職業安定機関と特別支援学校の連携により雇用がされた事例
- 事業所名
- オカモト産業株式会社
- 所在地
- 奈良県磯城郡三宅町
- 事業内容
- 自動車用芳香剤、消臭剤、小物用品等の企画開発及び製造、販売、家庭用芳香剤、消臭剤等の企画開発及び製造、販売
- 従業員数
- 166名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 組立業務、出荷業務補助 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
オカモト産業株式会社は、1970年に岡本製作所としてプラスチック及び電気器具組立業として創業した。その後、生産工場を開設し、生産ラインを増設、生産能力と品質の強化に努め、1980年に株式会社岡本製作所を設立した。培ってきた生産技術とノウハウを活かし、1984年に自動車用芳香剤やギフト商品などの商品開発・製造・販売を開始し、オカモト産業株式会社と社名を改めた。
その後、東京都、福岡市、仙台市に営業所を設置すると共に、各事業部を拡大し、芳香・消臭剤の自動車用市場、家庭用市場、雑貨市場にまで視野を広げ、顧客・消費者の要望に応えられるオンリーワン商品づくりとサービスに力を注ぎ、信頼関係の醸成に努めている。
「信頼と品質のブランド」がテーマで、自動車用芳香・消臭剤が「CARALL」、家庭用の芳香・消臭剤が「Jupia」という名称で企画・デザイン・設計・製造すべてを当社で一貫して行うなど、MADE IN JAPANのモノ作りにこだわっている。これからはカー空間に限らず、日常生活での居住空間、オフィス・店舗・作業場などの各部屋・スペースを快適にする新商品を提供していきたいと考えている。
2. 障害者雇用の経緯・背景
(1)経緯・背景
昭和59年(1984年)に企画開発部を設置して自動車用芳香剤及びギフト商品の企画開発・製造・販売を開始したころ、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)や養護学校から卒業予定者の職場実習受け入れの熱心な依頼を受け、はじめて知的障害者を受け入れたのがきっかけである。
当時は、1人また1人と夏休みや秋の職場実習をした。職場実習は実習として、それはそれで終わるのだが、そのうち卒業時期を前にして、特に当社への就職を希望する生徒が出て、それではと半年~1年の職場適応訓練を経て当社に入社ということになった。訓練期間中は、会社が常に公共職業安定所や養護学校とも連携しながら指導、支援した。ご家族の支援、本人の努力により社会人として職場になじみ、仕事に習熟して自信をもって働けるようになった。
こうして何人かの知的障害者を採用し、何人かの人々が退職していったが、20数年勤続で、在職中の2人の障害のある社員が生産活動の一員に加わり、いまやベテランの中堅社員として活躍している。このところ、世界同時不況から消費需要も低迷し経営環境も厳しい状況であるが、障害者の雇用について職場開発などに取り組んでいるところである。

(2)従事業務・職場配置
Aさん・・・ |
昭和59年3月入社、25年勤続。芳香剤の組立作業(容器本体にキャップをはめる)に従事している。長年まじめに一生懸命な仕事ぶりが認められ、平成20年に高齢・障害者雇用支援機構の理事長表彰を受けている。
電車の駅で一駅ぐらいの近隣に居住し、自転車通勤をしている。月1回病院に通院する以外は遅刻することもなく、出勤10分前には入門し、作業衣に更衣し始業準備を完了する。
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Bさん・・・ |
勤続20数年、倉庫業務に従事している。40歳台の男性で、化粧ケース詰めにした芳香・消臭剤を梱包荷造りした大きな段ボール箱の出荷業務(倉庫の保管棚から段ボール箱を30~40ばかりパレットに積載し、ハンドジャッキ台車を操作して、トラックに積載するために、出荷口まで運ぶ)を担当しているが、この者も以前に協会長表彰を受けている。
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3. 取り組みの内容
(1)職場での生活・コミュニケーション
