支援学校の高等部では「産業・現場等における実習(以下現場実習)が行われる。小・中学校、高等学校で行われている職業体験・職場体験、インターンシップ(※在学中や卒業直後の学生が、自分の専攻や将来のキャリアと関連した就業経験を、一定期間指導を伴い行うこと)といった学習と同じような感じであるが、実施期間が12日間(土日祭日は除いて。なお期間は年度によって変わる)と長く、生徒の職業体験というものだけでなく、高等部卒業後の具体的な進路先探しの側面も併せ持っている。(山梨県立かえで支援学校相談・支援通信 第27号より抜粋)
3. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間
全員が期間を定めない契約となっている。
② 場所
会社施設内である。
③ 時間
半日などの短時間勤務とフルタイム勤務がある。
④ 賃金
現状では、フルタイム勤務の場合は月給、短時間勤務の場合は時給として最低賃金額の減額特例の許可を受けている。
(2)仕事の内容
主に箱折り・箱詰め(短時間勤務)と製造・洗浄(フルタイム勤務)がある。
① 箱折り・箱詰めの業務

箱詰め作業の様子

箱折り作業の様子1

箱折り作業の様子2

箱折り作業の様子3

箱折り作業の様子4

箱折り作業の様子5

箱折り作業の様子6

箱折り作業の様子7
② 製造・洗浄の業務

洗浄作業の様子1

洗浄作業の様子2

洗浄作業の様子3
(3)助成金の活用
助成金等の活用については次のとおりである。
① 報奨金
② 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業
③ 障害者雇用施設(2号棟)建設に対する助成

助成金を活用した2号棟
(4)労務管理の工夫
一.具体的な取り組み
当会社で実践している雇用管理の工夫を一言で表すと「障害者の親の気持ちで接する」ということに尽きる。過保護にしたり、特別扱いする必要はなく、一人でも自律的に行動できるようにすることが重要である。具体的には次のような点に特徴がある。
イ 段階的に作業レベルを上げていくこと
①段階 構内清掃
②段階 箱折り 通常3ヶ月程度
③段階 箱詰め(数合わせ)
④段階 健常者と混在する作業(製造・洗浄)
⑤段階 健常者と同じ仕事(製造・洗浄)
以上のように、⑤段階に到達するのに5~6年は必要とする。ただし、全ての障害者が⑤段階に到達するものではなく、個人毎に適した段階での就労となっている。なお、現在までに三人が⑤段階まで到達し、活躍している。
留意点としては、まず単純作業を徹底的に行うことで、自分のものにしてもらうことである。効率化を求めて、いきなりラインに配置したりすると、力を発揮できずに失敗することが少なくない。
したがって、障害者雇用に健常者と同様な効率化を求めることは適当ではなく、親の気持ちで仕事をこなしてもらうようにすることが肝要である。即ち、中小企業こそ障害者を活用すべきであり、また活用できると考えている。
ロ カウンセラーの配置
必要なときに随時、「社会福祉法人山の都福祉会 スカイコート勝沼」のカウンセラーの指導を受けられる体制となっている。
ハ 安全の確保
次のような安全対策を実施し、事故のないように徹底している。
① 出勤して会社に到着した際に親に連絡を入れる。
② 退社して帰宅した際に、親から連絡を頂戴する。
二.指導員からのアドバイス
実際に社内で障害のある社員を指導している方にお話しをお聞きしたので、紹介する。
平成二年から現在まで、一貫して障害者の指導を担当しており、そのノウハウは大変参考になると思われる。そのアドバイスは次のとおりである。
① ラインに配置したとしても、放っておかないこと。
② 人間的にも相応の人がケアやフォローをすること。
③ 根気よく愛情を持って接し、信頼関係を築くこと。

