職場のユニバーサルデザイン化
~障害者にとって働き易い職場は障害のない人にとっても働き易い~
- 事業所名
- 株式会社小松製作所 エンジン・油機事業本部 郡山工場
- 所在地
- 福島県郡山市
- 事業内容
- 油圧機器製造
- 従業員数
- 360名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 2 ギアポンプ製造、ピッキング組立 肢体不自由 内部障害 2 設備の保守・修繕作業、部品製品の運搬・検収作業 知的障害 精神障害 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.komatsu.co.jp/
1. 事業所の沿革と事業内容
株式会社小松製作所「コマツ」は1921年の創立以来、建設・産業機械分野で世界をリードする企業「世界のコマツ」として成長し、今日に至っている。郡山工場は、そのコマツの競争力の源泉である、建設機械の基幹部品を製造・供給するマザー工場として、1994年に設立された。油圧シリンダ・ギヤポンプ・スイベルジョイント等の、油圧機器を厚木・立川の旧工場から移管し、郡山市の西部第二工業団地に一番乗りで設置された工場である。工業団地の入り口に位置し、周囲を緑に囲まれた素晴らしい環境の中で360名の従業員が働いている。
2. 障害者雇用の概況
(1)障害者雇用に対する会社の基本姿勢
コマツは、企業の社会的貢献・責任を重視する会社の企業理念に基づき、慈善活動、企業メセナ(芸術・文化の援護活動)、スポーツ振興、環境改善活動等に積極的に取り組んでおり、その一つとして以前より「障害者雇用」を積極的に行ってきた。郡山工場でも2008年度から、内部障害者・聴覚障害者を中心に地元のハローワーク(公共職業安定所)と協力して障害者雇用を積極的に実施してきた。また、障害者の採用に当たっては、コマツのモットーでもある「やってやれないことはない、やらずに出来る訳がない」という合い言葉のとおり、障害の有無に拘わらず従業員個々人の能力の向上を重視している。
(2)障害者雇用の概況
2009年12月時点での郡山工場における障害者雇用の概況は、表1の通りである。2010年度からは、新たに1名(聴覚障害者)が雇用される予定になっている。郡山工場は、設立されて間もない事もあり、障害者雇用の歴史は始まったばかりであるが、会社としては今後も積極的に障害者雇用に取り組んでいく方針である。
表1 障害者雇用の概況(2009年12月現在)
名 | 性別 | 年齢 | 勤続年数 | 障害等級 | 障害の概要 | 職種(業務内容) |
---|---|---|---|---|---|---|
A | 男 | 30代 | 1 | 1 | 心臓機能障害 | 設備の保守・修繕作業 |
B | 男 | 50代 | 1 | 3 | 心臓機能障害 | 部品製品の運搬作業・検収作業 |
C | 男 | 10代 | 0 | 2 | 聴覚障害 | ギアポンプ製造、ピッキング組立 |
D | 男 | 10代 | - | 2 | 聴覚障害 | 2010年度採用内定者 |
郡山工場では、2008年度から障害者を対象に工場見学会を実施するなど、積極的に障害者雇用に取り組み始め、毎年聾学校の生徒を実習生として受け入れている。聴覚障害者の場合、一番の問題はコミュニケーションの取り方であるが、採用試験を手話通訳付で実施したり、社員が手話教室へ通ったり、筆談やノートテイカーを駆使してコミュニケーションが取れるように様々な工夫と配慮がなされている。
(3)障害者雇用に際しての会社の姿勢と配慮
①地域の障害者を積極的に雇用
コマツでは地域貢献の一環として、地元の障害者を雇用し、その能力や特性に応じて適材適所に配置し、それぞれの部署でスペシャリストとして仕事に従事させている。
②特別扱いしない(最大の配慮)
障害者だからといって、業務の遂行や労働条件面での特別扱いはしてない。ただし、作業環境を、障害者が安全で働き易いよう、さまざまな改善や工夫がなされている。通常の従業員と同様に、ごく普通に当たり前に処遇することが、実は障害者への一番の配慮だといえる。障害者本人も「特別扱い」されることを嫌がり、望まないのである。敢えて「障害者」として特別な目で見る必要はなく、たまたま聴覚に障害があるだけで、同じ従業員であることに何ら変わらないのである。「特別扱い」しないことが、実は障害者への最大の配慮だといえる。
(4)障害に応じた配慮
①聴覚障害者への配慮
郡山工場で雇用されている障害者の半数が聴覚障害者で、コミュニケーションの取り方に関しての配慮が必要である。手話が出来る人が少ないために筆談が中心になるが、周囲の社員や上司は身振り手振りでかなりの会話が可能である。大切なことは、聴覚障害者本人が、他人とのコミュニケーションを積極的に取ろうとする態度や姿勢である。
②内部障害者への配慮
心臓に障害がある内部障害者は、活動に制限があり「立ち作業」は困難なので、「座業」中心の業務に就かせるなどの配慮がなされている。いずれも心臓に負担がかからないように、本人の特性や自己ペースに合わせて就業出来るように配慮されている。
(5)取り組み内容(Cさんの事例)
Cさんは地元の聾学校高等部を卒業し、卒業と同時に2009年4月に採用された。それに至るまでには、工場見学会、職場実習、ハローワークとの協議、手話通訳付きの入社試験、本人及び学校の教師・保護者を含めた面談、ジョブコーチによる指導等、3か月のトライアル雇用を経て正式に採用された。その間に、職場の上司・同僚、周囲の人たちによる指導と本人の適性・希望等を整合させながら就業部署が決められた。その結果、表1にある同工場のギアポンプ製造・ピッキング組立作業に従事している。

