障害者の働きやすさを向上することで「三方良し」を実現している事例
- 事業所名
- 医療法人小宮山会 貢川整形外科病院
- 所在地
- 山梨県甲府市
- 事業内容
- 脊椎疾患、関節疾患を中心とした整形外科手術及び術後リハビリ等
- 従業員数
- 114名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 7 あん摩マッサージ指圧師(リハビリ担当) 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次


1. 事業所概要
(1)事業内容
当病院は脊椎外科、関節外科の専門医が集結し、脊椎外科、人工関節外科に専門特化された病院である。高齢化社会の進行に伴い、脊椎外科、人工関節外科の必要性は年々高まっている。そして、診断方法、手術方法、リハビリ方法に高度な先進医療を駆使し、最先端の治療を行っている。患者の日常生活がより痛みのないより快適なものになることを目指し、職員一丸となって努力している。
当病院では、脊椎疾患、関節疾患を中心に整形外科手術及び術後早期リハビリによる短期入院で社会復帰、家庭復帰を目指している。
また、早期離床を目標とし、クリティカルパスを使用して、入院前から手術経過、退院までのスケジュールが、目で見えるようにしている。当病院の入院在日数は平均15日以内であり、脊椎の手術は年間300例、人工関節手術も年間130例以上行っている。
治療対象疾患は、腰椎脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア・頚椎症性脊髄症等の脊椎の疾患及び変形性関節症であり、最先端の手術治療に取り組んでいる。手術において輸血が必要と考えられる場合は、自己血輸血を使用し安心して手術がうけられるようにしている。
当院のリハビリテーション科は、運動器リハビリテーション認定施設であり、マンツーマンでの運動療法を主体としたリハビリテーションを提供している。患者の状態やニーズ等を考慮した個別のプログラムを作成し、患者自身が納得するリハビリテーションが展開できる様に心がけている。一般的な機器のほか重心動揺計をはじめとした様々な機器が備えられており、患者の身体状況の把握に努めている。

(2)経営方針
経営方針は次のとおりである。
「病院理念」
地域に根ざした、質の高い良質な医療、信頼される医療、思いやりのある医療をめざします。
「病院基本方針」
1 私達は、生命の尊重と人間愛を基本とし、良質かつ適切な医療の提供に努めます。
2 私達は、医療水準向上のため、常に研修に励み、先進的な医療の提供に努めます。
3 私達は、充分な情報の提供により、理解と納得に基づいた患者中心の医療に努めます。
4 私達は、親切な対応を心がけ、患者の権利とプライバシーの尊重に努めます。
5 私達は、常に公共性と経済性を考慮し、健全なる病院経営に努めます。
(3)組織構成
組織は大きく分けて、次の八つの部門から成り立っている。
◇看護部門(病棟、手術室、外来)
◇理学療法・リハビリ、薬局、検査室、診療放射線、栄養室の各部門
◇託児所部門
◇事務部門
(4)障害者雇用の理念
病院理念にある「地域に根ざした」を具体化した地域貢献の取り組みの一つとして、地域の雇用を創造するべく障害者雇用に取り組んでいる。また、地域貢献に止まらず、その目指す延長線上には、ノーマライゼーションの実現がある。
2. 取り組みの経緯、背景、きっかけ、具体的な内容
取り組みのきっかけは、他の病院からの紹介により障害者を採用したことである。病院間のつながりもあり、雇用の受け皿として、また地域貢献等からも通勤距離などを総合勘案して採用決定の判断がなされた。
その後は、平成3年から盲学校の新卒者を採用し、現在に至っている。
また、最近も定年退職者が出るなど定着率は極めて高く、途中退職者はほとんどいないため、年齢構成も18歳から67歳までと幅広くなっている。
(1)労働条件
労働条件は障害のない社員とほとんど同じである。
①期間
期間の定めのない契約を締結しており、定年制が適用になる。
②場所
病院施設内である。
③時間
障害のない社員と同じであり、短時間ではなく通常勤務である。なお、障害のない社員の場合、手術直後のリハビリ対応など休日勤務がありえるが、障害のある社員については、通勤などを含めた安全配慮の観点から、土日及び祝祭日の勤務は行わないようにシフトを組んでいる。
④賃金
障害のない社員との違いは全くなく、賞与や退職金も支給されている。
(2)仕事の内容
主に、リハビリとしてのあん摩マッサージを担当している。また、多くの人が運動器リハビリテーションセラピストを取得し、術後早期よりリハビリテーションを開始し、一日も早い社会復帰をサポートしている。患者の状態やニーズ等を考慮した個別のプログラムを作成し、患者が納得するリハビリテーションが展開できるように心がけている。なお、運動器リハビリテーションの場合、診療報酬点数において運動器リハビリテーション料としてカウントされるため、障害者の活躍が、事業収益に直接貢献することとなる。

