同一賃金体系の適用と現有障害の影響ない部署への配置
- 事業所名
- 株式会社牧機械製作所
- 所在地
- 群馬県前橋市
- 事業内容
- 自動車部品及び精密機械部品製造
- 従業員数
- 120名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 4 切削作業 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 切削作業 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要・障害者雇用の経過
昭和14年 工作機械製造業として創業
昭和35年 自動車部品及び精密機械部品の製造を開始
平成15年 ISO-9001-2000 版を認証取得
(1)障害者雇用の基本的ねらい
当社は、ハンディ(障害)を持つ者を補助的業務ではなく基幹的な必要人材として育成することを障害者雇用の大きな柱にしている。
①法定雇用率の達成をめざすだけの障害者雇用から脱皮して
②提供する仕事が障害者の自尊心を傷つけ、あるいは不本意な結果にならないように配慮を続けることが企業の社会的責任だと考える。
職場で尊重される条件として、何よりも障害者自身の専門知識と技能の向上が必要であり、この習得によって自信の持てる仕事生活を過ごせることになる。現在、この目的は、ほぼ達成できていると自負したい。とはいえ、このような仕組みをすぐに構築できたわけではない。当初、当社の障害者雇用において高い離職率と周期的な欠勤が繰り返されていた。障害者雇用に何かの「油」が不足していた。その解決のヒントは、ハンディ(障害)を持つ側にではなく会社の努力不足にあることが分かってきた。不足していたのは会社が障害者と同じ目線で職場を見ることであった。その結果、コミュニケーションや賃金などの改善問題が浮上してきた。障害の有無にかかわらず他人がしてほしいと思うことを会社自らが行う。会社のトップが率先して、いつくしみのある会社づくりに方向転換を進めている。




(2)障害者雇用の経緯
当社は30年以上前から障害者雇用を行っている。現社長が社員として入社した当時も毎年のように障害者雇用を行っていたが、1年足らずで簡単に離職してしまう傾向が続いていた。出勤率も不十分であった。なぜだろうか。分析を進めた。障害のある社員はライン作業やチーム編成の工程にではなく、ハンディを理由として「一人ぼっち」の職務に従事させられていて、同僚もなくコミュニケーションもとれずに孤立していた。楽しいはずの休憩時間も一人で過ごすこととなり、それは自尊心を傷つける仕事生活であった。会社は障害者の複数雇用に踏み切ることにした。改善が始まった。休憩時間などで障害のある社員同士が手話で会話を始めることになり、コミュニケーションは広がっていった。次に向かったのは賃金の改善である。聴覚のハンディはNC機械などの切削作業にまったく影響ないことから障害のない社員と同じ賃金体系を導入できないか、検討を開始する。

2. 障害者雇用の取り組み
(1)欠勤の解決 その1 同一賃金体系の適用
定期的に発生する欠勤についても原因が分かってきた。当時、国の障害者給付は家族の所得の合算で受給額が決定されるために減額を防ぐ方法として障害のある社員が出勤日数を調整していた。定期的な欠勤は会社の生産性にも影響が大きい。これを解決するために月額5万円ほど賃金を引き上げて障害のない社員と同じ賃金体系を適用した。出勤率は改善に向かい、現在、それまでの欠勤現象は見られない。障害のある社員5名のうち4名は聴覚に障害を持つ。聴覚のハンディは機械加工に影響しない。障害のない社員と同一の賃金体系とすることはむしろ当然である。この改革によってやる気を引き出し、目指す基幹的な必要人材へと成長を続けている。
(2)欠勤の解決 その2 局部の痛みは共通の問題として
障害のある社員の多くはステアリングシャフトという自動車部品の製造工程でNC旋盤加工を担当する。素材のシャフトを機械へ装着して加工、切削後に寸法やキズを確認して箱詰めする。この作業を繰り返す。慣れないと手と腕の局部に痛みが残る。疲労や痛みで欠勤することになる。これについて障害のない社員も同じであることを説明する。一人が理解してもらえるだけでよい。一人の理解によって他の者もすぐに分かってくれる。
(3)適正配置がキーワード
最初から、儲かる儲からないを基準にすると障害者雇用は難しい。それは、コストと効率の2元論で考えることから能力以上のことを求めてしまう。障害者雇用のキーワードとして配置が重要である。配置について、現有する障害が現れない部署にすることが最重要ポイントである。ふさわしい仕事は当人に苦にならない。この市場社会は競争原理でできているが、それだけではなくもっと広い。苦にならない職場を確保するためには、仕事内容を変えてやりながら向き不向きを考えることである。当社は聴覚障害のある社員が多いが、この障害は機械加工にあたり不利な条件にはならない。仕事の環境は障害のない社員と同じである。したがって賃金レベルも同じ取り扱いになっている。「お情け」しているのではない。当然のことである。
