設備改善により聴覚障害者が働きやすい職場づくりに取り組んだ事例
- 事業所名
- 株式会社かわでん山形工場
- 所在地
- 山形県南陽市
- 事業内容
- 配電制御システムの設計・製造及び販売
- 従業員数
- 685名
- うち障害者数
- 13名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 7 製品銘板製作・ハーネス組み立て 肢体不自由 2 設計 内部障害 4 事務 知的障害 0 精神障害 0 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
今回ご紹介する「株式会社かわでん山形工場」は、山形県の南東に位置する人口約35,000人の南陽市にある。開湯900年余の赤湯温泉や宮内熊野大社など、すぐれた伝統と歴史をもち、また郷土の民話を伝える「夕鶴の里資料館・語り部の館」や国指定史跡「稲荷森古墳」公園等の歴史と文化、さらに全国のスカイスポーツの中心として知られる「南陽スカイパーク」のあるこの地で大正15年の創業以来、
<社是>
わが社は電気に生きる
<社訓>
最高の品質は最大の信用を得る
信頼と和は強固な組織の礎である
創造と改善は技術革新の要である
という企業理念のもと、カスタム型配電制御設備の大手メーカーとして、研究開発から設計、製造、販売及びメンテナンスまでの一貫体制を確立し全国に事業を展開している。山形のほか佐賀県にも生産拠点を持ち、それぞれの工場はISOの認証を取得し、品質管理、環境への配慮を重視した国際水準を誇る生産システムを確立している。
(2)障害者雇用の経緯
きっかけは平成3年、法定雇用率達成のためにハローワーク(公共職業安定所)からのアドバイス等があり、社内で検討の結果、法令遵守・社会的責任を遂行するという方針が出されたことにより、翌平成4年に1名の聴覚障害者を雇用したことが始まりである。雇用にあたっては、初めての障害者雇用ということもあり作業内容についても検討された。工場内では大型の機械設備もあり、最も配慮されたのは危険度が少ない作業環境であった。独立したスペースで、かつ比較的軽作業であり、危険要因の少ない安全な作業環境下にある製品銘板の製作部門(彫刻チーム)に配属となり、その後も聴覚障害者の雇用及び採用を継続し、現在その部門は聴覚障害者中心の職場となっている。
採用に関しては、山形県立山形聾学校との連携も大きな役割を果たした。事業所からは採用情報の提供をしたり、学校側からの職場見学や作業体験を受け入れたりしてきた。現在雇用されている人達の働きぶりも評価され、また学校も、入社して1~2年間は定期的に職場訪問を実施するなど、職場定着の一助となっている。
2. 障害者雇用の現状
(1)ノーマライゼーションの理念に基づいた取り組み
現在彫刻チームは、リーダーのYさんを含む聴覚障害者4名、健聴者1名の5名で構成されている。主な作業内容は、配電盤・分電盤に設置するアクリルプレートにタイトルを彫ることであり、カスタムメイドのため種類も単一ではなく、非常に多岐にわたっている。工程はラインで管理されており、遅れが出た場合には、視認性のあるパトライト(回転灯)が点灯する仕組みになっている。また、コミュニケーション手段をサポートするため、平成15年には社内LAN及び電子メールの使用環境を整備、社内外との情報伝達がスムーズになり、業務の幅が広がっている。具体的には、外部や他部署とのやりとりも口話や筆談が中心であり、電話での応対も聴覚に障害のない社員を通さざるを得ない環境であったが、社内LANの整備により設計部門からの彫刻情報を利用できるようになり作業時間が大幅に短縮しミスも少なくなった。また電子メールについては、工場内での作業はどうしても内部での付き合いが中心となってしまい、視野も狭くなるおそれもあるが、外部とのやりとりを直接行うことにより業務に対する責任感も増し、業務の幅も広がっている。
今回取材に対応された総務部担当者によれば、決して大げさな設備投資を行ってきた訳ではなく、業務上支障が出た場合にはその都度創意工夫で細やかな改善を続けてきた結果、現在の環境があるとのこと。障害のある人についても、昔からの仲間の一人であり、ただ聴覚に障害があるだけであって、当然の存在になっているとのこと。障害者雇用といっても周囲が構えるわけでもなく、ナチュラルサポートの体制が作られていることを強く感じた。
(2)あくまでも一従業員として
会社全体において、生産性の向上・改善活動を進めるための取り組みの一つとして、障害があっても処遇に格差を設けることなく、障害のある人・ない人、同一の人事考課制度を導入し、管理職登用者を輩出したことも、障害者個人の能力開発・技能向上に大きな成果を与えることとなった。前述のYさんだが、平成17年4月に彫刻部門のチームリーダー(管理・監督職)に登用された。同じ聴覚障害者の相談相手として信頼も厚く、公私共に中心的な存在であったことが登用の大きな要因だったとのこと。もちろん、障害のある無しに関わらず組織の中で管理職という立場は責任も大きく、決して容易な業務では無いと思われるが、それだけ仕事に対するやりがい・達成感も充実しているのではないだろうか。また他の障害のある人にとっても、同じ仲間が管理職として働いている姿を見れば業務に対するモチベーションも向上し、ひいては社内全体の品質向上・能力開発促進に繋がるのではと思われる。
実際、業務多忙の中恐縮ではあったが、Yさんに業務に対する考えを伺った。リーダーとしての基本的な心構えについては、
①会社の方針と品質などを守ること
②上司、部下とのコミュニケーション(報告・伝達・説明・連絡など)において、自分の意見をハッキリと伝えること
③職場改善・問題解決・効率などを管理すること
④専門的技術・技能など作業能力の教育・指導をすること
⑤物ごとを客観的に判断できる理性と認識を持つこと
であり、また今まで働いてきて感じていることは、「入社直後は、他部署との連絡などは電話を使えないために、先方へ走り直接伝えに行っていました。私の障害に対して、電話の対応など一定の配慮は頂いています。電子メールなどを利用して働ける環境が整ってきたので、感謝しています。全体的には、『勤務している障害者が非常に多い』『サポートしていただける方が多い』と感じる場面が多々あり、『この会社は、障害者への理解があるに違いない』と確信し、安心して思い切って仕事ができるようになりました」とのことであった。なにより、従業員が安心して働くことのできる職場環境の構築に、会社として積極的に取り組んでいることの大切さ、またそれに応え、リーダーとして責任を持って業務に邁進している姿を、改めて感じさせられる内容であった。

