長期的な育成に軸足をおいた雇用管理により、障害者が能力を発揮している事例
- 事業所名
- 株式会社ユニセン
- 所在地
- 山梨県甲府市
- 事業内容
- 各種業務用クリーニングとリネンサプライ及び販売
- 従業員数
- 100名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 クリーニング仕上げ補助作業、仕分け 肢体不自由 内部障害 知的障害 6 洗い場、クリーニング仕上げ補助作業、仕分け 精神障害 1 クリーニング仕上げ補助作業、仕分け - 目次


1. 事業所概要
(1)事業内容
昭和61年9月30日に設立され、各種業務用クリーニングとリネンサプライを中心に次の業務を展開している。
①各種業務用クリーニングとリネンサプライ及び販売
・ シーツ、布団、タオル、浴衣等の寝具類
・ 各種ユニフォーム、テーブルクロス等のテーブルリネン
・ 一般ドライクリーニング、その他クリーニング
②ホテル及び病院等の備品、消耗品の販売とリース
・ ベッド、布団、家具、厨房設備他の備品類
・ 歯ブラシ、クシ、カミソリ、洗剤、ペーパー他の消耗品類
・ 業務用 除菌機、消臭機、分煙機の販売とリース
③ビル、店舗の出張クリーニングと改装工事
・ ビル、店舗の内外のクリーニング
・ ジユータン、壁紙、タイル等の張替え
・ カーテンの製作とクリーニング
・ 店舗の設計と工事

(2)経営方針
当企業は、事業主が鋳造業からリネンサプライ業に業種転換を図り現在に至っている。
事業を含めた全ての面で自然体で臨み、必要事項以外は規制せず自由に伸び伸びと仕事ができるような人材活用を心掛けている。したがって、ついてくる従業員は能力をますます能力を発揮するし、去る者は引き留めない方針である。このような経営方針により、毎年3~15%の成長を続けている。
(3)組織構成
事務、営業、工場から成っている。
(4)障害者雇用の理念
事業主の思いとして、障害者と健常者が分け隔てなく働けるゆとりのある会社を目指しており、また、当企業の業種は、障害者雇用の確保が務めであり使命でもあるとして障害者雇用に取り組んでいる。
これらはまさしく、企業としてのノーマライゼーションの実現の取り組みであり、その理想そのものであると言える。
2. 取り組みの経緯、背景、きっかけ
取り組みのきっかけは、会社を設立して4年後のクリーニング業を主に営んでいた頃に、ハローワーク(公共職業安定所)の職員から障害者雇用を非常に熱心に説得されたことであり、その説得にほだされるような格好で試験的に1人採用したのが始まりである。
説得されるまでは障害者雇用について、ほとんど意識がなかったのも事実であり、熱心な職員の説得が全ての始まりといっても過言ではない。
最初に採用した障害者は知的障害者であり、てんかんがあることも知らずに採用することとなった。その方はてんかんの発作により急に倒れたりすることもあり、配置や応急処置等で対応に戸惑う場面もあった。全く始めての障害者雇用であり、その時点では当企業には障害者雇用についての知識や経験を持っている者は一人もおらず、まさに試行錯誤の連続であり、障害者雇用の大変さを痛感する経験となった。しかしながら、事業主の思いでもある障害者雇用の理念の「障害者と健常者が分け隔てなく働けるゆとりのある会社」の実現に向けて、その後もハローワークを通じて障害者を採用し続け、多くの従業員が障害者雇用に関してのノウハウ的な経験を蓄積することができた。その経験が蓄積される過程において、従業員に次第にいろいろな意味での気遣いが生まれ、障害者の雇用管理に関わる者と関わらない者とに自然と分かれてきた。当企業としては、障害者対応を全従業員に強制することは考えておらず、あくまで自然体で臨むことが運営方針であり、このような状態に至ったことは決して否定や悲観するものではなく、むしろ合理的かつ効率的な障害者雇用の環境が整備されたものとして肯定的に受け止められた。
そして現在に至るのだが、今も多くの障害者雇用を継続できているのは、ある一人の重度の知的障害者の雇用を通じて、障害者雇用に対する不安が自信へと変化したことが、本当の意味でのきっかけであり、かつ最大の理由であると言えるかもしれない。
