特別扱いではなく、適材適所でその人の能力を発揮できる事業所へ
1. 事業所の概要
事業内容 | :高齢者福祉施設、児童福祉施設、障害者福祉施設、医療施設の運営 | |
従業員数 | :469名(平成21年6月1日現在)(障害者雇用率2.75%) | |
内障害者数 | :身体障害者 5名(うち重度 2名) 知的障害者 2名(うち重度 2名) |
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職務内訳; | 鍼灸院でのマッサージ・鍼灸業務 特別養護老人ホームでの機能訓練(リハビリ業務) 介護老人保健施設での洗濯・整理、清掃業務 特別養護老人ホームでの洗濯・乾燥・整理、食事の後片付け業務 デイサービスセンターでの配膳・後片付け、洗濯業務 グループホーム入居者の日常生活上必要な介護業務 就労継続支援施設(旧、知的障害者授産施設)利用者の生活上の相談・援助、生産活動(パン・陶芸等)の指導・援助 |
社会福祉法人洗心福祉会(以下、本事業所)は昭和54年の保育所運営に始まり、現在では介護保険法による介護老人福祉施設や介護老人保健施設を運営し、医療施設や障害者自立支援法に基づく事業の運営をする、複合的な社会福祉法人である。その運営をしている施設は法人本部の所在地である津市や周辺地域である松阪市、伊勢市、志摩市と伊賀市にわたり、県の中部・南部を主な活動圏域としている。
本事業所において意識して障害者雇用を始めたのは、老人福祉施設の運営に着手し、従業員規模が300人を超えた時である。この時に、社会福祉法人としての使命・目的から、障害者雇用に取り組むべきであると考え、本格的な障害者雇用について検討を始めた。その後、養護学校(現、特別支援学校)からの実習生を受け入れ、その実習生が就職を希望したため、そのまま採用に至っている。その後も特別支援学校(旧、養護、盲学校)からの実習生を受け入れ、採用となっている事例がある。
2. 取り組みの内容
(1)採用にあたって
採用に際しては、特に障害者であるということを意識するのではなく、働くということについて家族の理解が得られているのか、業務内容をどれ位理解できているのか、本事業所を選んだ理由は何か、など一般的な面接で質問するような内容となっている。
現在採用している7名のうち、1名は採用後に次第に調子を崩して医療機関を受診したところ、障害の状態にあり、手帳の取得に至ったことを本事業所に報告しているため、障害者雇用の枠での採用ではないが、中途障害であっても事業所としての配慮をすることで、職業生活を継続することの出来る一つの例となっている。
他の事業所においては、1人で通勤できること、というような条件を設けるところもあり、そのことについて質問をすると、家族による送迎が1人いるが、その他は徒歩や公共交通機関、又は自家用車の使用といった自力での通勤となっている。通勤が難しいために就職を断念する人もいることを考えると、条件を設けずに門戸を開くことも、場合によっては障害者雇用を進める要因となることもあるようであった。また同居の有無では独居が1人いるが、その他は家族と生活しており、このあたりも職業生活を継続する上では、日常生活でのサポートを得られやすい家族の同居が効果的であることが考えられる。
(2)採用後の職務について
視覚障害をもつ2人の従業員(正職員)については、鍼灸院で勤務する従業員は鍼灸師の資格を、介護老人福祉施設で機能訓練を担当する従業員はあん摩マッサージ指圧師の資格を有しており、その能力を生かしての採用となっている。鍼灸師については現在、サブリーダーとして責任ある職務についており、施設や医院の状況によっては施設の機能訓練にヘルプで入ることもあるとのこと。
2人いる聴覚障害のある従業員はそれぞれ、デイサービスセンターでの配膳や後片付け及び洗濯業務という作業に従事する者(準職員)と、グループホームでの介護業務に従事する者(パートタイマー)である。グループホームで介護業務に従事するこの従業員については、障害者としての採用をしたわけではなく、先にも挙げたが、採用後に聴力の低下に不安を感じたため受診をしたところ障害があることが判明し、身体障害者手帳の取得をしている。両名ともに正職員になる道は開かれているが、現状の職務内容に満足をしている又は、年齢的に夜間の勤務が難しいためにあえてその勤務形態を選んでいるとのことであった。
