事業所名

株式会社丸正フーズ

所在地

宮崎県えびの市

事業内容

肉牛・肉豚のと畜解体処理及びその部分肉（チルド肉）の製造販売と畜産物・同副産物の加工販売

従業員数

209名

うち障害者数

11名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	2	食肉加工、食肉整形
肢体不自由	0
内部障害	2	事務、計量作業
知的障害	6	食肉加工、段ボール組立
精神障害	1	食肉加工

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 取り組みの内容
3. 取り組みの効果
4. 今後の展望
5. まとめ

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯

株式会社丸正フーズは、県庁所在地の宮崎市から西に約50kmの宮崎県、鹿児島県、熊本県の三県の境界のえびの市に位置する。昭和54年11月に大阪よりえびの市に進出、株式会社丸正宮崎工場を設立した。昭和61年8月には株式会社丸正えびの食肉センターを設立し、平成4年8月に株式会社丸正フーズに社名変更して現在に至る。

事業内容は、肉牛・肉豚のと畜解体処理及びその部分肉（チルド肉）の製造販売と畜産物・同副産物の加工販売を行っている。また、グループ牧場の雄大な大自然で繁殖から肥育、そして加工・製品化と一貫した独自のシステムで高品質な食肉及び食肉加工品の生産を行い、「安心とおいしさ」をモットーに高品質な商品作りを目指している。“黒毛和種”と“アンガス種”の交配から生まれた720（ナニワ）牧場グループ牛は有名である。

事業所の組織構成は、事務所品質管理、運輸課、園芸課、生産課に分かれ、生産課はさらに生産1課（と畜解体、内臓処理）、生産2課（カット、整形、計量）、生産3課（ハム・ソーセージの製造）、生産4課（二次加工品の製造）となっている。現在のところ、生産課に障害者は配属されている。

障害者の雇用については、同じ職場の「仲間」という考えから、障害者、健常者と区別しない方針である。賃金や労働時間など健常者と同じ条件で人事考課を行い、定年や定年後の再雇用制度も同じ条件となっている。

障害者雇用を始めた当初は企業としての社会的貢献の側面が大きく、障害者の雇用に関して現場から反対する声もあった。しかし、実際に雇用してみて、仕事を覚えて次の段取りができ、単調な仕事でも嫌がらずに正確な仕事ができるなど「単純な作業でも苦にしない」「出勤率が極めて良い」といった優れた部分もあることがわかった。

そのため、現在では業務内容に合った特性の人に働いてもらいたいという状況へと変化し、必要な人員として求人をするようにもなった。

2. 取り組みの内容

（1）従事業務に関すること

現在の障害者の従事業務は、聴覚障害者の2名が食肉加工、食肉整形、内部障害の2名が事務（在庫管理等）、計量作業、知的障害者の6名が食肉加工、段ボール組立、精神障害者の1名が食肉加工となっている。

同じ障害の等級でも可能な業務は個々で異なるため、本人の特性をよく把握して、従事業務を決めることにしている。たとえば流れの中の仕事でついていけない場合には、一人で行う作業をさせるなどしている。

また、基本的に危険な作業はさせないようにしている。

洗浄機を監視している様子

（2）賃金・労働時間に関すること

これまで障害者として雇入れた者は、時間給のパート従業員として業務に従事しており、正社員登用規定はあるが、現在のところ障害者で正社員に登用となった者はいない。なお、その他に2名の障害者が正社員として業務に従事している。

同じ職場の「仲間」という考えから、最低賃金の除外措置は申請せず、給与は他のパート従業員と同額支給（基本給、諸手当）で、その後の定期昇給についても同じ条件で人事考課を行っている。

労働時間については、フルタイム（AM8:00～PM5:00）が基本であるが、障害の程度、通勤時間など個々の事情を配慮し、家族・支援者と相談しながら決定している。長時間労働が難しいと判断した場合には、短時間勤務から労働時間を段階的に延ばしていく方法で、障害に応じた最適な労働時間を決めている。

（3）講習・指導に関すること

新しく入社した障害者には、同じ職場の先輩社員を指導員として、障害の程度、能力に応じてOJTを行っている。実際の作業を見せるなど一つの作業を完全に覚えるまで説明し、根気強く指導している。

