一人の大切な看護助手として働き続けるために
- 事業所名
- 鈴鹿さくら病院
- 所在地
- 三重県鈴鹿市
- 事業内容
- 医療業
- 従業員数
- 158名(平成21年8月10日現在)
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 看護助手(2) 精神障害 - 目次


1. はじめに
鈴鹿さくら病院(以下、本院)は、精神科を中心とする内科、認知症専門の病院で、219床の入院設備を有している。また、精神科訪問看護やグループホーム等を有し、地域に開かれた医療の実現に取り組んでいる。
その本院において、障害者雇用に取り組むようになったのは平成17年4月のことである。きっかけは公共職業安定所(ハローワーク)の障害者雇用担当者からの斡旋で、1名の知的障害者を雇用したことに始まる。当時の本院における担当者は、知的障害者を一人でも雇用することで、地域に貢献することが出来れば、との思いで引き受けたとのことであった。それ以降にもう1名の知的障害者を公共職業安定所からの依頼で受け入れており、この方については障害者総合相談支援センター(以下、支援センター)の職員も間に入ってフォローアップをしていただき、現在では合計2名の知的障害者が看護助手(以下、知的障害のある看護助手)として勤務をしている。(なお支援センターは、現在雇用している両名の採用及び職業継続におけるフォローアップを担っている)
2. 受け入れにあたって
知的障害者を従業員として受け入れるにあたり、本院としてどのような業務を担ってもらうことが可能なのかが検討され、その結果、看護助手として患者の身の回りの世話や病棟内の清掃などが可能であろうとの判断がなされている。その判断の適切さを見極めるために、本院では実習を行っている。実習期間は約1ヶ月であるが、それはあくまで目安であり、現在雇用しているうちの1名は、担当となった看護助手の方とマンツーマンで仕事を一つ一つ、根気強く指導し、現在のようにほぼ仕事を任せることが出来るようになるまでに2年かかっている。しかしこのときに根気強く指導をした結果、他の誰よりも確実に、手順を省略することなく、業務を遂行するので、現在では新規採用した看護助手に対し、業務を教えるまでになっている。教えられた看護助手は、確実な手順を教えられるため、知的障害があるとは気づかなかったというぐらいである。これは一つには知的障害者の障害特性ともいえるのかもしれないが、真面目に業務に取り組み、欠勤することもほとんど無い勤務態度が本人においては、評価をされている。
もう1名の知的障害のある看護助手の採用に当たっては、実際に同じ知的障害のある看護助手の働いている姿を見て、前の職場の雰囲気とは異なり、安心して働くことが出来ると、自信を持って就職をしている。面接では母親が同伴し、本院における業務の説明を看護部長からされている。面接では勤務内容から考えられる要素として、患者と会話が出来るかや、勤務時間の9時から16時まで立って働くことの出来る体力があるのかなどを確認されている。
この知的障害のある看護助手の受け入れにあたっては、病棟の責任者に対し、障害特性やストレス反応など気をつけて対応することが必要な点を具体的に伝え、指導方法やストレスのサインを見逃さないように依頼をしている。また病棟責任者だけでなく、一緒に勤務する看護助手にも同様に、障害特性などを説明している。このように責任者レベルで対応を任せるのではなく、現場の同僚にも統一した対応を依頼することで、これまでに離職をすることなく、職場定着できていると考える。
3. 配属及び職業トレーニングについて
2人の知的障害のある看護助手を配属するに際しての配慮として、1人の方は人と話しをするのが苦手で、自分から積極的に話しかけるよりは、聴かれたことに答えることは出来るタイプであり、病棟の看護助手の仕事が、全体としてあまり話しをすることなく業務を行う、認知症患者の多い病棟に配属している。もう一名の方は以前に看護助手として勤務していた経験があるので、その経験や話しをするのが好きであるという個別性を考慮し、患者との会話の比較的多い精神内科に配属している。もう一つの理由としては、最初に採用した知的障害のある看護助手の職業トレーニングをした方がこの病棟に配属されており、指導経験のある方が最適だろうという配慮もある。
職業トレーニングについては、OJTで行われており、指導は主に看護助手のチーフが担っている。そのチーフが知的障害のある看護助手の仕事の習熟度を判断し、一つの仕事を確実に出来るようになったのを見計らって、次の仕事を教えるようにしている。これにより、仕事に変化ができ、ステップアップしているという自覚を本人に持たせることが出来ている。また知的障害者が不得意とする、複数の仕事を同時に覚えて実行するということから解放されるため、障害特性に応じた仕事の理解や習熟が図られている。
4. 働き続けるための配慮として
知的障害のある看護助手が本院において、リタイアすることなく就労継続できている要因としては3つ挙げられる。一つは家族、もう一つは支援機関、最後に職場内の他の職員である。
家族については、看護部長の考えから、病棟責任者に対して特に母親との関係つくりを大切にするようになっている。看護部長自身もそれを実践しており、知的障害のある看護助手は両名ともに自転車で通勤しているので、雨の日等は母親らが送迎をしており、迎えに来たときには母親の姿を確認すると、時間を空けて挨拶や話しをしに行き、本院での勤務状況や近況の情報交換を行なっている。また病棟責任者も何かあれば密に連絡をとるようにしており、その結果、何かあれば母親からも連絡が入るようになり、そのことが日々の状態を把握し、働きやすさを考える一つのポイントになっている。二つ目の支援機関は、先にも挙げた公共職業安定所(ハローワーク)と支援センターとなっている。公共職業安定所の職員と看護部長は地域の会議の場で顔を合わせることがあり、そこで知的障害のある看護助手の現況を報告している。また支援センターは母親と定期的に連絡をとっており、そこで得られた情報などをもとに本院に対して必要と思われる連携を図っていることや、本院に来院し、実際に働いている様子などを見聞きして本人たちの状況を確認するなどしている。
最後に最も大切なのが、職場の同僚や知的障害のある看護助手を取り巻くその他の職員である。実際に各病棟で働いている様子を昼食時に見せていただくと、それぞれの個性や特性に応じた関わり方を心がけており、時には雑談などをしながら、行動を見守っている。もちろん知的障害のある看護助手の両名も、何もせずにそこにいるのではなく、自分で仕事を判断しながら、次に誰のところに配膳をし、誰の食べ終わった食器を回収すればよいのか、手が空けば自分が出来ることはないのかを考えながら業務を遂行していた。その中で、必要に応じて他の職員が指示や促しをしている場面も見られたが、その言葉も具体的になされており、分かりやすい内容となるように心がけていた。勤務場面以外でも、通勤経路に不審者がいれば、自宅近くまで無事に帰れるように見守りをしたり、事故が発生すれば、その対応のフォローをしたりとすべての職員が両名を気にかけている様子が窺えた。

食べ終えた食器の分別回収の様子。
誰の指示も受けずに行なっている

食事を終えた患者のエプロンを外し、
移動準備をしている

患者とコミュニケーションをとりながら食事を待つ
5. これから
現状としては、今以上に看護助手として障害者を受け入れることは困難であると考えておられるが、例えば内部障害などであっても看護師免許がある方など、部署や職種によっては受け入れ可能であるようである。また特別支援学校等からの実習の受け入れについても、可能な限り対応する用意もされるとのことなので、今後、様々な職務の開拓と受け入れで障害者雇用の拡大も期待できる。しかしながら当面は、現在就労している2名の方がさらにステップアップをし、働き続けるだけでなく、キャリアに応じた職業生活をおくることが期待される。

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