自立に向けた就労支援を先駆的に取り組んだ事例
1. 事業所の概要等
（1）概要
平成7年に精神保健及び精神障害者福祉に関する法律が制定され、精神障害者の福祉工場が制度化されたことを受け、社会福祉法人友悠会を設立、平成8年4月に全国で2番目となる精神障害者福祉工場「サン・フレンド」が設立された。事業は、精神障害者の雇用を確保するために、昭和50年4月に設立した三友商事のクリーニング部門の移設と併せ、パン工場を新設、母体である医療法人財団友朋会嬉野温泉病院の入院者・入所者や職員の衣類・制服等のクリーニング及びパンの供給業務等の事業を開始し現在に至っている。
（2）障害者雇用の経緯
昭和40年3月、早期退院・通院型の精神科病院として、嬉野温泉病院が中川保孝氏によって創設された。病院経営の理念として、精神障害者が自立して生活できることを目指し、退院患者の職場を確保するために、昭和50年4月に有限会社三友商事を設立、クリーニング部門を設け精神障害者16名を雇用した。その後、平成7年に福祉工場が法制化されたため、クリーニング部門を福祉工場に移行し、パン製造工場を新たに加えた形で精神障害者定員30名の福祉工場として運営されている。
2. 取り組み内容
（1）募集・採用
募集は、居住地の保健所で精神障害者社会復帰施設利用推薦書の交付を受け、医師の意見書と履歴書を添えて、ハローワーク（公共職業安定所）の一般公募で行っている。採用は、面接及び適性試験、作業能力検査によって決定されている。
（2）障害者の業務・職場配置
クリーニング部の作業内容は、機械の操作、仕分け、たたみ、アイロンかけ、集配等があるが一人ひとりの作業能力や適性等考慮して職場配置を行っている。たたみの作業工程等は、機械化すれば作業効率も向上するがあえて機械化を進めず、大きなテーブルで人手を使ってたたむ作業を行うことにより、コミュニケーションが良く取れ、体調不良者への早期対応も可能となっている。パン工場は、包装、スライサーでの切断、製品の箱詰め作業、オーブンへの出し入れ等の作業がある。障害者だけで作業を行うと、作業リズムや進み具合が遅れがちになりやすいので、他の従業員と合同で業務を行う体制をとっている。
また、知的障害者が1名働いている。主に機械のスイッチを入れたり、たたみ作業、運搬等の作業を受け持っているが、一つの作業を根気強く集中して行うことができるので、今後採用を増やすことも検討している。
アイロンかけ作業
大型洗濯機・乾燥機
クリーニング集配作業
食パンのスライス作業
3. 取り組みの効果
福祉工場で働くことにより、賃金を得て地域での生活が可能となっている。賃金は、最低賃金以上の給料を支払っているため、収入が安定しており就労意欲も増して、それが自立へつながってきている。再入院は挫折感が強くなるため、仕事を頑張らせるのではなく、再入院をしないように支援するという方針の下で福祉工場を運営しているので、最長で、三友商事時代から通算して24年間再入院しないで働いている人もいる。また、定年がないため、72歳を筆頭に60歳以上の障害者が4人働いており、長期就労が可能な職場となっている。
このような職場での安定的な就労を可能にするために、家庭訪問による生活支援、医療との連携、事業所内支援等が行なわれている。福祉工場で働く精神障害者の多くは、友朋会の訪問看護を利用しているが、その際、福祉工場の精神保健福祉士が同行訪問し、健康状態や金銭管理、生活面等の相談を受け助言指導等を行っている。また、障害者本人が病状の訴えを十分できない場合には、受診に同席して本人の代弁をしたり、医師、看護師からの指示、指導内容等を本人が理解できるような言葉で説明を行っている。雇用期間が長期化していく中で中高年障害者も増加し、他科受診も増えてきたため、同行受診等の支援も行っている。
職場においても、対人関係に悩んだり、作業中に症状が出たりすることもあるため、その都度本人の訴えを聞いたり、一緒に作業を行いながら個別的な対応がされていた。また、花見、友朋会運動会、ボーリング大会、焼肉パーティ、バス旅行、忘年会等年間を通して行事が組まれており、従業員や職員間の親交を深め、良好なコミュニケーションを維持するための配慮がなされていた。
4. 今後の課題と展望
現在の福祉工場は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく精神障害者社会復帰施設として、社会復帰及び社会経済活動への参加を図ることを目的としている。このため、一般就労への移行について進めてはいるが一般就労へ移行した場合、支援体制が福祉工場のように十分ではないため、就労しても長続きしないことが多く、課題となっている。また、福祉工場で働く障害者は、自宅からの通勤または、アパート住まいをしているが、今後、低廉な住まいの場の確保も必要になってくると思われる。
平成22年の4月からは、障害者自立支援法による、就労継続支援A型（雇用型）への移行が予定されているが、これまでの補助金制度から大きく転換されるため、運営面でどう対応して行くのか不安材料も多いということであった。しかし、福祉工場は、嬉野温泉病院の敷地内にあるため、退院したら福祉工場で働くという希望を持つことで、病院の入院患者の療養の励みになっているという面もある。そして、福祉工場において働くようになっても、作業状況や健康状況を把握して、必要時の医療との連携、調整が常時可能なことから、精神障害者が地域で自立して生活していくための働く場としては、安心して働くことのできる環境であった。
来年度には、障害者自立支援法による移行が決まっており、今後、福祉工場から一般就労への移行支援も課題となってくることが予想されることから、福祉工場においてなされている地域生活への支援、工場内での支援、受診支援を一般就労に移行される精神障害者に対しても、同様のサポートネットワークを展開していくことが重要になってくると考えられる。
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