強みを見つけ、それを生かして働く
~精神障害のある方の雇用事例~
- 事業所名
- 合同東邦 株式会社
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- 医療用医薬品、医療機器等の卸売業
- 従業員数
- 414名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 内勤事務業務 内部障害 2 物流業務 知的障害 2 物流、内勤事務業務 精神障害 1 物流業務 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.godotoho.co.jp/
1. 事業所の概要
○沿革
当社は、昭和24年より大阪にて医薬品卸業を開始した。昭和31年には、大阪合同薬品株式会社を設立。平成15年に、東邦薬品株式会社と商品の供給等で業務提携。平成17年には、東邦薬品株式会社の完全子会社となり、社名を「合同東邦株式会社」に変更した。
現在では、関西全域の大学病院・国立病院機構・市町村立病院・各病院・医院・診療所・開業医・調剤薬局等に医療用医薬品、医療機器等を納品している。
○経営理念
当社は、医薬品の流通を通して、地域医療の一翼を担っている。そこで地域社会そして顧客である医療機関等と共に力を合わせ、独創的なサービスの提供を通じて新しい価値を共に創り上げ、日本だけでなく世界の人々の医療と健康に貢献していく。
医薬品事業を基盤に、開業支援や経営コンサルティングなどの医療トータルサポート、人材支援事業などのニーズを先取りした事業に力を注ぎ、地域医療そして企業価値の向上を目指す。
2. 就職に至るまでの経緯
現在、合同東邦株式会社(以下、合同東邦)に勤務するTさんは、医薬品のピッキング業務(倉庫内商品管理)に携わっている。Tさんは、発病前には経理事務の経験があったが、発病後から12年は就労経験がない中で、合同東邦に就職した。
精神障害者にとって、就労継続性がひとつの課題として挙げられるが、Tさんは過度の緊張がありながらも、経験のないピッキング業務を1年ほど継続できている。これまでに、「辞めたい」という声も一度もあがったことはない。合同東邦で何故、勤務継続できているかということをこれまでの経過からみていきたいと思う。
Tさんは、経理事務の業務を始めて4年後に統合失調症を発病し、退職に至った。6年の自宅療養の後、小規模作業所への通所を開始し、徐々に就職を目指すための準備を整えてきた。その間に体調は安定し、日常生活の維持継続ができるようになったが、環境変化に脆い面があることや緊張感が強く、口下手で自ら進んで相談することも難しいことなどから、もう暫く就労準備を整える必要があった。
そこで就労準備性を更に高めたいという意思から、1年間の特別委託訓練(以下、訓練)にて就労準備を進めることにした。訓練では、PC操作(ワード、エクセルを中心)の他、作業系訓練(ピッキング作業)、就労準備ミーティング等を行った。
当初、新しい作業に取り組むことにより、緊張の波から「頭がボーっとする」という症状の訴えが多かった。また作業系訓練により、立ち仕事での膝や腰の痛みも度々訴えるというのが訓練当初の状態であった。しかし訓練経験を積む中で、自身の強みが「正確にコツコツとこなすことができる粘り強さ」であることに気付いたTさんは「何としてもピッキング作業での就職を目指したい。」との希望を抱くようになった。ただ、先に挙げたように膝や腰の痛みがあるようでは立ち仕事の継続は難しいと判断して、休日に水中ウォーキングを行うことで筋力アップを図り、徐々に安定感を持って作業に取り組むことができるようになってきた。
3. 事業所実習を通して
自身の強みが、ピッキング作業で活かしていけるという思いを深め、合同東邦でピッキング作業の単独実習を2ヶ月に渡って行うことになった。最初は、週20時間弱の実習で、実習生はひとりであることの緊張もあり、身のこなしもぎこちなく、指示を聞くだけで精一杯といった状態であった。現場スタッフは、Tさんの不安や緊張に配慮して、「焦らずにやればいい」と何度も声をかけて対応した。そんな声掛けを日々繰り返したという、それが、Tさんの安心感になったように思われる。またピッキング作業を実際にやってみて、数千種類の医薬品から必要な商品を取り出すには相応の時間を要するものであるが、正確性を重視して焦らずに業務を行う点を評価されることから、この仕事で就職したいという気持ちが更に高まってきた。その上、訓練当初は、短時間就労を目指していたが、徐々に「もっと働きたい」という思いが募り、週30時間就労を目指して、実習時間も徐々に伸ばしていくことにした。
