事業所名

九州ステリ株式会社

所在地

熊本県菊池市

事業内容

医療関連滅菌業務の受託、滅菌関連業務の受託、医療情報提供サービス業、医療機器等の製造・輸入及び販売

従業員数

300名

うち障害者数

2名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害	2	滅菌・洗浄後の器具の組み立て及び包装作業等
知的障害
精神障害

この事例の対象となる障害

難病（筋萎縮症）

目次

1. 事業所の概要
2. 取り組みの概要

事業所外観

1. 事業所の概要

（1）事業の概要

当社の主たる事業は、医療機関や教育機関で使用される医療器具の滅菌の受託業務である。ピンセットやメス等の医療器具は、必ず1回の使用毎に滅菌を行い、院内感染等を防止しなければならない。このような医療器具の滅菌作業は、本来、医療機関の内部業務として看護師が行っていたものであるが、近年、看護師不足等もあって、外部の専門業者にアウトソーシングしようという動きが増えてきている。

滅菌作業には、滅菌作業施設を持っている医療機関で業務を請け負うケースと医療器具を預かり、当社工場（菊池市および久留米市）に運び込んで、滅菌処理して届けるケースがある。

滅菌作業の対象は鉄製の器具から、プラスティックやガラス製の器具など多種多様である。また、処理方法についても、135度の高圧蒸気で行う方法、酸化エチレンオキシドというガスを使って行う方法等の複数の滅菌方法がある。最近、ガスを使う方法は残留ガスの問題等もあって使用されない傾向にある。

（2）現在の業況と今後の展開

九州内の医療機関では滅菌処理の外部委託率は、徐々に増加の傾向にある。また、九州には当社のような専門会社は3社しかなく、当社も順調に業績を伸ばしており、今後とも市場は拡大すると考えている。

但し、一方で病院経営は厳しさを増し、コスト削減の視点からアウトソーシングの見直しや業務間の価格競争に巻き込まれる事も考えられる。

（3）採用の状況

毎年、新規学卒を計画的に採用するため、面接会に積極的に参加しているが、業務内容を滅菌作業と記載しており、業務内容を理解されないのか応募者は低調である。

また、当社の業務はイメージしていたことと現実に大きな落差がある。例えば、手術室で使用された器具が運び込まれ、それには血液が付着していたりする。そういう現場の様子を事前に知っていないと、「こんな業務とは知らなかった。」と違和感を覚える人もいる。そこで、入社内定者にはまず現場を見てもらい、作業内容を理解した上で入社してもらうように心がけている。

また、医療機関の外来患者数や手術数はそれほど変化するわけではなく、仕事の内容が変わるわけでもないので、慣れてしまえば仕事量は安定しているので定着率はよい。

当社の男女間の比率は2：8程度になっている。

（4）求められる人材とは

滅菌作業という仕事は、例えば、滅菌釜は人が入れる大きさであるので、ひとつ間違えば大きな事故にもつながりかねない。そこで、それら機械設備には音と光による警告システムが設置されている。つまり、事故を察知し、防止するという安全・安心システムといえる。

その上で採用の際に重視しているのは人柄、性格である。当社の滅菌作業は単独作業ではなく連携作業である。医療器具の滅菌作業は、手術室から運び込まれたばかりの「不潔な段階」と滅菌処理をした後の「清潔な段階」に分かれる。この2つの段階では作業場も人員も完全に区分されているが、器具に関する情報は正確に伝達しながら業務も進めなければならない。このような情報伝達や連携は、作業の申し渡しという意味だけではなく、医療機関の事故を未然に防ぐという点からも必要とされる。例えば、医療器具はメスが何本、鉗子が何本等のようにセット単位で動いていく。手術室から受け渡される器具のセットに不足があれば、最悪、体内への置き忘れということもあり得る。この滅菌作業にはこのように事故を防ぐ役割もあり、情報伝達や連携がうまくいくかどうかとスピードがそのポイントとなる。つまり、チームの輪に入れない人がいると重大なミスの元になる。他人と連携して仕事をしてゆける人材が求められるわけである。

また、滅菌しても器具の形や色が変わるわけではない。作業に携わる人の誠実さが頼りであり、信頼関係がすべてなのである。「やっていることはやっている、やっていないことはやっていない。」と事実を正直に答えられるということも、大切なひとつの要件だと言える。

2. 取り組みの概要

（1）障害者の現状と従事業務

現在、雇用している障害者は2名である。

1名は、熊本事業所に勤務している女性で、在職中に筋萎縮症に罹患しその時点で障害者の認定を受けている。定期的な通院・治療を必要とするが、有給休暇を利用するケースが多く、勤務を急に休む等、業務に支障をきたすようなことはない。

もう1名は久留米事業所に勤務している男性で、久留米市の社会福祉法人からの紹介により、面接、職場体験を経て入社したものである。肩と膝に障害があり、階段の昇り降り等に苦労があるのだが、現在のところ問題なく勤務している。

