障害者雇用は、地域貢献と「一人の同じ人間として尊重する」を基本に、従業員への教育・啓発を図る
- 事業所名
- 高知県食鶏農業協同組合
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 県産ブロイラー(若鶏)の加工処理・販売
- 従業員数
- 52名
- うち障害者数
- 10名
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 10 洗浄・鶏解体作業・検査補助 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要等
(1)概要
{設立年月日}平成3年2月19日
{出資金}15,000千円
{従業員数}52名(事務5名、工場47名)
[内障害者数]知的障害者10名(重度3名)
{関連事業所}三栄ブロイラー販売株式会社、三栄商事株式会社
(2)組合設立の背景、経緯
高知県食鶏農業協同組合(以下{組合})は平成3年2月19日、高知県内の養鶏農家を組合委員として設立されている。組合役員はすべて養鶏農家で、非常勤である。
同組合が設立される前から、高知県内では、三栄ブロイラー販売株式会社(資本金9千万円、本社:香川県高松市)がブロイラーの処理加工販売、飼料の販売を手がけていた。また、三栄ブロイラー販売株式会社の関連会社である三栄商事株式会社が高知県内養鶏農家にブロイラーの生産(養鶏)を委託してきた。
つまり、高知県食鶏農業協同組合の設立によって、県内養鶏農家が組織化されるとともに、現在地の加工処理施設を三栄ブロイラー販売株式会社から引き継ぎ、そのことによって、ブロイラーの加工処理、販売を組合事業として実施することとなった。
(3)組合運営の理念と処理・加工・販売
組合は、「ひとつの命を大切に!」の社是の下、「一羽のにわとりに私たちの安心と安全を注ぎ込み、ありがとうの心と共に届けます」を経営理念として、県産ブロイラー(若鶏)の加工、販売を事業内容としているが、熟成期間が短い鶏肉の特性(屠鳥(とちょう)*1後8時間位)を踏まえて、短時間での処理解体加工を行い、製品化することに努めている。
搬入されたブロイラー(7千羽/日)は、その日のうちに処理され、解体加工される。すなわち、1次(屠鳥、血抜き、羽毛除去など)、2次(各部位のとりはずし、検査、パッケージなど)、3次(精肉加工など)の処理・加工が行われる。これらの全工程での衛生管理、獣医と有資格の補助員による検査を徹底させている。
販売先は、県内が6割、県外が4割である。県内の販売先は量販店や荷受け(中間業者)などであり、県外は荷受け(中間業者)を通じて県外の量販店等に販売している。
*1 屠鳥:家畜等の動物を殺すことを屠殺ないしは屠畜というが、食鳥の場合は屠鳥と呼ぶ。
2. 障害者雇用の理念、経緯、背景
障害者雇用については、社会貢献の立場から地域雇用への貢献の一環として位置づけるとともに、従業員については健常者であれ障害者であれ「一人の同じ人間として尊重する」こととしており、従業員への教育・啓発の基本としている。
障害者雇用に取り組むことになった経緯、背景については、三栄ブロイラー販売株式会社が現在地で加工・販売を行っていた当時から障害者を受け入れており、組合設立後もそれを継承し前向きに取り組んできた。
これまで、日高養護学校と山田養護学校から年に1~2回実習生を受け入れ、研修を1~2週間行っている。障害者の雇用は、欠員があれば、養護学校の卒業生を採用してきた。最近では本年初め、ハローワーク(公共職業安定所)と養護学校の働きかけを受けて、求職中の障害者1名を中途採用した。

3. 障害者雇用の実績
障害者雇用は、前身の三栄ブロイラー販売株式会社も、昭和46年から取り組んできた。また、昭和61年4月から勤務していた障害者を、組合設立後も引き続き雇用するなど、障害者雇用が行われている。
以前は養護学校卒業生を新規採用してきたが、本年初め、別の職場で働いていたが不況で雇用継続ができなくなった障害者を中途採用で受け入れるなど、障害者の雇用促進に積極的に取り組んでいる。
現在働いている障害者は10名であるが、ほとんどが10代後半の採用で、かつ採用後、短期間で辞める人がいないため、いずれも20歳代~40歳過ぎまでの若い世代であり、しかも在籍23年をはじめ勤続年数の永い障害者が多い。
結婚し家庭を持っている障害者もいる。
障害者も健常者も一人の同じ人間として尊重してきたことが長期に継続就業する結果をもたらしているのであろう。また、障害者同士一緒に住むことのできる大津寮が近辺にあることも継続就業を支えている要因であると思われる。
4. 障害者の従事業務、職場配置
(1)ブロイラー加工の工程と障害者の従事業務・職場配置
上述したように、ブロイラーの加工は、搬入後前処理をして、1次処理→2次処理→3次処理という工程で進められる。障害者は現在、次のように1次及び2次の処理工程に配置され、ブロイラーの解体や単純作業等に従事している。
1次処理:懸鳥(けんちょう)*1、かご洗浄(積み直し)
2次処理:懸鳥、各部位のとりはずし、検査補助(免許取得者。獣医が行う検査を補助する)、計量・包装
*免許は、3日間研修を受けることによって取得できる。

1次処理:かご洗浄(積み直し)