会社内での指導が難しいと判断した場合は、ジョブコーチ支援事業を利用し、ジョブコーチの支援を受けながら指導するようにしている。

これまで、ほとんどの障害者が年数を重ねるにつれ、作業性が向上し、指示がなくても次の作業に取り掛かれるなど、OJTの目標である独り立ちに成功している。

（4）安全衛生・健康管理に関すること

工場内ではフォークリフトが動いており、運転者はクラクションで接近を知らせている。聴覚障害者についてはフォークリフトの接近に気付かないことがあるので、安全面を優先して帽子の色を他の従業員と変えてフォークリフト運転者に注意を促している。

健康管理においては、従業員全員に定期健康診断を毎年受診させ、また障害者の体調面を配慮して作業場に空調設備を設置するなど環境面を整えている。

（5）福利厚生、その他

福利厚生についても一般の従業員と区別なく対応している。そして障害者の場合、周囲に溶け込めずに孤立しがちなので、出社・退社時や休憩時間の挨拶、現場のグループ単位での声かけなど積極的に行うようにしている。社外での各種イベントにも積極的に誘うようにしている。

日頃からジョブコーチと密に連絡をし、どのような問題に対しても早目のフォローができるようにしている。ジョブコーチには3ヶ月間の支援期間後も連絡している。

3. 取り組みの効果

段ボール作りに従事している二人の障害者に話を聞いた。そこは障害者二人に全ての仕事が任され、それぞれで役割分担を決めて作業を行っていた。一人は段ボール作りの経験が長く、初めての人に教えることもある。

段ボール作りという一見単純な作業に思えるが、その日の頭数や種類によって必要な段ボールの数、種類が異なる上、翌日の必要数を作ることになっていた。翌日の段ボールの必要数を予測し、また組み立てた段ボール置き場が狭いため、段ボールを効率よく取り出せるように保管しておく必要もある。

彼らは、必要な段ボールの数を経験値から正確に予測し、その予測した段ボールの数を計算してだれにでもわかるように壁に貼っていた。そして、組み立てた段ボールは翌日に取り出せることを考え、順に整理してきれいに並べていた。これらは、教えられたものでなく、彼らが工夫したもので、そこには仕事に対してのやる気と責任を持って取り組んでいる様子が覗えた。

OJTの目標でもある独り立ち、一般の従業員と区別なく対応されていることで、障害者の一人ひとりが従業員である自覚と仕事に対する責任感を持って取り組む環境になっている。障害者の特性をしっかり把握して配属することで、質の高い正確な仕事が行われ、それらは企業、障害者の両者にとって大切なことであることがわかる。

障害者の仕事に対するこれらの取り組みは、一般の従業員の障害者に対する理解を深め、現在では障害者職場定着推進チームが設置され、障害者の定着について所属長の意識や理解が高まっている。

段ボール組立をしている様子

壁に貼られたメモ

4. 今後の展望

障害者の一人は、色んな人と話をすることができ、それが楽しみになっていると話していた。現在でも素晴らしい職場となっているが、障害者生活相談員を中心にして、組織的に従業員全員で障害者のサポート体制を整え、全ての従業員が働きやすい魅力的な職場作りを進めて、障害者を含めた定着率を上げていくことを目標としている。

5. まとめ

南九州の中央に位置するえびの市は、人口2万3千人ほどで農業が中心の小さな市である。株式会社丸正フーズはそんな周りを田んぼや畑で囲まれたところにある。牛の肥育が大自然の中で行われ、それが高品質の食肉の生産に繋がっている。その大自然は、そこで働く従業員も非常に大らかにし、人間味のある人にしている。

少し不安になったのは、この地域で話される西諸弁というかなり訛りのある方言である。障害者の中には関西方面で育った人もいて、会話がどの程度通じているのか気になった。しかし、方言には誰しもが感じることができる人の温かい気持ちを伝える力がある。きっと話す人の表情や態度で通じているのだろう。

「同じ職場の仲間として、心が通じ合い、信頼し合える」、株式会社丸正フーズの様々な取り組みは障害者に対する特別な取り組みではなく、従業員全体に必要な職場づくりである。ただ、より一層充実した取り組みとして発展したのは、障害者雇用が一つの良いきっかけになったと思える。