知的障害者の新たな職域開発、医療・福祉現場での活躍
- 事業所名
- 財団法人 信貴山病院
- 所在地
- 奈良県生駒郡三郷町
- 事業内容
- 医療・介護・福祉施設(病院等、デイケアセンター、在宅介護センター、グループホーム、看護専門学校)
- 従業員数
- 994名
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 4 看護助手、事務職、医療相談、調理補助 内部障害 4 看護助手、調理師、訪問介護 知的障害 4 看護助手、ベッドメイキング、調理補助 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
信貴山病院グループでは、奈良県生駒郡三郷町に所在する総合医療福祉施設「ハートランドしぎさん」を中心に、病院施設における医療活動だけでなく、より豊かにするための心のケアで力になりたいと、グループの総力をあげて取り組んでいる。
昭和9年12月開設の信貴山病院(精神科50床)が75年の歳月を経て、今日の総合医療福祉施設「ハートランドしぎさん」である。信貴山病院グループの中核を占めている。
この間、昭和31年信貴山病院上野分院開院(精神102床、順次増床昭和61年410床)、昭和49年信貴山看護専門学校開校、平成5年信貴山メンタルクリニック開設、平成6年信貴山病院に老人性痴呆疾患センター開設、また奈良盆地とその東に隣接する伊賀盆地に病院、診療所、訪問看護センター、デイケアセンター、在宅介護センター、グループホームなどを開設し、医療、介護、福祉活動を展開している。
心のケア、豊かな生涯づくりをめざして、常に患者さまと向き合い、患者さまの立場に立ち、その場その時に応じた最良の医療サービスを提供している。ハートランドグループはネットワークとチームワークで精神科医療に本気で取り組んでいる。~人と人の心がふれあう確かなホスピタリティを実現するために~
2. 障害者雇用の経緯
平成10年5月に信貴山病院を全面新築移転し、「ハートランドしぎさん」と改称した。また、平成16年12月に分院上野病院を全面新築移転した。
こうした施設整備に伴い、ここ5~10年間に当院の常用労働者数は急増し、また、平成16年4月に障害者雇用率制度における除外率が10%引き下げられたため、企業全体として、障害者雇用率が未達成となり、加えて、この前後にダブルカウントの重度障害者2名が退職したこともあり、これを契機に人事部門(運営管理部)と看護部長が主となって障害者雇用に積極的に取り組み、知的障害者の採用にも機会あるごとに一層の努力を重ねてきた。
平成17年11月2日に開催された「雇用機会拡大会議」「障害者雇用情報連絡会議」にハローワーク(公共職業安定所)の要請を受けて、人事部門と看護部長が出席した。また平成17年3月23日には行政主催の合同面接会に参加し、19名の方と面接し、最終的には専門学校卒業生の身体障害者1名と知的障害者2名(高等養護学校卒業予定者及び大阪市障害者福祉事業団の生徒等)を内定し、知的障害者2名は一週間の実習(清掃、シーツ交換など)を経て採用した。
その後も奈良労働局、ハローワーク、当協会、奈良障害者職業センター、特別支援学校等と情報交換し、また、障害者雇用促進会議やセミナーに積極的に参加する中で、県立高等技術専門校の指導員から卒業予定者1名の推薦があり、やはり一週間の実習を経て、700病床をもつ当病院の食堂の朝・昼・晩の3食の調理補助(洗物、盛り付け担当)として受け入れることとした。軽度の知的障害者ながら、担当業務に精励し、職場になじみ、保護者からも喜ばれている。
さらに、平成21年3月に県立高等技術専門校から、もう1名推薦を受けて卒業生を受け入れた。職種は看護助手として職場配置し、現在は試用期間中である。
看護助手として配置するには、初心者でもあり高度の看護・介護・介助の技術を要する病棟を避け、軽度の患者が入院する病棟にジョブコーチ・指導者をつけて配置し、この病棟では、正職員には夜勤があるが、この際、就業時間も昼間だけとし、職場の上司、業務遂行援助者、障害者職業生活相談員を中心にした職場定着推進チームの働きに多くを託した。
3. 取り組みの内容
(1)障害者の従事業務、職場配置
障害の部位や程度にもよるが、障害があるということで必要以上に業務負担を軽減したり、特別扱いしたりはしていない。賃金面でも健常者と同じレベルで処遇している。もちろん新入社員の職場定着をめざして家族との連携を図ることもあるが、本人の努力と忍耐で働く意欲も高まり、早い時期に独り立ちしてきている。採用後、必要に応じて就業形態の変更、配置転換や職域開発、職務再設計を考慮することとしている。
平成21年6月1日現在、知的障害者4名、身体障害者8名(うち3名重度障害者)が働いている。(知的障害者のみ抜粋)
Aさん(知的障害) 看護助手業務(ベッドメイキング、食事介助、入浴介助、清掃)
Bさん(知的障害) 看護助手業務(ベッドメイキング、食事介助、入浴介助、清掃)
Cさん(知的障害) 調理補助業務(盛り付け、配膳、洗い場等)
Dさん(知的障害・パート) 調理補助業務(盛り付け、配膳、洗い場等)


(2)内容
