障害者が主役のリサイクル工場
- 事業所名
- ベストトレーディング株式会社
- 所在地
- 神奈川県厚木市
- 事業内容
- 廃棄物処理業(空き飲料容器の再資源原料化、原料販売など)
- 従業員数
- 30名
- うち障害者数
- 17名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 14 工場長、空飲料容器・廃プラスチック選別、フォークリフト作業 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 空き飲料容器・廃プラスチック選別、フォークリフト作業 精神障害 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.best-trading.co.jp/
1. 経営理念は「環境保全」+「障害者就労支援」
(1)障害者雇用を切り札に
会社の設立は1959年と古いが、ベストトレーディング株式会社が空き飲料容器リサイクル業に転向し、ベンチャービジネスを立ち上げたのは1999年。大量消費・大量廃棄によるごみ問題が深刻化し、3R(リデュース=ごみの減量、リユース=再使用、リサイクル=再資源化)の考え方が浸透し始めた頃である。翌年、政府は環境への負荷が少ない循環型社会をめざし、「循環型社会形成推進基本法」を制定。廃棄物・リサイクル関係の法整備が整い、各地方行政は本格的にごみ問題に取り組むことになる。
「我々企業から見れば、『リサイクル』は社会的な課題であると同時に、ビジネスチャンスでもあったわけです。ただ、リサイクル事業に着目したのは我が社だけではありません。数多くの競合他社のなかで、いかに独自のカラーを打ち出すか…。そこで注目したのが、企業の社会的責任のひとつでもある『障害者雇用』だったのです」
そう語るのは、業務部の華谷俊樹部長。ベストトレーディングは、リサイクル事業の開始当初から「障害者が主役の工場」を掲げ、障害者が働きやすい職場環境の整備と、彼らの社会的地位向上を方針にしている。

(2)聴覚障害者が適任
とはいえ、会社としては初めての障害者雇用。「どのような障害者を採用したらよいのか」とハローワーク(公共職業安定所)に相談したところ、聴覚障害者の採用についてアドバイスを受けたという。
「うちの工場では、空き缶やペットボトルなどの空き飲料容器を設備ラインで粉砕しているので、現場の音がものすごいんです。1メートル離れた人と会話するのに、大声を出さなければいけないぐらい。なるほど確かに聴覚障害の状況によっては、騒音がそれほど気にならない人もいるわけです」
ハローワークのアドバイスをもとに、4名の聴覚障害者を採用。その後、障害のある社員からの紹介などもあり、現在、ベストトレーディングで働く障害者は17人となった。
「障害者が主体のリサイクル工場」として広く知られるようになり、県内外から年間200人以上の見学者が訪れている。
2. 現場の主役は障害者
ベストトレーディングには、アルミやスチールの空き缶や、ペットボトル、ビンなどの空き飲料容器を選別し、プレスあるいは粉砕する「第2工場」と、家庭から出る廃プラスチックを選別している「第3工場」がある(以前、「第1工場」と呼んでいた工場は現在、使用していない)。障害のある社員は、両工場で選別作業などに従事している。
(1)大量の飲料容器をラインで選別
ベストトレーディングで取り扱う空き飲料容器は、神奈川県内のベンダー企業営業所から回収してきたもの(回収も請け負っている)。1日に16トンものビンや缶、ペットボトルが第2工場に集められている。
ラインで自動的に選別され、ひとかたまりにプレスされたスチール缶などはずっしりと重く、第2工場は比較的体力に自信がある社員の職場となっている。

第2工場 空き飲料容器をラインに流しながら選別・プレス・粉砕する。社員はラインを流れる容器を目視し、選別ミスがないか確認する

フォークリフトを使い、ラインに空き飲料容器を投入する
(2)注意力が必要な廃プラ選別
一方、第3工場は、一般家庭から出る廃プラスチックの選別作業が主な仕事。厚木市内のごみ集積場から回収された「プラスチック製容器包装」をラインに流し、サーマルリサイクルするには不適切なもの(中身が入ったものや紙類など)を取り除く。
空き飲料容器を扱う第2工場よりも内容が雑多で、選別には注意が必要だ。同じ障害のある社員でも、細かい作業を得意とする女性社員は第3工場で働くことが多い。

