事業所名

弘法公機株式会社

所在地

静岡県藤枝市

事業内容

電気機械器具製造業（空調機器部品等）

従業員数

120人

うち障害者数

13人

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	製造補助
肢体不自由	3	製造補助
内部障害	1	製造、製造間接業務
知的障害	6	製造（部品加工）
精神障害	2	製造（部品加工）

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 取り組み内容
3. 取り組みの効果
4. 今後の展望と課題

事業所外観（八幡工場・旗指工場）

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）概要

当社は、主に東芝キヤリア株式会社や三菱電機株式会社などの空調機器のパイプ加工におけるノウハウや高いレベルの技術を蓄積し、技術最優先の部品メーカーとして、現在では主に業務用空調機器の管加工部品の製造を行っている。

静岡県中部地区藤枝市にある拠点本部を中心に、近隣に2つの工場を有しており、そこで複数の障害者が働いている。

平成21年12月末の社員数は120名、その他パート従業員をあわせて、繁忙期には200名程度になる。業種の性格上、4～6月に繁忙期を迎え、8月以降は逆に軽負荷となる。平成21年3月以降、景気低迷のあおりを受け、全体的に仕事は減少している。全従業員のうち、5人が身体障害者、6人が知的障害者、2人が精神障害者である。

（2）障害者雇用の経緯

当社は、平成19年3月に全従業員を継続雇用する形で、本社機能が富士宮の会社に譲渡され、社長が交代をしているが、事業所の前身の頃から雇用されている障害者が9人、新たに雇用された障害者が4人おり、「法令遵守をしていくのは会社の当然の責務である。当社はさらに社会に寄与し貢献していく存在でありたい」という社長の考え方のもと、障害者雇用には積極的に取り組んできた。従業員の構成年齢が高く、若い人たちの採用を進め、社内の活性化を図っていこうとしている状況にもあり、若年層の障害者の雇用に前向きに取り組んできたという経緯がある。

また、体験実習受け入れや採用にあたっては、ハローワーク（公共職業安定所）、障害者就業・生活支援センターや作業所、特別支援学校、職業訓練校と連携し、協力を得てきた。

熱意ある各支援機関からの支援も会社の障害者雇用を後押ししてくれる大きな要素である。県東部の訓練校から指導者が足繁く訪れ、熱心に対応する姿には頭が下がる思いだったと担当者は語る。

知的障害者のAさんは特別支援学校を卒業後、作業所を経てテクノカレッジに移り、委託訓練制度を活用して3ヶ月の委託訓練により入社した。委託訓練制度とは、県の職業能力開発校の職業訓練を企業や法人などに委託して、就業を希望する障害者が、居住する地域の事業所で訓練を受けるものであり、事業所にも訓練生にも負担をかけずにスムースに職場への受け入れを図るための制度である。Aさんもこの制度を活用することにより、順調に雇用に移行することができた一人である。

2. 取り組み内容

Bさんの作業

機械のボタン操作

採用のポイントは、「働く意欲がある」、「忍耐力・持続力がある」、「家族のサポートがある」の3点である。

写真は勤続17年のBさんである。知的障害があるBさんはNCベンダー加工部門で銅製パイプの曲げ作業を担当し、何台かの機械を任されている。パイプをセットした後、ボタン操作ひとつで自動的に機械が複雑な曲げの作業をし、機械が止まるとBさんが製品を機械からはずすという一連の動作の繰り返しを黙々と行っている。右手での機械のボタン操作を、Bさんはほとんど手元を見ることなく行っていた。その光景には17年という経験が感じられる。

Bさんは朝7時前に家を出て電車、バスを乗り継ぎ7時10分ごろには会社に到着する。ほとんどの人がまだ出社していない工場内の電気を入れ、機械のスイッチを入れ点検するのがBさんの日課になっている。

