事業所名

株式会社池利

所在地

奈良県桜井市

事業内容

食料品（素麺、はるさめ、くずきり）製造業

従業員数

107名

うち障害者数

2名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	製品の検品、結束、箱詰・梱包
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	0
精神障害	1	製品のねかし、小引き、かど・わけ、かどぼし（乾燥）、裁断

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯
3. 障害者の従事業務、職場配置
4. 取り組みの内容
5. 取り組みの効果、今後の課題

事業所外観

1. 事業所の概要

江戸時代の嘉永3年（1850年）創業、伝統の手延三輪素麺メーカー。昭和27年株式会社池利商店を設立、平成7年株式会社池利に社名変更。現在は三輪素麺に加え、はるさめ、くずきりの生産販売にまで力を注いでいる。

社訓に真：すべて事を為すに心を込めて社業の遂行にあたること
信：常に身を持するに謙虚にして企業に必須の信用をえること
伸：誇りある製品を創造し常に伸長すべく努力すること
を掲げて、代々伝わる手延べの技を受け継ぎ、研鑽し、技を磨いてきた。また食の安全と安心が問われるこの時代、次世代の感性で食のニーズに応えるべく、三色そうめん等、幾多の新商品を開発して独自の麺文化を提案している。

2. 障害者雇用の経緯

当社では障害者雇用に従来から取り組んできたが、短期間で離職されることが多くあり、このことから、管轄ハローワーク（公共職業安定所）と雇用開発協会に相談し、障害者トライアル併用求人申込を行い、障害者の受入態勢の整備と職場定着について助言を受けた。

この頃、学卒後、職業経験・離転職の経験があり、その間病気のため離職し、病気療養、回復後は障害者就業・生活支援センターのサポートを利用しながら社会復帰を目指す求職者がハローワークで職業相談をし、障害者職業センターの支援を利用することとなった。このハローワークと障害者職業センターの連携により、職場実習、ジョブコーチによる支援事業が当社の素麺工場で実施された。

総務部課長と工場長など幹部社員が協議し、直接指導するリーダーに一人の係長を指名し、研修準備を整え、障害者の受入れを行った。この職場実習の後、1年間の職場適応訓練を経て、当社に採用の今では、1日5.5時間のパートタイマーの1人として働いている。

もう一人は、聴覚に障害があり、職業経験も豊かで、ハローワークと障害者職業センターの連携により、トライアル雇用の後、当社に入社し、1日7時間のパートタイマーの一人として働いている。

二人とも休むことなく、毎日元気に自宅から通勤し、素麺製造工場で基幹作業を担う一員として活躍している。こうして現在働いている障害者は、聴覚障害者1人、精神障害者1人である。

当社では障害者雇用がしばらく途切れ、障害者雇用率未達成解消に取り組んでいるところ、ハローワーク、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなど行政、関係団体・機関の支援を利用した。

3. 障害者の従事業務、職場配置

工場長を中心に新規雇用の障害者の職場配置について再三検討を重ねた。素麺の製造工程は、①コネ、②油がえし、③ほそめ、④カケバ、⑤ねかし風呂、⑥小引き、⑦かど・わけ、⑧かどぼし、⑨裁断、⑩検品、⑪結束、⑫梱包・箱詰などがある。

これらの作業のうち、一人の者は、体力が必要であるが、機械の操作を要さない安全な職場を考慮し、⑤ねかし風呂、⑥小引き、⑦かど・わけ、⑧かどぼし、⑨裁断の職場に配置した。そしてもう一人の者は、主に⑩検品、⑪結束、⑫梱包・箱詰の作業の担当とした。

作業の様子

4. 取り組みの内容

精神障害者の受け入れは当社としては初めてのことであり、戸惑いと不安があった。ハローワークの熱心な要請、雇用開発協会の助言、その前後に障害者職業センター等の職業リハビリテーションサービスを利用し、ジョブコーチによる支援、障害者等の職場適応を容易にする支援があった。それに、就業・生活支援センター等からの激励、訪問支援があり、仕事での自己実現、職業自立へのサポートがあった。

このたびの障害者の受け入れに際し、当社では素麺工場長、4人の係長、各班の主任、リーダー、障害者職業生活相談員、障害者雇用推進員などが協議した。

工場長は短期・低コストでの高品質製品製造・生産性向上の責任者であると共に、安全と危機管理の元締めでもあり、日ごろから社員の一人ひとりに「あなた方の自らの親・兄弟姉妹・子や孫と同様に、この工場で働く老若男女の安全と安心を」と呼びかけ、自らも工場の設備・機械の整備、職場環境の清潔・整理・整備・整頓など快適な就業環境の整備に取り組んでいる。

この工場では働く老若男女の一人ひとりが連携して、新しく仲間入りする障害者が働きやすい環境と体制作りと心のバリアフリーを心がけている。

4人の係長、各班の主任、リーダーは、共同して、ときにはマンツーマン方式で、従業員全員を包含したチームワークでもって、貴重な生産要員の一人となるように職業人へとサポートをしている。最初はもちろんマンツーマンのOJTで、専任のリーダーが訓練・指導し、作業に習熟するよう支援をしながら、それを根気よく繰り返し、技能が身につき慣れるにしたがって、その密度なり回数を減らす。なにしろ55人の先輩とともに働くこの作業工程はベテランの匠熟練工のいる素麺作りの基幹的な部分であり、製品の品質管理の面からもそこに働く作業員の一人ひとりの労働の質、その内容が要求される職場である。ときには苦しいこと、つらいことがあったと思うが、「働いて、世のため人のために役立っていることを喜べる」達成感をもってこれを共感できる。そんな職場実習、トライアル雇用や職場適応訓練の日々を貫いた本人の強い意志、営々と続けた努力、ご家族の支援の賜物である。

この工場では4人いる係長のうち、指名された1人が職業生活の相談支援を行い、マンツーマン方式で最初の2～3カ月OJT訓練を織り込んだ技能養成をしている。そのため、一人で機械操作もしながら検品、結束、箱詰め作業に従事し、いきいきと働いている。

障害のある社員の二人ともが随分努力した甲斐もあって、入職後今日まで規則正しく働き、体調を崩したり、休むこともなく精勤の日々、仕事に勤しんでいる。

5. 取り組みの効果、今後の課題

障害者雇用を契機に、働く職場の雰囲気が明るくなった。障害者も普通に働く、仕事振り、能率、できばえ・・・なにひとつ違いがない。あたたかい心のこもった働き甲斐のある職場であるからノーマライゼーションをそこに見出される。

何よりも障害者自身の「働きたい、お役に立ちたい」との気力、体力、能力、努力、精進があるからこそである。幸いにして障害者の二人ともにすでにライフスキル、ソーシャルスキル、コミュニケーション力、仕事力を身につけた勤労者であったのは何よりである。

それぞれのご家族の熱い思い、二人をここまで職業人に育成・支援したその過程で形成された職場のチームワーク、職場改善と生産性向上に反映されていることに取り組みの効果、障害者雇用のメリットをみる思いがする。

当社では、「心のバリアフリー」を念頭に、障害を乗り越えて、共に働き、共に生きる職場づくりを目指して、職場配置の工夫、多様な就業形態の活用、能力開発、作業改善、作業環境の改善、健康管理の推進、余暇活動、生活支援などの各分野での就業支援を常に検討している。