事業所名

東洋ワーク株式会社（洗浄事業部）

所在地

宮城県仙台市

事業内容

人材派遣業・有料職業紹介・業務請負・プラスチック製品の洗浄事業

従業員数

1,039名

うち障害者数

17名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害	1	洗浄業務
肢体不自由	2	洗浄業務
内部障害
知的障害	14	洗浄業務
精神障害

目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
2. 一人ひとりの力を引き出す支援
3. Aさんの事例をもとに
4. 就労の継続を図るために
5. 本事例から学ぶこと

事業所外観

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯

東洋ワーク株式会社は人材派遣業、有料職業紹介、業務請負、プラスチック製品の洗浄事業などの業務を行う企業である。その内、今回紹介する洗浄事業部では、従業員27人のうちの17人に障害がある。

バブル崩壊の頃、全従業員を対象に「新規事業として何をしたいですか」というアイデア募集が行われた。そのときの「スーパーマーケットなどの買い物カゴの洗浄を事業に」という提案をもとに始まった事業であったが、手間がかかる仕事の割には単価も安く、採算をとるには難しい状況が続いた。買い物カゴは店の裏で洗浄し、汚れが取れなくなったら新しいものと交換するということが当たり前の頃であった。

一店一店訪問して、洗浄することの安さ、便利さを丁寧に説明することから始まったが、スーパー業界の意識を変えることは容易ではなかった。受注が進まず、採算がとれないため、現場担当者の熱意と本社社長の理解だけが頼りの時期が続いた。その頃、大きな衝撃を与えた食中毒事件、いわゆるO-157事件が全国的に発生した。これを契機に買い物客などの衛生に関する意識が変わり始めた。そして、事業開始5年後の平成10年頃にようやく採算ベースに乗ってきた。障害のある従業員の採用は、事業開始2年後、他部門で働く従業員の身内の知的障害者の雇用がきっかけだった。そして、障害があっても潜在的な能力の高いことが認知され、さらに障害のある従業員の採用が続くことになった。最初の1人目の障害者雇用の好印象がその後の雇用の拡大につながったのである。

2. 一人ひとりの力を引き出す支援

洗浄事業部では一応一通りの仕事をしてもらう。そして、「できること」と「できないこと」をリスト化し、もっとも適する作業に配置する。複雑な仕事を分解して作業内容を単純化したり、要領よく行うポイントを指導したりして、潜在的な力を引き出すのである。そのために助成金を活用して職業コンサルタント（1名）と業務遂行援助者（2名）が配置されている。また、事故防止、安全管理のために改造した容器洗浄乾燥機の設置や聴覚障害者に音の代わりに光で知らせるためのパトライトの設置なども作業施設設置等助成金の活用で実現している。

障害があると、作業の要領を会得するのに時間がかかる場合が多い。はじめはうまくいかなくて目を合わせることもできなかったのに、能力が引き出されてくると、やがて自信がついてきて、その場にとけこんでくる。適切な注意を促すために、叱るとともに、褒めることも大切だ。褒めることによって人はのびる。また、競い合うことも大事である。作業をこなせる力を見きわめ、こなせるノルマを課すことによって、達成感とともにやる気が引き出され、作業能力が向上する。そして、次第に働くことに自信を持ってくる。

3. Aさんの事例をもとに

Aさんは2人1組で買い物カゴの洗浄作業を行っている。1人が洗浄乾燥機の入り口からカゴをいれ、送り出されてくるカゴをAさんがすばやい動作で検品し、整理する。不良とされたカゴを見させてもらったところ、私は気づけなかったが、赤いカゴに数ミリ四方の赤いテープの切れ端が貼りついていた。速いスピードの作業の中ですばやい動きと観察力を要する仕事である。

このように、現在はAさん達、障害のある従業員も自信をもって働いているが、最初から順調だったわけではない。働き始めた頃、うまくいかないとAさんはすぐに苛立ち、ものを投げつけたりすることがあった。自分の気持ちをうまく表現できないために、苛立ちは募る一方だった。そのつど、フロント（障害のない職員）は何度も注意を繰り返した。

