「障害者」のイメージにとらわれず、できる仕事を見つけて雇用の場を増やす
- 事業所名
- 岩手ふるさと農業共同組合
- 所在地
- 岩手県奥州市
- 事業内容
- 農業指導、農業に関する資材・生活用品の購買、農業生産物の販売、金融・共済事業
- 従業員数
- 515名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 清掃 聴覚障害 肢体不自由 5 事務・窓口業務・パソコン入力・清掃 内部障害 1 車両管理、役員の運転手 知的障害 1 清掃 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要等
①事業の概要 | 信用事業、共済事業、購買事業、販売事業 |
②経営方針 | 農業採算物の販売を核にしながら、生産者と消費者を結びつけるネットワークの構築、組合員の精算と生活に総合的に貢献する金融・経済事業を行い、地域社会の発展に貢献する。 |
③組織構成 | 代表 経営管理委員会会長 門脇 功 |
④障害者雇用の理念 | |
・「障害者」のイメージにとらわれず、できる仕事を見つけて雇用の場を増やす ・地域に根ざした事業所として地域貢献につなげる |
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⑤その他 | 平成10年に、JA水沢、JA前沢町、JA金ヶ崎町、JAいさわ、JA衣川村の5農協が合併して「JA岩手ふるさと」が誕生した。 事業内容は農業生産物の販売や農業指導のほか、農業に関する資材・生活用品の購買、共済・金融事業など幅広く行っている。 パートを含めて社員の男女比率は3対2で、比較的女性が多い職場といえる。 「地域密着」「地元貢献」を掲げているとあって、地元在住者がほとんどだ。 |
2. 障害者雇用の経緯・背景等
①経緯
合併前の昭和54年にJA衣川村で採用された障害者が最初だが、家庭の事情で退職。その後昭和63年に採用された女性が、現在働いている障害者の中でもっともキャリアが長い。
この女性は左手に障害のある1級障害者。地元の公共職業安定所(ハローワーク)から紹介され、面接を経て採用が決まった。入社後は窓口や共済事務などを担当。左手に障害があることを感じさせないほど端末操作も速いという。
こうした良い先例があったので、その後も公共職業安定所の紹介で障害者の雇用を進めた。現在働いている障害者は8人で、あとの7人はそれぞれ平成4年、平成11年、平成12年、平成16年、平成17年に採用されている。採用を決める時の面接では、明るい性格やコミュニケーション能力があるかどうかを見極めている。「職場で孤立しないように」という配慮からでもある。最近は精神障害の人を紹介されることも多いが、「職場になじめるかどうか」と考えると、なかなか採用に踏み切れないという。現在の担当者によると、8人の障害者のうち7人が女性だという。「一般的に男性よりも女性の方が前向きなような気がする」と、同組合で女性の採用が多いのは偶然ではないかもしれない。8人の障害者のうち、4人は片手に障害があり事務作業を担当。1人はリウマチによる障害で清掃業務を担当。唯一の男性は心機能障害があり、管理や運転士の仕事を担当。視覚障害2級の女性と知的障害の女性は共に清掃業務に従事している。
同組合では最初に雇用した女性が片手で事務作業・窓口業務を十分こなしていることから、その後片手に障害のある女性3人も採用に踏み切った。
一方で、その他の障害がある人でも働けるよう、平成12年にはそれまで業者に外注していた清掃業務を自分たちでやることにした。3人を1チームにして、本店と管内の支店8ヵ所を曜日ごとに回ってもらっている。
②背景
同組合の障害者雇用は、「地域密着」「地元貢献」の考え方によるところが大きい。
事務に従事している女性4人は、片手に障害がある以外は、障害のない人となんら変わりはない。コミュニケーションにまったく問題ない上、仕事も十分にこなしていることから、職場の障害のない人たちも「障害者」と意識していない。もちろんそれは彼女達自身が努力して障害のない人に負けない仕事ぶりを見せる一方、周囲が気を遣い過ぎないよう配慮しているからでもある。担当者が「明るい性格やコミュニケーション能力で採用を決めている」と話していた背景には、こういうことがあるのであろう。
③その他
「一般的に男性よりも女性の方が前向きなので、コミュニケーションもとりやすい」とあったが、一方で、「女性の場合は家庭の事情も配慮しないといけない」とも話していた。過去に聴覚障害者を採用した際、小さな子どもがいたので急な休みが多く、FAXでのやりとりに現場が少し苦慮したことがある。それを感じたのか、その本人は会社を辞めてしまったという。
3. 取り組みの内容等(取り組みの具体的な内容、活用した制度や助成金など)
①具体的な内容