3. 取り組みの効果
(1)仕事生活に注目
障害のある社員にとって家族の存在は大きい。家族構成員の援助なくして仕事を続けることが困難なことがある。親の励ましはとりわけ大きい。当然、自立できる人も多い。しかし、父母が高齢や病気になった場合、当人の仕事生活にも大きな負担がでる。最近、15年間当社に勤務した30歳の障害のある社員が離職した。離職後まもなく、父親が病気になった。母親は短時間労働者であることから、当人から「今後は、自分が家族の生計を担いたい」として再就職の申し込みがあった。その後の彼の仕事姿勢は敬服という言葉が当てはまる。親の病気によっていっそう就労意欲を高めることになった。人は一定の社会的責任を負わされたとき、思わぬエネルギーと持久力が出てくる。当社は、離職した者でも再挑戦の場を求めてきたときは、いつでもドアを開けてやりたい。
(2)励ましと成長
当社に高校の実習で来ていた者がいる。母親から特別扱いをしないよう求められた。右手が不自由で左手が利き手であった。子供の時から自動車が好きで自動車部品製造にかかわることが夢であった。当社に就職して夢は実現した。彼の後姿を見てきた。責任をもって仕上げ、そして自尊心を高めていった。NC機械に材料を投入し、切削後それを取り出す。上司は配慮ある言葉で不自由な「右手を多く使え」という。まもなく、右手を使えるようになった。進歩である。現場責任者との深い心のふれあいで障害者雇用の風土作りが進んでいる。
(3)障害者は昼間勤務が基本
聴覚障害のある社員が工作機械の切削時に発生する切り粉を手で払っている時、手を切る事故があった。傷口を押さえたまま無言でかがんでいる。当然、質問しても返答はない。傷の程度が分からないので救急車を呼んだ。幸いにも深い傷ではなかった。誰でも負傷時には気が動転して会話もできないことがある。この経験から、作業者が極端に少なくなる深夜勤務(作業員6人程度)に事故が発生した場合、直ちに救助できない恐れがあることを考えた。安全配慮として昼間勤務を基本にしている。
(4)昇給・賞与の評価
人間を多面的にみると、誰でも良いところを持っている。当社は公式的な人事考課を用意していないが管理者の意見具申により評価を行う。賃金が全てではないが、形式的にはこれによって評価する。職場の責任者から、賞与などのときには個々について評価するよう意見具申がなされる。
(5)離職原因は仕事のやり方
「障害者は中途で離職することが多く、仕事が続かない」ということを言う人がいるが、障害のない人も同じである。障害が離職の要因ではない。仕事のやり方が分からなければ、また、作業の進捗を感じられない仕事ならば、だれでも離職に向かう。分からなければ、教えてそれを直してもらう。分かれば責任を持ってやってくれる。だれでも慣れるまでは失敗がある。直してもらい、その後の評価をする。
4. 今後の課題と展望
(1)高度な技能習得
自動車部品製造は機械加工が中心である。NC旋盤に材料を入れて切削後に取り出す。一人の作業者が3台の機械を受け持つ。筆談や手話の得意な者もいると技能の習得、伝授などはうまく進む。ポイントは教示する側が長い目で見てやることで、急いで結果を求めるとうまくいかない。当社に勤務をしている障害者たちの技術・技能は期待に沿うものである。後輩の指導として卒業した学校に出掛ける者もいる。「あんなに成長するとは思わなかった」これが会社の実感である。日本の自動車業界における物づくりは、世界最高レベルにある。高度な技術は、手話・筆談だけでは完全に教えきれないことがある。すぐにそこまでは望まない。仕事をしながら自ら学んでいく彼らを、いかに支援・活用するか、会社に与えられた課題である。
(2)経済環境の影響
会社の今後に不安はつきものである。冷戦後の世界市場のグローバル化で「中国との戦い」は加速度を増している。発注会社が生産拠点を中国に移した場合、中国からの受注を受けるのは無理がある。48年間受注してきた原子力発電所と高度工作機械用のマッハねじの注文が無くなることもあると親会社から知らされた。外国で、この高度の製品作りができるとは思えない。もし、剰員が出た場合、親会社から新たな仕事をもらい雇用を確保していきたい。
(3)柔軟な組織作り
聴覚に障害のある社員について、配属に当たり初めから「聞こえないから困る」などという職場管理者がいると障害者雇用は萎縮してしまう。その部下も同じ影響を受けやすい。この問題解決には会社トップがその職場の根回しを念入り行い、その後配置することにしている。社長自ら職場管理者に頭を下げ、また、定例の課長会議において障害者雇用の共通認識を高めている。
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