彫刻部門風景

工程ライン・パトライト

彫刻システム

製品銘板
3. 新たな取り組み
今後も、障害者雇用並びに職域の拡大を行っていくという会社の方針のもと、平成19年に試みとして聴覚障害者1名を新たに採用し、彫刻部門とは別のハーネス部門(電線配線部品製作ライン)に配属して技能・技術の習得の取り組みも行っている。ハーネス部門では初めての配属ということもあり、やはり最初は周囲から戸惑いの声も上がったこともあったが、会社としての考えを周知・説明し理解を得、現在は問題なく作業に従事している。
また、課題としては知的・精神障害者の雇用についてである。採用実績がまだ無いのが実状であり、要因としては、①カスタムメイドの製品なので作業工程が複雑なこと、②工場の立地状況として、周囲が交通量の多い国道・JRの線路・山に囲まれていて、安全に不安があること、③どんな作業が適しているか、まだ充分検討されていないこと、などが挙げられる。しかし、障害者の雇用を拡大していくため、設備改善・教育訓練等により障害者が働くことのできる職種・職務を更に広げていきたいとの考えは、確かに会社として持っている。障害者雇用に関しては、支援制度・支援体制など雇用主にとっても安心できる内容が整ってきているため、是非利用し知的・精神障害者が働くことのできる職域の開発を期待したい。
4. おわりに
今回の取材を通し、会社として特に大げさな取り組みはしていないとの話もあったが、通常の業務の中で、一つずつ課題を解決していく過程には、現場の方の努力・発想・協力が多々あり、またそれを安心して実行できる会社としての方針が、大きな後押しとなったと思われる。「誰もが意欲を持って安心して働くことのできる」職場こそ、皆が求めるものであり、それを具現化し実行している会社であることを強く感じた。
現在の厳しい雇用情勢は特筆するまでもないが、その中でも働きたいという希望を持っている障害者は数多くいる。そしてその雇用の場を与えたいと考えている事業所も確かにあるはずである。その双方の願いを実現するために、障害者、事業所、支援機関の連携した取り組みが、今後ますます重要になってくるだろう。
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