障害のある人が新たなる職域開発を目指して
~雇用を通して福祉施設の役割・創意工夫にふれて~
- 事業所名
- 社会福祉法人くにみ会 清水園
- 所在地
- 大阪府枚方市
- 事業内容
- 就労移行支援、就労継続支援B型・生活介護の多機能型施設の運営
- 従業員数
- 27名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 日常介助 内部障害 知的障害 2 請負業務作業(野菜カット加工) 精神障害 - 目次


1. 事業所の概要
(1)概要
平成7年9月 知的障害者通所授産施設として大阪府枚方市に開設する。翌年作業所を開所。平成19年4月 障害者自立支援法の下、新体系に移行し就労移行事業・自立訓練事業・生活介護事業の多機能型事業所として運営を開始する。しかし、就労移行事業利用者で2年の利用年限内での就労が実現しなかった人や、作業訓練を利用する人達に向けたサービス改善の視点から、
①利用者への更なる工賃アップを目指す
②一般就労に結び付かなかった人達に向けた、更なる経験を積む場の確保
以上の2点を主眼に置いた事業見直しと変更を行ない、平成21年4月 自立訓練事業を閉鎖し、新たに就労継続B型事業所を立ち上げ現在に至る。
就労移行事業では、「一般企業で働きたい」という利用者の希望を実現するために、日々、施設内・外の作業訓練を通じて、企業就労に必要な生活習慣及び作業技能を身に付けるための職業訓練を実施すると共に、働き続ける為に必要な生活支援を合わせて実施し事業を行なっている。
一方、平成21年の就労継続B型事業開始とともに、清水園(以下「当園」という)内にて民間企業から野菜加工作業の受注も開始。就労継続B型事業における施設内作業を、さらに一般就労へと繋がる指導体制の構築に向けて方針転換した。さらに、それぞれの利用者に対し、個々の状況に合わせた働き方、働く場の提案・提供するために、作業発注頂いている企業や、その関連事業所の協力を得て企業内に施設外就労の場を創設するなど、「自分」らしく働き、より豊かで自立した生活が営めるよう、多機能事業所としての特長を活かした事業運営を行なっている。
(2)施設の運営目的と指導方針
①障害のある人たちに、授産作業を通じて、生活指導及び作業指導を行うことで、社会参加・自立していく上に必要な力を習得させるとともに、個々の状況や希望にあった自立を支援・援助することを目的としている。
②利用者の意思を最大限尊重し、多様なサービスを総合的に提供できるよう創意工夫することにより、利用者が個人の尊厳を保持し、自立した生活を地域社会において営むことが出来るよう支援する
2. 障害者雇用の経緯
平成21年の就労継続B型事業の開始とともに、サービスを利用する人達の日中作業の確保と就労移行事業を利用する人の新たな職域の拡大・発見を図るため、また、障害者が個々の適性や能力に応じて、それぞれの作業ポジションにおいて力を発揮できる作業環境を整備する事を目的に、企業の協力と指導を受けて施設内に、カット野菜の洗浄等下準備からカット作業、入出荷から生産管理までの作業を行なえる作業環境を整備し、カット野菜加工の受注作業を導入することになった。
この作業環境整備とともに、当園自らが障害者を雇用し、カット野菜部署に配置することで、就労移行事業を利用する人達の職域拡大と就労促進に向けて、当方施設職員が「企業が求める人材」について再確認し、「サービスを利用する人への日常の作業指導上の様々な工夫や配慮事項等に転換することができるのではないか」と考え、受注作業専属の作業補助員として雇用することとなった。
雇用に向けて、当園内にて下表の通りの条件等が示されたが、この度の「雇用」という取り組みは、「長年、障害者の支援に携わり、彼らの真面目さと直向さに接してきた中で、障害者を同僚職員として迎え入れることで、どのような関わり方をしていけばいいのか。」を問い質すとともに、「サービスを利用する人が持っている能力が最大限発揮できる環境作りと新たな職域開発の発見のためには、どのような方策を見出すべきなのか」という「施設サービスの役割・機能の再認識と新法に基づく施設運営のあり方」に向けた当園職員の意識改革を期待しての取り組みであったと言える。
3. 採用に向けた雇用条件と懸念事項
項目 | 条件・懸念された事項 |
---|---|
職務内容 | 生野菜カット加工・在庫確認・道具準備から後片付け・出入荷時の対応。 |
勤務形態 | 8:15~17:00 土曜・祝日出勤 シフト制(週休2日) |
作業及びその他の役割分担 | 危険を伴う作業工程、重さ・数量など数の概念が必要な作業に関しては、スタッフが行なう。 |
スタッフ・ 利用者との関係 | ・ 障害者を一人のスタッフとして迎え、得意分野を活かしつつ不得意分野の職務に関しては、スタッフがカバーしながら行なう。 ・ 障害者をスタッフとして迎え入れることに特に迷いはなかったが、作業における役割の違い、利用者・スタッフという立場の違いをどのように明確に区別するかが、雇用に際しての一番の懸念事項だった。 |
4. Mさん(男性)の採用(経緯と現状及び今後期待する役割)
前述の通り、当園では日中活動としての作業訓練に、飲食店等の小売店向け商品として出荷するために、委託元企業から入荷する季節に応じた旬の生野菜(キャベツ・にんじん・ジャガイモなど)を、指定された大きさや形にカットし出荷するという下請け作業を受託している。一例としてキャベツの作業手順を記載する。
i.裁断機(大きな包丁台)でキャベツを縦半分にカットする。
ii.キャベツの芯の部分にナイフを使って円形やV字に切り込みを入れる。
iii.それぞれ指定された通りのやり方で下処理し出荷する。
以上のように、カット作業のために刃物を扱う大変危険を伴う作業が中心となる作業工程において、企業からの受託作業開始と同時に作業補助スタッフとしてMさんを採用した。
Mさんは、障害者職業能力開発施設にて1年間の職業訓練を経て、地元ハローワーク(公共職業安定所)からの紹介で、面接後3カ月のトライアル雇用を経過した後に正式採用した。Mさんの職務は、トライアル雇用時から様々な作業領域の広がりを期待して「裁断作業」の工程における付帯作業で使用道具の準備から後片付け、入出荷時の搬入・搬出、野菜の在庫管理を担当している。野菜の裁断工程は、集中して取り組まないと大怪我につながり危険を伴うため、現在のところ職員が担当している。なお、Mさんの一日のスケジュールは下表に示す通りである。通常、利用者の作業時間は16時までとしているが、Mさんの場合、作業補助員とはいえスタッフとして採用していることから、利用者が作業終了した後からも在庫管理や翌日の準備等の職務を担当している。
また、土曜日と祝日には、施設外就労の場として協力・提供して頂いている京都府の事業所(有限会社K)に利用者と共に出向き、普段施設内では取り扱わない生野菜のカットやきのこ類のパック詰め作業において、作業員としての役割のみならず施設内と同様に作業準備や段取りなどの職務を担当している。
現在のところ、Mさん自身がまだまだ覚えていかなければならないことが多くあるため、Mさんからの報告を受けて職員がMさんに新たな指示を出すという形で作業指示が行われている。将来的には準備・段取りから作業の一日の流れ全体をMさんが中心となって利用者へ作業指示等を行い、現場を回していけるように指導することを目標としている。また、生野菜カット加工の部署だけに留まらず、当園の就労移行事業所が企業の協力を得て運営実施している、換気扇の組み立てや付属部品の袋詰め作業等の施設外作業についても、現場に出向き指導担当職員として勤務してもらうことが出来ればと期待している。
*施設外就労: | 利用者と職員がユニットを組み、企業から請け負った作業を当該企業で行う制度。一般就労への移行や工賃の引き上げを図るために実施される。 |