障害特性や過去の生活環境、就労経験の違いから、その場に応じた立ち振舞いとか言葉遣いがうまくできない。こんな場合は、挨拶、返事などの基本的マナーから身につけてもらう。選任した指導者が寄添って、障害者が会社に出勤し、共同生活のなかで仕事につき、働き、退社するまでの日常行動の基礎的部分を学んでいく。指導者が整理したマニュアルを手元に、障害者の会社での対人関係・コミュニケーションが上手に展開されるようサポートする。また2人して具体的な場面や適切な態度・行動が出来た時の安心と喜びを実感しつつ、これを確かめながら継続して指導を積み重ねる。あせらず段階的に、そして着実に、ときには一息いれながら。
職場実習が始まる。作業現場で、作業をしながら仕事を教える。このとき指導者が気をつけていることがある。言って聞かせて、やってみせる。やらせてみて、教えたあとをみる。
この各々の場面で言葉のやりとりがあるが、その際、あいまいな表現は避けて具体的にはっきりと簡潔に言い伝える。ときには例示を見せて、口頭だけでなく、時間や数字をメモに書いてみるなど、いろいろ工夫をする。何か問題が発生したときには、どこが問題なのかを、具体的に指導者から直接本人に伝える。
職場内の習慣や暗黙のルール、作業要領や手順をしっかりと身につけてもらうために、これらを明文化している。具体的な行動や時間・数字をあげるなど目に見える形で伝え、行動をうながす。たとえば一定の行動が終わったときにどのようにするのか、それを誰に伝え、次の行動について誰に指示を受けるのか、次は何をするのか、空いた時間に何をどうするのか、一つひとつを具体的に指導している。
指導するとき、その場その場に応じて、指導者が指示、命令、注意を与えているが、それが①望ましい行動へと導こうとして「きっかけ」を与えようとしているのか、それとも②望ましくない行動や望ましい行動があって、それを目の前にして、これらに一定の評価をしながら、その結果を次の行動にむけて「フィードバック」させようとしているのかによって指示、命令、注意の留意点、重点を変え、メリハリをつけている。
まず①「きっかけ」動機付けの際には、どのような作業が望ましいのか、その望ましい作業が、どんな結果に結びつくのかを具体的にわかりやすく説明し伝えるようにしている。そして②次の行動にむけて「フィードバック」させるときには、なぜ、作業の何をどう評価し、その結果を次の作業にむけてフィードバックしようとしているのかを、今回の事例をもとにして、分かりやすく具体的に指導者が指示、命令、注意を与えていく。
例えば、「○○は良く出来た。しかし××、ここのところは良くない。次にはこのように。・・・Yes.But方式」で伝える。相手の立場に立ちながら、具体的に落着いて、感情的にならない、大声で怒鳴らないで指導者が指示、命令、注意を与えていく。不安な心理を取り除き、一人ひとりがパニックになったり、不信感、孤立感にさいなまれないように作業環境を整えながら、実習から採用入社につなげていく。
(2)作業実習・採用・指導・支援・自立
① 採用の条件
採用の条件として、健康であること、一定の体力、気力、作業能力が必要である。毎日毎日通勤ができること、本人の職業生活について必要に応じて家族の協力支援が得られること、日常生活のリズムを維持できることなどがある。
一日中そこで作業するのだから、採用面接の際、作業場にただよう「匂い、香り」が「良い匂い」か、「いやな臭い」か、どう感じているかを確かめている。
② 就労配置
一人ひとりの障害の特性や就業経験の度合いなどを考慮して、その人の適性と能力を見極めて職場配置する。会社が指名した指導者を軸に作業環境を整え、職場適応への挑戦がはじまる。作業手順に従って作業を進めていく。ジョブコーチの支援をうけたり、配置転換や職務内容の見直しを試みたりしながら、作業を身につけていき、仕事に習熟していく。
③ 職場実習
職場実習では、マニュアル、作業手順書を手元に、絵を描く、言って聞かせ、やってみせ、やらせてみる、あとを見る、といった指導をしている。こうして実務を通じて具体的にマンツーマンで指示、命令、勇気づけ、励まし、注意しながら本人の成長を寄添ってサポートする。
④ OJTで作業を身につけ、職業人に
実習者が作業をする過程で、実務の遂行を続けさせながら、指導者が実習者を指示し、指導し、学習を支援し、育てる。この密着指導のOJTが意欲とヤル気を引き出し、徐々にサポートの密度を下げていければ、仕事に誇りと自信をもった一人の職業人への成長へと繋げることができる。