ともに自家用車で通勤し、車いすの使用等はない。担当業務は2名ともに、障害の程度を考慮し、特殊な設備を使用する滅菌作業ではなく、洗浄処理が終わった後の器具の組み立てや包装作業等の比較的軽作業である。

（2）障害者雇用の経緯

当社の従業員数が300名を超えたのは3年前である。親会社からは「301名を超えたら納付金制度の対象となるので障害者の雇用に取り組まなければならない。」と指摘を受けているものの、具体的にどこにどのように連絡を取ってよいものか分からなかった。すでに在職者の1名は障害者認定を受けていたが、新たに雇用を行うとなった時に何をすればよいのかわからなかった。

そこで、菊池公共職業安定所（ハローワーク）に連絡を取り、障害者就職面接会の存在を知った。以来、毎回参加している。そこで2年前の面接会で、ある障害者の面接をし、その後採用した。まず、業務内容は身体に無理のないような軽作業とし、実際に現場で仕事の体験をしてもらった。その後、本人にできるかどうかを確認し、採用に至った。

（3）緊急連絡システム

現在、2名の障害者を雇用をしているが、ハード面でもソフト面でも特別に用意したものはない。但し、もし体調の急変等があった場合、どこの医療機関に連絡し、家族の誰に連絡すればよいかという緊急連絡の仕組みを準備している。

該当者に急変があった場合、すぐに総務部長へ連絡が入り、直ちに処理できるようになっている。家族の連絡先などは個人情報なので、その点には十分配慮をし、所属長には医療機関の連絡先までとし、総務部長が全ての管理を行っている。

この緊急連絡システムは、2名の障害者のために準備されたものでなく、もともとあったシステムを活用したものである。例えば、滅菌作業という特殊な業務であるため、社員がインフルエンザや結膜炎等に感染すると、器具の汚染ひいては医療機関での院内感染といった危険性が生じる。このような事態が生じた時に、迅速・正確な情報伝達と処置が求められ、それが緊急連絡システムの構築につながった。必要なポジションのスタッフには会社の携帯電話を持たせており、土日でも連絡が取れるようにしている。

実際に緊急連絡を行ったのは1度だけで、救急車を呼ぶほどではなく、幸いに自宅で休むだけで済んだ。

（4）障害者雇用で初めて気づいたこと

我々健常者では「段差」と感じないような、床を這わせたパソコンのライン保護帯のごくわずかな段差に、下肢に障害を持っている人はつまずくということがある。

これには最初、とても意外で驚きとともに、健常者の感覚で物事を見ることの問題を強く感じた。なお、この段差の件は、現場長と障害のある従業員との協議を経て、業務の際の導線を変え、その場所を通らないで済むようにすることで解決した。

また、体調のこともあり、休日を多く取ることもあるだろうと予測していたが、2名とも必要以上の休日はほとんど取らずによく働いている。

（5）今後の障害者雇用

本部としても障害者雇用促進法の障害者雇用率は達成しようという方針であり、平成21年も新たな障害者雇用に向けた取り組みをしていこうと考えている。今後も久留米市の社会福祉法人からの紹介で面接を行う予定がある。

現在、パソコンに詳しい人材をぜひ採用したいと思っている。本部には専門家がいるが、熊本にはそのような人材がいないので、パソコンのトラブルの際には非常に困っている。平成21年も実は新卒で1名採用したい障害者がいたが、大手企業に入社し、残念な思いをした。

（6）まとめ：地域社会における企業の役割と障害者雇用

面接会などに参加していて、障害者の側が消極的あるいは臆病になっている面もあると感じることがある。「ご迷惑おかけしませんか？」と言われるので、「迷惑だと思ったら、面接会に参加しませんよ。少しでも門戸を開きたいと思って参加しているのですから」と答える。「治療で週に2日病院に行かないといけないのだが、それでは困りますよね？」と聞かれ、「いいえ。事前に決まっていれば大丈夫ですよ」と答えるのだが、まだ不安に思われる障害者の方も少なくないようである。おそらく障害があるゆえの辛い経験が消極的な意識を生んでいるのだろう。地域社会、企業、障害者の関係という背景や障害者を取り巻く環境の課題といったものを感じる瞬間である。

障害者雇用とは、地域社会の中で担っていかなければならない課題である。そして、地域に生きる企業もまたその役割の一旦を担っていかなければならない。かつてのような地域コミュニティがない中、地域の企業に課せられる役割は重要である。

当社は従業員370名で、東京では掃いて捨てるほどある小さな企業のひとつに過ぎない。だが、菊池市という地方においてはまるで大きな企業であるかのような位置に置かれてしまい、それなりの役割を地域の中で担っていかなければならないという責任感とプレッシャーを感じる。

しかし、今、経済的に言えば多くの企業が大変厳しい状況にある。余裕のない企業も多い。これから、障害者や弱者にしわ寄せが来る可能性が高くなるのではないだろうかと、憂慮するものである。