現実問題として、その大きな変化を経験するまでは、障害者を雇用しても定着せず、半年くらいで入れ替わることも少なくないなど、不安を抱えたままでの障害者雇用であった。
その歴史的な転換点となった重度の知的障害者の方は、半年くらいの間失禁や勝手に早退するなど、当企業からすると多くの問題を抱えた状態であった。
そのような状態が続いていたが、入社後10ヶ月程を境に、突然仕事に目覚めたように感じられるようになった。まさに突然という表現がぴったりするくらいの変化が起きたのである。それは衝撃的ですらあり、その事実を受け、会社全体が障害者雇用に対する革命的な意識変化を起こしたと言っても決して言い過ぎではない。
それは何かというと、職場適応力には個人差があるということ。
即ち、初めは大変だが、適応力が身に付けば間違いなく仕事を覚えるということを実感できたのである。これは、従業員が障害者雇用の労務管理の本質的な何かを体得した瞬間と言えるだろう。この実体験が非常に大きいインパクトとなり、不安を払拭する意識改革につながったのである。
受け入れる従業員側の変化としては、障害者雇用を長い目で見ることができるようになったことが最大のポイントであり、今では事業主が指示せずとも、従業員達が現場実習(※注1)の対応なども含め全て面倒を見られるようになっている。
その知的障害者の方は、3年程度で機械の使い方を覚えるなど、本当に成長を実感できるまでになったことで、今度は周りの従業員が、「障害者雇用というのは成長するということ」を心の底から初めて理解したのである。この経験と理解が、障害者雇用に対する自信につながっている。今では、遅刻や休みなどの連絡を、家族などでなく必ず自分自身で会社に入れるようになり、特に休みの連絡はきちっと1ヶ月前に申し出るなど、他の従業員が見習うようになった程である。さらに、短時間からフルタイムへと勤務時間を延ばすなど、戦力として活躍しており勤続10年以上となっている。
その重度の知的障害者の方を雇用する経験を通じて培われた「長い目で見るゆとり」と「必ず成長するという確信」が、障害者雇用に対する気持ちを不安から自信へと変えたのである。
※注1 現場実習
現場実習は主に、養護学校の生徒を対象として1~3週間の期間で実施している。また、現場実習のねらいは次のとおりである。なお、現場実習は教育活動の一環として実施されるため、賃金等は発生しない。
◎生徒にとって
・ 勤務中は、仕事が続けられるように努力し、働く習慣を身につける。
・ 働くことの厳しさや喜びを体験を通して学ぶ。
・ 職場内のルールや職場の方々との関わり方を学ぶ。
◎学校にとって
・ 校内での作業学習の成果を確認するとともに、社会参加に向けた課題を探り、今後の取り組みの参考とする。
◎事業所にとって
・ 同じ職場で働くことによって、障害のある人の特性を理解できる。また、雇用の可能性を探るきっかけにもなる。
3. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間
現場実習からトライアル雇用を経て、期間の定めのない契約を締結している。
② 場所
本社工場、第二工場である。
③ 時間
1日の所定労働時間は、4時間、6時間、8時間などとなっており、成長レベルに応じて変更することがある。
また、バス通勤が主なため、本人の希望に応じて運行時間に合わせて設定するように配慮している。
④ 賃金
時給であり、最低賃金の減額の特例許可は活用していない。生産性という点から見ると、明らかにマイナスからのスタートであるが、成長することにより、能力発揮として健常者の約50%まで到達することを期待している。また、その能力発揮レベルに応じた報酬を目安としている。
(2)仕事の内容
主にクリーニング仕上げ補助としての仕分け作業などであり、洗い場の作業を担当する者もいる。また、クリーニング及びリネンサプライ業は、障害者が普通に働くことが可能な仕事内容であり、障害者の雇用機会を確実に確保できる業種として認識している。
① 洗濯後の寝具を仕上げ機に投入する作業