肢体不自由の従業員(正職員)も1人いる、その従業員は障害者自立支援法に基づく事業所においての勤務経験があり、その経験を生かして障害者の就労継続支援施設で指導者として勤務している。最後に、今回の訪問で直接話をする機会のあった2人の知的障害者は、それぞれ介護保険施設において作業員(準職員)として採用されており、洗濯機・乾燥機の操作、洗濯物の整理、清掃業務や利用者の食後の下膳などの業務に従事している。
(3)採用後の経過として
本事業所が、障害者雇用に取り組み始めた当時の職員によると、当初は今回取材した知的障害者を最初に受け入れた時、任せられる職務を、マンツーマンで指導し、ある程度パターン化出来る作業を選んで取り組んだそうだ。パターン化された職務ならば、1ヶ月弱で内容を覚えて、自分自身で取り組むことが出来る。その後は、職員が常に気にかけて見守ることで、困ったり迷ったりしていたら、すぐに対応が可能となる。そんな態勢作りが、継続雇用につながったのではないかと考えられる。
今回の訪問で2人の知的障害者と話をする機会を得たが、本事業所において最初に採用をされた知的障害者は、お年寄りが好きということで、この仕事を選んだそうだ。そのようなこともあって、採用前の実習ではしんどいと感じたこともあったが、「頑張ってみよう」と思って応募したと話していた。採用後は相談しやすい職場環境に恵まれたこともあり、「特に困ることはなく、みんなが優しいので、働きやすい」とのことであった。現場の職員に話を聞くと、「現在在籍している職員の中では古株になっており、彼がいないと仕事が円滑に進まない、そんな存在になっている」、とのことであった。直接、利用者である高齢者と関わる職種ではないが、洗濯や整理、食後の下膳、大量に届くオムツ等の物品を倉庫まで運ぶ仕事を担っており、「いないと困る」という頼れる存在になっていると感じられた。職場での援助としては、すでに彼自身がその職務についてはエキスパートであり、時折業務の正確性を期すために職員によるチェックがなされているが、任せておいてもほとんど問題はないようであった。
もう1名の知的障害の方は採用の経緯として養護学校(現、特別支援学校)の先生と公共職業安定所(ハローワーク)の職員と相談の上、実習を踏まえ、「頑張ってみようかな、と思ったので、応募をした」とのことであった。採用された当初は失敗も多く、「乾燥機で火傷をしたこともあったが、現在ではそのようなことはない」、とのことであった。毎日100人分の洗濯をし、それらを畳んで、整理することが職務になっている。利用者の名前毎に仕分けをすることにはまだ困難があるようではあったが、ここでも頼られる存在になっている様子が感じられた。
本事業所における障害者雇用の特徴としては、話を伺った副参事によると、「特別視しない」という言葉に表されているように思われる。「特別視しない」ということは、つまり「余計な配慮をしない」ということだろうと思われる。
視力障害があれば、その職員が業務を行なうために発生する配慮をすることは当然であり、聴覚障害があれば、それに対する配慮も当然しなければならない。また肢体不自由や知的障害があればそれらに対して必要な支援をするのは当然の責務であり、それ以外に「障害があるから…」といった排除やお仕着せをしないことが、一つのヒントであると思われる。また適材適所という考え方を実行できる規模の事業所である、ということも特徴に挙げられる。さらには、その事業所の種別が社会福祉分野であり、障害があることについて一般企業と比較し受け入れる事業所の風土が出来ていることも考えられる。
大量のバスタオルを畳む作業を一人でこなす
洗濯機に洗濯物を入れる際にも
水が溢れ出さないように丁寧に確認をしながら行なっている
3. 今後の展望について
現在雇用している障害者に関しては、業務遂行援助者の配置で障害者介助等助成金を活用し、またそれ以外に所属事業所においても、障害者の身近な主任クラスの職員を専属の相談相手として任命しており、その効果もあって職場定着が図られていると考えられる。そのため、今後とも、採用後の支援体制を考慮した上で、各事業所で必要とされる職員の採用に際して、障害者の雇用を進めていくことを期待したい。また、現在受け入れている特別支援学校からの実習や他の福祉施設からの実習受け入れを可能な限り行い、少しでも各事業所でマッチする人材の発掘が出来れば、さらに障害者雇用が進むのではないかと思う。現在は、知的障害・身体障害に限定されているが、これからは、精神障害や発達障害などの様々な障害者を幅広く受け入れられる事業所の風土があると感じたので、今後とも事業の拡大に伴って、障害者雇用の伸展に繋がることが期待される。
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