リハビリテーション室

リハビリの施術の様子-1

リハビリの施術の様子-2

リハビリの施術の様子-3
(3)障害者雇用納付金制度の活用
活用については、報奨金のみである。
(4)労務管理の工夫
◎具体的な取り組み
労務管理改善のポイントは働きやすさと業務効率向上の両立であり、実務的な対応に重きをおいた内容となっている。
当病院では、4年前に組織における人員配置を見直し、リハビリ部門に管理者として理学療法士を配したが、そこから障害者雇用に関しての具体的な雇用管理改善が始まったといっても過言ではない。
組織改変以前は、あんまマッサージ業務の位置づけの関係で、病院内にギクシャクした感じがあり、仕事の流れとしても非常に非効率なものとなっていた。
そこで現院長が、理学療法士を組織に加え、業務改善と労務管理改善に取り組むことを決断したことが最大のポイントであり、その理学療法士を管理者として配置し、改善の任に当たらせたのである。
改善の取り組み前は、以下のような課題があった。
・ 障害者のみで業務を担当し、仲間意識からか、一人でも仕事が終わらなければ全員が帰らないなど恒常的な残業があった。
・ 予約制になっておらず、手続き業務等マッサージ以外の業務に時間を多くとられていた。
・ 書類作成の業務が多く、それが残業につながっていた。
・ 入院患者の名札が見えない場合があり、手続きに支障が出ることがあった。
そこで、理学療法士を管理者として彼らの上司に据え、労務管理改善に取り組むこととなった。まず、障害者一人一人にヒアリングを実施し、作業の見直しに着手した。これは現在も継続されており、月に2回の話し合いを通じて改善点を見つけ、対策が講じられている。実施した大きな対策としては、外来に特化し、予約制を導入したことである。また、病院としては、教育に対しては投資を惜しまない姿勢で臨んでいることも、非常に重要な取り組みである。
なお、具体的な改善施策は以下のようなものである。
①書類の書式を見やすいものに変更
・ 大きめのフォントを使用
・ カラーは白黒に統一
・ 行間を広くする
・ 処方箋を見やすいものにする
②事務処理(書類作成)業務の負担軽減
・ レ点チェックを活用し、記述負担を軽減
・ 事務分掌を見直し、事務部門と協力して障害者の事務負担を軽減
・ 目を使う仕事を朝の時間帯に配分し、目の負担を軽減
・ 患者データ処理システム「聞き耳メアリー」を導入し、作業効率を大幅に向上
・ 予約制を導入し、マッサージ業務以外の仕事を削減
③作業の円滑化
・ 作業スペースを狭くし、施術者と患者との距離を狭くすることにより、患者の把握を容易化並びに迅速化
・ 施術者と患者との動線を分けることにより、接触事故を防止
④教育によるレベルアップ
・ 全員に教育を受けさせることにより、やる気を引き出し、職員としてレベルアップを図る

リハビリテーション室の皆さん
◎上司としての接し方
上司として、部下にとって働きやすい職場とは何かを常に意識することが大切である。それは障害者に限ったことではなく、よく話を聞くことが基本となる。また、障害者も共に働く者であり、単に保護される存在ではなく、障害者だからといって特別扱いしないこともポイントである。
◎ワークライフバランス(仕事と生活の調和)の取り組み
当病院では昭和55年8月より託児所を開設し、職員の子供を受け入れている。そして、保育園のバスが託児所まで送迎することにより、複数の子供がいても、安心して働くことが可能となっている。即ち、病院として、ワークライフバランスの一つの要素である育児と仕事の両立を支援することで、働きやすい職場環境を実現し、障害者も含めた貴重な職員の定着率をより強固なものにしている。現に、障害者の一人が育児休業中であり、職場復帰には託児所を利用する予定である。