3. 職場のユニバーサルデザイン化 -安全で働きやすい職場環境作り
郡山工場では、聴覚障害者のCさんの雇用を契機に、様々な工夫や改善が図られた。Cさんが安全で働き易いように、以下のような工夫と改善が図られたが、こうした配慮は結果的には一般の従業員にとっても、安全で働き易い職場となり大変好評である。
(1)歩行者専用通路の設定
工場内では、フォークリフトによる部品の搬送が頻繁に行われるために、安全確保の観点から、通路を視覚的に色分けし、歩行者専用通路を設けた。このことにより、歩行者の安全な移動が可能になり、聴覚に障害があっても視覚的に認識出来るために、機械や人とぶつかることなく工場内を移動できる。なお、この改善は、Cさんの協力を得ながら実施したもので、安全な職場を作り上げる効果を身を持って学ぶ機会にもなっている。
(2)カーブミラーの設置
同様に、後ろを通る人と衝突したり、交差点で接触したりすることのないように、工場内の死角となっている箇所にカーブミラーを設置し、障害のない人ならばフォークリフトや機械の音で認識できる危険を視覚的に認識出来るようにした。この装置は障害のない人にとっても、安全で便利であると大変好評である。
(3)視覚的提示
物事や危険を、聴覚的に認識できなくても、視覚的に認識できるように、通路や歩道・横断歩道などを視覚的に色分けすることによって、作業や移動が安全で能率的に出来るようになる。また製品や部品を置く場所を色枠で示すことにより、整然と整理ができ効率的に作業を進めることが出来る。

工場内の専用通路、カーブミラー

工場内の床の色分けの様子
(4)連絡用パソコンの設置
上司や同僚とスムーズなコミュニケーションが取れるよう、連絡用のパソコンを設置して、上司や同僚からの指示の伝達や各種の問い合わせ、報告等に活用している。パソコンを活用することにより、上司や同僚との連絡が素早く能率的に出来るようになっている。
以上のような工夫や改善は、本来は聴覚障害者のCさんが安全で快適に作業が遂行できるようにと計画され実施されたものであるが、結果的には他の従業員にとっても安全で働きやすい職場環境になっている。
4. ピグマリオン効果とホーソン効果
障害者が、他の従業員とごく普通の人間関係を結び職場に定着していくためには、上司を始め、同僚や周囲の人々の理解と協力が不可欠である。教育の世界では、教師が子どもに対して「この子は出来るはずだ」と期待して指導に当たれば、子どもも教師の期待に応えて成績が伸びるという現象をピグマリオン効果(教師期待効果)と呼ぶが、同様のことが職場環境においても言える。労働者の作業成果を左右するのは工場内の照明や設備、労働時間、賃金などよりは、むしろ同僚や周囲の人の関心と上司の注目(期待)に大きな影響を受けることをホーソン効果というが、障害者雇用に際してもこの効果が大きいと言える。
上司や周囲の従業員から理解され期待されているということが、本人の労働意欲(士気)へと繋がる。こうした職場の温かい雰囲気や人間関係に加えて、障害者自身も他人との協調性に富み、余暇時間やレクリエーション活動や職場外の諸活動にも積極的に参加していく必要がある。就労に際して、とりわけ以下のような資質が求められる。
① 健康の保持・体力
② 挨拶や返事・協調性
③ 基本的生活習慣(ルールやマナー)
④ チャレンジ精神
⑤ 意欲・根気(持続性)と集中力
以上に挙げた資質は、職種や業種を超えて特に必要とされる基本的資質である。しかも障害の有無に拘わらず、すべての職業人に必要とされる人間的資質といえる。筆者のこれまでの企業訪問を通して常に痛感することは、雇用主は作業の「スキル」よりはむしろこうした「人間的資質」を重視していることに注目すべきである。
5. まとめにかえて-みんなが一人のために、一人がみんなのために
今回の訪問を通して痛感したことは、一人の障害者に対するちょっとした配慮や工夫が、結果的には従業員全員への配慮に繋がっているということである。「一人のため」に配慮した工夫や改善が、実は「みんなのため」になっているということである。つまり、「みんなが一人のために、一人がみんなのために」が実践された職場であった。障害者にとって働き易い職場は、障害のない人にとっても、働き易い職場になっているということである。まさに職場のユニバーサルデザイン化を、目の当たりにした有意義な工場訪問であった。

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