他の知的障害者もほとんどがこの「曲げ作業」に携わり、Bさんと同様、ひとりひとりが1台毎の機械を担当している。入社して半年の知的障害者が2人、Bさんの近くで作業していたが、それぞれが単独で作業しており、頼もしささえ感じる。

周りの従業員は彼らを特別に扱うわけでなく普通に接している。任され、頼られているということが彼らにやりがいを与え、長く続いている秘訣だと担当者は話す。

曲げ加工の部門では、精神障害のあるCさんも働いていたが、Cさんは手動の機械を操作し、小さい部品の加工作業をしていた。

曲げ加工された製品

手動で機械操作するCさん

工場内にはたくさんの機械が並んでいるが従業員の姿は少なく、稼動していない機械が見られるが、こうした機械は既に設定がされている待機中の機械である。彼らが一台の機械を1時間程度で終えると次の設定済みの機械に移動して作業を始めるといった流れになっている。「機械は止めてはいるが人の手は止めない」と現場責任者が話すように、上手にコーディネートされている。

作業風景-旗指工場南棟の現場

作業風景-旗指工場別棟（北棟）の現場

この工場には別棟もあるが、こちらには知的障害者の姿は見当たらない。ここではパイプの端末加工が行われている。油圧をかけ絞り加工をする工程では小さな部品を強い力で押さえつけるため、安全防護はされているものの、万が一指を挟むと大事故に繋がる危険性がある。知的障害者に任せるには適さない仕事であると考えている。

障害者が携わる仕事はパイプ曲げ加工のほかに溶接補助や出荷の荷揃え、精密部品梱包の緩衝材整理など、補助的な作業があげられる。こうした作業は主に聴覚障害者や肢体不自由の身体障害者が携わっている。また、勤続年数が長い複数の指に障害のある60代後半男性は、専門的な技術を要する専用の工具の製作に携わり、勤続30年の内部機能障害の男性は端末処理の作業をしている。

まさに適材適所、障害のある人たちそれぞれが能力を活かして働けるポジションで、作業を任されて働いているのである。

賃金面をみてみると、静岡県の最低賃金の減額特例許可を受けているのは2人であり、他の障害者は最低賃金をクリアしている。

3. 取り組みの効果

会社の特色については「強いて言えば、アットホームな会社かな」と担当者は話す。先に述べたように繁忙期にはパート労働者を増やすのだが、ほとんどが地元の主婦の方たちである。障害者とは、わが子、わが孫のように接してくれており、休憩時間には家庭的な雰囲気に包まれると言う。

また、取材に応じてくれた彼らは皆一様ににこやかに対応をしてくれ、その自然な笑顔からも「アットホームで働きやすい職場」であることがよく窺える。

障害があってもまじめに明るく働く彼らの姿は、周りの従業員を元気づけ、職場の雰囲気を暖かいものにしているのだとも感じた。

4. 今後の展望と課題

厳しい経済状況である昨今、更なる障害者雇用は当面難しい課題であるが、仕事量が減少した昨年は4人の障害者を雇用した。障害の特性を理解し、ひとりひとりに合った仕事を設定することで、新たな雇用や継続雇用を可能とすることができると考えている。

とはいえ、実際には納期厳守や高い品質管理を求められ、製造業の厳しさの矢面に立たされている現場の人々は、障害者雇用に大きな社会的意義を説く社長の理念には賛同はするものの、当初は複雑な思いをもって障害者を受け入れてきた。顧客に対する納期や製品の品質が守れなくなる可能性が出てくると思われたためである。しかし、実際に受け入れて動き出すと、障害者が一緒に働くことが健全な会社運営の阻害要因にならないよう、作業の段取り等を工夫し、支え合うことで、現場も次第に温かい気持ちになれるようになった。

以上のことは全ての職種、職域に共通して言える事ではないだろうが、社会における会社の責務として障害者雇用に取り組む企業が更に増えていくよう、今後も発信していきたいと考えている。