お話を伺った指導員の市川さん
以上であるが、ラインの他の従業員のちょっとした心を傷つける言動により、力を出せなくなってしまうことがあり、健常者はそのことに気が付かないことが多く、予防とフォローが非常に重要である。
これらの言動は、障害者や健常者に関係なく、パワハラなどの社内いじめとして職場環境を阻害し、労働意欲を低下させる最大の要因となる。ちなみに、昨年度の山梨労働局の総合労働相談コーナーに寄せられた相談(7,579人)の内、個別労働紛争に係る相談者数は2,263人で、「いじめ、嫌がらせ」については解雇等に次いで二番目に多い378件となっている。
したがって、「いじめ、嫌がらせ」のない、信頼関係に基づいた職場づくりをすることが、必要不可欠であり、そのことが健常者や障害者にかかわらず、従業員にとって働きやすい職場を実現することとなる。
その働きやすい職場は一段と活性化し、会社の成長発展に寄与することで、ますます労働意欲や職場環境が向上するという相乗効果並びにプラスの循環を生み出す結果となるのである。
4. 取り組みの効果
単純作業においては、まさにプロフェッショナルであり、健常者にとっても模範となり、刺激となっている。
また、仕事に対して純粋な喜びを感じているので、その姿勢を通じて周りの者を人間的に成長させていると思われる。さらに、成長させるだけではなく、心を和ませ、社内に暖かい雰囲気を醸成することに役立っている。
指導員の市川さんからは、言葉の使い方や楽しさなどを教わることがあるとお聞きすることができた。そして、障害者雇用を通じて、指導員として仕事をする喜びを感じることで、体力の許す限り勤めたいという意欲を引き出し、モチベーションを高めることにつながっている。
多くの企業の一般的な懸念である将来的な製品の多品種化等に対応できるかという点においては、全く心配していない。それは、仕事と仕事の間の仕事、一つの工程と一つの工程の間の隙間の作業は常に存在し、また必要不可欠のものとして必ず誰かが担当しなければならないものであり、それを専門的に処理することができるのは、当会社にとってかけがえのない大切な労働力だからである。
即ち、健常者と障害者が共に働くことは全く問題なく、むしろそれが自然の姿として存在している。
障害者雇用の理念のところでも触れたが、まさにノーマライゼーションの具現化である。先に簡単にご紹介したノーマライゼーションとは、一般的には、障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方をいい、発端は1950年代、デンマークの知的障害者の親の会が、巨大な知的障害者の施設(コロニー)の中で多くの人権侵害が行われていることを知り、この状況を改善しようという運動からスタートしたものである。障害者であろうと健常者であろうと、同じ条件で生活を送ることができる成熟した社会に改善していこうという営みのすべてをノーマライゼーションといい、障害者が障害がありながらも、普通の市民と同じ生活ができるような環境づくりこそがノーマライゼーションの目的とされている。
ここにこそ、当会社の取り組みである障害者雇用の最大の効果があると思われる。
5. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
将来的には労働力の高齢化が課題になると思われる。本人だけではなく、家族を含めた障害者の周りの方も高齢化することは避けて通ることはできないのであり、その時にどのように就業環境を維持・継続させていくかが実務的な大きなテーマとなるであろう。
(2)対策・展望
課題への対応として、将来的には授産施設の設立などを視野に入れて検討していきたいと考えている。
(3)総括
最後に、障害者雇用に関してのアドバイスとして、次の点が上げられる。
① 親の気持ちで指導していくこと
② 良い面を理解すること
③ 信頼関係を築くこと
④ 称揚すること
⑤ 実習からの採用が非常に有効であること
特に、実習中は周りも丁寧に指導でき、軽度、重度にかかわらずそのことが相互の理解を深めることに大きく役立ったことが認められる。したがって、障害者雇用に関しては、不安や戸惑いを軽減するという側面からも、実習からの採用を検討することは有力な選択肢と思われる。
また、労務管理の基本として、労使ばかりではなく従業員同士の信頼関係を築くことが非常に重要であり、それができれば、健常者、障害者にかかわらず、素晴らしい職場づくりが実現する。言い換えると、信頼関係のない職場には楽しさや和やかさがなく、成長や発展の見込み少ないということになるであろう。
当会社は信頼関係が構築されており、障害者雇用の理念がしっかりと実践されていることを確認できた。
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