徐々に時間を伸ばすにあたって、伸ばす時期にはある程度の声掛けとサポートが求められる。声掛けというのは、手取り足取りの必要はなく、そこにTさんが存在していることを示すようなさりげない声かけが重要である(例えば、「どう?」「大丈夫?困ったことない?」「助かるよ。ありがとう」といったものが挙げられる)。そういう配慮こそ実習生といえども、事業所の一員であるという実感と誇りを持つことを可能にする。そのような雰囲気と配慮の中で、Tさんは時間が経過するに従って、次第に商品配置も少しずつ覚えていくようになり、リストによるピッキングは落ち着いて行うことができるようになった。その後も段階をゆっくりじっくりと踏んでいく形で実習を進めていった。
4. 訓練終了から雇用へ
2ヵ月が経過し、1年間の訓練も修了を迎えるにあたり就職受け入れの方向で検討することになった。Tさんは通院や時折、「頭がボーっとする。」という症状のために、休むこともあったが、やはり真面目に業務に取り組む姿勢や作業の正確性が高いことから、雇用に至った。これまで実習を経験してみて、改めてTさんのピッキング作業への興味関心が高まった。また、職場の雰囲気にも馴染みつつあったため、雇用につながったことで、ほっとしたところもあり、社会人としての一歩を踏み出すことができたことは誇り高いことでもあったようだ。
ピッキング作業においては、入庫作業・出庫作業・在庫管理等が業務としてあるが、それについても最初の半年ほどは、必ず社員がTさんの作業を確認するようにしていた。それはTさん自身の正確性を社員からフィードバックすることにより、正しい認識をすることが可能になり、安心感をもって業務を継続することができる。安心感と自信がついてきたところで、更に検品用ハンディターミナル使用でのピッキング作業を行うことにした。
現在、働き始めて1年になろうとしているが、徐々にスピードが上がってきている実感を得られることで、Tさん自身は充実感が得られているようである。また今後もコツコツと継続していきたいという気持ちで、日々頑張っている状況である。
5. 事業所としての取り組み
合同東邦として障害者雇用を始めたきっかけは、障害を負った方の就労の機会を設け、人生の意義を見つける場所としていただきたい企業としての社会的責任(CSR)の一環としての観点からであった。
そしてこれまで身体障害者や知的障害者を雇用してきていたが、精神障害者の雇用はTさんが初めてであった。精神障害者を雇用する前と実際に雇用してみて思うことについては、当初、『どんな仕事をするか』よりも『誰と仕事をするか』が本人にとっては就労意欲、継続に大きく影響するものと考え、指示の仕方ひとつをとっても意思の疎通を可能な限り図れるように事前に配慮してきた。また職場に適応しやすいようにトライアル雇用制度を活用し仕事量、勤務時間等の業務の割当てを段階的に設定した結果、本人の努力もあり、職場の人間関係、業務にも比較的スムーズに就労していると思っている。
6. 現場担当者からみたTさんの様子(Q:筆者、A:現場主任)
Tさんの日々の業務をみている現場担当者からのコメントを紹介する。
Q1:Tさんの最初の印象はどうだったか?
A1:どちらかといえば無口で、職場の雰囲気・業務に馴染んで頂けるかという不安はあった。
Q2:仕事に対する姿勢の変化はあるか?
A2:Tさんには当社の物流業務をお願いしているが、取り扱い品目が主に医薬品である事から一点のミスも許されない状況下、本人のペースでひとつひとつの業務を確実かつ着実に当初からこなしており、常に真面目に意欲的に取り組んでいる。
Q3:時々、休むことに対してはどのように思うか?
A3:本人の体調不良時あるいは定期的な診察日は会社としても認識しており、そういった時の休暇取得に本人の精神的負担にならないように会社としては配慮するよう心がけている。
Q4:今後、期待することは何か?
A4:就労、業務を通じ障害のない者の視点では見えない障害者独自の視点、気づきもあると思うのでそういった事があれば意見等遠慮なく聞かせていただきたいと思う。

検品用ハンディターミナルを使用してのピッキング作業の様子

出庫作業の最終チェックの様子
大阪市職業リハビリテーションセンター ワークアドバンス科 指導員 横溝 香苗
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