障害者の採用については、人事部門、看護部門そして医師も加わり、行政及び障害者職業センターの指導、支援を受けながら、院をあげて障害者、特に知的障害者雇用を進めるために職場開発、職域開発を検討している。なお、障害者の新規採用は、ハローワークをはじめ、高等養護学校、特別支援学校等の紹介である。常日頃から求職情報をキャッチし、合同面接会に向けて求人申込をしている。また、高等養護学校等との連携も常々図っているところである。
なお、知的障害者の職場への受け入れと定着に取り組むに当たって
【 準 備 】
身体障害者の雇用に取り組んだ経験と実績をもとに、人事部門(運営管理部)と看護部長とが協議を重ねた。受け入れる職場の確保、職場開発、労働条件の検討、雇用環境の整備、ハローワークへの求人、障害者職業センターでの職業評価、職業リハビリテーション計画の策定、ジョブコーチ等の支援体制、配属勤務場所の決定、指導方法(業務手順・仕事のやり方、業務日程など)、障害者が働きやすい環境づくり、就業に支障が生じた場合の対処など周到な検討と準備をした。
【ジョブコーチ・指導者】
2週間の職場実習がスタートするとき、直接担当する指導者、ジョブコーチ等が支援することとなる。ジョブコーチは実習生の特性や性格を把握し、実習中の仕事ぶりや職場環境面に留意して、必要な助言とサポートをする。
まず1日の業務予定を決め、次に1週間単位のスケジュールを立てる。これに基づき職場実習を実施し、その間、実習の進捗状況を勘案し、必要により軌道修正し実習の効果を高めることとする。
一方、病院の指導担当者は、実習期間中の同時進行で、実習期間が終わって雇用に移行した後の就業者支援・サポートを担当する立場から、就業者本人の特性や性格を把握する。
【 実 習 】
① 言ってきかせる
いきなり実習に取り掛かるのでなく、これは大切な仕事であること、お客さんに喜んでもらう仕事であること、丁寧に仕事を続けること、仕事の手順を一つ一つ区切りながら、順序だてて説明する。このため業務工程表、業務日程をあらかじめ用意する。
② やってみせる
仕事を教えるとき、指導者は説明したときと同様に、仕事の手順を一つ一つ区切りながら、順序だてて説明しながら作業をやって見せる。次にポイントを言いながら作業をやって見せる。更にもう一度ポイントの理由を簡潔に分かりやすく説明しながら作業をしてみせる。
③ やらせてみて
そうしてから、今度は見守りながら、実習生に初めて実際に作業をしてもらう。まず黙って作業をしてもらう。第2回目には主なステップを言いながら、初心者なりに格好がつくまで。第3回目にはポイントを言いながら仕事をしてもらう。理解していることが分かるまで。これを繰り返して仕事を身につけていく。
④ 結果を見る
その実習途上において要所となるところで、実習の成果を評価し、見極めながら、良い点をほめ、勇気付けて、やる気を持ってもらう。安心と安全に係ること、仕事のコツ・勘所、注意点を示したり、時には仕事の喜び、働くことの楽しさを実感してもらう。
⑤ 留意点
仕事は、適切な単位に分割して、小単位の習熟をメリハリつけて段階的に重ねる。はじめは厳密に手抜かりなく確実に作業をしながら、理解していることが分かるまで。上達するに連れて作業者の自主性を育てるよう指導者が心配りし、職場を愛し、仕事に誇りを持ったベテランの社会人に成長するにつれ、緩やかな指導へと移行していく。障害者の就業と自立を求めて。
4. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット
医療、介護、あるいは福祉事業は、いずれも人に心のこもったサービスを提供する事業であることから、障害者といえども健常者に伍して働く意欲と能力が必須である。
熱意と自覚をもって励むことが職場を明るくし、障害者が元気に働く姿が職場の活性化につながっている。
知的障害者を雇用するのがはじめてであったことから、接し方も良く分からず職員に不安があったが、まず熱意を持って仕事に励み、着実に成果を上げ、出来る仕事の範囲を広げていく皆さんの姿が職場に明るさと活気を招いた。
仕事の内容や労働条件などに特に格差を設けることなく、障害者の就労と自立をサポートしてきたので、障害者が生きがいと働き甲斐を持って仕事に精を出し、これを見て周囲が「あの人も頑張っている。私もしっかりしよう。」と励まされる場面もある。
「医療福祉サービスの提供に職員の真心をそえて」職員が働く現場で知的障害者が陰日なたなく、こつこつと仕事に打ち込むこと、それが医療福祉施設で自らの心と体の養生に打ち込む施設利用者の共感を呼ぶこととなる。
このことのみならず、当病院入院患者の多くが高齢者であることから、病室で働く看護助手たちとのコミュニケーションが自分たちの孫世代との会話であるため、なかなか良い評判を得ている。
5. 今後の展望と課題
障害者雇用については雇用率を達成している、未達成であるかないかの問題ではなく、働く意欲と能力のある人については、今後とも、行政、障害者職業センター、雇用開発協会及び特別支援学校等の指導、連携のもと新規雇用を継続したい。
なお、現在雇用中の4名の知的障害者は優秀な職員であり、今後も採用することについては異論はないが、職場定着推進チームにより、職場開発、職域開発、また社員の理解度等々を勘案し、最大何名まで雇用が可能なのかについて検討を重ねたい。
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