裁断機を使ってキャベツを半分に切る


野菜の下処理工程

完成

一日の予定表
Mさんの一日のスケジュール表
時間 | 内容 |
---|---|
8:15 ~ 9:00 | 出勤 仕事の準備・机の配置・野菜の下準備 |
9:00 ~ 9:10 | 朝礼 |
9:10 ~ 12:15 | 作業開始 |
12:15 ~ 12:55 | 休憩 |
12:55 ~ 13:30 | 作業開始 |
13:30 ~ 14:30 | 道具の洗浄・後片付け |
14:30 ~ 15:00 | 出入荷の準備(トラックの荷受) |
15:00 ~ 16:00 | 在庫管理・調べ |
16:00 ~ 17:00 | 清掃・明日の準備 |
一日の出荷量は、委託元企業から送られてくる伝票からその日必要な野菜の箱数を計算して準備と段取りにとりかかる。作業工程における人員配置上、メンバーの欠勤や遅刻・早退などがあると、その日の出荷量に影響が出るためメンバー全員でカバーしなければならない状況になるが、Mさんは、4月採用時から無遅刻無欠勤で勤務しており、勤怠状況は大変良好で高く評価している。企業就労を目的に運営する事業所としては、職員自らが率先して良好な勤怠状況を示すことで、利用者への良き手本となると考えていることから、Mさん自身が「仕事を休んでしまうとみんなに迷惑がかかる」という意識、「仕事を任されている」という責任感を持ち合わせてくれていたことは大変ありがたく心強いものと思っている。
さらに、上記作業は単純反復作業で作業員単体の作業が行われている様に映るが、実際には、工程ごとの流れ作業として作業しているため、その工程間の作業ペースが合わなければ作業効率が悪くなってしまう。しかし、Mさんはそれぞれのグループのペース配分を考えて、適時作業の進捗状況を作業員全員に声かけをしてくれていることで、他の利用者やスタッフ間に一日の出荷量を意識しながら、同じ目標に向けて取り組む張り詰めた緊張感と一体感が生まれていることに気付くことができる。
5. まとめ
この度の障害者雇用の取り組みは、これまで当園においては支援の対象としてきた人を職員として採用したことで、職員の意識改革と新たな支援形態の構築を狙う一つの方策であった。これにより当園内においては、Mさんの雇用が利用者への企業就労意識の高揚とともに、少なからず職員の意識に変化をもたらすことができたのではないかと考えている。今後は、この度の雇用を機に利用者の方への職業指導を基礎とした就労促進、及び就労定着のための支援のあり方と、「自分らしく働く」ための支援のあり方に関して、当園内にて新たな方策を見出していかなければならないのではないかと感じている。
障害者自立支援法が施行されてから、各施設や事業所が地元の伝統や地域産業の特色を生かし創意工夫・アイデアを重ね、いろいろな事業展開を編み出してきた。中でも、施設やNPO法人が就労継続A型の事業所を創設し、新たな雇用形態として地方を中心に広がりを見せる中で、その一歩を踏み出したことにより、当園内部的にも社会的にも大変大きな変化をもたらすものと確信している。
当園での取り組みが障害者雇用事例リファレンスサービスに掲載されることにより、今後さらに創意工夫とアイデアを活かした事業所が、これからもいろいろな各分野で展開していくことを期待すると同時に、新たな雇用の創出が生まれることに期待したい。
大阪市職業リハビリテーションセンター 指導員 井上 尚浩
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