1次処理後コンベアで搬入されたブロイラー(→懸鳥作業)
(2)取り組みの具体的内容
組合では、障害者だからといって特別扱いはせず、一人の人間として、健常者と同様に、自分のできること(習得した作業)をやってもらうようにしている。配置については、作業しやすいように配慮している。
上述したように、障害者を配置している工程(作業)は現在、1次処理では懸鳥、かご洗浄(積み直し)、2次処理では懸鳥、各部位のとりはずし、検査補助(獣医による検査を有資格の障害者が補助する)、計量・包装である。これらの中には、有資格の障害者がいるだけでなく、胸部のとりはずし作業のように、工場作業員の中でも数名しかこなせない技能を習得した障害者も育っている。
ハード面の改善については今後、表示が大きく判読しやすい計量器に取り替える予定であるが、これは障害者のみならず高齢作業員にも通用する改善であり、作業ミスの排除及び作業の効率化にも資することが期待される。
ソフト面では、障害者の就業を支援するため、業務遂行援助者を配置しており、また、トライアル雇用(3ヶ月)を実施している。
具体的には、障害者の個性を十分踏まえて、時間がかかっても繰り返し丁寧に教育・訓練するようにしている。コミュニケーションを含め、慣れるまで養護学校の教職員が同行してくれたこともあって、これまでトライアル雇用期間中の不適応者はでていない。
また、職場定着推進チーム(事業主・工場長、人事部課長、職場生活相談員、現場指導員、障害のある社員代表の5名で構成)を平成3年1月7日に設置し、障害者職業生活相談員を平成13年に選任しており、これらの取り組みもあって、採用後に短期間で辞めた障害のある社員はいない。
さらに、昼食時間の食堂兼休息の場についても障害者と健常者が共用しており、交流が図られるようにしている。

検査時の食鶏

各部位を順次とりはずす作業
*1 懸鳥:食鶏の解体ラインのスタートのところで1羽ずつラインのフックに鶏をかけること。
5. 雇用管理と活用した助成金等
(1)雇用管理
勤務は7時45分から16時45分までで、休憩は10時、12時、15時に計1時間、実働8時間である。
休日は水、日の週休2日制で、そのほか盆2日、正月4日を休日としている。また、有給休暇や育児・介護休暇などは法定どおりである。
賃金形態は日給月給制で、能力や勤続年数に応じて加算される。諸手当は通勤、住宅、家族扶養のほか、皆勤・精勤手当や資格手当がある。
教育訓練については、入社時に基本的な教育訓練を実施するほか、新たな作業にも適応できるようにするため、追加的な教育訓練や能力開発についても実施・支援するようにしている。
福利厚生面では、社会保険や労働保険は法定どおり対応しており、年1回の運動会の開催、誕生日プレゼント、制服や昼食の補助なども実施している。また、定期検診のほか、健康管理に関する啓発活動を随時実施するとともに、必要に応じて相談にも応じられるようにしている。
(2)活用した制度や助成金等
これまでに活用した助成金は、次のとおりである。
・中途障害者作業施設設置等助成金(1種)
・障害者介助等助成金(重度中途障害者職場適応)
・障害者介助等助成金(職業コンサルタントの配置)
・障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置)
そのほか、トライアル雇用奨励金を現在申請中である。
6. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット
(1)取り組みを実施したことによる効果
就業している障害者は、勤勉、真面目である。
作業に必要な技能・技術を習得するまでに時間がかかっても、教えたことをきちんとやってくれる。任せられた作業に対してひたむきであり手抜きをしないし、休まない。従って、作業を予定どおり進めることができ、取引先に納品日時を確約でき、信用の保持・向上に寄与している。
(2)障害者雇用の波及効果やメリット
上記のことから、一定の速度で進むライン作業に適応しており、中には2次処理の胸部のとりはずし作業のようにできる人が限られる技能・技術を習得している者や獣医による検査を補助する資格を取得した者もいる。また、手抜きしない、休まないといった作業態度・勤務態度は、他の社員に対しても好影響を与えている。
(3)障害者自身のコメント等
障害者自身から、「働くことは楽しい」、「働きがいがある」や「お金を稼げることは嬉しい」といった感想が聞かれ、立ち仕事で同じ作業を繰り返すことについて聞いてみたところ、年齢が若いからか「慣れればきつくはない」ということであった。
食鶏加工処理場の温度管理と従業員の健康管理との関係については、障害者、健常者を問わず、保温用の着衣を用意し、状況に応じて、着脱するように指導している。
7. 今後の課題、展望等
当組合では、障害者も健常者も「一人の同じ人間として尊重」し、かつ、一人一人の個性を踏まえて技能・技術の習得を指導・支援し、能力開発・向上を図っており、障害者の高い定着率を保っている。このような組合の取組は、障害者雇用はもとより、高齢者雇用にも通じることであり、さらに若年、壮年の健常者も含む雇用管理全体においても通用することと考える。
今後の課題としては、不況から障害者の雇用が打ち切られる状況がみられる中で、まずは現在の障害者雇用を守ることが最低限の課題であり、新卒者雇用や中途採用の要請については、今後とも前向きに対応するように考えている。
また、設備を改善し、働きやすい環境づくりに努めるとともに、障害者がこなせる作業を1工程から2工程に増やせるように、各人の個性を踏まえた能力開発・向上を誘導・支援することを目指している。
高齢・障害・求職者雇用支援機構やハローワーク等の助成金制度等については、未だ活用していないものもみられることから、今後、活用促進していくこととしている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。