・片手に障害のある女性たちに関しては、障害のない人と同様に指導したという。パソコンなどは片手で操作しなくてはいけないので障害のない人よりは作業に時間がかかるが、同組合で採用された女性たちは生まれた時から障害がある人たちで、無意識のうちに自分のハンデをカバーしているので、それほど大きな遅れではないという。
・平成12年に入社した菊地さんは、右手に障害のある女性。パソコン入力や経理事務を担当している。パソコンは専門学校で基本を学んでいるので、入社後の指導は障害のない人と同じように受けた。「片手で打つのでどうしても遅くなってしまう。その分、正確な入力作業をこころがけています。そのためにチェックはまめにやっているのですが、どうしても目が疲れているので見間違いが出てくる。特に3と8といった似た数字が間違いやすくなるので、それを重点的にチェックするようにしています」と話す。障害者の雇用は、こうした個人の努力に負うところもあるだろう。
・以前同組合では、片手に障害のある藤原さんから「マニュアル車の運転もできるが、やはり小回りの時など不便を感じるので、もし可能ならオートマチック車の導入を考えてもらえませんか」と依頼があり、導入を決めた。「ちょっとしたことでも、気さくに上司に話せる雰囲気の職場なんです。上司はもちろん同僚も障害のない人と同じように扱ってくれて、でもどうしてもできないことを頼むと快く引き受けてくれる。本当に良い職場です」と話してくれた。
・藤原さんは窓口の接客業務も担当したことがある。その時に本人は特に意識しなかったのだが、お客さんにびっくりされたので、接客業務は避けた方がいいのかなと考えた。そうしたことも上司などが気軽に相談にのって、人事に反映させているようだ。
・さらに藤原さんは「速さを求める事務処理は、どうがんばっても障害のない人にはかなわない。そうではない部分、例えば正確さなどを企業側は求めていてだから私に任せてくれるんだ、と感じることもやる気につながっていると思う」と話していた。同組合の場合は日々の中で折に触れてそれを伝え、やる気を引き出しているようだ。
・清掃業務に関しては、視覚障害者の女性をリーダーにしてまとめてもらっている。
・心機能障害の男性については、ストレスがたまらないよう、休日をしっかり確保するなど気遣っている。
②活用した制度や助成金
特定求職者雇用開発助成金制度を利用
③その他
・平成19年に3階フロアに洋式トイレを設置。ただしこれは当時在職していた男性(脳溢血の後遺症からリハビリ中だった)のためのもの。

左手だけでパソコン作業をする女性。

同じく右手に障害のある女性で、事務作業を担当。
4. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット等
①取り組みを実施したことによる効果
・藤原さんのコメントにあるように、障害があることを意識せずに働くことができている。その結果、藤原さんは自分が会社の役に立っていると感じ、やりがいにつながっているという。「これから障害者を雇用する企業には、その点への配慮は是非してもらいたい」と話す。
②障害者雇用の波及効果やメリット
・担当者が「障害者の人たちがここまで努力して仕事をしているのだから、自分たちもがんばらなきゃと思いますね」と話していたように、障害者たちの努力が目に見えているので、他の職員のモチベーションを高めることにつながっているようだ。
・一般的に障害者ときくと「障害のない人とは違う」「障害のない人よりも能力が劣っている」と考えがちだが、同組合ではそうした偏見がなくなっている。また接客業務でふれた地域のお客さんたちを通して、同地域でもそうした偏見が減っているのではないかとも思う。
③障害者自身のコメント
・専門学校ではパソコン操作が専門ではなかったが、実際にそれを仕事にしてみて「楽しい」と菊地さん。同組合では全職員対象の行事のほか、女性職員対象の食事会なども楽しいようで、積極的に参加しているという。
・藤原さんは、「片手だとどうしても遅くなる事務作業も、たとえばひと目を気にせずに足などを使えば、障害のない人と同じくらいの速さで作業ができることもある。現在の職場ではそれはできないが、それが認められる現場(たとえば、会議室で一人で作業できるとか)であれば、片手が不自由であることも作業のハンデにはならないのでは?」と話し、これからの障害者雇用に対してアドバイスをしてくれた。
5. 今後の課題・展望等
「組合としては、農業の発展や農家の所得アップを目指し、人づくり、人と人とのつながりを大事にしていきたい」と阿部さん。
障害者雇用については、定年のため男性が今年、清掃作業のリーダーである女性が来年、退職となるので、その人たちに代わる人材を新しく雇用したいと面接しているところだ。今のところまだ条件に合う人は見つかっていないが、今後も雇用率を維持する予定だ。
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