自然体で障害者を雇用する
- 事業所名
- コーケン工業株式会社
- 所在地
- 静岡県磐田市
- 事業内容
- 金属製品製造業
- 従業員数
- 242名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 CAD設計等生産技術、製造 内部障害 1 製造管理 知的障害 7 製造 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は、1971年に農業機械・建設機械用パイプ製造業者として創業。1997年に磐田市の竜南工業団地に新工場を構え現在に至る。主な事業内容は以下の通りである。
・ ディーゼルエンジン用燃料噴射管製造
・ 高圧・低圧用油圧配管パイプ製造
・ 加熱冷却用配管ほかパイプに関する二次加工品の製造・販売
非常に高い精度を要求されるパイプを製造し、その切断、曲げ、加工品の溶接、漏れの検査など、パイプ製造に関わる様々な工程を行う。多品種少量生産であり、少ないものは月に1、2本というものもある。2008年9月期の売上高は39億円を越え、2009年よりタイ国にも進出して業績を伸ばしている。

従業員数は242人で、そのうち身体障害者3人、知的障害者7人を雇用している。中でも身体障害者2人と知的障害者2人は重度であり、障害者雇用率は5.78%を数える。障害者雇用率が1.65%の静岡県の中では高い雇用率を示している。
また、当社の大きな特色は高齢者の雇用にもある。従業員の平均年齢は45.4歳。うち79人が60歳以上で会社全体の33%を占めている。女性の最高齢は89歳で検査部門に、男性は81歳で梱包部門に配属され、元気に働いている。
広い工場の中、障害者も高齢者もそれぞれの役割をもち、あてにされながら仕事をする光景は自然であり、何ら違和感がない。
「当社は高齢の方でも医者にかかる人は少ないです。」と常務取締役のU氏は語る。「病は気から」と言われるが、人の役に立てること、人に必要とされることは誰にとっても生きがいや喜びを感じるところであり、生きるための活力になることは、このことからも明らかではないだろうか。
(2)障害者雇用の経緯
初めて障害者雇用に乗り出したのは1997年。今から13年前に知的障害のある女性を特別支援学校から実習生として受け入れ、雇用したのをきっかけに学校との付き合いが始まる。それ以降、毎年のように学校から卒業生を雇用してきた。今年の春も卒業生を1人採用して半年以上が過ぎ、徐々に職場になじみつつある。
また、身体障害者は10年前に下肢機能障害のある女性を1人、5年前に内部機能障害のある男性を1人、4年前に下肢障害があり車いすを使う女性を1人採用する。
2. 取り組みの内容
特別支援学校からの採用は、実習期間の間に本人の適性と力量をじっくりと観察し、それに見合った仕事を提供することができてきた。知的障害者の職域は「ロウ材セット」、「黄銅ロウ付」、「仮付」の3種類に限られているので、実習期間中にポイントを絞って採用の判断ができる。
確実な雇用は学校との連携の上に成り立っている。学校側は会社の求める人材をよく理解して選抜し、また会社側は学校のサポートを得ながら安定した雇用継続を実現している。
では、会社側が求める人材とはどういうものなのか。問題は「人となり」である。「素直であること」、「挨拶ができること」、「生活環境が安定していること」があげられる。
場面の切り替えが苦手なのが知的障害者の特性でもあるが、先に述べたように多品種少量受注の製造に彼らがどうして携わることができるのか。それは、受注内容が様々であっても彼らの仕事の作業ベースがほぼ変わらないからである。例えば、銅リングのサイズやセットの位置などは変わっても、リングを仮付けするという作業の基本が変わらないということである。これが多くの知的障害者を雇用することができている要因ともいえる。
同じ現場に複数の知的障害者がいるとトラブルが発生したり、会社の外でもトラブルに巻き込まれたりする人も出てくる。また、情緒が不安定になることもある。そうした時には家族を呼んで話し合ったり、学校にも相談したりするなどの手立てを講じてきており、外部の支援機関の協力を得るまでも無く、ほとんどを会社の中で解決してきた。会社の中でのサポート体制は彼らの一番身近にいる人(主に高齢者や身体障害者)から現場責任者、そして生産管理部門担当者へと繋がっており、家庭的で自然な雰囲気の中で見守られ、朝8時30分から夕方5時10分まで就労している。
仮付の仕事を9年間してきたYさんは、Sさんのそばでフォローや指導を受けながら作業をしている。少し「いたずら」なところがあり比較的集中力に欠くYさんであるが、自身も身体障害のある66歳のSさんの的確な指導とあたたかい眼差しの下、安定した就業に繋がっている。

