職場介助者を活用した障害者雇用
~本人(障害者)のスキルを活かすため~

1. 事業所の概要
当事業所は、1999年に民間放送事業を行っている静岡放送株式会社情報システム局が分社独立、設立された。情報システムの企画立案から設計・開発・保守・コンサルタント業務に至る一貫したサポート・サービスを提供する事業を展開している。地域の情報化と地域社会の発展に貢献することを理念としている。
主な業務内容は、
・ 地方自治体や中核病院の情報化を支援する情報システムの提供や一貫したサポート
・ 静岡新聞・静岡放送グループに対するポータルサイトや社内システムの構築支援
・ 民間企業に対する基幹業務システムからWebサイトの構築
・ 顧客の業務効率化を支援するアウトソーシングサービスの提供
・ 顧客の情報資産を管理・運用するアウトソーシングサービスの提供
等々である。
重度視覚障害者1名を5年前から、また内部障害者1名を1年前から、聴覚障害者1名を今年3月から雇用している。障害者3名は別々の部署に配属され、それぞれのスキルが活きる業務を行っている。
2. 障害者雇用の経緯
障害者雇用については、当社設立から5年を経過した2004年、NPO法人静岡ピアサポートセンターからアドバイスを受け、ハローワーク(公共職業安定所)の紹介を経て視覚障害者の身体障害者手帳2級を所持するUさんを面談した結果、3ヶ月間、トライアル雇用することになった。
2004年6月から8月末まで3ヶ月間トライアル雇用、2~3週間ずつ社内の各部署を体験してもらい、その結果総務本部に配属された。2004年9月から契約社員として採用となるが、4年後の2008年9月、能力が高く評価されて正社員に昇格となった。
身体障害者手帳2級は重度障害のため、法定雇用人数は2人とカウントされる。2004年に従業員80名の当社の雇用率は2.5%となり、企業の社会的責任を果たすことができることとなった。
前職では営業の第一線で働き、パソコン技能にも優れているUさんのスキルは、様々な助成金制度を活用したことにより当社にとっても負担の少ない雇用に結びつき、またUさんの自己実現を可能にした良い事例だと思われる。