託児所外観-1

託児所外観-2
3. 取り組みの効果
障害者にとって働きやすい職場環境を整備することは、業務の効率を上げることに他ならず、障害者にとっても病院にとってもメリットがある、俗に言う「Win-Winの関係」が成立することになる。この取り組みは、患者にとってもメリットのある医療を実施できることになり、「Win-Winの関係」をさらに進めて、障害者・病院・患者の「三方良し」を実現している。それには、教育に対する病院の姿勢が奏功していることは言うまでもない。
具体的な効果は以下のようなものである。
・ 残業時間をほぼ削減できた。
・ 業務の効率化により、資格取得の時間とキャリアアップ意欲が生まれた。
・ 病院の教育姿勢に基づき、多くの人が運動器リハビリテーションセラピストの資格を取得した。
・ 運動器リハビリテーションセラピストとしての業務により、病院の収益に直接貢献し、それが本人の賃金にも反映され、大きな励みになっている。
・ 企業として、地域における雇用に関して社会的責任を果たしている。
また、上司が管理者として成長することで、以下のような効果がある。
・ 仕事の流れだけでなく、全体の中の細かい部分にも配慮することで、業務が円滑になることを実感し、より以上に心掛けられるようになった。
・ 部下にとって働きやすい職場とは何かを常に意識するようになった。
・ 障害のある社員にとって働きやすい職場は、障害のない社員にとっても働きやすい職場であり、その結果、全ての人にとって働きやすい環境が整備された。

リハビリの施術の様子-4

リハビリの施術の様子-5
労務管理改善の取り組みの効果としては、病院として企業の社会的責任を果たし、管理者及び障害者を含む職員はレベルアップし、患者は満足する医療が受けられるという、まさに「三方良し」が実現されている。地域という「世間良し」も加えれば、「四方良し」とも言える成果と考えられる。
即ち、「全ての関係者にメリットがある取り組みである」と換言できるであろう。普通、それぞれの利害は必ずしも一致しないため、企業はバランスをとりながら、付加価値を提供し、成長し続ける必要があるものだが、当病院の取り組みに関しては、全ての関係者がメリットを享受できる出色のものと思われる。
また、山梨大学との共同研究を通じた「全ての人にとって働きやすい環境の整備」は、ノーマライゼーションの具現化そのものであり、社会的にも「世間良し」として大いに評価できるものである。
4. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
業界全体として、診療報酬の変化に直面しており、収益構造の問題は避けて通れないところとなっている。経営という観点からは、障害者リハビリ部門として、労働生産性をいかに高められるかが今後の課題と考えられる。
(2)対策・展望
病院を増築する予定であり、担当医師の増員具合に応じて、障害者の新卒採用も検討したいと考えている。
また、まだ運動器リハビリテーションセラピストの資格を取得していない者に対して、積極的に働きかけを行い、全員の資格取得を図りたいと考えている。
なお、「患者データ処理システム」などの普及を進めて、更に効率的かつ働きやすい職場環境の実現に取り組む予定である。
上記の資格取得や効率化は、労働生産性や人時生産性に直結するものであり、上記の課題に対する対策にも十分に成りえるものである。
(3)総括
今後、障害者雇用に取り組む企業に対してのアドバイスは、次のような点が挙げられる。
①トップが障害者雇用への取り組みを決断する。
②障害のない社員と同じように扱い、特別扱いしない。
③プライドを傷つけないようにする。
以上であるが、当病院は障害者雇用を特別扱いせず、ノーマライゼーションという視点で捉え、組織構成を始めとして抜本的に労務管理を改革し、職員や病院・患者・地域等の全体がメリットを享受できるように取り組んでいることが認められる。
正直なところ、トップの英断と上司の努力で、ここまで可能なのかと驚いたというのが偽らざる感想である。並大抵の努力ではなかったであろうことは想像に難くないが、他の企業にとっても貴重なヒントになると思われる。
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