障害者同士の連携作業

集中力を要する銅付け

高齢者の指導と見守りのもと作業を行う
景気が低迷し仕事量が減った昨今、やむなく派遣社員を減らすことはしたが、彼らの仕事は減らさず、また短時間就労にも移行せずに「とにかく1年我慢しよう」という共通理解の下、これまでを乗り切ってきた。
身体障害者3名のうち下肢障害があるYさんは車いすで移動する。Yさんが自家用車を運転して出社し定位置に駐車すると、誰かしらがごく自然にそこに電動式車いすを運ぶのが日課となっている。この電動式(リフト式)車いすは会社が助成金(障害者作業施設設置等助成金)を活用して購入したものである。Yさんは入社してからCADの技術を会社で習得し、事務方で生産技術の仕事についている。
工場の建物内はすべてバリアフリー化されているが、これは車いす使用のYさんのためというわけではなく、高齢者も多い従業員全体のために、はじめから設計されたものである。また、ゆったりと広いスペースをとっている引き戸式のトイレも、その例外でない。
当社は市街地から離れた工業団地の中にあり、交通の便が悪いところである。高齢者や障害者にとって通勤方法をどうするかは大きな問題であることが多い。そうした状況下、会社では送迎用のバスを3台保有し、3つの路線で社員の送迎を行っている。これも車を運転しない障害のある従業員のためだけでなく、高齢者の多い従業員全体のためのものであり、大いに活躍をしている。

車いす用トイレ

3台の送迎用バス
3. 取り組みの効果
常務のU氏によれば、「当社は障害者雇用にあたり、特別な配慮は何もしていない。我々は社長の考えやスタンスを理解し、社長の背中を見てそうしているだけ。それが自然になった。他の社員も皆そうだと思いますよ」とのこと。筆者が取材で訪問した際、各現場でそれを目の当たりにした。
多くの高齢者と同じ現場で働く障害者にとって、まわりの高齢の従業員たちは彼らの祖父、祖母のような存在である。これを当社では「3世代同居」と言っている。困っていることや問題があれば高齢者がアドバイスをし、声をかける。そうした光景は、自然にあたたかな家庭的雰囲気を醸し出している。
新工場に移転した当時、100名ほどだった従業員は現在242名に増えた。大卒者も多く採用してきたが、知的障害者と若い従業員との接点は、職場が違うためにほとんどないといっていい。しかし、前述のU氏のお話のように、障害のある人たちとのコミュニケーションに何の懸念も抱く必要はないだろうと感じた。
工場内の一角に、地域の障害者福祉施設「はまぼう」から仕事にやってくる人たちの仕事場がある。福祉施設の施設外就労という形で、指導員が1名つき一日5~6名ほどの知的障害者が仕事をして工賃を稼いでいるのである。これは地域の障害者就労支援にも貢献をしているひとつのあらわれである。

4. 今後の展望と課題
障害者の賃金は皆、最低賃金以上である。まずは、在籍する社員の雇用の安定が一番の課題であり、更なる雇用への取り組みは景気の動向を見ながらといったところである。
10年後、20年後を考えたとき、将来的な課題として考えられるのが、保護者の加齢に伴う彼らの安定した生活の場の確保である。
現在家庭とのつながりは、問題が生じたときの話し合いの場や年に1回の忘年会という機会などを通して図られているが、保護者が対応できなくなったときには社会的資源の活用も視野に入れていきたいと考えている。
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