② テーブルクロス等を仕上げ機に投入する作業


③ 寝具を投入コンベアーに載せる作業(本社工場)



④ タオルのビニールパック作業

⑤ 洗濯後の寝具仕分け作業


⑥ タオルを自動タタミ機でたたむ作業

⑦ 洗濯後の寝具を自動投入機にセットする作業

⑧ 寝具を投入コンベアーに載せる作業(青葉第二工場)

⑨ ユニフォーム等をハンガーに掛ける作業

(3)助成金の活用
助成金等の活用については次のとおりである。
① 報奨金
② 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業
③ 試行雇用(トライアル雇用)奨励金
④ 特定求職者雇用開発助成金
⑤ 重度障害者等雇用促進助成金
(4)労務管理の工夫
○具体的な取り組み
当企業では、以前はジョブコーチの支援を受けていたが、現在はほとんどない。というのも、上記2.取り組みの経緯、背景、きっかけで触れたように、従業員達が現場実習対応も可能なほどに成長したからであり、たった一人の障害者雇用の成功体験が労務管理の大切さとそのノウハウを体得する機会を与えてくれたのである。
ポイントは次のとおりであるが、実務的な対応に重きをおいた内容となっている。
① 障害者だけの部署を設けるような人員配置をせずに、健常者と混合の配置(健常者5人に障害者1人位の割合)を心掛ける。
・ 健常者と混合で配置することにより、障害者の進歩につながる。
・ 「自分もやる」、「給与を得るにはこれくらい働かなければ」という気持ちにならなければ伸びない。このような気持ちが育つのに半年程度は最低必要である。
・ てんかんの発作が起きる可能性がある場合は、機械等の周りには配置しない。
② 叱りすぎてもダメ、叱らなくても成長しない。
・ 叱る程度やタイミング、受け止め方などを現場実習を活用して見極める。
・ 過保護に接することも避けるべきであり、特に管理職に対してはバランス感覚を身に付けることが求められる。
③ 重度の障害者雇用に積極的に取り組む。
・ 重度の障害者だからといって敬遠する必要は全くなく、むしろ育成して成長することにより責任感が生まれ確実に戦力となる。即ち、重度の障害者雇用に取り組むことは人材活用の面で有効である。
・ 障害者の方の成長が、周りの従業員にとっても喜びや高揚感をもたらす。
④ 障害者雇用を利用して会社の収支をどうにかしようなどと決して考えない。
・ 助成金は有効な制度だが、それを目的とすることは本末転倒である。
⑤ 会社の方針として、障害のある従業員へのいじめや嫌がらせは絶対に許さない。
・ 職場全体の信頼関係の点からも、いじめや嫌がらせを行った場合は、解雇も含めた厳正な処分を科すくらいの姿勢が必要である。
⑥ 良いところは積極的に認めて誉めて、必要に応じて小休止している場合は見て見ぬ振りをする。
・ 人は誰でも認めてもらうことが意欲につながるものである。
・ ストレスやプレッシャーに関しては、健常者の何倍も感じやすい場合が多く、自分だけ小休止をしていることを罪悪感的に意識することもある。したがって、このような場面では、見ていない振りをすることでストレスやプレッシャーを感じないように配慮する。また、障害のある従業員の親などから菓子折等を頂戴した場合は、皆に知らせたりすることはしない。このようなケースも、ストレスやプレッシャーの原因になることがあるからである。
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お話を伺った上司の小島さん
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○上司としての接し方
管理職から「以前、障害のある従業員の親から、「仕事に行くのが楽しくて仕方がない」と本人が言っているのを教えてもらい、上司として嬉しく何事にも代えられない喜びを感じた」という話を聞き、労務管理の基本が何かを感じとることができた。上司としての接し方として、次のような工夫が挙げられる。
① やらせてみて気づいたら言ってもらう。
・ 気づくようになるまで教える。
② 上司としての壁を取り払い、友達感覚で接する。
・ 上司であることを全面に出して頭から押さえつけない。自分の息子のような、兄弟のような感じで接する。このような認識に到達するまでに4、5年を要した。
③ コミュニケーションが大切であり、声をかけることが非常に重要である。
・ 声をかけることが、パニックを抑えることにつながる。
全体を通じて、話しやすい関係を作ることが求められることがわかる。上記のような工夫により、思いやる気持ちが分かるようになり、従業員との接し方にも自然と生かすことができている。即ち、管理職としてのレベルアップにつながっていることが認められる。
4. 取り組みの効果
会社としては、障害者雇用を通じて公益的な役割を果たすという使命感と、そのことに取り組んでいるという幸福感や満足感、あるいは高揚感を感じることができる。この気持ちは、会社としての障害者雇用に対する継続的取り組みを動機付けることにもつながっている。即ち、あくまで企業の社会的責任としての取り組みであり、利益追求の手段ではない。利益追求の一つの手段として障害者雇用を考えた場合は、全くメリットはないと断言できる。
人材活用の点からは、障害者の方が常に一生懸命仕事をしている姿を見て、皆が頑張る気持ちになり、職場全体が活性化されるという効果が確かにある。
さらに、人材育成という点では、障害者の方自身が成長することは言うまでもないが、周りの従業員並びにその上司が成長したことが認められる。思いやりや優しさ、辛抱強さ、周りを見る目(心配り)などが確実にレベルアップしており、管理職としての言動や指導力等も数段成長していることは、何にも代え難い大きなメリットである。
5. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
労働力の高齢化や要多能工化というような問題は起きないと思われる。現に70歳以上の従業員もおり、高齢化は課題にはならない。むしろ、労使紛争的トラブルの方が問題と考えている。労使紛争的なトラブルが起きると、当然企業は対応に追われるが、障害者雇用におけるトラブルは影響が極めて大きく、解決まで時間を要するように感じられる。したがって、トラブルがあると、障害者雇用に消極的な気持ちになるおそれがある。
(2)対策・展望
課題への対応として、労使紛争的なトラブルを防止するために、採用の精度を上げることや日々の労務管理を確実に行うことが考えられる。
また、将来的には工場の増設等を考えており、障害者雇用を増やすことも視野に入れている。
(3)総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のような点が挙げられる。
① 理解と忍耐が必要である。
② 障害者雇用で採算ベースを考えると失敗する。
③ 大きく成長する姿を見られることが喜びと楽しみとなる。
④ 周りの従業員へプラスの影響(与えられた仕事をしっかりとこなす姿勢)を与える。
⑤ 奉仕の気持ちを持つことが大切である。
⑥ 1人目、2人目くらいの障害者雇用の取り組みが、今後を左右するほどに大事である。
⑦ 身近に障害者の方がいる従業員がいることで、他の従業員が対応を自然と学び、全社的に労務管理がスムーズとなる。
以上であるが、当企業は障害者雇用を長期的な人材育成という視点で捉え、障害者ばかりではなく健常者も含めた全体の成長を実現していることが認められる。
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