3. 取り組みの内容
2004年6月からのトライアル雇用制度活用に始まり、様々な障害者関連の助成金制度等を活用し、Uさんの正社員登用が実現するまでの経緯は以下の通りである。
①2004年6月~2005年8月
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(当時)から以下の障害者就労支援機器等を借り入れる。
・ 視覚障害者向けノート型パソコン
※インストールソフト: | 画面読み上げソフト | 95ReaderVer5.0(通称XPリーダー) |
画面拡大ソフト | ZoomText Xtra Level1(Ver7.1) | |
活字音訳ソフト | ヨメールVer6、よみともVer5.5、らくらくリーダーVer2.21 | |
音声ブラウザソフト | ホームページリーダーWindows版Ver3.01 |
・ パソコン接続型カラー拡大読書器
・ 卓上型カラー拡大読書器
②2004年8月~2004年11月
静岡障害者職業センターを通し、ジョブコーチ支援を受ける。
③2005年1月
作業施設設置等助成金(第1種)を活用し、以下の就業機器を購入する。
・ 視覚障害者向けノート型パソコン
※インストールソフト: | 画面読み上げソフト | 95ReaderVer5.0(通称XPリーダー) |
画面拡大ソフト | ZoomText Xtra Level1(Ver7.1) | |
活字音訳ソフト | ヨメールVer6、よみともVer5.5、らくらくリーダーVer2.21 | |
音声ブラウザソフト | ホームページリーダーWindows版Ver3.01 |
・ 拡大読書器
・ インパクトプリンタ
・ ICレコーダー
④2008年4月
・ 障害者職場介助者の試みとして障害者施設指導員の経歴を持つMさんをアルバイト雇用し、Uさんの職域拡大を図る。
⑤2008年9月
・ Uさんを契約社員から正社員に採用、購買業務担当となる。
同時にMさんを正式な障害者職場介助者として契約社員採用し、障害者介助等助成金の制度を活用する。
⑥その他賃金助成制度の活用
・ 特定求職者雇用開発助成金
・ 雇用奨励金(静岡市単独事業)
重度視覚障害者の受け入れについては社員の理解と協力が不可欠である。総務本部では社員向けに「6月から雇用の障害者社員について」という文書で事前にUさんへの理解を促した。その中の一節を以下に引用してみた。
「障害状況: | 見た目は健常者と変わりありませんが視神経障害による視覚障害者です。 通勤歩行、社員食堂利用は慣れれば全く支障はないと思われます。 視力は0.01のため、人の顔は判断ができず個人の特定はできませんので、 「Uさん、○○ですが」というように声をかけることが必要です。 イエロー、ブルー系、白黒はぼんやりわかるようですが、その他の色は見えにくいため、足元の位置が固定されない障害物(ゴミ箱)などは注意が必要です。・・・」 |
また、全国障害者スポーツ大会実行委員会が作成したガイドブックから、「障害のある方へのおもてなしガイド」を抜粋し「このガイドブックを参考にUさんに温かく接するよう心掛けて下さい」と社員に啓発をした。
こうした取り組みは新入社員の教育の一環としても取り入れられ、コミュニケーションスキル研修ではUさん自身が講師の補助役を務めている。
Uさんは現在46歳。ここに至る道のりは決して平坦ではなかった。36歳で罹患して視力が低下、視覚障害者となった当時は障害の受容ができずに途方にくれ、精神的にも落ち込んで1年間は家に引きこもった生活を送っていたと言う。しかし家族(妻と子ども3人)の支えがあり一念発起。パソコンの勉強に精を出し文書処理技能検定資格を取得し、この職場と出会うことができた。
入社後4年間は医療事業本部において管理帳票・議事録の作成や電話対応、用紙の受発注管理などの総務補助の職務を行っていた。罹患してから習得した音声入力パソコンの操作技術がここで活かされると同時に、日々の努力の積み重ねでさらに上達していく。その磨かれた技能により2006年10月のアビリンピック全国大会パソコン操作の部で銅賞を受賞。Uさんに輝かしい実績と自信をもたらしたことは言うまでもない。
しかし当業務も初めから充分に行えたわけではない。特に、専門用語を覚えるには大変な努力が必要であった。議事録の作成のため、会議現場にも出席し難解単語の研修も重ねたが自分としては50%のできだったとUさんは語る。
こうした中で、16年間勤めた前職の営業経験を活かすことはできないかと事業所側でUさんの職域拡大について検討をしていたところ、職場介助者にかかる助成金の存在を知り、2008年、職場介助者の配置をする。
4. 取り組みの効果
職場介助者には、静岡県社会福祉人材センターの紹介で福祉関係の職歴のあるMさんという人材を見出した。Mさんの雇用がUさんの職域拡大につながり、総務本部内の仕事効率も上がった。
職場介助者配置前のUさんは拡大読書器で文字を判断した音声パソコンへの入力業務が主だったが職場介助者の配置で入力業務の効率化に加え、Uさんの前職で得た交渉能力が活かされる業務に就くことになる。入力業務では隣の席に座るMさんの読み上げた申請伝票を、Uさんが片方の耳で声を聞き取り、もう片方の耳にイヤホンをつけて、音声パソコンで入力を行う。そして入力した自分の文書や数字に間違いがないかをチェックしながら、二人の連携で伝票の印刷までを行う。
購買業務においても、社内の申請伝票類のチェックから、業者からの見積金額の値引き交渉・納品物品の確認・事後伝票処理までの一連の業務をUさんとMさんの連携で行い実績をあげている。
Mさんの1日あたりの介助業務は6時間30分から7時間であり、Uさんのよき相談相手となっている。
また、Uさんの明るく温厚な人柄と誠実な仕事ぶりは、周囲の刺激にもなっており、職場に活気をもたらしている。

介助者Mさんの読み上げる伝票を入力するUさん

拡大読書器
Uさんのアビリンピック出場をきっかけに取締役が内部障害(心臓機能障害1級)のあるTさんと出会い、採用を決めたのは2008年の1月である。Tさんは医療事業本部に所属。持ち前の明るい性格を活かして取引先をまわり、主にパソコンシステム導入時のインストラクター業務を行っている。
また、2009年3月には聴覚障害6級のSさんを採用し、品質管理本部に配置する。品質管理本部は3名のチームで活動するため、常時話し合いを重ねている。聞き取りが苦手なSさんのために周囲の社員は立ち位置に配慮するなどしているが、入社1年目ということもあり、会社業務の全般を把握し仕事を覚えるために出席する様々な部署での会議出席は、Sさんにとって鍛錬の場である。そんなSさんの頑張りも職場の刺激となっている。Sさんは補聴器を使用しているが聞き取りづらいときには何度でも聞き直すよう上司は促している。Sさんの入社をきっかけに職場でのコミュニケーションの重要性を職場の皆が実感し、再認識している。

作業風景
5. 今後の展望と課題
3人を雇用する際に、特に障害者に限定して求人を出したわけではないが、特記すべきは障害者の配置に適した業務と適さない業務とを見極めたうえで、マッチングする人材を積極的に受け入れるという事業所の姿勢である。
営業のスキルをもっと活かしていきたいと語るUさんは営業部門の取締役が毎週主催する営業会議にも参加し営業担当者とのコミュニケーションを深めている。購買業務や営業支援業務等で部署をこえて評価をされており、職場介助者を配置した効果が上がってきている。今後、3人それぞれの持つ資質を充分に活かし、さらなるスキルアップが図れるよう配慮を重ねていきたい。
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