第3工場 ラインを流れる廃プラスチックから不適切なものを探す

回収物に混ざっていた不適切物。
このようなものが入ったままでは資源として利用できない

選別後、ブロックにまとめられた廃プラ。
サーマルリサイクルの処理施設に送られる
3. 聴覚障害者の文章能力
さて、これまで順調に障害者雇用を進めてきたように見えるベストトレーディングだが、苦労した経験などを聞くと、「読み書きの勉強ですね」とズバリ一言。聴覚障害者とのコミュニケーションは主に筆談だが、採用当初、彼らの書く文章がいわゆる文章の体を為しておらず、理解に苦しんだという。
例えばひとつの行動を文章で連絡・報告する場合、往々にして次のようになってしまう。
[例1] | |
●一般的な文章 | 「Aの荷物をBさんに届けました」 |
●聴覚障害者の文章 | 「A B 届けた」 |
[例2] | |
●一般的な文章 | 「風邪をひいたので休みます」 |
●聴覚障害者の文章 | 「風邪 休みます」 |
「つまり『てにをは』や、『~なので』といった接続詞がすっぽり抜けているんです。見る人が見れば内容は分かるし、聴覚障害者同士のコミュニケーションなら、慣れもあるし十分なのかもしれません。でも、これでは誤解を生むかもしれないし、何より報告書を書かせても全部このような感じですから、後から読んだ人にはさっぱり意味が伝わらないことがある」
弊害は文章だけではない。
作業指示の確認の際も、上記のような筆談で「分かったつもり」になっているせいか、実際、作業をやってみると勘違いしていたり、間違っていたり…。
また、文章の形で物事を考える習慣が身についていないので、認識があいまいになりがちなのだ。
文章能力向上のため、華谷部長は、週に数回、定期的に読み書きの勉強会を開くことにした。小学生の国語の教科書を取り寄せて、作文を指導。辞書を買い与え、漢字の読みを聞かれるたびに『まずは引いてみよう?』と調べさせた。
辛抱強く勉強会を続けるうちに、最初は面倒臭がっていた彼らも次第に興味を持ち始め、めきめきと文章能力が向上していったという。
「がんばったおかげで、今ではきちんとした報告書が書けるようになりました。また作業指示の確認がしっかりできるようになったので、間違いも少なく、何より安全です」との発言も。
つきっきりで指導した苦労が実を結び、ホッと一安心だ。
障害の程度や学習の習熟度には個人差があるが、「耳が不自由なだけで、他は障害のない人と同じ」と思われがちな聴覚障害者の特性。聴覚障害者の雇用を検討している企業にとって、念頭に置いておくポイントのひとつといえよう。
4. 今後の展望と将来
(1)本当の自立=障害者による運営・経営をめざす
ベストトレーディングの掲げるテーマは「障害者が主役」。多くの障害者が働くだけでなく、工場の運営管理や人員管理、人材教育、最終的には会社の経営にも障害者が参加できるよう、目標を立てている。「障害のない人が指示を出し、障害のある人はそれに従って働くだけという図式では、真の自立とは言えませんからね」と華谷部長。
現在、ベテランの聴覚障害者が、工場長として第2工場の運営と人員管理を任されているほか、彼を含めて2人の聴覚障害者が、役員として経営会議などに参加している。これからも教育と訓練を重ねながら、積極的にスタッフ登用を展開していく方向だ。
(2)助成金を有効利用
写真を見ても分かるように、第3工場の廃プラスチックの選別ラインは新設されたばかりで、ピカピカだ。これは高齢・障害・求職者雇用支援機構の助成金(障害者作業施設設置等助成金)を利用して設置したものである。今後も障害者の職場環境を向上し、また障害者の雇用機会と事業を拡大するために、積極的に助成金などを利用していく。
(3)ベストトレーディングから羽ばたく人材を
ベストトレーディングの障害者雇用への取り組みが注目を集め、近年では聾学校の生徒の現場実習なども受け入れるようになった。しかし、基本的には新卒者の採用を控えているため、彼らの就職には結びついていない。
「生徒だけでなく、『働かせてほしい』と多くの障害者の方が見えますが、さすがに車いすを使っている方などは、我が社には不向き。でも、そこで彼らの意欲を削いでしまうのはもったいないことです。ですから最近は、ほかに求人している会社があれば我が社から紹介するなどの就労支援を始めています」
企業の営利活動と区別するため、活動は「一人でも多くの障害者の就労支援を」をキャッチフレーズに立ち上げたNPO法人障害者ライフワークスで行っている。
「ベストトレーディングの紹介で他の企業に就職したり、また我が社で培ったノウハウを武器に他の企業に就職し、そこでまた活躍したり…。ここからどんどん人材が羽ばたいていくような、そんな発信基地になれば嬉しいですね」
華谷部長は、そう遠くないであろう将来の夢を語った。
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