障害者雇用を始めた直後は、フロントが注意すると障害のある従業員は「叱られた」「いじめられた」と会社の外で話したりすることもあった。特に、以前働いていた職場でいじめられた経験のある障害者にはその傾向が強かった。知的障害のある従業員は、休憩時間の過ごし方が苦手な場合もある。過ごし方がうまくいかないと孤立感を深めることになる。そこで、なるべく皆で一緒に食事をしたり、一緒に行動すると、コミュニケーションが進む。そんな支援を行うよう、フロントは心配りをしている。

2人一組の洗浄作業の様子

検品作業の様子

4. 就労の継続を図るために

就労の継続を図るためには、就労支援とともに生活支援も大事である。例えば、金銭管理である。給料日などに、近くの会社で働いている女性に「ご馳走して」とか「お金を貸して」などと誘われて断れなかったことなども度々あった。キャッチセールスなどで高価な絵画やダイヤモンドを購入させられたトラブルもあった。クレジット会社から電話がきて気づくのだが、そのようなときにはすぐに連絡して解約の手続きを進める必要がある。

休憩室を兼ねる食堂に大きな炊飯ジャーをみつけた。弁当を持ってこない従業員10人分ぐらいの昼食を所長さんたちが準備する。以前は弁当を買ってきて食べていたが、毎日同じような弁当ではやがて飽きて残すようになったためである。家庭的な対応が行き届いている。食事中や休憩中のおしゃべりの中から、悩みの手がかりがつかめる場合もある。悩みがあると、顔色がいつもと違って気づくこともある。

食堂で14人の障害のある従業員が一言ずつ話してくれた。Aさんについては前述した。人生の先輩格のBさんは、休みの日には街に出かけたり、年末年始には温泉で過ごしたりしていると話した。折りたたみコンテナの開き方ができるようになったと話す人、積み重ねたコンテナを崩れないようにするラップ巻きができるようになったと自慢する人、好きなスポーツのことを話してくれた人、いつも、仲の良い2人でゲームを楽しんでいるという人、少しずつ仕事ができるようになってきて嬉しいと話す人、グループホームで暮らしていると話してくれた人、テレビを見るのが大好きと言った人、気まずそうに失敗談を話してくれた人。そして、みんなニコニコして、今の仕事が大好きだと話してくれた。

家庭的な食堂の様子

5. 本事例から学ぶこと

障害があると社会的経験に乏しい場合がある。多くの場合には、子どもの頃の集団活動などによって社会性を身につけて行くことになるが、障害があるために社会的経験を積み重ねる機会を持てず、その後も社会との接触がうまくいかないため、ますます人との関わりが困難になってしまっている場合が多い。そして就職しても対人関係の問題からすぐに離職してしまうことが多い。企業もどのように接してよいのか中々分からないし、障害者自身もますます孤立感を深めてしまう。

東洋ワーク株式会社洗浄事業部では、個別的に作業適性をみきわめ、個別的対応をもとに「できる力」をひきだし、家庭的な雰囲気のなかで、仕事に対する自信を得ることをもとに、社会性を回復するシステムが形成されてきていると考えられる。一人ひとりの役割があるので、ボーっとしていることは少ない。また、特別支援学校からの職場体験では、知的障害のある従業員が仕事を教えるので、生徒は職場の中にとけこみやすい。見様見真似で自然に取り組めるのである。

障害者雇用の創出は企業の使命であるが、採算、利益の上がらないものには取り組めない。現在、この会社の買い物カゴなどの洗浄事業は、東北全体のスーパーマーケットの8割のシェアに到達し、既に飽和状態である。そこで、現在、新たな障害者雇用の取り組みを企画・検討中とのことである。

東洋ワーク株式会社の行動指針は「企業は社会のために、社会と共に」である。知的障害者を主力として洗浄ビジネスに取り組んでいる本事例は、その行動指針を具現化している好事例であると考えられる。