⑤ 作業の段取り・作業手順書
作業を的確に進めるために、作業手順書を作り、これを使う。作業手順書には、作業時間、作業の手順・段取り、使用する工具・道具などを取り纏めてある。毎日の作業の段取りを作業日程表で明示し、作業が完成する区切りごとに作業記録票をつけて作業の進行を管理する。作業現場の事故防止・安全衛生の確保に最大の注意を喚起している。
⑥ 指示した作業手順を守り、基準規格合格品を
完成品、不良品の良し悪しを写真や実物をもって視覚に訴え、具体的に明示し、製品の品質を作業者に意識させる。また疲れや慣れから来る作業の乱れが生じたら、作業時間を短めに設定しなおし、こまめに出来具合をチェックする。こうして製品の質、作業能率(分量)の両面から、めざす作業時間や作業量の目標に対する本人の達成意欲を引き出す。
長時間持続した作業では、疲れや慣れから注意力や判断力が低下しがちとなるから、適宜休憩時間をとり息抜き、気分転換、リフレッシュしてのち再び取り組むようにしている。これは時間の分割である。次に作業の分割では、複雑な作業は小単位作業に分割してこれを一つ一つ毎に完成させ、そのあと小単位作業をつなぎあわせて複雑な作業を完成させていく。
⑦ 仕事の勘とコツを伝授
勘・コツの伝授になかなか秘訣が見出せない。当社では、「言語化」「視覚化」して具体的に完結に伝えようとしている。
言語化するとは、ドライバーでネジを締める。「右に10回まわすと硬くなるから、そこでもう一度グッと力を入れて1回だけしめつける。」など、より具体的に言葉にして伝授している。
視覚化とは、工具の置き場を指定するのに、絵図で指定する、色分け、形・型、大きさの違いを用いて明示する。バケツに水をはるのにあらかじめバケツに喫水線をつけておく。など工夫をしている。
(3) 安心と安全の確保、休憩時間のすごし方、余暇活動
通勤途上の事故、仕事場での事故から、社員の身を守らなければならない。まず予防に全力を集中し、ヒヤリハット事故防止対策を講じる。身近な職場の安全衛生に取り組み、社員教育を繰り返し徹底する。障害者の場合、家庭との連携を密にし、本人に会社や自宅への連絡先を書いたカード・メモを携帯してもらうなどの工夫をすることもある。
余暇活動について、旅行や会社の行事に社員の一人として参加を呼びかけるようにしている。日ごろ就業時間中の疲れや緊張を解きほぐし、明日からの仕事や社会生活への鋭気を養う機会を持ちたいものである。また休憩時間は、できれば社員の皆さんと一緒に過ごし、うちとけて会話や談笑、心身のリフレッシュが出来るようにしている。
4. 取り組みの効果、障害者雇用のメリットと課題
(1) 障害者本人の懸命な仕事振りが周囲へ波及し、活気のある職場となった。
(2) 職場のスタッフとのコミュニケーションが工夫されて和やかな雰囲気である。
(3) 障害者も、いきいきと輝いて働き、生産性が向上した。
(4) 他の社員の教育や研修、自己研鑽のきっかけともなった。
(5) 障害者同士が切磋琢磨し、生きがい働きがいを手にいれ、育ち、育て合っている。
(6) 「初心者を指導し、独り立ちをサポートし、ベテランへと育て、成長を支援する。」
というこの一連の継続した取り組みを経て、職場に「仕事が好きになる。キャリアアップに共に
精を出す。」という勤労感謝の明るい風土が生まれている。
当社の知的障害のある社員は、学卒後まもない若年時に入社して働きはじめているので、周囲がみんな先輩・年上である。親子ほどのジェネレーションギャップがあることもある。普通に見ればこれは、コミュニケーションの垣根となることであるが、若者と高齢者が意外に心をかよわせて、職場での生活を明るく醸し出していることもある。
個人差が大きくなるものの、人は加齢による影響で、心身能力の低下、製品の仕上がり品質のばらつき、勤労意欲の減退に見舞われる。出番を用意し、仕事を評価し、成果をほめ、自信をもって仕事をしてもらうために、これらに対して配置転換、多様な就業形態の活用、能力開発、作業改善、作業環境の改善、健康管理の推進、余暇活動、生活支援などの各分野での就業支援を検討している。
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